台湾の人情食堂

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#06

台北から45分の隠れたグルメタウン、基隆

文・光瀬憲子

   

 美味しいものがギュッと詰まっている地方都市というと、台南や嘉義が思い浮かぶが、ここ2年ほど何度も通っている基隆(キールン)もなかなかのものだ。地方都市とは言っても、台北市内から台鐵の鈍行列車(区間号)で45分ほど。鎌倉に住む私が都内へ出かけるときにかかる時間とさほど変わらない。それでも、列車が台北郊外を抜けて田舎の風景を通り、基隆という港町に到着することで、ちょっと旅気分になる。

 基隆は日本人にゆかりのある町だ。基隆や高雄といった港町は日本統治時代に大いに活気づいた。高雄が軍事拠点だったのに対し、基隆は商人や一般人が利用する港だった。台北で商売をしようとする日本人も、日本に留学しようとする台湾人も、みなこの基隆港を通過した。戦後、家財道具を捨てて逃げるように帰国した日本人や、日本軍のために戦い、戦地からようやく台湾に帰還する台湾兵たちのたちの姿があった。たくさんの別れと出会いがあった場所である。今でも港に近い通り(写真)には日本時代の古い建築物が残されている。

 

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基隆の市場や路地裏で旨いもの探し

 

 そんな基隆のグルメと言えば、誰もが思い浮かべるのが廟口夜市(写真)だ。奠濟宮という廟前の広場からのびる通りには番号が付いた屋台がズラリと並ぶ。廟前には基隆夜市の顔とも言える鼎邊銼(米粉の太い麺スープ)の店が呼び込み合戦を繰り広げ、營養三明治(揚げパンサンドイッチ、写真)屋台前には番号札を持って待つ人々がいる。

 

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 だが、廟口夜市だけではもったいない。生粋の基隆っ子は、「廟口夜市なんて観光客の食べもの」と言い放ち、「もっと旨いものがある」と豪語する。台北中心の旅でも、半日ほど基隆散策の日を設け、知られざるグルメを堪能しよう。

バジルソース(!)の中華麺

 

 まずは朝市。基隆駅の裏側に伸びる安一路をまっすぐ進むと、楽一路との交差点から朝市が始まっている。土日は特に活気のある市場だ。両脇には衣料品店や果物店が軒下に商品を並べ、道の中央には色とりどりのパラソルが続く。この市場には朝食屋台も多い。たとえば午前7時から営業している「素食麺線」だ。素食とはベジタリアンフードを指す。麺線はそうめんのように細い麺をあんかけスープにして食べるものだが、大抵は豚の大腸入り(大腸麺線)や牡蠣入り(蚵仔麺線)である。素食麺線には、代わりに大豆を原料とした唐揚げのようなチップスがのっている。

 屋台の店主が鼻歌を歌いながらもう1杯の麺を用意してくれた。こちらは香椿醬と呼ばれるソースがたっぷりとかかった乾麺(写真)だ。柚子胡椒に似たピリ辛ソースだが、食べてみるとバジルソースにそっくり。中華麺とバジルソースの意外な組み合わせがまたイケる。店主は歌うのをやめて「どうだ、旨いだろ?」と自信たっぷりに笑う。

 

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こんなに旨いモツを出す店に酒がない!

 この朝市から安一路を渡って雑居ビルに囲まれた路地に入ると、「巷頭粿子湯」という麺と豚モツの店がある。麺は粿條と呼ばれる米粉で作ったきしめん風。この店の粿條はつなぎをいっさい使わない、米粉100パーセントなので、出てきたらすぐに食べないとのびてしまう。豚骨の優しいスープに米が香る柔らかなきしめん。至福の朝ごはんである。また、この店の湯通ししたモツスライス(写真)もすばらしい。朝からモツ? いや、これが風味豊かなのにあっさりしているのだ。これを刻みショウガと甘めの醤油ダレでいただく。

 

