日本一おいしい!沖縄の肉食グルメ旅

日本一おいしい!沖縄の肉食グルメ旅

#05

紳士は立ち食いがお好き~『立呑み処 串豚』

文・藤井誠二

 

那覇に立ち飲み店が急増中!

 那覇に立ち飲み文化が浸透しつつあるという。沖縄のタウン誌でも特集するほど那覇の繁華街を中心にすごい勢いで出店している。昼時から賑わっているスポットは牧志の公設市場を海南のほうに進んだ一帯で、県外から何店も軒を連ねている。午前11時からあいている店もあり、観光客はもちろん、地元の人々も昼酒をあおっていて、どの店もほとんど満席状態。カオス状態だった。

 このあたりは、おばあさんがさまざまな業態で店をだしてちいさな商いをしていた。高齢化で商売から引退するなどして、市場通りや平和通りのあちこちにそういった立ち飲みスタイルの飲み屋を出す店が増えてきたのだ。栄町も同様で市場の内部や、周囲のいわゆる「おばあスナック」が廃業して同様の店が増え始めている。

 たとえば栄町の交番通りにある『酒の宮里』は立ち飲みではないが、酒屋が出したカウンター5~6席――椅子はある――だけの、いわばカクウチ(角打ち)なのだ。カクウチは、酒屋の一角に立って飲むスペースをもうけ、売っている酒を、缶詰をつまみに飲むという主に西日本の文化だ。とはいえ、現在も残っているのは地方のちいさな街だけで、ほとんどその姿は見かけなくなった。『酒の宮里』は店に所狭しと置いてある焼酎等の一升瓶も販売してくれるから、かんぜんな酒屋である。

 若き主人・松田高徳さんの酒に関する知識は舌を巻くほどだし、レアな酒(日本酒から焼酎、ウイスキー、バーボンなんでもござれなのだ)もおどろくほど安価で飲める。店内は酒瓶で埋めつくされていて、主人の説明を受けながら飲み進めていくと、なんとなく知った気になっていた酒の知識や、自分の舌が数段階アップデートされて、ほんとうに勉強になりますぞ。

 で、つまみは何も置いていない。だから、缶詰を持ち込み歓迎なのだ。一度、ぼくが「日本一美味いサバ缶を食おう」と、サバ缶カクウチを企画し、沖縄の情報紙『ぴらつか暦』のはぎのかずまささんと、ラジオディレクター&カメラマンの深谷慎平さん、エフエム那覇の平良斗星さん、琉球朝日放送記者の上間貴大さん、そして本連載の仲間である普久原朝充君が集まって、ぼくが銚子の加工会社から取り寄せたサバ缶を二缶あけた。

 このサバ缶はサバ缶マニアの間でも評判がきわめて高く、ぼくはたまたま銚子に仕事で行ったときに出合った。たっぷりと脂ののった特大の鯖がまるごと一尾(半分にカットされて)はいっているのである。だから缶の高さは通常の三倍はある。平良さんはサバ缶が苦手だったそうだが、それを克服するほどの美味さ。『酒の宮里』の主人ももちろんいっしょに。我々はおそらく20数種類の古今東西の酒を激ウマのサバ缶をつまみに飲みまくったのである。こんな贅沢なカクウチがあっていいものか。

 で、話を話題になっている牧志の市場近辺の立ち飲みの店に戻す。ぼくは何軒かのぞいてみた。座席もあるが、大半の客は立ってビールを飲んでいる。アーケード商店街なのでストリートで飲んでいるかんじがして気持ちいい。雨が降り出してもだいじょうぶ。メニューはポテサラ等の一品ものから焼き鳥串、モツ串など、それほど多くはないが、はしご酒をするにはちょうどいい。

 どの店でも一皿料理と、モツ串系を何種類か頼んでみた。正直言って、あまりおいしいとはいえない。串の見た目もイマイチよくない。雑に串を打った印象が否めない。焼き方も焼き手の技が感じられない。いっしょにまわった普久原君はここ数年で急に舌が肥えたのだが、「あまり、おいしくありませんね。感動がないというか」とさらりと言ってのけた。

 うがった見方をすればロケーション勝負で、アジア風情が色濃い市場の中で明るいうちから飲むというという雰囲気はいいのだが、これといった逸品がないのが残念なのだった。

 

 

