京都で町家旅館はじめました

京都で町家旅館はじめました

#07

季節に追いかけられて

文・山田静

 

京都には季節の行事がいっぱいある

 

 毎日なんかあるんですけど。

 京都に来て驚いたことのひとつが、季節の行事がやたらいっぱいあることだ。

 

「京都の暮らしには、四季が息づいています」

「季節を楽しむのが京都のよさ」

 たいていの観光パンフレットやガイド本にはそんなことが書いてあるし、実際桜も紅葉もきれいで見どころが多いし、お祭りもいっぱいあって華やかだしねえ。

 なーんて思っていたら、それどころじゃなかった。

 思えば宿が開業してすぐに祇園祭があった。そのあと七夕。そして今年は大雨だったけど大文字焼(五山送り火)。そのあと地蔵盆。そのあと十五夜。そのあとすぐに時代祭、そしてまさに始まりかけている紅葉シーズン……(以下えんえんと続く)。

 

 地蔵盆?

 

 初めて口にする単語である。

 関西の方には逆になぜここで「?」がつくのかぴんとこなかろうが、ほとんどの関東人にとって地蔵盆はなじみがない、というか知らない。私自身も、何かの本で「大きな数珠をお地蔵さんの前で回したりする行事」と読んだような……気がする程度だ。

 なのに開業以来ご近隣の皆さんに、

「うちの町内には地蔵がいないから、地蔵盆のかわりにね、お祭りをするのよ」

 と当たり前のように何度も言われ、頭の中には「?」が浮かび続けていた。

 

 地蔵盆のかわりにお祭りとは?

 

 謎が解けたのは8月21日、地蔵盆の当日だった(23・24日が本来の日付だが、いまはその日に近い土曜・日曜に行われるとか)。

 朝、買い出しのために自転車でご近所を巡っていると、どこのお地蔵様も花やお供え物できれいに飾り付けがなされ、お坊さんが読経をしていたり、お菓子が山積みになっていたり、バザーが開催されていたり。立ち寄った漬物屋で店員さんと世間話ついでに地蔵盆に話が及ぶと、

「今は子どもも少ないしあっさり終わりますけどね、私の子どものころは華やかでしたよ。お地蔵さんは子どもを守って下さるんで、子どもが生まれると名前入りの提灯を作って、地蔵盆の日にお地蔵さんの前に掲げるんです。昔は子どもも多かったんで、提灯もいっぱいあって。夜はきれいでしたねえ」

 と懐かしそうに教えてくれた。

 

 さて、では地蔵のないわが町内はどうなるか。

 その日の午後、お誘いいただき「お祭り」の現場に行った。

 いつもの通り道から小さな路地に入ると、そこではお祭りの真っ最中なのだった。

 子どもたちはビニールプールでおおはしゃぎ、大人たちは車座で宴会中。バーベキュー台では焼きそばやソーセージがおいしそうな匂いを漂わせ、路地の突き当たりでは町内会の皆さん手作りのビンゴゲームが盛り上がりを見せている。

「地蔵盆って子どものための行事でしょう。お地蔵さんがいない町は、何もないと子どもたちがかわいそうだからって、こうやって夏祭りをするの」

 初めて見る光景に目を丸くしていると、ご近所の先輩方が口々に教えてくださる。

「初めまして。よろしくお願いします」

 先輩方や町内会長さんに間に入って頂き、次々と初対面の方に挨拶させていただく。突然出現した謎の宿だけに、ご近所に知らない間に思わぬ迷惑をかけているんでは? というのが気がかりだっただけに、笑顔が返ってきて少しほっとした。

 日が傾き、少し暑さが和らぐころに「お祭り」はお開き。片付けを手伝っていると、町内会の役員の方々から、

「来年は、よければ楽遊さんの外国のお客さんも呼ぶといいよ。こういうの、楽しいかもしれないし」

 と、声をかけていただいた。これは願ったりだ。

 

 なーるほど。

 ビンゴであてた米3キロと、「これもどうぞ」と別の方に譲っていただいた米3キロ、合計6キロを抱えて宿に戻りながら少し納得していた。こうしてていねいに季節の行事をこなすことで地域のつながりが保たれ、その輪に加わることは、単なる遊び以上の意味を持つのだ。

 

 その夜、試しにツイッターで「#地蔵盆」と検索してみると、出てくる出てくる。高校生や大学生らの自撮り写真とともに、

「楽しかった!また次の地蔵盆で会おうね」

「地蔵盆にあわせて帰省したよ。みんないつまでも仲間!」

 なーるほど。勉強になります。

 