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 モツと言えば、もう一軒基隆っ子が誇る名店がある。「基隆孝三路大腸圈」という豚モツ専門店だ。基隆駅からわずか徒歩3分程度。小さな路地を入ったところにある店だが、週末は行列ができているのですぐわかる。店の看板料理はその名の通り大腸圏。不思議なネーミングのこの食べものは、豚の腸にもち米を詰めた、いわばもち米ソーセージである。別名を糯米腸とも言う。屋台で腸詰めと一緒に売られていることも多いが、この店の大腸圈は別格だ。もち米はふっくらし、中には肉などの具材も混ぜ込まれていて香り豊か。そして、この店は豚モツもすごい。店頭の大きな蒸し器からは勢いよく湯気があがり、中にハツ(心臓)、フワ(肺)、大腸などが待機している。どれもプリプリな食感で、鮮度のよさが伝わってくる。この店でビールが飲めたら、これ以上の幸せはないが、残念ながら飲酒禁止である。

港街らしい魚のすり身と厚揚げがドッキング

 

 午後から開く店もある。基隆駅から離島の馬祖行きの船(写真)が出る船着場までは徒歩5分。この港に面した通り沿いに歴史のある食堂が並んでいる。「劉家50年老店」は臭豆腐の老舗。最近流行りの、外はパリパリ、中はジューシーな臭豆腐とは違い、この店の臭豆腐は昔ながらのほどよい揚げ具合を保つ、大きめの臭豆腐だ(写真)。この店の臭豆腐は、基隆港から馬祖へ向かう兵隊さんたちが船内で食べるためにテイクアウトをするのが常だとか。馬祖はいまだに軍事拠点としての役割を果たしていて、兵役中の若い兵たちが駐屯している。

 懐かしの臭豆腐もさることながら、この店には豆干包というおもしろい食べものがある。魚のすり身をかぶせて蓋をしたような大きな厚揚げがスープに入っているのだ。すり身の部分を割ると、厚揚げの中から濃厚な味付けのひき肉が顔を出す。外見だけでもインパクトが大きいのに、中を割ってさらにビックリだ。

 

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酒場不毛地帯の昼酒天国

 

 そして基隆には、海の男たちが陽の高いうちから集う昼飲み天国「三姐妹熱炒店」がある。酒場の少ない台湾だが、この店は日本の居酒屋マニアも喜ぶ数少ない酒場らしい酒場だ。灰色のガード脇という絶好のロケーション。基隆駅から徒歩5分ほどだが、観光客がほとんど立ち入らないのもよい。

 扉のない開放的な店構えで、通りに面したカウンターではキャップにジャンパー姿の中高年のおじさんがひとり酒をすすっている。店内は奥行きがあり、赤ら顔のオヤジたちが昼間から酒盛りしている。夜勤明けの港湾労働者風、別段することがなく昼間から呑んでいる近所のおじさん風がいるかと思えば、若いカップルも混じっており、子供の声も聞こえる。

 エビの唐揚げや海鮮の炒め物といった「熱炒プレート」がメインだが、ほかにもおでんや臭豆腐、厚揚げや煮玉子など、ちょこちょこっとつまめるものが揃っている。この店の看板酒は保力達(パオリータ)という台湾版養命酒を米酒と呼ばれる台湾焼酎で割った酒(写真)。怪しげな赤茶色の液体はほんのり甘く、漢方の香りがする。これが港から吹いてくるぬるい潮風とよく合う。

 

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 そろそろ日が傾いてきた。基隆名物の小雨(写真)も降って来たが、廟口夜市が賑やかになる頃だ。すでに腹も心も満たされてはいるが、夜市を冷やかしてから台北に帰るとしよう。

 

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*本連載は月2回(第1週&第3週金曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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著者:光瀬憲子

1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『ビジネス指さし会話帳 台湾華語』『スピリチュアル紀行 台湾』他。auポータルサイトの朝日新聞ニュースEXでコラム「翻訳女」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/

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