東南アジア全鉄道走破の旅

東南アジア全鉄道走破の旅

#06

タイ国鉄の未乗車区間に惑う〈3〉

文・下川裕治

東北地方イサンの未乗車2区間

 タイの鉄道の未乗車区間に乗っていく──。バンコクからチェンマイへ行く途中、バーンダーラーからの支線を乗り終え、イサンといわれるタイ東北地方に向かった。

 ここにはブアヤイからケンコーイ、ナコンラーチャシマーからウボンラーチャターニーという2路線が未乗車で残っていた(文末の手描き地図を参照)。

 バーンダーラーからいったんバンコクに戻ることも考えた。タイの列車は、やはりバンコクが中心で、バンコクを基点にすると効率がいい場合も多かった。しかしそれではなにかつまらない。

 いったんピッサヌロークに出、そこからバスでイサンに向かうことにした。

 コンケーン行きのバスは翌朝の9時発だった。タイ中部とイサンの間は、そこそこ深い山岳地帯である。切符売り場の職員は、6時間で着く、と胸を張った。タイでは、この種の言葉を信ずると痛い目に遭うことが多い。が、つい期待してしまった。9時発のバスが6時間で着くとしたら、コンケーンに午後3時に着く。すると午後3時36分にコンケーンを発つナコンラーチャシーマー行きに乗ることができるかもしれなかった。これでブアヤイまでいけば、その翌日からのスケジュールがずいぶん楽になる。

 

バスは定刻に着くが、列車は大幅に遅れる……

「やはり列車よりバスってことか」

 午後3時36分発の列車に乗り込み、ため息をついてしまった。バスはしっかりと午後3時に、コンケーンのバスターミナルに着いたのだ。そこからトゥクトゥクでコンケーン駅に向かった。発車20分前には着いてしまったのだ。

 翌朝、ブアヤイから乗る路線は、バンコクからノンカーイへ向かう列車のバイパス線だった。もともとはバンコクからナコンラーチャシマーに出、そこからノンカーイに向かう線路があった。しかしより早く、ノンカーイに着くためにバイパス線をつくったのだ。

 この一帯の列車旅にはずいぶん振りまわされてきた。一度、バンコクから各駅停車でノンカーイをめざしたことがあった。その様子は、『不思議列車がアジアを走る』(双葉文庫)に収録されている。

 この列車は各駅停車だから、このバイパス線は通らなかった。僕はナコンラーチャシーマーで1泊し、ノンカ―イ行きに乗った。

 途中、放牧している牛と衝突するなどというトラブルがあった。タイではよくあることだった。列車は1時間半遅れでノンカーイの手前のウドンターニーに着いた。そこで、これから列車は引き返すという案内が車内に流れたのだった。つまり、列車が大幅に遅れ、このまま進むと、折り返しの運行も遅れてしまうため、ウドンターニーとノンカーイの間を端折ってしまうという大胆さだった。

 もっともウドンターニーからノンカーイまでは無料のバスを手配してくれた。その手際のよさがまた気になる。代行バスのなかでタイ人に訊いてみると、ほとんど毎日のことだという。僕は牛を轢いてしまったことが原因かと思っていたが、これがタイの国鉄の日常なのだった。

 

発車案内は忘れられ、特急接続待ちで3時間ロス

 なんとかバスでノンカーイに着き、そこからラオスのタナレーンまで列車に乗るつもりでいた。

 ノンカーイ駅で待っていた。ところが発車時刻を過ぎても、なんの案内もなかった。

「あの、タナレーン行きの列車は?」

「えッ? もう発車しちゃったけど」

「はッ?」

 若い駅員は頼りない笑みをつくった。タイ人が困ったとき、よくつくる笑顔だった。これまでも何回となく、この笑顔に出合ってきた。要するに、発車案内を流すことを忘れてしまったのだ。駅の待合室には、何人かの乗客がいた。全員がタナレーン行きの列車に乗ることができなかった。

 こんなことでいいのだろうか。

 結局、その日はノンカーイに1泊した。そして翌朝、少し早めに駅に向かった。タナレーン行きの列車は午前9時の発車だった。ところが駅員は、こういった。

「今日のタナレーン行きは11時半の発車になります」

「はッ?」

 なんでもバンコクからやってくる夜行の特急列車に接続するスケジュールなのだという。その列車が3時間遅れるため、自動的にタナレーン行きも遅れるという説明だった。

 しかしノンカーイからタナレーンまでは15分の距離である。遅れている間に、簡単に往復できてしまう。しかしタイ国鉄は、そういう乗客サービスとは無縁だった。

 このバンコクからの特急列車が通る線路がバイパス線だった。しかしこの線路を走ったところで、3時間遅れるのである。なんだか天を仰ぎたくなるような話だった。

 しかし僕にとっては未乗車区間だった。

 ブアヤイに着いた。駅前に湖があり、その周りを屋台が囲むいい街だった。湖に面したホテルに泊まった。

 翌朝のケンコーイ行きは、朝の5時50分発である。まだ暗いうちに、列車に乗り込まなくてはならない。 (つづく)

 

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*タイ国鉄(タイ国有鉄道)ホームページ

 

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*本連載は月2回(第2週&第4週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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著者:下川裕治(しもかわ ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。ノンフィクション、旅行作家。慶応大学卒業後、新聞社勤務を経て『12万円で世界を歩く』でデビュー。著書に『鈍行列車のアジア旅』『不思議列車がアジアを走る』『一両列車のゆるり旅』『タイ語の本音』『世界最悪の鉄道旅行 ユーラシア横断2万キロ』『「裏国境」突破 東南アジア一周大作戦』『週末バンコクでちょっと脱力』『週末台湾でちょっと一息』『週末香港・マカオでちょっとエキゾチック』など、アジアと旅に関する紀行ノンフィクション多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。

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