京都で町家旅館はじめました

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#04

床の間クエスト〈後編〉

文・山田静

 

床の間について考える我々が向かった先は……

「おいしかったですね。じゃあ、あとはよろしくお願いします」

 爽やかに設計士さんが去ったあと、残された私は再び途方に暮れた。このときインテリアデザインの助っ人として東京から駆けつけてくれていたおしゃれな和雑貨店のご主人H氏、同じくおしゃれな画風が人気のイラストレーターK嬢と顔を合わせ首をひねる。

「……とりあえず、小物でも見に行きましょうか」

「ですな」

 向かった先は「京都伝統産業ふれあい館」。平安神宮近くにある展示場で、京都が指定する伝統工芸品74品目およそ500点を展示販売し、資料閲覧もできる場だ。

 

 京都に来て初めて知ったのだけれど、国の「伝統的工芸品産業の振興に関する法律(伝産法)」によると、伝統産業に指定されるには「主として日常生活で使用する工芸品であること」「一定の地域で当該工芸品を製造する事業者がある程度の規模を保ち、地域産業として成立していること」」などの条件があり、京都では西陣織や清水焼など17が指定されている。

 だが京都というのは長い歴史を経て分業が高度に進んだ町で、京人形ひとつつくるにも「頭師」「髪付師」「手足師」などなど全部違う職人がいて、必要に応じて連携してひとつの人形をつくる。京人形ならまだしも「産業」として成り立つ市場規模だが、「京ごま」「花かんざし」「京足袋」などもとの市場が小さい上に需要も減り、現在1軒か2軒、もしくはひとり(!)しか職人がいない、という伝統工芸も少なくないのだという。

 ぴたっとくる足袋が消えてしまうのは舞妓さんには死活問題、ひいては観光都市京都の収入にも響いてくる、かもしれぬ。というわけで(それだけが理由ではなかろうが)、京都市は独自の指針で「京都市の伝統工芸」74を指定しており、振興につとめている。それらをまとめて見る&買うことができるのが同館というわけだ。

 

「ほほう」

「けっこうなものですな」

「けっこう値段もしますなあ」

 屋根の上の鍾馗様、友禅、かんざし、仏壇、竹工芸、うちわなど、いろんな「ザ・キョウト」が並ぶギャラリーはまさに眼福。ついでにお値段もなかなかの眼福だ。まずギャラリーで勉強してから併設の売店で手頃なものを買おうというプランだったのが、最後の角を曲がったところでみんなの足が止まった。

「お!」

「おお!?」

「これでは……!」

 

 それは「京版画」のコーナー。

 江戸の浮世絵版画のルーツでもある京都の木版画。絵師・彫師・摺師の共同作業で制作されているが、やはり技術者不足に悩む業界だとか。全員の目が止まったのは、シンプルな構図と力強い線で石庭を描いた作品だ。派手すぎず地味すぎず、なによりきっぱりと美しく、見ていると穏やかな気持ちになれそう。クレジットには「井堂雅夫」とある。

「床の間、これでどうですか」

 Hさんの言葉にみんなでうなずく。

 

 

「古くて新しい京町家」にふさわしいものとは?

 インテリアの相談に当初から乗ってもらっていたHさんは、建築途中から「この建物には、アンティークではなく、きれいで新しいものがいい」と意見を述べていた。

 私自身は、細部まで凝った建物が組み上がっていくのを見るにつけ、中に置かれるものは「なぜこれがそこにあるのか」と説明できるものでないといけない、と強く思うようになっていた。

「僕は新しいことは何もしていませんよ、もともとの京町家を新築で再現しているだけです」

 設計士さんが、建物の解説を求めるたびに同じ言葉を繰り返すのも印象に残っていた。折り紙の先生が言うところの「お客様に楽しんで、遊んでいただく」のは、つまりこの「古くて新しい京町家」でなければいけない。インテリアはそれを引き立てこそすれ、主役になってはいけない。そして建物の持つストーリーを阻害するものではいけない。

 そうだ、そういうことだ。

 石庭の版画を前に、急に考えがひとつにまとまった。

 じゃあ、この版画はなぜそこにあるといいのか?

 京都伝統のものだからだ。

 

 ……って我ながら頭が悪い説明だが、まあ、ともかく、素敵な版画だし、石庭の絵だから庭に面した1号室に置くと、庭の続きみたいだし。

「どうすか皆さん?」

「決まりですね!」

 

「警報が鳴ってると思ったら、山田さんでしたか」

 同館事務局で、以前から何かと相談に乗っていただいているDさんが苦笑しながら出てきた。展示物と通路を区切る柵からはみでると事務室で警報が鳴るそうで、モニターには何度も身を乗り出して版画を指差すわれわれの姿がしっかり写り込んでいたらしい(恥ずかしい……)。価格もなんとか予算内だし、1点なら買えそう。

