日本一おいしい!沖縄の肉食グルメ旅

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#04

チレの肉体美に感じ入る~『もつやき 松井』

文・藤井誠二

 

精魂込めて打たれた串に対する「仁義」

 東京のとあるホルモンの名店で仕込みの時間帯におじゃまをして、主人が、端肉と呼ばれる、さまざまな部位を成形したときに出る肉小片を、指先でつまむように、一心不乱に串に打つ姿を見ていたことがある。その技の見事さにぼくは見とれていた。たしかそのときは牛の筋のまわりについている肉をこそぎ落とすようにしていた。どれも旨みが強い部位の肉だが、筋を除去するときに廃棄してしまうことも多いのだ。

 端肉はもちろん捨てず、煮込み用にもせず、それらを丁寧に一本の竹串に打っていく後ろ姿には、ぼくは畏敬の念すら感じたほどである。それが一本150円程度で味わえる。何気なく私たちが頬張っている串に打ったホルモンには職人の全身全霊が込められているといっても過言ではないと思う。聞けば、その端肉を一本の串にまとめ上げた一品は、その店では今日は三本しかできなかったという。

 主人はたった一人で店を切り盛りしているのだが、品川区芝浦の屠畜場へバイクをほぼ毎日走らせ、牛や豚の内臓や精肉を自分の目利きで仕入れてくる。

 その店はホルモン好きの界隈では有名なので、ときどき酒を飲まずに串だけを食べに来る客のグループが来る。その上、数本しか頼まず、だらだらと烏龍茶で粘り、しゃべってばかりいることが、ままある。しかし、そんな客たちに限って、貴重な「端肉串」を全員分頼んだりする。もちろん在庫があれば、主人は黙って焼く。客はその串がどれほどの価値かはわかっていない。

 何回かは主人は黙っていたが、あるとき、その客グループが来たとき、主人は静かな怒りを表明したのだ。開店直後だったせいもあり、客はカウンターに私だけで、あと十数人は座れた。

「ごめん、いっぱいなんだ」

 主人はそのグループを一瞥して、そう言って追い返したのである。その客たちは何かきつねに包まれたような表情をしていた。私はホッピーを飲みながら、その光景を見ていた。

 精根こめて打った串はとうぜん儲けがない。酒を飲んでもらわなくては大赤字になってしまう。たかが串一本、されど串一本なのである。だから、丁寧に打たれた串肉を味わうときはなるべく酒を飲まねばならない。酒の飲めない人はノンアルコールの飲み物を何杯も頼むべきだ。それが精魂込めて打たれた串に対する仁義というものである。

 

 

一本の串は職人のアート作品である

 そして、もう一つの仁義は、串をバラして肉片をシェアしてはならないということだ。

 ぼくはホルモン屋の仕込み時間に取材に行くことが多かったが、仕込みは肉と串との格闘である。食べやすい大きさに切り分け、かつ肉の繊維をうまく食べやすいように断ち切り、余計なスジも除去しながらの作業である。

 それを一本の竹串が中央を貫くようにして、数片さしていく。どれも同じ大きさやかたちの肉片はない。城の石垣のように石のかたちが違えど互いに支え合い、全体として成立しているように、一本の串ができあがるのである。肉片の間に葱や玉葱をはさむときも同じである。

 炭火やコンロの上に串を置くと、とうぜん肉は縮む。それを計算しながら、各肉片のどの面とどの面を合わせるかを瞬時に判断していく。まさに職人技の見せ所だ。焼き上がりが整然と見える串は、まちがいなく美味い。雑なかんじがする串はたいてい美味くない。一本の串はそれが一つの職人のアート作品なのである。

 串によっては、肉片の間に菊脂という小腸についている脂をちいさくカットしたものを挟み込んで旨味をプラスしたりするので、ばらしてしまうとそうした細かな仕込みが台無しになってしまうのだ。つまり、 焼きとりや焼きトンを串からうやうやしく、箸の持ち手のほうで抜き取り皿に広げ、シェアして喰うのは、喰う側の勝手と言えば勝手なのだが、じつは邪道なのである。

 

 多くの人は串からすぐに肉をはずして皿に広げてしまうことに抵抗感がない。それ自体はマナー違反ではないが、串の先から最後までをじゅうぶんに味わってもらえるように、串を打つ部位や大きさ、順番を考えて打ち、火の通しかたを工夫している「作品」を解体するのは野暮なのである。そうぼくは思っている。

 この「仁義」は食べる側が理解することであって、店の側から押しつけられることでもない。しかし、一人で仕込みから焼きまですべてをやっている職人はたいがい同じ思いだと思う。ぼくはホルモン屋の取材を通じて、数十人の卓越した技と舌を持つ職人と邂逅してきたが、皆がそう言っていた。

 串を一本打つ手間を考えたら値段的に割りが合わないので、できるだけ酒を飲んでほしい。串はばらすことなく一本をまるごと味わってほしい。才気あふれる職人の本音である。

 

 

