旅とメイハネと音楽と

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#04

トルコ・カッパドキアのフェス「Cappadox」取材記〈3〉

文と写真・サラーム海上

 

 トルコの観光名所カッパドキアの奇岩に囲まれた野外ステージで3日間にわたり開かれたフェス「Cappadox 2016」のレポートも3回目。これまでの記事を読んだ読者から「こんな羨ましい環境で音楽を聴けるなんて」、「来年は訪れたいです」など、メッセージが届いた。しかし、ここで白状しなければならない。僕は今回のCappadoxで一番観たいと思っていた音楽演奏をうっかり見過ごしてしまったのだ!

 

 

感動的な夜明けの熱気球ツアー

 Cappadox2日目は早朝4時に目を覚ました。前夜にギョレメ自然公園内で行われたライヴから宿に宿に戻ったのは午前1時半すぎだったので、2時間ちょっとしか寝ていなかった。それでも無理矢理4時に起きたのは、Cappadoxをいったん離れて、夜明けの熱気球ツアーに参加するためだった。数千万年の時間をかけて形成されたカッパドキアの奇岩風景を、熱気球に乗って上空から一望出来る人気のツアーだ。

 僕は2015年の9月にカッパドキアを訪れた際もこのツアーに申し込んでいた。しかし、夜明けの天候が安定せず、熱気球の運転に支障をきたす強風が吹いたため、ツアーは2日連続でキャンセルとなってしまった。なので、今回こそ三度目の正直である。

 午前4時10分、空はまだ真っ暗だが、宿の門の前に到着したワゴン車に乗り込む。ワゴン車は近隣のホテルを周り、残りの参加者をピックアップした後、ギョレメの町外れにある旅行会社のオフィスに向かった。オフィスの隣にあるレストランではすでに100人ほどのツアー参加者たちが集まり、用意されたチャイとビスケットの軽食を口にしていた。

 午前5時、真っ暗だった空が少しずつ色が薄まっていく頃に再びワゴン車に乗せられ、ギョレメから10分ほどの発着所に向かった。地面からボコボコと奇岩が突き出た灰色の風景の中に突如、赤や黄緑、青、オレンジなど、カラフルな気球のつるんと丸い球皮が覗き始めた。今日こそ熱気球に乗れそうだ!

 

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ギョレメの町外れに熱気球の発着所がある

 

 発着所というか、野原では5台の熱気球がセッティング途中だった。気球はバスケットごと横に倒され、球皮に巨大な送風機を使って空気を送りこんでいた。球皮が十分にふくれたところで、バスケットを起こす。続いてバスケット中央に設置されたバーナーを着火し、熱風を球皮に送り込み、球皮を空へと浮かばせる。バスケットは横3.5mほど、縦2mほどで、中央にバーナーと運転手のスペース、それを取り囲むように4つに区分けされ、それぞれのスペースに5人が乗り込む。運転手まで含めて21人が定員だ。

 

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バーナーを着火し、熱風を送り込む

 

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バスケットに乗り込んで、いよいよ出発!

 

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この大きさの気球が、浮かび上がっていく

 

 ツアー客が全員バスケットの所定の場所に乗り込むと、操縦士がバーナーを「ズバー」っと吹かす。そして、気球を地上につなぎ止めていたロープを外すと、21人が乗りこんだ重たいバスケットが音もなく「フワッ」と浮かび上がった。数十メートル浮かぶと、辺り一面の野原からも色とりどりの気球がボコボコと姿を現した。その数、なんと100台。ギョレメの煙突状の奇岩全景と、遠くにCappadoxのメイン会場でもあるウチヒサル城塞が見える高さまで上昇するまで二分もかからなかった。

 

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色とりどりの気球がいっせいに浮かび上がる

 

 足元の覚束ないバスケットに乗ってそんな高さまで浮かび上がるのはさぞかし怖いのでは、と思う人もいるだろうが、実際に浮かび上がると、一緒に乗っている参加者たちの「ウオ~!」という歓声や興奮のためだろうか、全く怖くない。テロの頻発により、外国人観光客が激減したため、20人の乗客は僕と一組の日本人カップル以外、全員がトルコ人の若者だった。日本人はバスケットの外に向けてカメラを構えるが、トルコ人はセルフィー(自分撮り)を撮るため、全員がカメラを自分に向ける。近くに浮かぶ他の気球を見ても、やはり、外にカメラを向けているのは外国人で、トルコ人はセルフィーばかりだった。

 気球はギョレメの切り立った渓谷に沿って進み、時に前後の気球と互いの球皮をぶつけ合ったりしながら、標高1850mの高さまで登った。時折り吹かす「ズバー」っというバーナーの音と、地上との無線、そしてツアー客が話すトルコ語以外、空中は無音だ。

