台湾の人情食堂

台湾の人情食堂

#05

台北朝散歩、廟めぐり、朝ごはん

文・光瀬憲子

 

 

「朝市に野菜を買いに行かないか?」

 というのが、台湾人である元夫の口説き文句だった。

 まだ台湾に暮らし始めたばかりの頃で、朝市がどんなものなのか知らず、戸惑った。台湾には至るところに伝統市場や菜市場と呼ばれる朝市がある。早朝から午前10時くらいまでがもっとも賑わいを見せ、野菜や精肉の売り場から、ちょっとした朝ごはんを食べる屋台までが1カ所に集まっていて、近所の人たちが朝の散歩がてらにその日の食材を買っていく。

 元夫は「今日うちに泊まっていきなよ」という意味で朝市へ行こうと言ったのだ。そして私たちは翌朝、朝市へ出向いてニラやらホウレンソウといった食材を買い込み、彼は野菜の卵とじみたいな朝ごはんを作ってくれた。私はといえば、初めて見る朝市の活気にずいぶん驚いたものである。

 

朝の廟でカジュアルに願かけ

 

 台北の朝は早い。人々は仕事へ行く前に朝市で朝食をとったりするので、人気の朝食店は7時には人だかりができる。台北市内のホテルに泊まったら、ちょっと早起きして近所の朝市を覗いてみよう。まだバイクや自動車が煙を吐き出す前の空気を味わえる。

 天気がよければ断然おすすめなのは、拙著『台湾一周!安旨食堂の旅』でも取材した雙連市場。MRT淡水線の雙連駅から民權西路駅まで続く細長い公園沿いには色とりどりのパラソルが立ち並び、野菜、果物などから鍋などのキッチン用品、下着までが売られている。

 出店の間には文昌宮(写真)というなかなか立派な廟がある。台湾の廟は誰でも気軽に入ることができる。肉まんをかじりながらぶらりと立ち寄っても誰も文句など言わない。朝市で買った果物をぶら下げながら家内安全を祈願するお母さんは、なんだか微笑ましい。朝市の果物も、煮物も、立派なお供え物になる。

 

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台北駅から徒歩5分の朝市

 雨天の日が多い台北でも安心なのが城中市場。こちらは台北駅に近い武昌街にあり、銀行や商業ビルが立ちならぶ通りに突然あらわれる。ここにもやっぱり台灣省城隍廟というカラフルな廟がある。台湾では人々が集まるところに廟ができ、廟に人々が集まるとそこに市が立つのだ。そしてもちろん、市場のまわりには食べ物屋が集まる。

 

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 通勤ラッシュ前の台北駅の裏を散策してみよう。ちょっと歩くと広々とした二二八和平公園がある。都会の真中なのに緑が多く、池まである。のんびりと犬の散歩をする人、太極拳の練習をするグループ、健康歩道なる小石の道で足つぼを刺激する人……自分もそんな人たちに混じって、都心にいながら喧騒から離れた時間を過ごすことができる。

 二二八和平公園のすぐそば、懷寧街と衡陽路の交差点付近に『台北永和豆漿大王』という豆乳の朝ごはん屋さんがある。入り口は小さく、店内にもテーブルが5つ並べられているだけだが、常連なのか、お年寄りや学校のカバンを下げた学生が静かに豆漿(豆乳)をすすっている。蛋餅(卵巻き)と燒餅夾油條(おやきの油條挟み)があれば、それで午前中の栄養は十分だ。

 

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龍山寺周辺も早朝は別の顔

 台北駅からMRT板南線で2駅の龍山寺。下町、艋舺の朝も早い。言わずと知れた名廟、龍山寺は朝6時から門を開いている。早朝に出かければ、まだその日の観光客が足を踏み入れていない、静かなたたずまい。

