沖縄にも暮らす 二拠点生活の日記

沖縄にも暮らす 二拠点生活の日記

#05

二拠点生活の日記 Aug. 2 – 18 2020

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文と写真・藤井誠二 

 

2020

 

8月2日 [SUN]

 

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 数日間、かわりばえのしない「やーぐまい」を続けている。自炊をして、仕事をして、散歩する。夜は半ば無人状態の知り合いの店に飯を喰いにいく。この日は、栄町まで歩いて「アラコヤ」へ。コロナ対策をとって人数制限等をしているので、店内はいつもの喧騒がない。普久原朝充君と深谷慎平君と合流。検温して、手の消毒。なるべくマスクをしてしゃべる。「琉球新報」のぼくの月イチ連載「沖縄ひと物語」の相談。「沖縄」と「関係」がある人たちをぼくの目線で選び、こつこつと続けてきた人物ルポも次回のドキュメンタリー監督の松林要樹さんで18回目になる(8月26日掲載)。普久原君と深谷君の人脈や情報収集力、知識を参考にしながらどんな人を取り上げるべきかあれこれ考える。同連載のコンセプトをふたりはよく理解してくれているので率直な意見に耳を傾けることができる。ぼくはじっくりとさまざまな立場や仕事の人に何度も会いに出かけ、それぞれの「沖縄的」なるものを感じ取り、2000字の原稿に書く。百人に会えば、百人の「沖縄」を知ることができる。写真家のジャン松元さんと組めるのも刺激になる。あと何回やれるかわからないが、大切な仕事の一つになった。

 最近なにかと話題の樋口耕太郎さんの『沖縄から貧困がなくならない本当の理由』を読んでみて、かなりの違和感が残った。何年か前に氏にはインタビューしたことがあって、当時は、那覇軍港の移転について反対していた浦添市長のあっと言う間の「転向」について構造的な鋭い分析等をしていて、すごいなあと思って話を聞かせてもらいにいった。物腰のやわらかい人だった。が、今回の本については経営者としての記述に刮目するところも多々あるのだが、本書に寄せられている批判に対して「まとめて」樋口さんが反論しているのを見て、がっかりしてしまった。反論というより、ぼくには言い訳のように読めてしまった。

「反論」の中で、[「この本は〇〇の本だ」、と語ることが難しければ、まずは、そうでないものを説明する]、[この本のジャンルを特定することは難しい。沖縄地域研究、経済、貧困問題、文化、心理学、幸福論、哲学、スピリチュアリティ、経営、マーケティング、未来学、教育、子育て、自己啓発、社会学、日本研究、エッセイ、ノンフィクション、物語……どれも該当しそうだが、どのカテゴリーでもないとも言える](「ニューズウィーク」2020.8.3)というくだりにはとくに脱力してしまった。

『沖縄から~』で、沖縄の貧困問題に対する既存の対策を対処療法だと断じた一方で、肝心の政策提言らしきものがなく、問題の本質を沖縄の個々人の心の有り様に求めてしまっているのに、だ。樋口さんに悪意はないのだろうし、沖縄でもよく売れているのだから、賛否両論があることは一般的にいいことだと思う。ぼくもいろいろと嫌われているので「嫌われる勇気」的な気持ちはいつも持っているつもりだけど、「自己肯定感が低い」という物言いを個人以外に対して使うことは、ぼくには憚られる。

 書き方の「手法」にいろいろなスタイルがあることは否定しないけれど、沖縄を見るときの風景がどう見えるかは、人それぞれの感じ方次第なのだなあと思った。ともあれ沖縄に新しい無意識の「分断」が生まれてしまった感は否めないと思った。自戒を込めて。樋口さん、また機会があれば。

 栄町の深い時間帯は閑散としていた。店のあかりがついていない人気のない夜道を歩いてスーパーへ。街灯しかないどんよりとした灰色の通りには、それでも客をひく高齢の女性がかわらず何人も屋外に出した椅子に座っている。暗いので人のかたちしか見えない。一人が近寄ってきて、化粧をした顔が見えた。スナックで飲んでいかないかと声をかけてきた。

 

 

8月3日 [MON]

