ステファン・ダントンの茶国漫遊記

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#04

日本茶ファンを作る旅2 −川根ツアー

ステファン・ダントン

 

                                                                                         

 

川根ツアー茶摘み2

 

 

吉祥寺から川根へ

 

 

  2007年の初夏。明るい日差しの中、川根へ向かうマイクロバスは富士山を横目に東名高速を走る。朝早く吉祥寺を出発した私たちは、遠足に向かう小学生のようにはしゃいでいた。メンバーは、私が営む日本茶専門店「おちゃらか」のファンになってくれたお客さんたち。職業も年齢も国籍もいろいろだが、おちゃらかで出会って打ち解けた仲間たちだった。みんなの様子は、「いつも飲んでいる川根のお茶がどんなところで作られているのかを知る体験ツアーに行く」というよりも、「いつも近所のcaféで集まる仲間と1日かけて小旅行する」というワクワク感のほうが強そうだった。

 

川根を走るバス

       体験ツアーにて川根を走るバス。

 

 

 静岡は近い。みんながうとうとし始めて車内が静かになった頃、「ちょっと起きてよ。もう川根は近いよ」。ふと目を覚ましたら辺りは川根の山あい。大井川の脇の木立を抜けて走るバス。
「すごい山の中だね。あの川は大井川?」「吊り橋だ!渡ってみたい!」「茶畑はどこ?」
再び賑やかになる車内。
「もう少し上まで行くから、その前に腹ごしらえだよ」
 バスが止まったのは一軒の古民家の前。川根はお茶だけでなく、そばも特産品だ。古い豪農の家そのままの室内で天ぷらそばをすすって一休み。日向の縁側でいただく食後のお茶は川根の番茶。少しずつ川根という場所の空気に馴染んできたみんなを連れて茶畑へ出発だ。

 

川根ツアー 吊り橋

       大井川の吊り橋。

 

古民家を改装したそば屋「ひらら」にて1

        古民家を改装したそば屋「きらら」にて。
 

 

 

 

 

 

初めての川根、初めての茶摘みへ

 

   

  バスはまた少し山道を登る。きれいに整えられた茶畑と作業小屋や農家が点在する。川根の茶畑は高いところでは標高600mにもなる。
「さあ、ついたよ。ここが天空の茶畑だ」
 バスを降りると、初夏の日差しは強いのに、東京に比べると少しだけ空気がひんやりしている。
 あらかじめ連絡しておいた農家の方が出迎えてくれる。吉祥寺の日本茶ファンと農家のファーストコンタクトだ。私はこの風景が見たかったのだ。
「消費者は生産地と生産者を知ることでより質の高い消費ができるはず」
でも、こんな想いは胸にしまっていた。今はまずみんなが楽しむことが一番だから。
 農家の方の説明が始まるとみんな熱心に聞き入る。
「今は冬の寒さを耐えたお茶の木が新芽を伸ばす季節です。出てきた新芽の上から3枚目までをこんな風につまんでやさしく折り取ってくださいね」
 小さいなカゴを手にみんなが茶畑に向かっていく。
「いい香り!」
初めて摘んだ茶葉を鼻先に持ってきて口々に言う声が聞こえる。
「そう。それが何段階もの工程を経ていつも飲んでいる日本茶になるんだよ。さあ、注意深くたくさん摘んでね」
みんなの背中に向けて「おちゃらかの店先の小さな植え込みもお茶の木なんだよ。吉祥寺に帰ったら見てごらん。同じように新芽が出てるから」とつぶやいた。生産地と消費地はいつも繋がっていることの象徴でもある小さなお茶の木をこの場所で思い出してほしかった。
 小一時間でみんなが摘んだ茶葉を集めると、大きなカゴ一杯になった。
「この茶葉を蒸し器で蒸します。それを乾燥させて、選別して、再乾燥して、ようやく皆さんがいつも飲む煎茶の状態になるんですよ」
農家の説明を聞きながら作業場へ向かう。作業場の見学をさせてもらって、茶畑を眺めながらお茶をいただきながらみんなが言う。
「ここで飲むお茶は格別だね」
「その声を聞きたかったんだよ」と私は少し満足していた。