 バスケットから顔を出して、真下を覗くと数十のカラフルな気球の球皮が真上から、さらにその下にはカッパドキアの奇岩が見える。まるで月や火星の表面を見ているようだ。

 

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真下を見るとこの迫力! まるで月や火星のよう

 

 今度はバスケットの真上を見上げると、上にも数十の気球が浮かんでいる。360度見渡す限りカッパドキアの奇岩と100台もの気球、その風景に僕はすっかり圧倒されてしまった。そして、一つの気球に21人、100台の気球で合計2100人が、今この瞬間に空中に浮かび、この風景を共有しているということにも不思議と感動してしまった。

 

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カッパドキアの奇岩と気球、この風景にはただ圧倒される

 

 熱気球はそのまま45分のクルーズを続けた後、ゆっくりと下降を始め、野原に駐車したリヤカーの荷台にバスケットごと寸分狂うことなく、ガタンと音を立ててランディングした。

 夜明けの熱気球ツアー、料金は150ユーロ前後と結構はるが、その価値は十分にあると思う。僕はCappadoxを再訪する際に、また乗ってしまうだろう。

 熱気球ツアーに大満足した後、6時すぎに宿に戻り、もう一寝入りした。

 

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熱気球クルーズは45分ほど。カッパドキアに来たらぜひまた体験したい

 

 

フェスには料理のワークショップもある

 Cappadoxでは音楽やアートだけでなく、地元料理のワークショップも4種類が開催されていた。しかし、その全てが少人数の予約制で、僕が気づいた時には全て予約で一杯になってしまっていた。それでも、2日目の午前中に開催された、地元のワインのワークショップだけは幸運にも潜り込むことができた。

 イスタンブルから来たワイン研究家と料理研究家の男女が7種類の地元ワインと、各々に良く合うチーズや加工肉を用意し、一つ一つ丁寧に解説してくれた。と言っても解説はトルコ語だけで肝心なところはわからずじまいだったが。

 

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地元のワインのワークショップに参加

 

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解説はトルコ語でわからない部分もあったが、ワインはしっかり堪能できた

 

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空いてる時間に地元のマーケットを見て回るのも面白い

 

 

サンライズ・コンサートのメルジャン・デデを見逃した!

 フェス3日目、朝から宿のハマムで身体の疲れを取り、10時すぎまで友人たちとゆっくり朝食を食べていると、テーブルの脇にCappadoxのプログラム冊子を見つけた。前回も書いたとおり、僕は出発ぎりぎりまで猛烈に忙しく、フェスのプログラムや出演アーティストについてはスマホ版のCappdox専用アプリをダウンロードして軽く目を通しただけで、実際に印刷されたプログラム冊子を見るのはその時が初めてだった。

 何気なく冊子を開き、3日目のスケジュールを見ると、なんと、その朝6時からローズ・ヴァレーで行われていたサンライズ・コンサートに、昨年と同じスーフィー音楽家メルジャン・デデが出演しているではないか! ガーン、大ショック! 僕がCappadox取材を決めたのは、YouTubeにアップされていた第1回のCappadoxのビデオの中で、明け方のローズ・ヴァレーでメルジャン・デデが演奏しているのを見たからだったのに!

 そのビデオの中で彼は、明け方の太陽によって岩の表面の色がバラ色に輝くローズ・ヴァレーの野外で、100台の熱気球が浮かび上がる中、ゆったりとした循環コードのアンビエント曲を葦笛ネイの奏者、ヴァイオリン奏者とともに演奏していた。こんなシチュエーションで彼の音楽を聴きたい! そんな思いから、僕はここまで来たというのに!

 

 

youtube:Mercan Dede plays Cappadox 2015

 

 通常、音楽フェスでは同じアーティストが同じロケーションに2年連続で出演することはまずない。だから、僕は今年のサンライズ・コンサートにメルジャン・デデが出演することはないと勝手に決めつけていた。その上、前日の早朝に熱気球に乗れたことですっかり満足してしまい、サンライズ・コンサートに行こうとさえ思いもしなかった。せっかくはるばる日本から取材に来たのに、一番観たかった演奏を見逃すなんて何をやってるんだ! やはりプログラムには事前にしっかり目を通しておくべきなのだ! 僕は普段はめったなことで落ち込むことはないが、さすがにしばらくは自分を許せなかった。

 だが、そんな失態も夕方からウチヒサル農園で行われたタクシム・トリオ、そして夜にウチヒサル城塞で行われたダフェール・ユーセフの演奏を観ていくぶんかは挽回できた。

 タクシム・トリオは長年、トルコの歌謡曲の裏方として活動してきた、ロマの三人の若手精鋭演奏家が結成したインスト音楽トリオ。クラリネット、カーヌーン(中東の琴)、エレクトリック・サズ(三味線に似た弦楽器)という編成で、往年の歌謡ヒット曲やオリジナル曲をロマならではの超絶テクニックと即興を駆使して演奏する。中でもクラリネット奏者のヒュスヌ・シェンレンディリチはテレビの音楽番組の司会を務める人気者だけに、会場には早くから観客が集まっていた。どの曲も超高速の即興演奏をたっぷりと入れ込み、胸を鷲掴みにされるような興奮をもたらしてくれた。

 

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会場の農園。バックの景色も見事

 

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ロマのインストバンド、タクシム・トリオ。超絶テクニックと即興演奏に興奮!