 

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 琉球新報社へ打ち合わせに自転車に乗って出向く。ぼくの月イチ連載を立ち上げてくれた新垣里沙記者と担当の古堅一樹記者、小那覇安剛・写真映像部長、連載の相棒のジャン松元さんと隔離されたようなコロナ対策用会議室で距離を取って、マスクをしてえんえんと話す。新報の連載はあと一年ぐらいはやろうという話をして、人選についてあれこれ議論をする。帰りに自転車でちんたら走っていたらバス停でバス待ちをするジャンさんと会った。ジュンク堂に寄り、森本浩平店長とちょうど打ち合わせにきていた島村学さんと一階のカフェでゆんたく。帰宅して手を消毒して、うがいをして、冷蔵庫にあった島野菜やら島豚と沖縄そばを炒めて喰う。

 そういえば今日、東京(内地)では「アエラ」(2020.8.18-17号)が発売されていて、同号でぼくとジャンさん ━ 彼は「琉球新報」専属ではなく契約なので、新報の仕事に支障をきたさないように撮影してもらった ━ のコンビで「現代の肖像」ページで「ひめゆり平和祈念資料館」館長の普天間朝佳さんを描いた。沖縄で発売されるのは数日後になる。

 

 

8月4日 [TUE]

 

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 昨夜と同じものを喰って、ついでにコンロまわりを掃除。書評を書くのが遅れに遅れていた貴志謙介さんの『1964 東京ブラックホール』を蝉時雨に包まれながら途中のページから読み出す。

 

 

8月5日 [WED]

 

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 冷蔵庫に入れてあった島豆腐に出汁醤油を少しかけて喰う。一丁がデカいので腹いっぱい。ひたすら、たまっている仕事をする。夕方に新都心へ出かけて買い物。誰とも会わず、話さず。予定していた対面取材を相手と相談の上、いくつも延期にした。『1964 東京ブラックホール』の書評を書き上げて編集者に送る。

 

 

8月6日  [THU]

 

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 中日新聞の書評候補の本を読み出す。桜坂劇場へ散歩して、映画「子どもたちをよろしく」(企画・寺脇研×前川喜平)を鑑賞。寺脇さんとはもう長いお付き合いになるなあ。劇場前で髪を切ってきた帰り道の「ガーブドミンゴ」オーナーの藤田俊次さんと、栄町でバーを経営するマリリンさんと邂逅。2メートルぐらい離れてゆんたく。那覇、狭い。近くの「アグーとんかつコション」で串カツを食べる。少なくとも那覇のここらで、ぼくが知る千ベロがある店ではダントツの味。アグー、島野菜などの串カツはサイズもデカくて千ベロ+αでハラいっぱいになり、ほろ酔いになれる。リーズナブルで言うことなし。ひとけのない浮島通りから市場通りを抜けて国際通りに出た。まあまあの人通りはある。マスクが暑い。

 

 

8月7日  [FRI]

 

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 島豆腐と島野菜を炒めて食べた。かるく床拭き等して部屋の掃除。洗濯。資料を読む。青空が広がっているのに雷が落ちた音がした。ずっと宇多田ヒカルを聴いている。「アラコヤ」に行って串焼きを喰う。検温、手の消毒。ぼくを呼ぶ声がするので見たら、杉田貴紀さんがテイクアウト用の串焼きを買いにきていて、道路でちょっと話す。彼は弟の同級生。中・高校の同窓。

 

 

8月8日  [SAT]

 

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 昼前ぐらいに思い切ってクルマを借りた。嘉数の「3丁目の島そば屋」に行って沖縄そばとジューシーを喰い、嘉数高台公園からオスプレイが羽を休めている普天間基地をしばらく見ていた。

 佐喜眞美術館へ行き、「光州・済州・OKINAWA 抵抗の表現展」を見る。李明福さんの「私に罪はありません」と題された縦2メートル以上ある墨一色の絵。インパクトがすごい。済州島民というだけで4.3事件に関わったとされ2年間も収監された老婆を描かれている。美術館にぼくが居る間、誰も来館者はなかった。

