旅とメイハネと音楽と

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#05

イスタンブルのエーゲ海料理メイハネ『ジバアリカプ』

文と写真・サラーム海上

 

メイ=お酒、ハネ=家で、メイハネ=居酒屋!

 カッパドキアでの4泊の取材を終えた僕は、友人夫婦ハッカンとアイリン、カナダのバンド、エスメリンのメンバーたちとともにイスタンブルへと戻った。
「イスタンブルに着いたら、打ち上げを兼ねてみんなでメイハネへ行こう。ピデやラフマージュン(ともに粉物生地のピザ類)ばかりで飽きたから」とハッカン。
 滞在していたカッパドキアの町ウチヒサルにはレストランが少なかった。しかも、午後から真夜中までは「Cappadox」のフェス会場に入り浸っていたので、美味しい昼飯と夕飯にはほとんどありつけなかった。内陸の高原地帯であるカッパドキアでは小麦粉の生地を使ったピデやラフマージュンが名物とされるが、それも毎日続くのは辛い。しかも、数少ないレストランが混んでいたら、ドネルケバブやキョフテ(肉団子)のサンドイッチをテイクアウトして済ますしかなかったのだ。
 イスタンブルに戻った翌日の夕方、ハッカンとアイリン、エスメリンの四人とともにアジア側カドゥキョイにあるエーゲ海料理専門のメイハネ『Cibalikapi(ジバアリカプ)』へ向かった。

 僕の中東料理レシピ本『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』の題名や本連載のタイトルにもなっている「メイハネ」とは、トルコ語で「居酒屋」を指す。「メイ」は「お酒」、「ハネ」は「家」を意味する。
 メイハネは基本的にオヤジやオバチャンの社交場であり、それだけに日本の居酒屋同様の様々なエチケットがあり、 日本の居酒屋の壁の張り紙にある格言にも似た名言が、常連の酔いどれたちの間で囁かれる。曰く、「ラク(地酒)をがぶ飲みしてはいけない」、「前菜一口につきラク一口」、「メイハネ通いは週に三度まで」などである。僕はこうしたメイハネに魅了され、何度も何度もメイハネに足を運んできた(拙著『おいしい中東 オリエントグルメ旅』を参照)。
『ジバアリカプ』を訪ねるのは今回が三度目だ。タコや魚などエーゲ海の幸を使った料理が多く、半野外テラス席は平日でも満員となる。

 昨年訪れた際には、オーナーシェフが書いた英語版のレシピ本『Cibalikapi: From A Traditional Istanbul Tavern』をいただいた。この本にはお店で出している約140品目の料理レシピがオールカラー&英語で掲載されているだけでなく、お店で取引しているオリーブオイルやタヒーニなどの食材生産者や、八百屋や魚屋などへのこだわりのインタビューも掲載されている。さらにお店でBGMとして流しているギリシャのいにしえの歌謡曲「レンベーティカ」のコンピ盤CDまでが封入され、一冊でジバアリカプの世界がまるごと堪能出来るのだ。

 

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カドゥキョイにあるエーゲ海料理のメイハネ『ジバアリカプ』モダ店。お店のホームページはこちら→http://cibalikapibalikcisi.com/

 

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『ジバアリカプ』のテラス席。早い時間なので空いているが、日が暮れると満席に


 5月下旬、夕方6時のイスタンブルはまだまだ日が沈まない。『ジバアリカプ』に着くと、さすがに僕達がその日一番早いお客さんだった。しめた、作りたてのメゼをたっぷり楽しめるぞ!
 日本の居酒屋と異なり、メイハネには書かれたメニューが存在しない。壁の張り紙もない。ウェイターが今日のおすすめメゼを車輪付きのワゴンや大きなお盆にのせて、客席まで運び、お客はそれらを目で見て確かめ、ウェイターと相談しながら注文を決めるのだ。
 ラクで乾杯を終えると、若いウェイターがその日のメゼ全種類をワゴンにのせて運んできた。なんと21種類。その中から各々が好きなお皿をテーブルに取る。するとウェイターの手元には10皿が残った。7人もいると11皿も頼めるとは嬉しい! それらが全員に行き渡るようにテーブルの上でお皿を受け渡し、自分のお皿に取り分ける。

 

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ウェイターが運んでくるメゼから、好きなものを取るのがメイハネ流

 

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選んだメゼを自分のお皿に取り分ける

 

 

銘店『ジバアリカプ』の当日のメゼを全種類紹介!