「あれ? そういえば、盆踊りってやらないの?」

 東京や故郷山梨ではこの時期、夜になるとそこらじゅうから聞こえてくる盆踊りの音楽が京都では聞こえない。あれで夏が終わるのを感じるのだけど……。

「踊ったことないですね。やってるとこも少ないかなあ。あれって、集まった全員が踊らないといけないもんなんですか」

 関西人のスタッフに聞いてみると、真顔で答えられた。

 東西の文化、かくも違うのか。

 

 さてその地蔵盆が終わった翌週、

「10月の区民運動会なんですけどね、よければ、綱引きとか出ませんか」

 と声がかかった。

「お邪魔でなければ、よろしくおねがいします」

 なごやかに会話してその日は別れたものの、翌日、近所の食堂で店主にその話をすると、

「お、いいねえ。うちの町内はいつも綱引きの優勝候補なんだ。おたくは若い人もいるし、頼むよ」

 と、目が真剣である。

 そこで詳しく聞いて初めて知ったのだが、京都では10月に必ず学区ごとの区民運動会というのがあり、地域住民みんなが参加する一大イベントなんだとか。

 何そのローカル具合。

「これはヘタは打てない……?」

 緊張が走ったが、当館の馬力自慢のマネージャーが出場し、総合3位、綱引きは優勝! 新入りの面目は保てたようだった。

 

 京都は季節が追いかけてくる。

 

 ここまで二つだけ例を挙げたが、暦の季節だけでなく、お祭り、地域の行事がとにかく多いし、それが実際に暮らしに根付いているのに驚かされる。

 さらにさらに、その季節が追いかけてくるのだ。季節限定、あるいは1日だけしか出回らないお菓子やグッズがあるのは知っていたが、加えて「季節をちょっと先取りする」のが京都風。

 祇園祭が終わるとすぐに、町じゅうの商店に大文字焼をイメージした額や商品が並んだ。

 9月1日には、生花店から栗の枝が届いた。

 チェックイン用にゲストに出している干菓子は、8月の青紅葉からスタートして11月に至るまで少しずつ赤みを加えて作られており、実に芸が細かい。

 そういえばご近所の皆さんも季節に敏感だ。「明日から寒くなるよ」「もうすぐ雨になる」と、季節や気候の話がよく出てくるのだが、「こんなにあったかいのに……?」と思って聞いていると翌日からホントに急に冷え込んできたり。なんで分かるの、と思うが、これも気候の変動が大きく季節の行事が多い京都ならではの暮らしの智恵なのだろう。恐るべしである。

 

 と、思いながら本稿を書いていたら、明日チェックアウトするオランダ人のゲストがニコニコして小さな包みを渡してきた。

「楽しく過ごせたよ。私たちからのお礼を受け取ってくれる?」

 開けてみると、とってもかわいいデルフト焼のクリスマスオーナメント。わあ、ありがとうございます。

「オランダでは、もうクリスマスシーズンの準備に入るんだよ」

 先取りは京都だけじゃないのか。ツリーはどうしよう。

 では、皆さんも楽しいクリスマスを!(早すぎ)

 

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大文字焼をイメージした亀屋良長の「大文字まんじゅう」。

外国人ゲストに大文字焼の意味を説明するのは、どこから話せばいいのやら、という状態でなかなか難しかった

 

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ほんのり色づきはじめた木々。紅葉シーズンはもうすぐ

 

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お正月の用意の心配もそろそろせねば、と思っていたところにいただいたかわいいオーナメント。

クリスマスの用意の心配もせねば……。

 

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毎日のイベント情報ボードも、秋は特別拝観やライトアップが多すぎて書ききれず、ついに別ボードに。

 

 

*京都の地蔵盆は、食文化やきもの文化などとともに、「京都をつなぐ無形文化遺産」に認定されている。

詳しくはこちら→http://kyo-tsunagu.net/jizo/

 

*本文中の事実関係や人名は、プライバシー保護のため、若干の変更・および伏せさせていただいています。


 

*町家旅館「京町家 楽遊 堀川五条」ホームページ→http://luckyou-kyoto.com/

*宿の最新情報はこちら→https://www.facebook.com/luck.you.kyoto/

 

 

*本連載は月1回(第1週水曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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山田 静(やまだ しずか)

女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』『成功する海外ボランティア』など企画・編著書多数。2016年6月開業の京都の町家旅館「京町家 楽遊 堀川五条」の運営も担当。

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