「HYGGE(ヒュッゲ)」に寄って絶品のドーナツをかじりながらコーヒーを飲む。オーナーの権聖美さんとゆんたく時間が楽しい。彼女がかつて編集してきた沖縄の情報をぼくはどれだけ吸収してきただろう。権さんおすすめのちいさなビーチへ。まばらだが地元の中学生たちや米兵とみられる人たちがいるのを岩場からしばらく眺める。まばらだが、固まって数人で浅瀬で騒いでいるのを見るとだいじょうぶかという気持ちになる。屋外とはいえ人同士の距離が近すぎないか。海はエメラルドグリーンで美しい。太陽がじりじり暑い。マスクでますます暑い。古書店「ブックスじのん」に寄り、頼んでいた冊子を受け取る。アンティークショップの「RAGGD GLORY」にも顔を出してスタッフの名嘉山秀平さんと距離を取ってゆんたく。やっぱりクルマを運転していると気分がいい。前に「琉球新報」の取材でお世話になった古着屋「ANKH(アンク)」にも寄り、猫(五匹もいる)を撫でまわす。クルマを返して、「じまんや」に検温して入る。名物のパイナップルポークのトンテキ ─ 屋我地島の塩など四種類の「ローカルソルト」をつけて味わえるようにバージョンアップしていた ━ を喰った。豚肉を分厚いレアで喰える。泡盛「照島」と合う。しばらくしたら、スタッフの一人が、『肉の王国 沖縄で愉しむ肉グルメ』という仲村清司さんと普久原朝充君と書いた ━ タイトルはカルいが、内容は「沖縄と肉との関係」という深いところに踏み込んだ一冊 ━ にサインを書いてくれと持ってきた。彼は取材当時、キッチンで肉に火を入れていた若者だった。しばらくしたら社長の横井聖司さんもあらわれて、コロナ禍で国際通りがどう変化しつつあるのかを「内側」から聞く。というのは、彼は国際通りの「屋台村」に「島酒と肴(しまぁとあて)を出店していて、かつ「村長」なのである。FC琉球のスポンサードをおこない、からだを張って国際通りを盛り上げようとしている、彼のバイタリティ溢れる話に聞き入った。今日だけで手の消毒は十数回はしている。

 

 

8月9日  [SUN]

 

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 話し合って対面取材でもよいと言ってもらえる人にはどこでもそうすることにしている。「取材」は、取材のオファーを出して、それを相手がどう受け取ってくれたのか、当日どのような服を着てきて、どんな場所にあらわれのたか、など、被取材者と取材者が出会う前から始まると思っている。そのプロセスをもきちんと観察する。リモートだとそのあたりがスルーされてしまうので、だから日時を延期してでもなるべく対面したいと思っている。

  洗濯して、冷蔵庫に入っている野菜などを炒めて焼きそばを自炊して喰い、パソコンに向かう。インタビューの文字おこし。去年6月に脳卒中(小脳出血)を経験してからやはり右手に軽微に後遺症が残り、たとえば裁判法廷のメモ取りなどの速記がやりにくくなった。だからなるべく録音をさせてもらう(法廷は禁止)のだが、あとで聞き直してみると、そのときになんとも思わなかったやりとりが、違った印象を与えてくれることがある。聞き逃してたぶんメモしなかったであろう箇所に気づかされる。「何を答えてもらったか」も重要だが、相手がその「答え」を発するときの言葉の間合いや、どんな話からその話題に入っていったかなど反芻しながら文字におこしていくことができる。これは速記にはなかった、七転び八起きとはいいすぎだが、失ってしまった機能を懸命にもとの状態に少しでも戻そうとする努力だけではなく、失った機能を冷静に認識することで、「見えなった」自分を意識して、それをむしろ利点に転換していくことも考えたほうがいいなと思った。台風の影響で風が吹きすさぶ街を歩いて、台湾料理「漢謝園」へ餃子を食べに出かけた。だだっぴろい店内に客はいない。

 

 

8月10日  [MON]

 

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 沖縄県産の丸オクラを茹でて、島豆腐といっしょに食べる。台風一過で天気は晴れているが、カタブイが降った。鳩が一羽、雨宿りにやってきた。至近距離で見ると、キジバトだ。たぶん、うちのバルコニーで生まれて巣立ったやつだ。鳩って帰巣本能ってあるのかな。インタビューの文字おこしをしながら、合間に掃除をする。