立ち飲みの名店『串豚』

 立ち飲みをおそらく那覇で黎明期に始め、いまや人気店の一つになっているのは泊にある『立呑み処 串豚』だろう。本連載トリオの仲村清司さんと普久原君のいつもの三人で「街歩き」取材を終えて、暑さでうだりそうになって、たまたま飛び込んだのが最初だ。時間は夕刻の4時か5時だったが、もう暖簾が出ていたからだ。

 ぼくと同年代の主人の喜屋武満さんによれば、オープンした当時は那覇に二軒ほど立ち飲みの店があったけれど、じきにつぶれてしまったのだという。

『串豚』は仲村さんの自宅から近すぎる距離にあるのだが、そのせいか仲村さんもなんとなく入ることがなかったらしい。暖簾を潜ると、立ち飲みじゃないか。へえ、めずらしい。そう思った。そして、頼んでみて、腰を抜かした。豚のホルモンを打った串がどれも絶品なのである。

 カシラ、ハツ、タン、シロ、ガツ、レバー、どれも鮮度がよく、丁寧に処理が施され、焼き加減も絶妙だ。牛中落ちやチチカブもある。チチカブは豚のおっぱいの別名だ。もっと細かく言うと、乳房とバラの間にある乳腺の部位である。シロは大腸と小腸、テッポウをバランスよく混ぜて一本の串に打っている。

 シロのニンニク炒めは、シロとタマネギとニラを味噌で炒めたもの上に生ニンニクが乗っている一皿料理なのだが、逸品である。これが350円。これだけでホッピーがおかわりできる。ガツニラ炒めもいい。ガツはボイルしたものをニンニクと酢醤油で食べる一皿もある。300~350円という値段もコスパがよすぎる。

「首肉」というメニューがある。豚の首まわりの脂身がたっぷりとついた部位をいうのだが、「とんとろ」(Pトロと命名されているところもある)は首肉の一部のことである。もともとは北海道が発祥の地らしい。とんとろは豚一頭から200グラム程度しかとれないので、希少部位なのである。

 

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『串豚』にて。左から、タン、ハツ、クビニク、シロ。

 

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乳房とバラの間にある乳腺の部位、チチカブ(おっぱい)。

 

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ガツニラ炒めは、味はもちろんコスパもよし。

 

 ところで、首肉はホルモンなのか。もちろん、内臓ではない。枝肉以外の部分をホルモンと業界では呼ぶのがふつうなのだが、首肉付近と枝肉と頭部の境ぐらいにある部位なので、ホルモン・生肉どちらともいえる。カシラは完全にカメコミ部分だが、つまりは切り方によってどちとも呼べるのだろう。

首肉はどこも脂が多く、とくにとんとろは大半が脂身であることが多いが、『串豚』は首の肉の脂身と生肉をほどよく合わせた串を供してくれる。ガツンとくる豚の脂の旨みが最高の焼き加減で味わえる。ほくはいつもホッピーを合わせることにしている。

 ちなみに沖縄では首肉は、アンダカシーの脂を取るための材料として使われていたのだという。串に打って焼いて喰うというのはそれほど一般的ではなかったらしい。それを使ってみないかと肉の卸し業者から提案もあり、メニューに加えた。

 

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豚の首肉の串焼き。脂の旨みが最高。

 

  主人の喜屋武さんは、オープンしたてのころは、内臓を持ってきてくれる仲買業者に欲しい部位をどう説明するか苦心したようだ。最初の頃、「腸」の部位をいく種類か頼むと、ガツや小腸、大腸、テッポウが一つのパックに一緒くたになって小売店に肉を卸す業者が持ってきた。沖縄では「腸」をオーダーするとそういうふうになるのだという。

 そういう話は主縄ではよく聞く。部位ごとにオーダーしても、いらない部位がくっついてきてしまったり、違う部位が届いたりした。もともと部位ごとにこまかく切り分けて串に打って焼いて喰うという食文化も沖縄にはなかったからとうぜんといえるだろう。沖縄では「腸」といえば、中身汁などに使う、脂を完全に落としきった、ボイルした胃袋と腸をひとまとめにしたものを指す。

 私の知り合いの那覇のホルモン焼き店は卸し業者にこまかく指示するのがめんどうになり、部位によってはインターネットであらかじめ切りわけられた商品を県外から買っていたという。

 

 

