日本一おいしい!沖縄の肉食グルメ旅

日本一おいしい!沖縄の肉食グルメ旅

#07

アグーの内臓へ飛びこむ~『ホルモン焼きサクラ』

文・藤井誠二

 

肉を焼く音が、轟音でかき消される……

 鉄板で豚の腸をトングで転がしていたら、突如、轟音が店を揺らした。バタバタという地響きのようなプロペラが回転する音が店を震わせた。振動はぼくらの身体にも伝わってきた。これまでに聞いたことのない爆音だ。ぼくは店内の客のほうに目をやると、何食わぬ顔をして焼き肉を頬張っている。

「オスプレイだよ」

 窓から夕空を見上げて、本連載の共同執筆者である仲村清司さんが言った。しばらくすると、さきほどのプロペラ音よりはじゃっかん軽めの爆音が頭上を通過していくのがわかった。これは軍用ヘリだ。そう仲村さんは言った。

 それからまたしばらくすると最初に聞いた轟音が数度、頭上を横切っていった。オスプレイだ。肉を焼く音がかき消される。

 思えば、この店は、いま辺野古への「移設」問題で揺れる米軍・普天間基地から目と鼻の先にある普天間商店街にあり、夜になると基地に帰還していくオスプレイや軍用ヘリの着陸コースの真下にある。爆音を聞きながら、ぼくたちはアグーのホルモンに舌鼓を打つことになったわけだ。

 普天間商店街はすっかりシャッター商店街化してしまったが、アグーのホルモンを堪能できる『ホルモン焼きサクラ』は健在で、沖縄でもめったに口にすることができないアグーのホルモンの部位を食べに客がやって来るのである。

 

 

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『サクラ』で乾杯する筆者・藤井。ちなみに着ているTシャツは那覇の古書店『ちはや書房』のもの。

 

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アグーのレバーの美味しさに感激する仲村清司さん。

 

 

沖縄のブランド豚「アグー」

 沖縄にはアグーを筆頭にブランド豚が犇いている。

 友人が食肉の加工会社につとめていて、純血種に近いアグーのバラ肉を東京にどっさり送ってくれたことがある。ぼくは自宅でヘアーカットサロンを営む友人の店に何人か食いしん坊を集め、そこのキッチンを借り、男女四~五人でいただくことにした。二キロ以上はあったと思う。

 喰い方はいたってシンプル。焼いて喰う。しゃぶしゃぶで喰う。この二種類でいくことにした。送ってくれた沖縄の友人がそれが最も美味いですよ、味付けは石垣島の雪塩と荒挽きの黒胡椒だけでいいですよ、と教えてくれたからだ。

 フライパンで焼いたアグーの脂身は野性味が前面に出て、ほっぺたが落ちるとはこのことだと思った。しゃぶしゃぶにすると野性味に甘みが乗ってきて、いくらでも喰うことができた。そして、しゃぶしゃぶに使った土鍋が自然に冷えると、表面に一センチ近くの脂の層ができていた。アグーのラードである。ぼくはこれをスプーンで丁寧に取り出して、沖縄そばを湯掻いて、ラードでそれを炒めた。具はネギだけ。味付けはやはり石垣島の雪塩に、ウスターソースを少量。沖縄そばは丸めん系から平打ち系まで何種類か試してみた。

「たまらん!」誰かが叫んだ。こんな贅沢な焼きそばがあろうかと一同がうなってしまうぐらいの逸品が出来上がったのである。我を忘れたようにぼくたちは食べた。ぼくは三~四回は沖縄そばを湯掻くためにキッチンに戻ったので、二キロ近いアグーラード焼きそばが、ぼくたちの胃袋におさまったことになる。肉も入れたら、いったおどれだけ喰ったんだと自分たちであきれるほどの量を胃袋におさめた。

 アグーを送ってくれた友人が言うには、アグーをめぐる命名権のようなものは一時期、乱立・混乱していて、収拾がつかない状況も一部にあったという。食肉業界では一時、成長が遅く出荷量が限られているアグーが多く出回ったことがあり、これはヘンだぞ、どこかの会社が「偽装」しているのではないかと噂になったこともある。つまり少しでもアグーの血が入っていればアグーとして流通させてしまえというやり方を、一部の食肉メーカーが自己判断でおこなっていた可能性が高い。

 かつて沖縄では、フィリピン産の海ぶどうを沖縄産としたり、フィリピン産のマンゴーを宮古島産と偽装したりして社会問題化した例があり、そういった「産地偽装」ならぬ「血の偽装」にも敏感になっていたこともあるに違いない。食品偽装問題が日本のあちこちで続いたこともある。