 龍山寺前の艋舺公園(MRT龍山寺駅の真上)から西へ伸びる三水街はまるで細長いアーケード通りのような軒下市場。かつて大都会艋舺にあこがれて台湾各地から上京した人々、そしてその次世代が朝市を守り続けている。それぞれが「嘉義」「新竹」など自分の出身地の看板を掲げつつ、この都会で地に足をつけて生きているのだ。

 市場を抜けた廣州街は、古いレンガ建築物が連なる静かな通り。ここに朝粥の老舗、『周記肉粥店』がある。ほんの少し肉や野菜が入った茶色い粥には薄い塩味がついていて、米はサラサラだ。サイドメニューのおかずはモチモチした食感の香腸(腸詰め)やジューシーな紅燒肉(豚バラの唐揚げ)など。

 

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 もうひとつ、艋舺でお気に入りの粥店がある。『老艋舺鹹粥店』だ。こちらは白いサラッとした粥の上にピンク色の紅燒肉が数枚乗っている。サイドメニューには黑白切と呼ばれる新鮮な豚モツのスライス。でもイチオシはゴボウの天婦羅(写真上)。ゴツゴツとした大きなゴボウは歯ごたえが小気味よい。

 

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 『老艋舺鹹粥店』のすぐそばには、青山宮という古い廟がある。入り口は小さいが、奥行きも高さもある。とても丁寧に手入れされていることがうかがえる、古いが風格のある廟だ。朝粥ついでに青山宮を訪れると、シャンと背筋が伸びて心を落ち着けることができる。艋舺の年の一度のお祭りのときは、この青山廟から神輿が出る。

北投の温泉街、早朝散歩

 今度はMRTで少し遠出をしてみる。有名な温泉地、北投である。でも、北投に温泉だけ入りに行くなんてもったいない。北投の朝市を歩かなければ。市街地の市場とは比較にならないくらい、新鮮な野菜と、美味しい朝ごはんと、元気な人たちであふれている。 MRT淡水線の北投駅から徒歩5分のところにある北投市場は1階が野菜や精肉売り場(写真)、そして2階が朝ごはん屋さんになっており、この建物を取り巻くようにして、あらゆる屋台や露店、朝食店などがひしめいている。

 地面にビニールシートを引いて青菜を売るおばあちゃんを横目に、買い物袋をいくつもぶら下げた原付きバイクが通過する。週末の午前8時、北投中の人がここへ集まってきたのでは? というほど路地裏はギュウギュウ詰めだ。

 

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 北投市場には美味しい魯肉飯を出すお店や、肉のすり身がたっぷり入ったスープを出すお店もたくさんあるが、私が目を留めたのはちょっとオシャレなサンドイッチ店『巧味漢堡店』。台湾には独特のサンドイッチ文化が存在する。コッペパンを思わせる丸いフワフワのパンに、豚ひき肉の平たいハンバーグと黄身が半分潰れた目玉焼き、そして甘い台湾マヨネーズ。好みで肉鬆(肉でんぶ)をプラスする(写真)。伝統的な朝ごはんの蛋餅にはハムとチーズが一緒に巻かれていて「中洋折衷」な感じがおもしろい。合せるのはもちろん豆乳だ。

 

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 台北からちょっと離れた温泉町は緑豊かで散歩コースとしても楽しい。おなかがいっぱいになったら、北投市場から新北投駅に向かってひと駅分を歩いてみる。熱海を歩いているのかと錯覚するような坂道や古い家屋。そして硫黄の香りが漂う湯けむりの公園。

 

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 朝散歩、廟めぐり、朝ごはん。台北で早起きをすると、得することがいっぱいだ。今夜は夜市見物を少し早めに切り上げて、明日の早起きにそなえてみては?

 

 

*本連載は月2回(第1週&第3週金曜日)配信予定です。次回は2月19日配信予定です。お楽しみに!

 

 

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著者:光瀬憲子

1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『ビジネス指さし会話帳 台湾華語』『スピリチュアル紀行 台湾』他。auポータルサイトの朝日新聞ニュースEXでコラム「翻訳女」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/

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