京都で町家旅館はじめました

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#05

寸庭をめぐる冒険

文・山田静

 

宿に庭がやって来た!

 内装もまだまだ途中の4月下旬、現場を見に来た工務店の社長に言われた。

「明日、庭が来ますんでよろしくお願いします」

 またよろしくされた。

 そしてまた意味がわからない。「庭が来る」とはどういうことだろう? 庭は土地の上に作るものであって、来るもんじゃないだろう。

 

 そして翌日。

 庭が来た。

 

 シャベル片手に庭師さんたちがどやどやとやってきたかと思うと、あれよあれよというまにロビーにはブルーシートが敷かれ、運搬用の丸太や滑車のようなものが設置され、庭、いや庭のパーツが次々やってきた。

 石灯籠。

 鉄の灯篭。

 つくばい。

 踏み石。

 植木の数々。

 え、こんな狭いとこにこんなにいっぱい?

 自慢じゃないが当館の庭は狭い。ロビーに面したところが畳2畳ぶん、その奥、1号室「桜」に面したところは1畳ないくらいである。そこに心配になるほど盛りだくさんなパーツ(しかも、どれもでかい)がどかどかと奥に運び込まれていく。が、私の不安げな目をよそに職人さんたちは迷いのない整然とした動きで着々と作業を進めていく。

 

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庭がやってくる。このスペースに全部入るのか心配していたが……   

 

 ここで町家に多い構造を簡単にご紹介しよう(私も最近知ったのだけれども)。

 よく「ウナギの寝床」と呼ばれる町家の敷地。入り口は狭く、奥に長い。入り口から建物の奥まで客を迎える「店の間」や「座敷」に添って「通り庭」と呼ばれる土間が続き、いちばん奥には天井が吹き抜けになった炊事場がある(当館はここをロビーにしている)。そのさらに奥に配置されるのが小さな庭。坪庭や座敷庭と呼ばれ、観賞するだけでなく、通り庭にある天窓とあわせて外光を取り入れたり、樹木を家の奥に配置し、入り口に打ち水をすることで外気温との差を生じさせ通り庭に風を通すという機能性も持たせている。

 昔の人は賢く偉かったのだなあ。

 

 ……と、感心しているうちにもどかどかと物は運ばれてくる。その中心にどっかりと座り、

「そっちやない」

「もうちょっと右や」

 などと鋭く指示を飛ばしている怖そうなおじいちゃんがいた。親方らしい。

「本日はありがとうございます……」

 おそるおそる近寄ってお茶を出してみると、

「ああ、よろしくお願いします。ええ建物ですな」

 意外にも(失礼)かわいい笑顔で気さくに応対下さったのは、聴風館寸庭舎の小野館長。ワシントンD.C.のナショナル・ジオグラフィック協会本部で日本庭園を造るなど、国内外で活躍されている作庭家、造園師だ。己の不勉強を恥じつつ、こんなでっかい燈籠を置いてかれてもどうしたらいいのか分からない。必要なことは今うかがっておかねば。

 水やりのタイミング、庭木の手入れ、石の扱いなどこまごましたことを教えていただくうちに、だんだんと庭そのものに興味が出てきた。

「庭をデザインするコツ、ってあるんですか?」

「大きな庭には小さなもの、小さな庭には大きなものを置くことやね。それで空間が生きる」

 おお、なるほど。

 それでこんなに大きなパーツが……。眺めているうちに燈籠もつくばいもバランスよく収まり、小さな庭が華やかになってきた。燈籠は古民家から引き取った150年くらい前のものだそうで、つくばいも見るからに年季が入っている。こういうのは、引き継ぐ人がいなくなった京町家が取り壊されるときに、庭師や建具屋に声がかかって引き取ったり、あるいはオークションで買いおきしておくのだという。

「あんまり引き取りすぎると置いとくとこがなくて、狭くなって家族に怒られるんですよ」

 最近はわざわざ庭をつくる家も減ったので、在庫を持ちすぎないようにしている、と館長は笑う。そんな話をしながらも、だんだんとアドバイスが高度になってきた。

「つくばいにはそうやね、花もいいけれど、水草もよろしいかな」

「燈籠には大文字のときに火をたくとよろしい。そのときは掛け軸も変えるといいです」

 つくばいに花どころか、燈籠に火をつけるなんて考えたこともない。また考えたこともないことが出てきた。

 そうこうしているうちにつくばいには小手毬が美しく生けられ、植木の配置も決まってついに完成。

 

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次々と大物が配置され、庭木が植えられていく。

 

 宿に庭がやってきた!