 

 

川根ツアー茶畑へ

 

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ここから先を摘むんだよ

 

川根ツア−2009 茶摘み1

 

川根ツアー茶摘み2

 

川根ツアー茶摘み3

 

川根ツアー 茶もみ体験2

        川根ツアーの茶畑での体験の様子。茶摘み、茶揉み、工場見学など。できたての茶葉の香りを味わう。
 

 

 

 

茶摘みを終えて

 

 

 茶摘み体験を終えた私たちは、大井川鉄道の家山駅へ向かった。昔ながらの駅舎に到着したのはSL。機関車の様子を見学しながら車内に落ち着くと、「シュッシュー!」と発車の合図が聞こえる。走る列車の窓から顔を突き出すと、日向で茶摘みをして火照った顔に爽やかな風が心地よかった。
 道の駅川根温泉で下車した。少しくたびれた身体を癒す温泉も川根には豊富だ。1日楽しんだ川根の体験を語り合いながら温泉につかる。
「楽しかったね」
 ゆったりくつろいだみんなは、待っていたバスに乗り込むとあっというまに眠ってしまった。

 

 

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        大井川鉄道の機関車。
 

 

 この最初のツアーを含めて4回の川根ツアーを行った。夏の終わりには茶の苗木の植樹体験をしたこともあった。
「この苗木が5年丹精すると収穫できるようになるんですよ」
そんな説明を聞きながら苗木と向き合う。日常的に向き合う日本茶の出発点を知ってもらえた。

 

 

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        苗木の植樹体験の様子。

 

 

 ツアー参加者の感じたことはそれぞれだったが、小さな子どもや外国人にも日本茶の生産地を知ってもらえたことは収穫だった。彼らのように日本茶に向き合うことの少ない人々が、楽しい体験とともに日本茶への関心を深めてくれたことで、私の日本茶ファンを増やすための小さな試み、産地へのツアーは成功だったから。

 

川根ツアー 外国人2

 

川根ツアー 外国人3

        外国人も川根で茶産地体験。

 

           

 

日本茶を巡る交流は双方向で

 

 

   毎日の店でのお客様との交流でおちゃらかファンになってくれる方が増え、彼らと生産地に行くことで日本茶ファンへの扉を開くことにもチャレンジした。
 吉祥寺におちゃらかをオープンして4年経った頃、生産者の方々を吉祥寺に招待した。自分たちのお茶がどんな場所でどんな人に飲まれているのか見てほしかったから。
「こんなお洒落なところで若い人たちがお茶を飲んでくれているんだね。私たちも頑張らないと」
こう言ってくれる方もいた。

 

茶農家が吉祥寺に2009

        茶農家の方々が吉祥寺のおちゃらかを訪ねてきた様子。

 

 移動に不自由のある高齢の生産者にも未来ある日本茶の楽しみ方を経験してほしかった私は、その後フレンチのシェフを連れて川根へ行き、フランス料理と日本茶を共に味わってもらったりもした。
 生産者と消費者、生産地と消費地。両者をさまざまなレイヤーで結びつけることで、私は日本茶の未来への扉を少しずつ開こうとしていた。

 

 

 

 

                 

 

*この連載は毎月第1・第3月曜日(月2回)の更新連載となります。次回もお楽しみに! 

 

 

写真/ステファン・ダントン    編集協力/田村広子、スタジオポルト

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ステファン・ダントン

1964年フランス・リヨン生まれ。リセ・テクニック・ホテリア・グルノーブル卒業。ソムリエ。1992年来日。日本茶に魅せられ、全国各地の茶産地を巡る。2005年日本茶専門店「おちゃらか」開業。目・鼻・口で愉しめるフレーバー茶を提案し、日本茶を世界のソフトドリンクにすべく奮闘中。2014年日本橋コレド室町店オープン。2015年シンガポールに「ocharaka international」設立。2017年路面店オープン予定。著書に『フレーバー茶で暮らしを変える』(文化出版局)。「おちゃらか」http://www.ocharaka.co.jp/

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