豚の喉肉の塊が煮込まれた絶品おでん

 『串豚』では酒はビールとホッピー類を頼む客が多いが、その時期に合わせてレアを日本酒を一種類だけ主人が用意していて、ガラスのコップのなみなみとついでくれて、下の小皿がこぼれた酒を受け止める。カウンターに両手をついて、グラスにくちを寄せてすするように飲む。これがぼく流の「スタイル」。

 冬場にはおでんがある。じゃがいも、ちくわぶ、だいこんなどの定番に加え、刮目すべきは、豚の喉肉が塊のまま煮込まれていることだ。通常、串に打つときはこれらを切り分けるのだが、それを丸ごとおでんにするアイディアはすごい。これがまた、すこぶる美味いのである。

 

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『串豚』のおでん。豚の喉肉が塊のまま煮込まれている。

 

 おでんを煮ている上には木製の蓋が置かれ、にくいことにその上にはワンカップの日本酒が並べられている。そして人肌程度にあたたまったワンカップを半分ほど飲むと、そこにおでんの出汁を注いでもらう。これは東京・吉祥寺の某有名おでん屋で経験したことがあるが、あまりの美味さにワンカップを何度追加したかわからない。串豚でそれをやると、地元の客が「何をしてるんですか」と不思議そうな顔で聞いてくる。「こうすると美味いですよ」と言うと、皆さん真似をする。そして虜になる。

 主人のいるカウンター前に陣取り、一人で忙しく立ち回る主人とときどき言葉を交わすのもよし、何人かでいって、すこし離れたカウンターに並び、バカ話に花を咲かせるのもよし。見知らぬ客同士は、肩を寄せ合って飲むが、酔った勢いで誰かに絡んだり、立ち入った話をふったりしない。さっと飲んでさっと帰る。これこそ、立ち飲み紳士の流儀である。が、ぼくたちはつい長居をしてしまう。串が美味すぎるから、どんどん注文してしまうからだ。ああ、紳士にはなれんなあ。

 そういえば、たまたまぼくが連れていった沖縄出身の女性だけかもしれないが、立ち飲みに慣れていないようで、数十分もすると腰からくずれるように姿勢がくずれだし、立っているのが辛くなってしまい、カウンターにしがみつくようなかっこうになってしまった。そういうときは紳士は椅子のある店に移動すべし。

 

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『串豚』の主人、喜屋武さん。

 

 

*本連載は、仲村清司、藤井誠二、普久原朝充の3人が交代で執筆します。記事は月2回(第1週&第3週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

*本連載の前シリーズ『爆笑鼎談 沖縄ホルモン迷走紀行』のバックナンバーは、 双葉社WEBマガジン『カラフル』でお読みいただけます。

 

*三人の共著による、新刊『沖縄オトナの社会見学 R18』(亜紀書房)が好評発売中です。ぜひ、そちらもお読みください。

 

 

 

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仲村清司(なかむら きよし)

作家、沖縄大学客員教授。1958年、大阪市生まれのウチナーンチュ二世。1996年、那覇市に移住。著書に『本音の沖縄問題』『本音で語る沖縄史』『島猫と歩く那覇スージぐゎー』『沖縄学』『ほんとうは怖い沖縄』『沖縄うまいもん図鑑』、共著に『これが沖縄の生きる道』『沖縄のハ・テ・ナ!?』など多数。現在「沖縄の昭和食」について調査中。

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藤井誠二(ふじい せいじ)

ノンフィクションライター。1965年、愛知県生まれ。8年ほど前から沖縄と東京の往復生活を送っている。『人を殺してみたかった』『体罰はなぜなくならないのか』『アフター・ザ・クライム』など著書や対談本多数。「漫画アクション」連載のホルモン食べ歩きコラムは『三ツ星人生ホルモン』『一生に一度は喰いたいホルモン』の2冊にまとめた。沖縄の壊滅しつつある売買春街の戦後史と内実を描いたノンフィクション作品『沖縄アンダーグラウンド』を2016年内に刊行予定。

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普久原朝充(ふくはら ときみつ)

建築士。1979年、沖縄県那覇市生まれ。アトリエNOA、クロトンなどの県内の設計事務所を転々としつつ、設計・監理などの実務に従事している。街歩き、読書、写真などの趣味の延長で、戦後の沖縄の都市の変遷などを調べている。最近、仲村と藤井との付き合いの中で沖縄の伝統的な豚食文化に疑問を持ち、あらためて沖縄の食文化を学び直している。

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