ブーツの国の街角で

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#05

番外編:イタリア人的ニッポンのお正月

文と写真・田島麻美

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 クリスマス前の12月23日から1月6日の間は、イタリアの冬のヴァカンスシーズン。長い休暇が取りやすい期間、この機を狙って遠い国を旅してみようと目論む人も多い。今回の私の正月の一時帰国にも、二人のイタリア人が同伴した。一人は武道オタクの相棒、もう一人はおっちょこちょいで感激屋の親友(♀)。さらに同行はしなかったものの、年末になっていきなり日本行きのチケットを衝動買いした友人一家(子どもを含め総勢8名の二家族)まで同時期に日本へやってきた。初めての人もそうでない人もいるが、ともかくてんやわんやの騒ぎとなった彼らのニッポン滞在記をご紹介しよう。


 

いざ、京都へ!

 「日本でどこに行きたい?」と聞くと、ほぼ99%のイタリア人は「キョート!」と答える。日本には過去に何度か来ている相棒も親友も、京都へは何度でも訪れたいという。初めて訪日する友人一家はなおさらで、「28日に東京に着くから29か30には京都へ行こうと思うんだけどどうかしら?」とお気軽に尋ねてきた。とんでもない!日本の師走の大移動日ではないか!しかも8名で「シンカンセンはみんな一緒に座りたい」という。よくよく聞くと、12月23日の段階で東京も京都もまだ宿を取っていない、十日間の日程だけど金沢と広島もいきたいわぁ〜、どこか安くていい旅館を知ってたら教えて……。
 まったく呑気にもほどがある。小さな子どもを4人も連れて、年末年始の大混乱のまっただ中へ飛び込もうとしていることを友人一家は全く知らなかったのだ。日本の年末年始の大移動と初詣の神社仏閣の状況をコンコンと説き、できる限りの情報を掻き集めて渡した後は、彼らの高度なサバイバル能力に委ねることにした。
 どうなることかと心配でいっぱいの頭を抱え、私は相棒と親友とともに一足先に京都へ向かった。時間節約のため「駅弁でお昼にしよう」と言うと、二人は大喜びで賛成した。柿の葉寿司と人気の駅弁が一度に楽しめる『よくばり弁当』を嬉しそうにほおばった後、京都まで爆睡。二人は既に「正しい新幹線の乗り方」をマスターしていた。

 

 

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小さな箱にたくさんの味が詰まった駅弁はイタリア人にも大人気。蓋を開けるや否や「マンマミーア!」と歓声が響き渡った。

 

 

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先斗町そぞろ歩き。石造りの重厚な建物を見慣れているローマ人の二人には、繊細な木造建築がことのほか美しく見えるようだ。
 

 

 

町家旅館初体験

 

 今回の京都の宿は、『タビリスタ』でもおなじみの「楽遊」に予約していた。駅からタクシーで乗り付けると、古い友人でもある女将の山田さんがにこやかに出迎えてくれた。京都へはかなり足を運んだと自負している私だが、町家旅館に泊まるのは初めてである。ウナギの寝床のような独特の細長い構造、開放感のある高い天井、さらに奥には畳とパソコンブースを備えたコミュニティスペースがあり、我々が到着した時もちゃんちゃんこ姿の外国人のおっさんが一人で新聞を広げてくつろいでいた。
 和風モダンなインテリアはもちろん、コンパクトに必要なものが全てそろっている快適な空間。イタリア人二人はこの宿に一目惚れした。「ケ・ベッラ!!(なんて素敵)」「ファンタースティコ!!」を連発し、チェックインの間に出された和菓子と緑茶を「マンマミーア」と嘆息しつついただいた。このお菓子とお茶で彼らの宿への採点は頂点に達した。

 

 

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イタリア人二人が一目惚れした町家旅館。伝統的な和風建築と快適なモダン設備で、「まるで自分の家みたいにくつろげる」のがその理由。

 

 

忍者に付き添われて御所見学

 翌日は京都御所へ。今回は事前に宮内庁のサイトを通じて仙洞御所の見学を申し込んでいた。私たちの他、フランス人の中年のカップル、アジア系の若者グループ、日本人家族など約20名。時間とともに宮内庁の青年ガイドが現れ、粛々とツアーはスタートした。
 「皆さんが今居られる場所は、〝松竹梅の庭〟と呼ばれており……」
 青年ガイドの解説の合間、ふと周囲を見渡すと親友の姿がない。目に飛び込んでくるものに惹かれると、衝動的に目標に突進する性癖がある彼女にとって、御所の庭園は危険極まりない場所である。それは承知していたが、まさかツアーの最初のポイントで見失うとは思ってもみなかった。「どうしよう、見失ったみたい」相棒に話しかけると、「シッー!今、解説中だから」とイヤホンガイドを突きつけられた。相棒は相棒で1つのことに集中すると周囲が一切消滅するという性癖がある。世界中のどんな場所へ行ってもマイペースを貫き通す二人。ふぅ、先が思いやられる。
 私がため息をついたその時、グループ最後尾に忍者のように控えていた警備員のおじさんの無言の圧力に押されつつ、親友が渋々といった表情で姿を現した。
 「どこにいたの?」と聞くと、「さっき通った道の脇にかわいいお花が咲いていて、大きな木の根っこも素晴らしくって、根っこの周りの緑の苔がすっごくきれいだったのよ!じっくり見たかったし、写真も撮りたかったのに、あの忍者が無言でプレッシャーかけるもんだから仕方なく移動したの。滅多に見られないお庭なんだからもっと自由にゆっくり見せてくれてもいいのに!」。そうまくしたてていた彼女は、一瞬後、松竹梅の庭を目にすると竹林に向かって突進していった。そして忍者の警備員はポーカーフェイスのまま、再び無言で彼女の後を追っていくのだった。