 いつもなら自分のお皿の上で盛り合わせたメゼの写真を撮影するだけで満足していたが、一皿に10種類も料理が並んでしまうと、後で写真を見直したところで、個々の料理がどんな料理だったのかよくわからなくなる。そこでウェイターに頼んで、その日のメゼを全て一枚ずつ写真撮影させてもらった。ここで銘店『ジバアリカプ』のメゼを写真でたっぷり堪能して欲しい。
 まず鱸(スズキ)のマスタードマリネ。エーゲ海や地中海では鱸はちょっとした高級魚として人気が高い。
続いて根セロリのマヨネーズ和え。近年、日本の八百屋でも見かけるようになった根セロリはそのままでは渋みがあり食べにくいが、すりおろしてマリネにすれば食べやすくなる。

 

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鱸のマスタードマリネ

 

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根セロリのマヨネーズ和え

 

 鱸のバター炒めのドライトマトづめ。これは『ジバアリカプ』のオリジナル料理。お湯でもどしたドライトマトに、バターで炒めてカレー粉で味を付けた鱸の身をほぐして、ディルと和えてからつめたもの。これもラクによく合うんだ。
4つ目はスモークした鯖(サバ)。レモン汁とオリーブオイルでマリネしている。

 

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鱸のバター炒めのドライトマトづめ。こちらのレシピは末尾↓で紹介

 

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鯖のスモークのマリネ

 

 ラップで包んだ饅頭に似たものは珍しいアルメニア料理のトピック。玉ねぎとナッツ類を砂糖やシナモンともに甘くキャラメル状になるまで煮て、マッシュポテトとマッシュしたひよこ豆、ターヒン(タヒーニ、練りごま)をこねた生地で包んだ団子。一つで猛烈にお腹がふくれるので、今回は頼まなかった。

 

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アルメニア料理のトピック

 

 海藻に似た野菜はトルコ語では「カヤ・コルー」と呼ばれる、日本では長寿の薬としても知られる多肉植物、アッケシソウの一種。海岸に育つため塩を含んでいて、茹でてから酢漬けにする。エーゲ海や地中海の特産品だ。
続いて、柔らかくなるまで煮たタコのサラダ。もどしたドライトマトとともにオリーブオイルでマリネしてある。

 

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アッケシソウの酢漬け。アッケシソウは漢字だと厚岸草、別名シーアスパラガスとも

 

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タコのサラダ。タコは柔らかく煮てある

 

 8品目は黒目豆のサラダ。やはり柔らかく茹でてからレモン汁やオリーブオイルでマリネする。
 9品目は緑豆と胡桃のサラダ。素朴な煮豆にざくろの実とざくろビネガーで濃厚な味を付けている。
おかひじきのサラダ。日本でも初夏が旬のおかひじきは塩茹でして、レモン汁、すりおろしたにんにく、オリーブオイルでマリネ。
 焼きなすのサラダには様々なバリエーションがある。こちらは皮をむいた焼きなすをすりつぶすことなく、そのままの状態で酢、すりおろしたにんにく、オリーブオイルでマリネしている。
 

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サラダの種類もとても豊富。こちらは黒目豆のサラダ

 

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緑豆と胡桃のサラダ

 

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おかひじきのサラダ

 

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焼きなすのサラダ

 

 12品目は鱸をフライにして月桂樹の葉とオリーブオイルでマリネ。
 続いて焼きなすの上に水切りヨーグルトをかけたもの。上の赤い野菜は茹でたビーツだ。
 緑オリーブの種を抜き、胡桃の実をつめて、オリーブオイルとレモン汁でマリネ。作るのは簡単だが、エーゲ海らしい味わいの一品だ。

 

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鱸のフライのマリネ

 

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焼きなすの水切りヨーグルトかけ

 

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緑オリーブと胡桃のマリネ

 

 ホモスのようなペースト状のものは、乾燥空豆を柔らかく水煮して、マッシュしたファヴァ。刻んだディルを混ぜ込んである。
 続いて真っ赤な野菜はビーツのピクルス。ビーツはトルコだけでなく中東全域で広く用いられる野菜だ。

 

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空豆をマッシュしたファヴァ

 

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ビーツのピクルス

 

 赤いペーストはジョージア料理のアジューカ。赤パプリカのペースト「ビベール・サルチャス」と胡桃、にんにくをすりつぶし、コリアンダー、クミン、フェヌグリーク、塩で味付けたもの。パンに塗って食べると止められなくなる。
 そして、黄緑色のペーストは白チーズと胡桃とにんにく、ネギをすりつぶした「クレタ島のペースト」。濃厚な白チーズと胡桃の組み合わせはお酒の肴に最高だ。

 

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ジョージア料理のアジューカ

 

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白チーズと胡桃を組み合わせたクレタ島のペースト

 

 その他、わざわざ撮影はしなかったが、ジューシーなメロンや白チーズも冷たいメゼの一種である。

 

 

