沖縄にも暮らす 二拠点生活の日記

沖縄にも暮らす 二拠点生活の日記

#06

二拠点生活の日記 Sep.15~20

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文と写真・藤井誠二 

 

2020

9月15日 [TUE]

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 毎年9~10月にかけて神奈川県にある某大学で少人数対象の実習授業につきっきりの仕事をやっていて、東京を離れられないのだが ━このコロナ禍のなかで遠隔授業じゃない大学はかなり少数だと思われる━ なんとか時間をひねり出して東京を飛び出した。

 「おとん」店主の池田哲也さんが泊の「串豚」で飲むから来ない? と連絡してきたので、那覇に到着してから自宅に荷物を置いてすぐに駆けつけた。「おとん」もずっとコロナ禍で休みにしていたし、ここの「串豚」も休んでいた。店主の喜屋武満さんはいつもの落ち着きぶりだ。いつものメニュー札の中に見慣れない肉の名前が。イベリコロースカブリ。ふだんは高級レストランに出回るはずの高級部位が買い手がつかず安く出回っているみたいで、まあ、限定のようなもの。ネットで調べてみると ━最高級のイベリコポークの頭部と肩肉の間のかぶりロースと呼ばれる部位。たっぷりとのった脂はイベリア種独特の旨味と香りを含んでいる━ と説明されている。ステーキで食べるのが一般的みたいで、数千円する。が、この時期、ここでは一串350円。真っ白な降り積もった雪のような脂肪部分をこんがりときつね色に焼いたそれは、もう豚肉の旨味とは別物。高級フルボディの赤ワインでも飲まなきゃいけない気持ちになる。でも、黒ホッピー。池田さんと一本ずつ、ありがたくいただいた。

 安里に移動して深谷慎平君と合流して、オープンしたての「鳳凰餃子」へ。麻婆豆腐ならぬ麻婆センマイが絶品だったのだが、ぼくにはやや辛すぎた。辛いものは「好き弱い」なのである。深谷君は「美味い、美味い」を連発して汁まで飲み干していたけれど。

 

9月16日 [WED]

 

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撮影/深谷慎平

 

 『TURNS』という「複数拠点の仕事と暮らしで、新しい地元をつくる!」と表紙にうたれた隔月刊誌を読む。ぼくは沖縄を第二の拠点にしているわけだが「新しい地元!」と意気込んできたわけではない。第一、ぼくが暮らしている那覇は大都市。『TURNS』では過疎地的な地方の街を東京との二拠点生活や移住などで活性化させようとしているケースがいろいろ紹介されている。同誌41号の特集は  「多拠点居住と新しい働き方」で、ローカルジャーナリスト・田中輝美さんが「関係人口」についてわかりやすく記事を書いている。田中さんとはある仕事で御一緒したことがあるが、地元の島根県に根を張って活動していて『地域ではたらく「風の人」という新しい選択』や『関係人口をつくる━定住でも交流でもないローカルイノベーション』等の著書もある。今後は島根の大学で教えることになったことをちょっと前にSNSで知ったが、この領域を切り開いたというか、言葉にした第一人者で、ぼくはすごく興味を持っていた。

 関係人口ってそもそもなんだろう。『TURNS』の田中さんの記事のリードによれば、[地域に多様に関わる人を指す「関係人口」が注目されています。その地域にずっと住み続ける「定住人口」でもなく、お客さんとして短期的に訪れる「交流人口」でもない「第三の人口」の考え方。都市に暮らしながら別の地域の人たちともつながり、地域のコミュニティの仲間の一員にもなれる、新しい生き方です。]とある。これはぼくが沖縄「にも」暮らしているかんじと近い。ぼくは十数年、取材者として沖縄にほぼ毎月通い、那覇につくった自宅に一定期間滞在しながら活動をしてきた。自分なりに切り取った「沖縄」をメディアに乗っけてきた。その過程のなかで友人や知り合いを増やしてきた。取材の延長線上で、沖縄の犯罪被害者遺族のグループや、不登校や引きこもりの子どもたちに向き合っている人たちと関わってきたし、いまも関わっている。ぼくも「関係人口」という生き方になんとなくあてはまりそうな気ががする。