『もつやき 松井』で打たれた串に敬意を払い、食す

『もつやき松井』(那覇・牧志)にはオープン直後に知人の紹介でおじゃまをした。串をひとくち食べて有名な「I」グループで修行した職人さんだなとすぐにわかった。さっぱりしたタレと、串の打ち方の丁寧さ。主人の松井祐樹さんに出自をたずねてみたら、やはりそうだった。

 このグループで厳しい修行を積んだ職人は、内臓の扱い方が手慣れていて、部位についてじつに詳しい。そして、仕込みが丁寧で、端肉などを無駄にしない工夫もいつも考えている。松井さんの打つ串も整然とした「美」がある。それが沖縄のやちむんとよく似合い、高級感すら感じる。

 

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『もつやき 松井』の主人・松井祐樹さん

 

『松井』はどの串を食べても一級品である。松井さんの繊細な火加減が内臓の旨味を最大限に引き出している。とくにチレ(豚の脾臓)がいい。脾臓を串で打って供する店はいまのところ沖縄ではお目にかかっていない。

 チレは地方によってはタチギモと呼ばれる。名古屋の下町の焼き肉屋ではそうお品書きに書いてあった。レバーと食感が似ているけれど、レバーよりもぼそぼそとした食感だ。レバーと心臓の中間的なかんじといえばいいのか。脾臓の表面に付着している「網脂」──テリーヌに使うクレピーヌのこと──を肉の間にはさんで焼いたり、肉にまいて焼くと、淡白なチレに脂のコクと旨みがプラスされて、チレの旨みがさらに引き立てられる。これぞバラしてはならない串の代表の一つだ。

 

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『もつやき 松井』の串「チレ+網脂」

 

 豚の内臓等を打った一本の串に敬意を払いたくなる店は、私の知る限りでは那覇では数店しかない。そのうちの筆頭が『もつやき 松井』である。『松井』は2015年に那覇にオープンしたばかりだが、オープンして数カ月も立たないうちに予約が取れないほどの人気店になった。それも、「串」文化がほとんど根付いていなかった沖縄で、である。県外からの客も多いが、地元の人も多い。

 

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こちらもお薦めの串、「てっぽう」

 

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『松井』は串以外も絶品ぞろい。写真は「こぶくろのぬた和え」

 

 最近、ぼくが名古屋の鶴舞という街でたまたま入ったモツ串の店も、ひとくち食べて、松井さんと同門のグループで修行した主人だとわかった。カウンターに陣取り、主人と話しているうちに興が乗り、豚の喉の器官部分全体を冷蔵庫から出してくれた。

 主人は部位の説明をしながら、目の前で包丁を入れ、すぐに串に打ち、炭火の上においてくれた。網脂だけを串に打って焼いてほしいと頼んだら、やってくれた。脂が香ばしくなるまで炭火の上におき、さっとタレをぬって供してくれた。「特別ですよ」。その美味いこと、美味いこと。以来、名古屋に行くたびにその店のカウンターに座るようになった。

 

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名古屋・鶴舞で出合った名店『もつ焼き 百蔵』の「チレ」

 

 

*本連載は、仲村清司、藤井誠二、普久原朝充の3人が交代で執筆します。記事は月2回(第1週&第3週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

*本連載の前シリーズ『爆笑鼎談 沖縄ホルモン迷走紀行』のバックナンバーは、 双葉社WEBマガジン『カラフル』でお読みいただけます。

 

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仲村清司(なかむら きよし)

作家、沖縄大学客員教授。1958年、大阪市生まれのウチナーンチュ二世。1996年、那覇市に移住。著書に『本音の沖縄問題』『本音で語る沖縄史』『島猫と歩く那覇スージぐゎー』『沖縄学』『ほんとうは怖い沖縄』『沖縄うまいもん図鑑』、共著に『これが沖縄の生きる道』『沖縄のハ・テ・ナ!?』など多数。現在「沖縄の昭和食」について調査中。

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藤井誠二(ふじい せいじ)

ノンフィクションライター。1965年、愛知県生まれ。8年ほど前から沖縄と東京の往復生活を送っている。『人を殺してみたかった』『体罰はなぜなくならないのか』『アフター・ザ・クライム』など著書や対談本多数。「漫画アクション」連載のホルモン食べ歩きコラムは『三ツ星人生ホルモン』『一生に一度は喰いたいホルモン』の2冊にまとめた。沖縄の壊滅しつつある売買春街の戦後史と内実を描いたノンフィクション作品『沖縄アンダーグラウンド』を2016年内に刊行予定。

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普久原朝充(ふくはら ときみつ)

建築士。1979年、沖縄県那覇市生まれ。アトリエNOA、クロトンなどの県内の設計事務所を転々としつつ、設計・監理などの実務に従事している。街歩き、読書、写真などの趣味の延長で、戦後の沖縄の都市の変遷などを調べている。最近、仲村と藤井との付き合いの中で沖縄の伝統的な豚食文化に疑問を持ち、あらためて沖縄の食文化を学び直している。

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