「苔も適当につけときましたから、水やってください」

 苔は適当につけられるものなのか。

 話の全部が新鮮である。

 

「ああ、燈籠。サラダ油でも火がたけますけど、煙がすごいですよ」

 翌日現れた設計士さんから聞いてまた途方にくれた。

「そういえばあの方、有名な武道家なんですよ」

 なんと、道場も開かれている古武道や武術の名手でおられた。失礼なことをうかがわなくてよかった……。

 

 その後、つくばいどころか生まれて初めて剣山に花を生けてみたわけだが(初回は若干の流血あり)、その前段階としてつくばいを洗わないといけない。

「え、どうすればいいの!?」

 これは考えるまでもなく、バルブから景気よく水を出して手を入れてじゃぶじゃぶ洗うのであった(初回は全身びしょびしょになった)。これまた、生まれて初めての体験なのであった。

 

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そして2日がかりで庭がやってきた!こちらはロビー側。

 

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こちらは1号室「桜」に面した側。

 

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石の設置もこのとき初めて見た。写真はロビーの小上がりの踏み石を置く作業。年季の入った道具がかっこいい。

 

 

骨董品のオークション会場を見学

 さてその1週間ほどあと。小野館長が宿に現れた。

「今日、オークションの日ですから。行きませんか」

 庭の話をうかがっていたときに、近所にあるオークションハウス「古裂会」の話が出た。2カ月に1度程度のペースでオークションが開かれ、世界からバイヤーが集まり、館長も懇意にされているという。

 え、そんなとこに素人が行っていいんですか。

「大丈夫。見るだけなら誰でも入れます」

 お言葉に甘えてお供することになった。会場に入ると、ビルの何階にもわたって陶器、布、仏像、刀剣などなど階ごとに骨董が並び壮観だ。商談もあちこちで行われているのだが、眺めているだけの人も多い。掛け軸コーナーには、3000円程度のものから値段が書かれていないものまでずらりと並び、季節やテーマごとに陳列されている。折々の花や行事を描いたものも多い。

「こういうとこで、掛け軸を見ておくといいです。状態のいいものを買っておいて、季節で掛け替えるといい」

 なんと。素人丸出しの私を見て、勉強の機会を与えてくださったのだ。坪庭の演出をどうすればいいのか聞いたのを覚えていて、誘ってくださったらしい。

 ありがたい……と、じーんとする私を置いて、館長はさっさと燈籠や自宅の簾の値踏みにかかっている。こうしてまたストックが増えていくのかもしれない。

 

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「古裂会」ビル上階には、館長が手がけた庭がある。市街を景色の一部として取り入れた美しい庭は、手前の古木から奥に若木を配置することで

老人・若者・子どもの三世代を表現しているという。「古裂会」の詳細はこちら→http://www.kogire-kai.co.jp/

 

 そして3カ月がたった今。

 日当たりが悪くてすぐ弱っちゃうんじゃないかと心配していた庭の苔や草木は、思いのほか雨も降り注ぎ日当たりもよく、そしてスタッフみんなで熱心に水をあげているせいか青々として元気いっぱいだ。というか育ちすぎて熱帯雨林みたいになってきた。

「この剪定をいかにすべきか」

 また悩ましい問題がひとつ増えたのだった。

 

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宿のいちばん新しい仲間は庭にいる。館長が「宿にはカエルがいないと」と持ってきてくださった。「お客様が無事カエル」の願いを込めて。

 

 

*町家旅館「京町家 楽遊 堀川五条」の最新情報はこちら→https://www.facebook.com/luck.you.kyoto/

 

*本連載は月2回(第1週&第3週水曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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山田 静(やまだ しずか)

女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』『成功する海外ボランティア』など企画・編著書多数。2016年6月開業の京都の町家旅館京町家 楽遊 堀川五条の運営も担当。

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