究極の個人旅行ガイド バックパッカーズ読本

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#07

シンガポールで安く過ごすには

文と写真・『バックパッカーズ読本』編集部

 物価の高いシンガポールはバックパッカーにとってはきつい国。敬遠する人も多い。しかし、そんな旅行者を救済するために、安めのドミトリーがどんどん増えている。

 

 

英経済紙が認めた世界一の物価

 アジアでもトップレベルに物価の高い国、シンガポール。イギリスの経済誌「エコノミスト」の調査による世界物価ランキング「コスト・オブ・リビング・ランキング」では、2017年もシンガポールは世界全都市の中で堂々のトップ。4年連続を飾った。
 これはニューヨークの物価を100とした場合の指数を計算したものだ。基準となるニューヨークは9位にランクイン。5位に大阪、4位に東京、3位スイスのチューリヒ、2位が香港という結果だった。シンガポールは日本よりも物価が高いというわけだ。
 だからなのか、バックパッカーの姿は少ない。あれだけの先端都市では、リュックを担いでうろうろする雰囲気ではないのかもしれないが、それにしたって寂しい話である。

 

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夜景をバックにすれば、思ったよりはがっかりしないマーライオン

 

 

旅の初心者にはおすすめのコースなのだが……

 シンガポールは海上貿易の拠点として栄え、東西の文明が混じりあう歴史を重ねてきた。イギリス植民地時代には、インド、中国、インドシナ半島、インドネシアとの結節点という役割を担い、各地から移民が続々と流入する。華僑、マレー、タミル……それが現在の多民族国家シンガポールの基礎となっている。
 中心街のオーチャード通りを歩いていると、すれ違う顔はインド系、中華系、欧米系とさまざまで、どこの国にいるのかわからなくなってくる。面白い国なのである。
 そして、かの伝説の紀行『深夜特急』にも登場してくるのだ。物語が描かれた1970年代当時からシンガポールの物価は高かったようで、主人公は少しでも安い宿を求めてさまよい歩いている。
 マレー半島の突端というロケーションもいい。例えばタイのバンコクから、マレー半島を刻むように南下する旅を思い描いてみる。バックパッカーに人気のパンガン島ではフルムーンパーティーに参加し、タオ島ではエメラルドの海をシュノーケリングする。サムイ島やプーケット島といったリゾートもあれば、レオナルド・ディカプリオ主演で話題になった映画『ザ・ビーチ』の舞台、ピピ島もある。またこのあたりは、最近は日本でも知られてきたマッサマン・カレーの本場でもある。
 国境を越えてマレーシアに入り、イスラム世界の中を旅する。やはりイギリス時代に栄え、往時の街並みが世界遺産に登録されているペナン島のジョージタウンやマラッカを巡る。
 そしてジョホールバルから、海峡にかかった長堤を渡ってたどりつくマレー半島最南端……先っぽ、どんつきというシンガポールの地理は、なかなか旅のゴール感たっぷりだと思うのだ。
 このルートはどこに行っても旅行者も多く、英語は通じやすく、バックパッカー入門編にはぴったり。しかし物価がネックになって、訪れることをためらう人は多い。

 

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チャイナタウンの街並みはなかなかかわいい。ドミトリーのある安宿も多い界隈だ

 

 

安宿が点在するゲイラン地区

 シンガポールの物価を押し上げているのは、異常なまでの住宅・家賃の高さだ。国民のおよそ80%はHDBというマンションのような公営住宅に暮らしているが、中心部から遠く離れた郊外でもファミリー向けの物件だと月20万円前後。中心部に住んでいる日本人駐在員は月の家賃が50万円という人も珍しくはない(もちろん会社負担)。狭い国土に560万人がひしめく世界第2位の人口密度(1位はマカオ)が、地代の上昇の原因だ。
 この生活コストの高さが賃金をはじめとした物価を押し上げているのだが、それは在住者にとっての話。旅行者は工夫次第でいくらか滞在費を抑えることができる。
 なにより宿泊先だろう。かつてはベンクーレン・ストリートという安宿街があったのだが、いまでは1泊1万円超のホテルばかりとなってしまった。そこで選択肢のひとつに上がってくるのがゲイランであろう。中心部からやや東、MRTアルジュニード駅が最寄りのエリアだ。
 はっきり言えば、いかがわしい歓楽街である。ピンクやムラサキの妖しいネオンを灯した施設が並び、その手のお姉さんが手招きをする。道端で堂々と賭場を開いている、どう見たってカタギではないお兄さんたちもいる。ポイ捨て罰金の掟はどこへやら、ゲイランの街角はゴミであふれ、インドあたりからやってきた建設労働者がたむろする。「清潔と管理」のシンガポールとはまったく思えない界隈なのだが、これぞアジアな活気にあふれてもいるのだ。
 で、このゲイランにはバックパッカーの姿もある。安宿が密集しているのだ。リュックをかついだ欧米人も見るし、中国人の若者グループも多い。まあ大半が連れ込み宿なのだが、設備は中級ホテル並み、エアコン・ホットシャワー・wifi・そこそこの清潔度あたりは揃っていて、居心地は悪くない。料金はシングル4000円~。
 ゲイランほどの数はないが、リトルインディアやアラブストリートといったエリアにも安ホテルがある。『深夜特急』では、主人公は結局アラブ・ストリートに逗留している。その名の通りイスラム教徒の多い場所で、中東方面からの観光客に人気だ。モスクやアラブ料理レストランも並ぶ。