「アグー」表記の豚肉はその後、沖縄県内の多くの食肉メーカーから出されて、在来種のクォーターぐらいもアグーという名前がつけるようになって、ブランドや品質を保持するために、「沖縄県アグーブランド豚推進協議会」が2008年につくられて、50パーセント以上在来種の血を引く豚をアグーと表記して売っていくことになった。ランドレースやヨークシャー、バークシャー、ハンプシャー種などの雄と、アグー在来種の雌をかけあせわる。あるいは、在来種の雄と掛け合わせることもある。いわゆる「戻し交配」だ。

 

 

ブランド肉のホルモンが食べたい!

 アグーの精肉の美味さに悶絶しながら、しかし、ぼくはかねてから思っていたのだ。アグーのホルモンも流通してもいいじゃないか。つまり、ブランドホルモンである。じっさいにたとえば、松坂牛の本場である三重県松坂市には、古くから営んでいる焼き肉屋には松坂牛のホルモンがある。ぼくは何軒かおじゃまをしたことがあるが、食肉センターと数十年の付き合いがある老舗ばかりだった。

 ブランド豚は沖縄に限らず、日本各地に存在する。養豚家が飼料から飼育環境までこまかく気をつかい、手塩にかけて育て上げた食肉用豚だ。すべてを食べ尽くしたわけではないが、どれもため息がでるほど美味かった。

 一度、ぼくがコーディネイターをつとめていたインターネット放送で、神奈川で祖父の代から養豚業を営んでいる三代目にゲストで来てもらったことがある。小規模の個人養豚家で80頭ほどを飼育しているという。

 スタジオに燻製にしたベーコンを持ってきてもらい、かるく炙って食べた。なんという滋味。他にもバラ肉やモモ肉、ソーセージなどを冷蔵して持ってきてもらったので買い取らせてもらったのだが、たしか5000円ちかかった。おそらく、スーパー等で売られている大量飼育している豚に比べると倍以上したと思う。しかし、彼のこだわり抜いた──とくに食の安全という観点から──飼育方法のてまひまとその味を考えると、対価としてとうぜんではないかと思えてきた。

 そのときに聞いたのが、内臓の話だ。豚も牛も枝肉にする前に内臓は一カ所に集められる。枝肉はブランド等によって解体ラインを変えたり、マーキングをしたりするが、内臓はそうはいかない。

 どうしてもブランド豚や牛の内臓を確保したいときは、その解体ラインだけ、鉄道の線路を切り換えるようにして、別のラインに流さねばならない。ノーブランドの豚や牛のそれと混ざらないようにするためだ。そのときにラインの掃除もおこなうという。だから、そもそも少量生産のブランド豚や牛の内臓だけを取るということが、食肉センターのコストに合わないんです──彼はそんなことを言っていた。生産者と食肉センターの連携や信頼関係があってこそ、ぼくたちはブランド豚の内臓をくちにできるのである。

 

 

『サクラ』で貴重なアグーのホルモンを食す

『サクラ』でメニューを開くと、「アグーのかしらセット」があるのに驚く。かしら、ほほ、こめかみ、トントロという、アグーの頭部四天王と呼びたくなる。それで値段は1200円。一人焼き肉のときはこれでじゅうぶんだ。

 そして、アグーのテッポウと大腸。適度に脂が落としてあり、じつに美味い。テッポウは450円。このテッポウだけを数人前頼んで、ひたすらビールを飲むのもありだ。テッポウや大腸の独特の臭みこそ醍醐味なのだが、つけダレは塩系ダレ、味噌系ダレ、醤油系ダレの三種類が用意してもらえるので、食べ飽きないのである。テッポウを筒状にしたシロコロ(550円)もあるので、脂の旨みを楽しみたければこちらをおすすめしたい。

 それから、アグーのレバーの「大カット」。大ぶりにカットしたブランドレバーを炙り、かるく炙り頬張ると、なんという至福。ごくまれにスーパーでアグーのレバーを売っているのを見かけるが、とうぜんながら鮮度が違う。通常はアグーレバーは450円だが、デカいブロックのものは500円。

 アグーのタンもある。「一本焼き」といって丸ごと舌を焼き、カットしてもらえる。これは900円。ぼくらはあらかじめカットしてもらったものを出してもらった。

 

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アグーのレバーと大腸。

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アグーのタン(舌)。

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見よ! この網で焼かれるタンの美しさ。

 