 引用が長くなるが、もうちょっと説明すると、同記事によれば「関係人口4つのパターン」というのがあって、まず一つ目の[バーチャルな移動]は、[わかりやすいのは、ふるさと納税です。そのほかにも、特定の地域の商品や特産品をインターネットで買って応援するというかたちもあります。]だという。

 二つ目の[来訪]は、[実際には一番イメージしやすいパターンだと思います。普段の自分の住んでいる都市から、特定の地域を訪れて通う形です。ただ、繰り返し訪れていても、これまでの観光のように名所や施設を回っているだけでは、「関係人口」としてつながっているとは言えません。地域のプロジェクトに参加したり、イベントや草刈りなどを手伝ったりすることが大切です。]ということなる。

 三つ目は[風の人]。呼び方がおもしろい。[たとえば、地域おこし協力隊が任期中の三年は特定の地域に住み、任期を終えてまた別の地域に移っていくようなイメージです。]

 四つ目は、今回の特集。[二拠点居住。自分が住んでいる都市以外の地域に拠点を設けるかたちですね。]と田中さんと書いている。この中では四つ目がもっとも「関係人口」になりやすい大きなメリットがあって、[拠点を持つということは、単に通ってくる形と比べても、地域の人たちとの信頼が得やすいのではないでしょうか。]とも田中さんは理由を書いている。

 ぼくは四つ目に当るのかな。拠点(那覇の自宅)をぼくは名刺に入れているし、相手の会話の中で那覇にも住んでいますと伝えるとうちとけやすいと実感している。ぼくが使っていないときは那覇の自宅を人に貸したり、ぼくがいるときは集まって飲み食いすることもしているから、「人」と「場」が合わさると思わぬ化学反応が生まれることも多い。「場」は自分の空間だから自由度が格段に高い。音楽の音がデカすぎて隣人から注意されたことは何度かあるけど。

 マンション内のゴミ集積場に行く以外は部屋を出ず、ずっと仕事とバルコニーの植物の剪定や掃除を交互にやっていたら一日が過ぎた。

 

9月17日  [THU]

 

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撮影/深谷慎平

 

 夕方に普久原朝充君と深谷慎平君と合流して栄町「ルフュージュ」に顔を出したあと、またまた「鳳凰食堂」へ。

 

9月18日  [FRI]

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 午前中に放送作家の喜屋武浩行さんにインタビュー。デビューは彼が琉球大学在学中。沖縄で初のプロのお笑いの構成作家である。たまに居酒屋などでお目にかかっていたが、ぼくの「沖縄ひと物語」に御登場願うことにした。コロナ禍で人がいない国際通りの「むつみ橋」交差点でお決まりの「キャンポーズ」を取ってもらい、ジャン松元さんが信号が青になるたびに脚立を立てて狙う。かっこいい一枚を撮ってもらった。

 そのあとジャンさんが牧志の市場通りで撮影があるというのでついていった。『ドランブイン探訪』、『市場界隈 那覇第一牧志市場界隈の人々』等で知られるライターの橋本倫史さんの連載 ━彼も月イチで「琉球新報」に市場ルポを連載している━ のために、ネパールから来ている人が働いている惣菜屋に行った。ちなみに橋本さんはいない。惣菜屋の名前は「上原パーラー」。先方との約束している時間の前にキューバ料理の「Steak Filete(ステーキ ペレラ)」で昼飯をジャンさんと食べる。がっつり肉料理。「上原パーラー」のネパールカレーが美味そうだなあと見ていたら、買い出し中の「ルフュージュ」の大城忍さんとばったり。「ここのジューシーおにぎりが美味いですよ」というのでワンパック(二個入り)を買う。