 

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バックパッカーだったらきっとゲイランの猥雑さが気に入るはず。安メシの宝庫でもある

 

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異国情緒たっぷりのアラブ・ストリート

 

 

増加中のドミトリーを狙う

 バックパッカー的予算でいえば、安ホテルに4000円~というのはキツイだろうと思う。同じことを世界中の旅行者も思っている。そこで近年シンガポールに増加しているのがドミトリーだ。
 1泊1000~2500円くらいだろうか。どこも小ぎれいで、おしゃれな内装が特徴だ。ロビーはバックパッカーたちの交流の場になっていたり、カフェだったりする。
 セキュリティにも気を遣っているところが主流。カーテンでベッドをぐるりと囲めてプライベートを確保できる宿もある。シャワーは共用だが、エアコン、wifiはある。
 ドミトリー宿は特定のエリアに固まっておらず全土に点在しているが、やはりゲイランやリトルインディアには目立つ。
 さらにシンガポールでは、日本でいうカプセルホテルもいくつかある。とはいえ日本のものよりはだいぶ広く、荷物を広げるスペースくらいはあり、圧迫感は少ない。ちょっと狭いシングルといった感じだろうか。こちらもデザイン系の内装が中心でとってもキレイ。貴重品などを保管できるロッカー、清潔な共用シャワールーム、中には朝食ビュッフェつきのところもあり、意外にコスパがいい。3000円前後といったところ。

 

 

食事はホーカーズに限る

 宿と並んで旅の出費の柱が「食」だ。シンガポールでは外食すると平気で1000円、2000円と飛んでいってしまうのだが、ホーカーズだけは例外だ。屋台村のようなもので、シンガポールでは繁華街でもHDBの敷地内にもある。
 名物の福建麺でもチキンライスでも、だいたい300~500円といったところ。バックパッカーらしくB級グルメを食べ歩いているぶんには、日本よりは出費は抑えられるのだ。
 ただし、酒は高い。ビールは日本の倍ほどもする。安いホーカーズでも、つまみを食べながら飲んでいるとかなりの出費になってしまうのだ。
 加えてタバコはひと箱1000円を超える(ちなみに日本から申告せずにタバコを持ち込んだことが発覚すると多額の税金が課される)。
 このあたりの嗜好品はやはりガマンしたほうがいいのかもしれない……。
 交通は意外に安く、全土を走る電車網MRTは110~170円ほど。タクシーの初乗りは240円ほどだ。
 ドミトリー・ホーカーズ・公共交通を駆使すれば、シンガポールでもがんばれば1日3000~4000円で過ごせるだろう。
 とはいえ、これでもけっこうな値段である。
 そこで、宿をマレーシア側ジョホールバルに取ってしまう旅行者もいるのだとか。国境を越えてマレーシアに行けば、2~3割ほど物価が下がる。こちらに拠点を構えてシンガポールを観光するのだ。国境を行き来して通勤・通学している人もいるくらいなので、バスなどが多発している。国境越えについてはこちらの記事→国境#39も参照されたし。
 物価の高さにめげず、シンガポールを楽しもうではないか。

 

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この手の庶民的ホーカーズなら安く上げることができる

 

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ホーカーズにて。福建麺&野菜炒め&ビール大瓶で1000円を突破してしまう……

 

 

*本連載は月2回(第1週&第3週水曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

*タイトルイラスト・野崎一人 タイトルデザイン・山田英春

 

 

『バックパッカーズ読本』編集部

格安航空券情報誌『格安航空券ガイド』編集部のネットワークを中心に、現在は書籍やWEB連載に形を変えて、旅の情報や企画を幅広く発信し続けている編集&執筆チーム。編著に究極の個人旅行ガイド『バックパッカーズ読本』シリーズなど。

 

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