日常にある「非日常系」考古旅

日常にある「非日常系」考古旅

#06

割に合わない考古の基礎とスキル(後編)

文と写真・丸山ゴンザレス

 

 

 

報告書はひとりでは作れない!

 

 

考古学に限った話ではないのだが、基礎部分の説明をするのにはセンスが問われるし、きちんと理解してないと書くことができない。そのため、これにはとにかく手間がかかる。この連載では、メインテーマが“旅”であるために、考古学の基礎を説明するのは避けてきたつもりだったが、できるだけ深く本域で考古学を扱っていこうと思って基礎知識を紹介し始めたのだが、さすが軽く&テンポよくエンタメに転がすのは無理があった。当初は1回でサラッとまとめるつもりだったのだが、これで3回目になってしまった。

もはや以前に説明した「考古学の本が面白くないから売れない」を自分でやってしまうことになってしまった。もうこれ以上の十字架は背負えない。だから基礎編は、意地でも今回で終わらせたいと思う。

 

知的な作業の裏にある苦悩

 

そんな願望と決意はともかく、考古学の基礎の部分は、花形の「発掘」、完全に屋内引きこもりの「整理」作業と説明してきた。残るは、いかにも学者っぽい「報告書」作業の説明である。この報告書を作成することこそが、現代の考古学者に最も求められていることだと、私は思っている。

この作業に携われるのは、主に調査員や調査に参加した大学院生や大学生(どちらも考古学の専攻生)あたりが多い。さすがにバイトを雇って書かせるようなことはできない。

「発掘」も「整理」も、すべては報告書を作るために重ねてきた作業なのである。ここまでつないできたバトンを、研究者たる最終走者がゴールを決める。そこは専門家としての腕の見せどころと言っていいだろう。

報告書にまとめる内容は、「遺跡の意義」である。遺跡のことを知らない人にも分かるように、さらには、調査した遺跡が歴史上でどんな意味を持っているのか、様々な角度から掘り下げて分析し、発掘と整理の両作業で作ってきた遺跡と遺物の図面、実測図、写真などの記録を掲載し、できる限り詳細に所見を原稿としてまとめていく。大まかに言えば、そんな作業である。

できるだけイメージしやすいように一般的な報告書の目次を紹介しておこう。

 

①表紙

②序文

③例言

④目次(挿図目次・表目次・写真目次)

⑤調査経緯

⑥遺跡の立地と環境

⑦調査経過

⑧基本層序

⑨発見された遺構と遺物

⑩自然科学分析

⑪まとめ(調査の成果と問題点・結語)

⑫写真図版

⑬抄録

⑭奥付

(かながわ考古学財団 考古学入門講座「第4回 ようこそ考古学発掘調査報告書の読み方・調べ方」より)

 

IMG_2040+2041これが報告書の目次。項目がやたらと細かい!

 

 

 それぞれについて説明すると、「表紙」は一般の書籍でいうカバーと同じ。出版業界的にはデザイナーに依頼するべきところだが、外注予算などないことが多く、文字だけ『●●遺跡発掘調査報告書』とシンプルに記載することがほとんどだ。ところが、カラー印刷で遺物や遺跡の写真を掲載することもある。これは自分のクリエイティビティを発揮したい制作側のこだわりを見せる部分だ。

「序文」はプロローグみたいな文章。大体は調査した機関の代表者とか、調査された地域の教育委員会の人が書く。基本的には現場と縁のない偉い人に発注するので、その原稿が届かないでヒヤヒヤすることもあるなど、難易度の微妙な部分である。ちなみに内容はざっくりとした調査概要と、「歴史解明の一助となることを願う」と、関係各所への「感謝」でまとめられていることが多い。

 その他、「遺跡の立地と環境」や「発見された遺構と遺物」など、だいたいの内容が見ただけで分かるようなものもある。これらの調査の成果をまとめるのは大変ではあるが、時間さえあればなんとかなる。しかし、その一方で、意外と苦労するのが、一般の書籍では聞き慣れない「基本層序」と「自然科学分析」。ここをどうまとめるかは、研究者の腕の見せ所だ。

「基本層序」は、発掘の際に記録した土層の分析結果と記録を掲載するもので、きちんと調査していると問題ないが、過去の周辺エリアの調査とうまく合致しないと執筆者を悩ませることになる。ベテランの調査員は、発掘段階から報告書の内容を想定して土層をちぇっくしているので、このあたりは経験値がものをいうところでもある。

また、「自然科学分析」である。これは人文科学の限界を痛感させられる項目である。化学的なアプローチでないと分からないことをまとめる。たとえば鉄器を構成する成分、付着した花粉の分析、遺物の年代を測定する放射性炭素分析といったものが代表的だ。こうした分析は外部の研究機関に依頼しないといけない。自分たちの努力ではどうにもならないことや、マンパワーでは片付かないことを、考古学分野の人たちは、苦手意識として持っていることが多いのだ。