 

 一方、ダフェール・ユーセフはフランス在住のチュニジア人で、独自の世界観を持つスーフィー・ジャズ・ヴォーカリスト。今回はソビエト式のクラシック音楽教育を受けたアゼルバイジャン人の若手ピアニストをフィーチャーし、ピアノを通じてアラブ音楽とヨーロッパのジャズが見事に一つに融合していた。

 

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スーフィー・ジャズ・ヴォーカリスト、ダフェール・ユーセフ

 

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会場のウチヒサル城砦には大勢の観客が集まった

 

 こうして3日間にわたる「Cappadox 2016」は終了した。繰り返し書いたとおり、今回は僕はあきらかに準備不足だった。しかし、僕は気に入ったフェスは二度、三度と訪れることにしている。1回だけで全てを知ることは出来ない。今回はカッパドキアというトルコ人にとって一種の聖地を舞台に、選りすぐられたアーティストだけが出演するマジカルなフェスがあることを知っただけでも十分だろう。

 

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ウチヒサル城砦の夕暮れ。幻想的な風景が広がる

 

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カンヌ映画祭受賞映画『雪の轍』にも登場する地元有名人カウボーイ・エクレムの自宅には全国からファンが集っていた

 

 後日、イスタンブル新市街の一等地にあるオフィスビルで、メルジャン・デデに再会した。僕は2005年に彼に初めてインタビューを行って以来、イスタンブルや東京やロッテルダムなどで度々彼に会っていた。だが近年、彼はイスタンブルからモントリオールに拠点を移したため、再会は7年ぶりだった。

「演奏を聞いてもらえなかったのは残念だけど、また来年も来たらいいさ。知ってのとおり、Cappadoxは故人メフメット・ウルーに縁のあるアーティストが中心となったフェスだから。僕は来年も3日目のサンライズ・コンサートに出演すると決めているよ」

 

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イスタンブルでメルジャン・デデに再会。来年Cappadoxでライブを観ることを約束

 

 

カッテージチーズのサラダのレシピ

 今回はトルコ南部地中海地方名産のカッテージチーズ「チョケレク」を使ったサラダを紹介しよう。チョケレクは牛乳からバターを分離させた後に残った液体を沸騰させ、凝固させたもので、味は日本で売られているカッテージチーズによく似ている。

 ほぐしたチョケレクにパセリやディルなど野菜を和えるだけの簡単料理だが、シンプルなだけに、一度食べたらやみつきになる。僕が習ったものは、チョケレクだけではなく、塩味の強い白チーズ(ベヤズ・ペイニル)も混ぜ込んでいた。日本ではさすがにチョケレクは手に入らないので、カッテージチーズで代用しよう。

 

■チョケレク・サラタス

【材料:4人分】

カッテージチーズ:100g

白チーズ(ベヤズ・ペイニル):100g

イタリアンパセリ:1パック

ディル:1/2パック

赤パプリカ:1/4

ニゲラ(スパイスの一種、別名ワイルドフェンネル):大さじ2

プル・ビベール(韓国の赤唐辛子粉で代用可):少々

【作り方】

1.イタリアンパセリ、ディルはみじん切り、赤パプリカも2mm角の粗みじんに切る。

2.ボウルにカッテージチーズと白チーズを入れ、フォークでほぐし、①、ニゲラを混ぜ合わせる。

3.お皿に盛り付け、お好みでプル・ビベールをふりかけたら完成。パンですくって召し上がれ!

 

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チョケレク・サラタスのできあがり!

 

*フェス「Cappadox」の情報はこちら→http://www.cappadox.com/en

 

*次回はイスタンブル編です。お楽しみに!

 

*7月7日から8月31日まで、東京・渋谷の『Cafe BOHEMIA』にて「世界を”食”で旅する。美しい料理と写真展 ~Summer Trip to Middle East~ Photo by サラーム海上 / 櫻井めぐみ」が開催中です。中東の旅と料理の写真展示のほか、開催期間限定でお店のメニューに中東料理「ホモス」「ビーツとミントのペースト」「ピヤズ(白いんげん豆と玉ねぎのサラダ)」「ヤズ・サラタス(西瓜とミントと白チーズのデザートサラダ)」も登場。イベント詳細は『Cafe BOHEMIA』のフェイスブックをご覧ください→https://www.facebook.com/bohemia.shibuya/

 

*著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。次回もお楽しみに! 〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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