 

 

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予約制で見学できる仙洞御所。広大な庭園内をガイドとともに約50分で回る。遅れたり、はぐれたりすると忍者警備員が無言のままグループに連れ戻してくれる。

 

 

抹茶、カラオケ、大晦日

 

 京都から戻り、お正月の準備の買い出しや大掃除を珍しそうに手伝ってくれた二人。息抜きで立ち寄ったカフェで彼らが注文したのが「抹茶ラテ」と「柚子茶」。特に抹茶は、普段は甘いものやドリンクに興味を持たない相棒ですら虜になってしまった。京都でも和菓子と抹茶のセットを喜々として注文し、茶筅で泡のたった苦いお茶を「ブォニッシモ!」といいながら飲み干していた。甘いもの大好きの親友は言わずもがなで、抹茶カステラ、抹茶バームクーヘン、抹茶アイス、抹茶ラテに抹茶チョコレートと、連日抹茶づくしのスイーツに酔いしれていた。
 晦日の午後もそんな調子で近所のカフェで抹茶ラテを味わっていたところ、密かに私の不安材料であった友人一家がFBに最初の写真をアップした。場所はなんと赤坂、しかも初日から焼肉、ゲーセン、カラオケと弾けまくっているではないか! コメントを見ると、どうやら東京ではAirbnbで宿を確保したらしい。ホストがとても親切な方で、初日からカラオケボックスや焼肉屋に連れて行ってもらったようだ。ああ、良かった!

 大晦日の夜中過ぎ、友人一家からお祓いをする巫女さんの写真とともにこんなメッセージが届いた。
 「Asami, we love your beautiful country!!!!!!」 
 

 

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京都駅構内illyカフェで発見した『抹茶カプチーノ』に大感激! 和菓子とお抹茶のセットは見た目の美しさもイタリア人に好まれる理由の1つ。

 


 

初詣とおみくじの威力

 

 元旦の朝は近所のお寺さんへ初詣に出かけた。初詣を済ませて気分一新したところで、相棒が「オミクジ、オミクジ」と言い出した。日本で神社仏閣に参拝するたび、御神籤と御朱印をいただくのを何よりも楽しみにしているイタリア人の相棒は、かなり変わり種である。それぞれ吉、中吉、半吉とまずまずの御神籤を引き、おっちょこちょいですぐに物を失くす親友は、『失せもの、すぐ出る』の一文に大喜びした。
 その帰り道、参拝客でごった返す参道の商店街で親友がiPhoneを失くした。どこに置き忘れたか全く見当がつかないという。ここがローマならさっさと諦めるしかないが、元日から落ち込んでいる親友を見るに見かね、念のため警察に紛失届けを出した。正直、あの人ごみからiPhoneが出てくるとは思っていなかったのだが。
 3日の朝、我が家の電話が鳴った。「こちら警察署です。携帯電話が見つかりましたので受け取りに来て下さい」。親友に伝えると、彼女は大口を開けて絶句。「インクレディービレ!!!(信じられない)」と叫び続け、「見てみて!鳥肌、トリハダ!!!」と腕をまくって見せつけた。警察署でも「インクレディービレ!」を連呼して警察官を圧倒し、「ニッポンはスゴい!世界でも、こんなことが起こるのは日本だけだわ!」と感激を新たにした。
 その夜、彼女はふと真顔になり、思い出したように呟いた。
 「オミクジの言う通りだった。〝失せもの、すぐ出る〟。神様はちゃんと知ってたのよ」
 地元警察も巻き込んで大騒ぎした挙げ句、イタリア人二人は一足先にローマへと帰っていった。成田空港の駅で、「キップ失くした!」と最後まで我が道を突き進んだ親友は、優しい駅員さんの赦しに三たび感激しつつ、抹茶カステラを買って機上の人となった。

 

 

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キリスト教ではみられない『御神籤』。毛筆書きの小さな紙片は、見るだけでも美しいというのが彼らの感想。必死に訳した神様のお言葉を、二人とも神妙に胸に刻み込んでいた。

 

 


 

 

*この連載は毎月第2・第4木曜日(月2回)の連載となります。次回は2月9日(木)掲載予定です。お楽しみに! 

 

 

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田島麻美 (たじま・あさみ)

千葉県生まれ。大学卒業後、出版社、広告代理店勤務を経て旅をメインとするフリーランスのライター&編集者として独立。2000年9月、単身渡伊。言葉もわからず知り合いもいないローマでのサバイバル生活が始まる。半年だけのつもりで暮らし始めたローマにそのまま居座ること17年、イタリアの生活・食文化、歴史と人に魅せられ今日に至る。国立ローマ・トレ大学マスターコース宗教社会学のディプロマ取得。旅、暮らし、料理をメインテーマに執筆活動を続ける一方、撮影コーディネイター、通訳・翻訳者としても活躍中。著書に『南イタリアに行こう』『ミラノから行く北イタリアの街』『ローマから行くトスカーナと周辺の街』『イタリア中毒』『イタリア人はピッツァ一切れでも盛り上がれる』他。

 

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