 その足で真栄原の「ブックス じのん」に行って、さがしている資料について店長の天久斉さんに相談をする。アタマにぼんやりと浮かんでいるキーワードを言うと、天久さんがすばやく自分のアタマの中の引き出しを開けてくれる。そのあと近くの喫茶店で天久さんとゆんたく。天久さんとあれやこれや話していると、あっと言う間に時間が経っていく。帰りは安里まで送ってもらう。晩飯はさっき買ったジューシーおにぎり。

 

9月19日  [SAT]

 

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 朝、レンタカーショップで小型のクルマを借りて名護まで走る。栄町で「チルアウト」というタイ料理屋をやっていたファン・テホさんが今帰仁に自宅を移し、名護市街で地元食材を使った和食屋を始めると(本人から)聞いたのはいつだったか。SNSで「島のおそうざい さんかく家」をオープンさせていたのは知っていたが、なかなか名護まで行けないままになっていたが、今回は絶対に行ってみようと思った。古民家を改造した広々とした敷地。やってる、やってる。白シャツに蝶ネクタイをしめたファンさんが忙しく立ちまわっている。「藤井さん、ひさしぶり!」「すごい店オープンしちゃったね。タトゥーと蝶ネクタイが合わないよ」、「そのアンバンランスがいいんすよー」とふざけあって、さっそく十数品食べ放題の惣菜をいただく。季節の野菜料理が中心でどれもすばらしく美味い。メインは魚を焼いた一皿をいただいた。繊細な味付けで、素材の味が際立っている。ご飯やお茶、デザートも食べ放題。酒もいろいろ置いてあるので、聞いたら「飲み放題すよー」。こりゃ、今度は泊まりがけで来たい。客席はぜんぶ埋まっていた。彼の凄腕というか、バイタリティに唸りながら、本部町へクルマを走らせた。

 本部町公設市場の中にある「goronyaaa Ai&Dai designs」へ。デザイナーの親富祖大輔さんと親富祖愛さんに会いに行く。愛さんがコザのゲート通りでおこなったパレード(本人曰く、デモではない)についていろいろ話を聞きたいと思った。愛さんたちが沖縄から「Black Lives Matter」の意見表明をおこなうことについて二人の思いや意見を聞いた。本部町公設市場には初めてきた。市場内の店舗で「琉球新報」のぼくの月イチ連載を読んでくれていた年配の女性と会って、じんわりとうれしい気持ちになった。

 夜は栄町「おとん」へ。東京からジャーナリストの二木啓孝さんがいらっしゃっているので、深谷慎平君と合流。何人かの知り合いと会うが「密」になるのを避けるためぼくらは、冷房の効いていない外のテーブルで飲む。そのあと「うりずん庵」に移動。普久原朝充君も合流。二木さんをタクシーに乗せたあと、「アルコリスタ」に久々に顔を出したら、「珈琲屋台 ひばり屋」の辻佐知子さんらがいたので、いっしょに騒いだ。

 

9月20日  [SUN]

 

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 午前中の飛行機で東京に戻る。次に沖縄に来られるのは一カ月後になってしまう。田中輝美さんも書いていたけれど、ぼくも「関係人口」の一人として生きているのだなと思う。今後、どう沖縄に関わっていくのだろうか。「好き」だけでは、その土地で継続的に生活していくことは難しい。その土地に生きることで何かをもらっているのだから、何を返していけばいいのだろうということをいつも考えている。

 

*筆者の近況はtwitter(https://twitter.com/seijifujii1965)でご覧いただけます。

 

 

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藤井誠二(ふじい せいじ)

1965年名古屋生れ。ノンフィクションライター。2006年から沖縄県那覇市の中心部に仕事場を構え、東京都世田谷区と二拠点生活を送っている。著作は50冊以上。沖縄関係の著作は『沖縄アンダーグラウンド  売春街を生きた者たち』(講談社)、作家の仲村清司氏と建築家の普久原朝充氏との共著で『沖縄オトナの社会見学R18』(亜紀書房)、『肉の王国 沖縄で愉しむ肉グルメ』(双葉社)がある。『沖縄アンダーグラウンド  売春街を生きた者たち』は、2018年に第5回「沖縄書店大賞」沖縄部門で大賞を受賞。

 

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