アジアは今日も薄曇り

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#07

台湾〈7〉緑島・朝日温泉

文・下川裕治 写真・廣橋賢蔵 

台東から船でビーチリゾート緑島へ

 金峰温泉を訪ねた翌日、朝日温泉をめざした。この温泉は緑島という島にある。台東から船に乗らなくてはならない。前夜、ネットを見ると、午前中の便はどれも満席。しかし電話をすると、とにかく来い、という。急いで行くと、8時48分発の船に乗ることができた。しかし船内はかなり混みあっている。若者と子供連れが多い。彼ら用のツアーも組まれているようだ。週末はいつもこうらしい。

 緑島はかつて監獄島と呼ばれていた。白色テロの時代の話だ。大陸から渡ってきた蒋介石率いる国民党は、反発する人々を次々に検挙し、緑島に送った。理由は理不尽なもので、英語の本をもっていたというだけで送られた人もいた。そのなかには、いまの民進党の幹部になっていった人も少なくない。

 台湾の若者が、その監獄跡を見学し、つらかった時代をしのぶ? 違います。では、朝日温泉に行く? それも違います。目的はビーチリゾート。ダイビングを楽しみ、夜はレゲエの流れる店で……。そんな世界がつくられつつあった。

 

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台東と緑島を結ぶ高速船から。このあたりは海流が早く、ときにかなり揺れる

 

 1時間ほどの船旅で緑島に上陸。まず向かったのは、バイクのレンタルショップだった。この島はバイクリゾート島だった。個人客はもちろん、ツアー客もほとんどがバイクをレンタルする。ツアー客は、旗をつけた添乗員のバイクの後ろに列をつくってホテルや民宿に向かう。

 台湾はバイク王国である。朝の台北。夥しい数の通勤バイクが信号待ちをする。その光景は壮観でもある。台湾の会社の多くは交通費が出ないため、節約のためにバイク通勤というのだが。

 それに目をつけたんが、緑島の観光業者だった。バスを用意すると、人数調整も必要になり、効率が悪い。そこでバイク。なかには運転免許のない人もいるが、島の警察はおおらか。心配ならふたり乗りという手もある。その結果、港は巨大なバイク駐輪場と化すことになる。

 ところがその日はバイクも不足気味。5軒目でようやく2台を調達。運転免許もなく、バイクを運転したこともない僕は、カメラマンのバイクの後部座席に乗って朝日温泉に向かった。

 温泉は島の南海岸にある。海岸に沿ってつくられた道を進み、20分ほどで温泉に着いた。

 朝日温泉には宿泊施設がない。屋外の温泉ランドのような施設だ。入浴料は200元、約740円。65歳以上は100元。僕は65歳になったばかりだった。そういうと、パスポートも見ずに100元になった。

 施設には中央に屋根のついた露天風呂、その横が大きな真水のプールになっていた。建物内にはアスレチックもある。コンセプトは健康である。露天風呂といっても、裸で入るわけではないから、まあ、日本の感覚でいったら温泉プール施設といったところだろうか。

 まず露天風呂に入ってみた。いい湯加減だ。正面には強い太陽に照り輝く太平洋である。

 なめてみるとしょっぱかった。おそらく目の前の磯に源泉があり、そこから温泉を引いているのだろう。海水が混じってしょっぱくなるようだった。隣で浸かっていた案内役の廣橋賢蔵さんが口を開く。

「これで満足してちゃだめですよ。朝日温泉は、磯のなかの温泉に入らなくちゃ」

「あそこの?」

 距離にしたら100メートルぐらいだろうか。磯のまんなかに浴槽があるようで、人の姿が見える。

 訪ねたのは7月下旬だった。台湾がいちばん暑くなる時期だ。前日、金峰温泉などを歩いたときも、かなりの高温になっていた。おそらく35度は軽く上まわっている気がする。

 今日も暑い。めちゃくちゃ暑い。そしてここは海岸なのだ。照り返しが半端ではなかった。その炎天下、磯につくられた歩道を歩かなくてはいけないのか。

 しかたなく歩いた。暑い。浴槽に辿り着き、温泉に浸かった。湯に浸かっている人はいなかった。皆、浴槽の周りに立っている。

 そのときは干潮だった。浴槽には海水が入る口が開いている。潮が満ちてくると、そこから海水が流れ込むようになっていた。

 温泉は40度ほどだろうか。しかし屋根がないから、日射しが直接当たる。お湯に浸かっていない顔や肩の温度も40度を超えているような気がする。

 不思議な感覚だった。湯に浸かっている部分と、外に出ている部分の温度が同じなのだ。湯の感覚があるが、温度差はないから、なんとなく一体化してしまうのだ。

 浴槽の周りに立つ台湾人に、「入らないの?」と廣橋さんが声をかけた。すると一様に、

「暑い」

 という言葉が返ってきた。

 そうだよな。40度の炎天下で40度の温泉に浸かるのは、日本人しかいないよな。

もうへとへとだった。

 

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暑いから温泉に入らず、ただ周りに立つ台湾人たち。することがなく、島をバイクで3周したといっていた

 

 

朝日温泉の帰り、かつての監獄も見た。そこから港への道をバイクから。バイクリゾートの感覚、わかります?

 

 

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*本連載は月2回(第2週&第4週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

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著者:下川裕治(しもかわ ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。ノンフィクション、旅行作家。慶応大学卒業後、新聞社勤務を経て『12万円で世界を歩く』でデビュー。著書に『鈍行列車のアジア旅』『不思議列車がアジアを走る』『一両列車のゆるり旅』『東南アジア全鉄道制覇の旅 タイ・ミャンマー迷走編』『東南アジア全鉄道制覇の旅 インドネシア・マレーシア・ベトナム・カンボジア編』『週末ちょっとディープなタイ旅』『週末ちょっとディープなベトナム旅』『鉄路2万7千キロ 世界の「超」長距離列車を乗りつぶす』など、アジアと旅に関する紀行ノンフィクション多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。WEB連載は、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週日曜日に書いてるブログ)、「クリックディープ旅」、「どこへと訊かれて」(人々が通りすぎる世界の空港や駅物)「タビノート」(LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記)。

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