 オーナーの関暁介さんがこの店をはじめて10年あまりになるそうだが、熊本の出身だそうで、どうりで馬料理も充実しているし、何より店名が『サクラ』なのはそのせいだ。ぼくは本場の熊本で馬のモツ煮を有名店でかなり食したが、『サクラ』のモツ煮は腸がやわらかく味噌で煮込まれ、ぼくの中ではトップクラスの美味さだった。繊細な味だ。

 馬肉の刺身の脂身の多い部位を細かくカットしたものと納豆を合わせたサクラ納豆も絶品。馬の肋肉(あばら)を焼いたものはここで初めて食べた。

 

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『サクラ』の馬のもつ煮はトップクラスの美味さ。

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馬刺しと納豆を合わせた一品料理「サクラ納豆」も絶品。

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馬肉のひも焼きあばら(塩)は700円。

 

 それから、一人前250円で野菜が食べ放題なのもうれしい。沖縄特産の、紫色の葉のハンダマもはいっている。パクチー、サンチュ、ニンニク、みずな、かいわれ等、これは野菜不足のおっさんにはありがたい。

 関さんは十数年前に沖縄に移住したそうで、もともとダイバー関係の仕事をしていたそうだ。焼き肉屋などで働いた経験はないという。アグーの内臓に注目したのは、やはりというべきか、アグーの生肉はあるのにホルモンがないのはどうしてだろうという思いからだったという。

 アグーのホルモンを手に入れるためには、いろいろな苦労があったことは想像に難くないが、この店のアグーホルモンのラインナップはとにかくすごい。アグーは生産頭数が限られているため、日によって間に合わない部位もある。だからメニューにあるものがなかったりすることもあるのだが、その日にもっとも美味いアグーホルモンをスタッフが教えてくれるから、それもお楽しみである。

 

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アグーのかしら。

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真剣にホルモンを焼く筆者。

 

 店を出て駐車場まで歩くと、またも例の爆音だ。ふいに天を見上げると、オスプレイの特徴の両翼のプロペラなのだろう、緑色の巨大なリングが二つ、普天間基地のほうにむかって飛んで行った。石を投げれば届くんじゃないかと思うほどの低空飛行だった。駐車場ももと普天間基地の一部で返還された今は市民駐車場になっている。駐車場の入り口や周囲は当時のまま鉄条網で囲われたままだ。クルマの助手席のドアを開けようとしたら、また、バタバタという轟音がした。ぼくたちはまた真っ暗な闇を横切る緑色の巨大な二つのリングを目で追った。

 

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宜野湾市普天間にある『ホルモン焼きサクラ』。ぜひ訪れてみてほしい。

 

 

 

*本連載は、仲村清司、藤井誠二、普久原朝充の3人が交代で執筆します。記事は月2回(第1週&第3週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

*本連載の前シリーズ『爆笑鼎談 沖縄ホルモン迷走紀行』のバックナンバーは、 双葉社WEBマガジン『カラフル』でお読みいただけます。

 

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仲村清司(なかむら きよし)

作家、沖縄大学客員教授。1958年、大阪市生まれのウチナーンチュ二世。1996年、那覇市に移住。著書に『本音の沖縄問題』『本音で語る沖縄史』『島猫と歩く那覇スージぐゎー』『沖縄学』『ほんとうは怖い沖縄』『沖縄うまいもん図鑑』、共著に『これが沖縄の生きる道』『沖縄のハ・テ・ナ!?』など多数。現在「沖縄の昭和食」について調査中。

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藤井誠二(ふじい せいじ)

ノンフィクションライター。1965年、愛知県生まれ。8年ほど前から沖縄と東京の往復生活を送っている。『人を殺してみたかった』『体罰はなぜなくならないのか』『アフター・ザ・クライム』など著書や対談本多数。「漫画アクション」連載のホルモン食べ歩きコラムは『三ツ星人生ホルモン』『一生に一度は喰いたいホルモン』の2冊にまとめた。沖縄の壊滅しつつある売買春街の戦後史と内実を描いたノンフィクション作品『沖縄アンダーグラウンド』を2016年内に刊行予定。

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普久原朝充(ふくはら ときみつ)

建築士。1979年、沖縄県那覇市生まれ。アトリエNOA、クロトンなどの県内の設計事務所を転々としつつ、設計・監理などの実務に従事している。街歩き、読書、写真などの趣味の延長で、戦後の沖縄の都市の変遷などを調べている。最近、仲村と藤井との付き合いの中で沖縄の伝統的な豚食文化に疑問を持ち、あらためて沖縄の食文化を学び直している。

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