メゼのあとはメインディッシュ2品にデザート

 メゼを堪能した後は温かいメゼ、またはメインディッシュが続く。7人のうち2人がベジタリアンだったので、彼らのためにきのこのギュヴェッチを頼んだ。ギュヴェッチとは素焼きの土鍋に素材をのせてオーブンで焼いたグラタン料理のことであり、同時にその土鍋自体の名前でもある。僕は海老や魚にトマトやチーズをのせたギュヴェッチが大好物だが、ベジタリアン用のきのこのギュヴェッチは今回初めて知った。
 湯気がもうもうと立つギュヴェッチ皿の上にはブラウンマッシュルームとフクロタケに似た丸いきのこがたっぷり。味付けはたっぷりのバターと少量のトマトペーストだ。熱々のものにフーフーと息を吹きかけて冷ましながら食べると、これが美味い! きのこの出汁がたっぷり出ていて、バターとよく合う。日本の山間部で食べる野生のきのこと同じ味がする。こうしたきのこは旬の季節に手に入るだけ。その時期を逃すと次に食べられるのは1年後だ。
 もう一つのメインディッシュは小さなひめじのフライを頼んだ。レモンをしぼったルッコラの葉とともにいただく。

 

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きのこのギュヴェッチは、ベジタリアンに対応

 

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ひめじのフライ

 

 ラクが2瓶空き、食後のデザートにはオーブンで焼いたヘルワ(練りごまのお菓子)にたっぷりの砕いたピスタチオとアイスクリームをのせたものを頼んだ。ヘルワは魚料理店の定番デザートだが、近年では熱々のヘルワに冷たいアイスクリームをのせるのが流行している。

 

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デザートには、ヘルワのアイスクリームのせ

 

 さて、午後9時をまわり、会話がはずみ、お腹もいっぱいになったので、そろそろお暇しよう。周りを見ると、いつの間にかお店は満席だ。勘定をテーブルで済ませ、立ち上がると、後ろのテーブルに白髪の髪を長く伸ばした反体制的な風貌の60代のオヤジが仲間たちと座っていた。はて、このオヤジどこかで見たような……。そうだ、前回も前々回も僕の後ろのテーブルに座っていたのだ。
「メイハネ通いは週に三度まで」。最初に記したメイハネ格言の一つだが、少なくともオヤジはこの格言を守っていないはずだ!

 

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午後9時、我々のお腹もいっぱい。見回すと店も満席

 

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毎回見かけるオヤジさん。「メイハネ通いは週に三度まで」のはずだが……

 

 

鱸のバター炒めドライトマトづめを作ろう!

 さて今回は『ジバアリカプ』のオリジナル料理、鱸(スズキ)のバター炒めドライトマトづめを作ろう! 東日本では鱸が手に入りにくいので、カジキマグロや鰤(ブリ)を使っても美味しい。

 

■鱸のバター炒めドライトマトづめ
【材料:4人分】
ドライトマト:12枚
ワインビネガー:大さじ1
鱸(スズキ)、またはカジキマグロや鰤(ブリ):切り身3枚
ディル:3本(みじん切り)
万能ねぎ:2本(みじん切り)
バター:大さじ1
カレー粉:小さじ1/2
塩:少々
胡椒:少々
爪楊枝12本
飾り用ディル:1枝:みじん切り
ざくろビネガー:大さじ2
【作り方】
1.鍋に湯を沸かし(分量外)、沸騰したら火を止めて、ワインビネガーを注ぎ、ドライトマトを10分浸した後、ザルにあげ、自然乾燥させる。
2.フライパンにバターを入れ、火にかけ、バターが溶けたら、鱸の切り身を入れ、フォークなどで身を崩しながら炒め、軽く火が通ったら、ディル、万能ねぎを加え、カレー粉、塩、胡椒で味付けし、火を止め、室温に冷ます。魚の皮や骨は捨てる。
3.1のドライトマトに2をつめて、爪楊枝で止める。
4.お皿に並べ、飾り用のディルを散らし、ざくろビネガーをふりかけて出来上がり。

 

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鱸のバター炒めドライトマトづめ。見た目も華やかでパーティーにもぴったり

 

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『ジバアリカプ』の英語版レシピ本。店で流れるBGMのCDまでついている

 

 

*7月7日から8月31日まで、東京・渋谷の『Cafe BOHEMIA』にて「世界を”食”で旅する。美しい料理と写真展 ~Summer Trip to Middle East~ Photo by サラーム海上 / 櫻井めぐみ」が開催中です。中東の旅と料理の写真展示のほか、開催期間限定でお店のメニューに中東料理「ホモス」「ビーツとミントのペースト」「ピヤズ(白いんげん豆と玉ねぎのサラダ)」「ヤズ・サラタス(西瓜とミントと白チーズのデザートサラダ)」も登場。イベント詳細は『Cafe BOHEMIA』のフェイスブックをご覧ください→https://www.facebook.com/bohemia.shibuya/

 

*著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。次回もお楽しみに! 〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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