 あとの6部屋はどうするのか、という問題は、売店に並ぶ人間国宝・稲垣稔次郎氏の木版画を目にして一発で解決した。華やかな色使いとのびやかな構図で京都の風物を切り取った作品は、部屋を明るく彩りそう。

「それは摺師の方が引退されてしまわれて、もう出ているだけなんですよ。しかも外国の方にすごく人気があって売れ行きがよくて」

 いつの間にやら柔らかな微笑みをうかべうしろに立っていた売店のスタッフに絶妙のタイミングで声をかけられ、気づけばわれわれは部屋数以上に稲垣氏の版画を買っていた。

 京都商人恐るべし。

 

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盛岡で生まれ、京都で木版画家として活躍した井堂雅夫(1945~2016)の作品。井堂は京都の風景を中心に数多くの作品を残した

 

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型絵染作家・稲垣稔次郎(1902~1963)の作品。華やかな色彩で京都の四季や風物を捕らえている

 

 

次々と出てくる床の間クエスト!

 最大の問題が解決したところで、次は小物だ。

 もともと同館の売店で目を付けていたのが竹細工の小物類。いいな、と思う花入れはだいたいが値札に「公長齋小菅」と書いてある。難しくて店の名前が読めないけど、とにかくこれにしよう、ということで実店舗の場所をうかがって、大満足とともにこの日は終了(注:「こうちょうさいこすが」。宮内庁御用達の名店であることは後で知った)。

「山田さん、額装は任せてください」

 売店を出たところで、Kさんが言うのでまた「?」となった。絵なんて、額縁に入れればいいんじゃないのか。

「額の形や、マットの色とか選びます。お店も京都で探しますんで」

 ……考えたこともなかった。

 そして選んでもらった額縁店では「和室ならこれでしょう」と的確なアドバイスをもらい、さらに「ワイヤーはどうされます? 納品のときに持って行きますか」聞かれる。

 ……考えたこともなかった。

 生涯で自分が考えると思ってもいなかったことが次々と出てくるが、その都度、賢者が現れ助言を授けてくれる。まさに床の間クエストである(ただし自身の戦闘力もレベルもまったくあがっていない)。

 

 さて、額もワイヤーも花入れも揃った。あとは、えーと、これをどうやって掛けるのだ? 

 設計士さんに電話した。

「ああ、釘を打つんですよ」

 え、いいんですか新築の家に。マンションだとほら、敷金戻らなくなるじゃないですか。

「打たないと掛けられませんよ」

 はい。

 ちょうど来ていた工務店の社長に聞いてみた。

「釘、打ちたいんですけど大丈夫ですかね」

「打たないと掛けられませんよ。で、何流にします?」

 は?

「花入れの高さって、お茶の流派によって違うんですよ。何流がいいでしょね」

 ひい、また新たな宿題か……。

 固まる私を見て、社長がニヤリと笑った。からかっただけらしい。うう、くそう。

「塩梅のいいとこでお願いします」

 敏腕マネージャーは、きりっとした顔で頼んだのだった。

 

 ちなみに釘は、設計士さんに教えてもらった老舗の金物屋で1本数千円した「職人手作りの釘」を選んだが、大工さんに打ってもらったら2本がぽっきりと折れた。

「すいませんねえ。でも、鋳物はね、ものによって弱いこともあるんですよ」

 大工さんが頭をかきながら言う。

「職人手作りのものが絶対とは限らない」

 床の間クエストで得た重要な教訓のひとつだ。

 

 さて、なかなか話は開業にまで至らないが、準備のお話しでもうひとつだけご紹介しておきたい。庭だ。

 

 君はつくばいを洗う日が来ると思ったことがあるか?

「寸庭をめぐる冒険」、

 次回に乞うご期待!

 

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ついに床の間が完成(写真はロビーの小上がり)。釣り床を飾るのは京版画と折々の花。ときどき、絵や軸を入れ替える予定

 

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掛けられた『公長齋小菅』の花器。花器のほかにも、カトラリーやバッグなど小物もかわいい。

 

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『公長齋小菅』HPはこちら→http://www.kohchosai.co.jp/​

 

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バタバタとしているうちに祇園祭の季節が巡ってきた。前祭の準備期間、街のそこかしこに鉾がたつ

 

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前祭が終わるとすぐに後祭(宵山21~23日、巡行24日)の準備。注目は2015年に復活した大船鉾だ

 

 

*『京都伝統産業ふれあい館』開館9~17時(入館16時半まで)、8/17・18と年末年始休、入場無料。各種体験プログラムも充実で、京都の伝統文化の概要をつかむのにおすすめ。詳細はHP参照→http://www.miyakomesse.jp/fureaika/

 

*町家旅館「京町家 楽遊 堀川五条」の最新情報はこちら→https://www.facebook.com/luck.you.kyoto/

 

*本連載は月2回(第1週&第3週水曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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山田 静(やまだ しずか)

女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』『成功する海外ボランティア』など企画・編著書多数。2016年6月開業の京都の町家旅館京町家 楽遊 堀川五条の運営も担当。

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