 

 

8月11日 [TUE]

 

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 起きてバルコニーのガジュマルを見ると鳩の巣があったところに、また、うずくまる姿を現認。またあそこに卵を産んで雛をかえすつもりなのかな。と思って見てきたら、もう一羽、鳩が飛来して巣にうずくまっている鳩に餌を口移ししている。去年と同じつがいなのかな。焼きそばをつくって喰う。終日、仕事。

 

 

8月12日 [WED]

 

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 ジャン松元さんと合流して牧志の「Kukulu」で金城隆一さんの撮影。ぼくの「琉球新報」の月イチ連載に掲載予定。夜は閑散とした松山の片隅にある「酒月」に久々を顔を出して、PCR検査で陰性だと判明したばかりの主と話し込む。客は離れた場所に2~3人。

 

 

8月13日  [THU]

 

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 琉球大学教育学部へ行って山口剛史先生に、沖縄の戦後教育について取材。帰りにジュンク堂で『沖縄の戦後を歩く━そして、地域の未来を考える』(NPO法人 沖縄歩き記)を購入して、森本浩平店長とゆんたく。高良レコード本店の前 ━ 定休日だったので ━ 高良雅弘さんに会って、借りていた資料を返してしばし立ち話。

 

 

8月14日  [FRI]

 

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 洗濯や雑務。午後から「Kukulu」で主宰している金城隆一さんにインタビュー&長々と相談事。

 

 

8月15日  [SAT]

 

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朝から仕事。夕刻になって写真家の岡本尚文さんと建築家の普久原朝充君と飯を喰う。ジュンク堂店長の森本浩平さんも合流。「トミヤランドリー」などでかるく飲む。客はまばら。

 

 

8月16日  [SUN]

 

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 日本蕎麦を茹でて喰い、朝から仕事。古書店の「ちはや書房」が若狭から泉崎に移転したオープンの日なのでお祝いを言いに行った。スタッズ・ターケルの『人種問題』を購入。オープン記念で「首里十二支カステラ」をもらった。

 

 

8月17日  [MON]

 

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 深谷慎平君に新品のデロンギのエスプッソマシンをゆずった。ずいぶん前にクレジットカード会社のポイント交換で手に入れたものだが一度も使わずに袋をかぶせたままになっていた。すぐに事務所で大活躍をはじめたそうで、よかった。料理家の石橋佳子さんがつくった「はんちゅみ」をもらう。肉味噌のような、琉球伝統料理。なかなかお目にかかれない。バスで宜野湾市大山「RAGGD GLORY」に行き、帰りもバスで帰ってきた。それにしても沖縄のバスには慣れないなあ。夕刻、「すみれ茶屋」に飯を喰いに行った。コロナ禍の影響で刺身がないと玉城丈二さんがぼやいていた。客はぼく一人。

 

 

8月18日 [TUE]

 

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 今日も朝から仕事。腹が減ったので素麺を茹でる。洗濯。荷造り。予約していた(購入していた)便が減便の対象になり、振り替えた。空港カウンターで差額チケット代が返ってきた。東京のほうが暑いと感じた。

 

 

 

*筆者の近況はtwitter(https://twitter.com/seijifujii1965)でご覧いただけます。

 

 

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藤井誠二(ふじい せいじ)

1965年名古屋生れ。ノンフィクションライター。2006年から沖縄県那覇市の中心部に仕事場を構え、東京都世田谷区と二拠点生活を送っている。著作は50冊以上。沖縄関係の著作は『沖縄アンダーグラウンド  売春街を生きた者たち』(講談社)、作家の仲村清司氏と建築家の普久原朝充氏との共著で『沖縄オトナの社会見学R18』(亜紀書房)、『肉の王国 沖縄で愉しむ肉グルメ』(双葉社)がある。『沖縄アンダーグラウンド  売春街を生きた者たち』は、2018年に第5回「沖縄書店大賞」沖縄部門で大賞を受賞。

 

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