 

 報告書は遺構や遺物の数に応じて変動するので数十ページのものがあれば、数百ページになって分冊することだってある。そこに自然科学分析のように考古学の知識だけでは書けない項目もあるのだから、途中で逃げ出したくなっても仕方ない作業である。

 ただし考古学は一人でやるものではない。必ず誰かと一緒に協力していかなければ成立しないのだ。ちなみに、どんなに強がっても、どんなに残業しても、絶対に一人ではできない。現在、学問としての考古学は専門領域が細分化しているので、土器研究のプロでも鉄器については素人同然、みたいなことも起こりうる。当然、専門家の力を借りる必要がある。

考古学世界をのぞき見てきた私の意見ではあるが、考古学はどんなに天才的な学者がいたとしても、それだけでは報告書作りは完結できないのだ。陳腐な言い方だけど、「力を合わせて積み上げていく」ということが大事なのだ。

それも、学生やバイトなどアマチュアと、大学院生や大学教授、行政マンや調査員などプロフェッショナルの混成部隊で達成しなければならない。目的もモチベーションもばらつきが出てきて当然だが、全員の力が合わさった集合知となってはじめて成り立つ。それが考古学なんだと思う。

 

IMG_2042細かいイラスト(図版)もすべて手作業で描き起こす

 

 

 

研究者は手を抜かない!

 

 いろいろと難しそうな話をしてきたが、実際、報告書は簡単に作ることもできる。ちょっと器用な人なら、どんな項目も単純作業と割り切って、さらっと通り一遍の文章で過不足なくまとめることもできるだろう。だが、研究者たちが報告書の作成作業に手を抜くことはない。皆、自分の時間を削って残業し、あれこれ文句を言いながら、きっちりと報告書を作っている。

なぜなら、自分たちに課された使命をわかっているからだ。たとえば、工事現場で発見された遺跡は、破壊される運命にある。あとから調べようとしたら、報告書以外に遺跡が存在した証拠はないのだ。きちんと作った報告書を作っておけば、現場が消滅した後でもその遺跡の価値付けをすることも可能になる。その遺跡にどんな意義があるのかをどの程度に書き記すのか、それが専門家としての力量の見せ所でもある。そこに伴う責任は重いが、研究者であれば、一番やりがいを感じることのできる作業なのだ。

 

この膨大な作業を行うスキーム作りとスキルをどうやって学ぶのかといえば、大学の授業である。やはり、ここがただのマニアから研究者に変わるための登竜門なのだ。

私は大学3年のときに、「考古学実習」という授業で、報告書づくりの基礎を学んだ。本になるものに原稿を書く体験は初めてだったので、どうしていいか右往左往したものだ。

ここまできたら、冒頭の短く終わらせる決意をヒックリ返して、考古学専攻とはいったい何をするのかについて、次回は紹介してみたい。これは考古学者になるための重要なプロセスでもあり、私がどうやって考古学の道を選び、どういう研究をして、どのように学者崩れになったのかを知る上でも欠かせない部分でもあるので、興味がある人は、ぜひ知っておいてもらいたいことである。

 その話が終わったら、今度こそは考古旅の話に戻るので、もう1回だけお付き合いください!!

 

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IMG_5431S+5434SIMG_5435取材でベトナム・ハノイに行ってきました。ついでに史跡を巡ってきましたよ(今回、写真が少なかったので近況報告です…)

 

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。お楽しみに!

 

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丸山ゴンザレス(丸山祐介)

1977年生まれ、宮城県出身。國學院大學大学院修了。考古学者崩れのジャーナリスト。フリー編集者。出版社勤務を経て独立。國學院大學学術資料センター共同研究員。TV番組「クレイジージャーニー」(TBS系列)では、世界中のスラム街や犯罪多発地帯を渡り歩く“危険地帯ジャーナリスト”として人気。2005年『アジア『罰当たり』旅行』(彩図社)で作家デビュー。以後、著書多数。【丸山ゴンザレス】名義:『海外あるある』(双葉社)、『闇社会犯罪 日本人vs.外国人 ―悪い奴ほどグローバル』(さくら舎)、『アジア親日の履歴書』(辰巳出版)等。【丸山祐介名義】:『図解裏社会のカラクリ』『裏社会の歩き方』(ともに彩図社)、『そこまでやるか! 裏社会ビジネス』(さくら舎)等。近著『GONZALES IN NEW YORK』(講談社)が好評発売中。旅行情報などを配信するネットラジオ「海外ブラックロードpodcast」では、ラジオパーソナリティーとしても活動中。

双葉社の既刊本好評発売中!!

ISBN978-4-575-30635-4

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