日常にある「非日常系」考古旅

日常にある「非日常系」考古旅

#04

割に合わない考古の基礎とスキル(前編)

文と写真・丸山ゴンザレス

 

 

 

 ジャーナリストをしながら、作家や編集者として出版業界に軸を置いた活動をしていると、この業界には「残念な法則」があることに気づく。それは「考古学をテーマにした本は、特に売れない」ということだ。

 

 今さら説明するまでもないが、「出版不況」といわれるようになって久しい。だが、そんな厳しい状況にあって、考古学の本は特に売れないジャンルだと思う。理由は(あくまで個人的な見解ではあるが)明らか。

 

 ロマンチックが止まってしまうからだ。

 

 関連書籍と言い切っていいのか微妙だが、雑誌なら『ムー』のように、オーパーツや超古代文明などを扱ったオカルト系の考古学本などは、一部で堅調な人気はあるが、考古学をメインテーマにして話題になった著作物といえば、ジャーナリストの立花隆氏が旧石器捏造事件、いわゆる“神の手”事件を追った『緊急取材・立花隆、「旧石器発掘ねつ造」事件を追う』(2001年、朝日新聞社)ぐらいなものだろう。

 

 そのほか思い浮かぶところでは、漫画なら『スプリガン』は、古代遺跡やオーパーツが登場するが主人公は戦闘員だし、『MASTERキートン』は考古学者が主人公ではあるが考古学自体はメインテーマではない。「インディ・ジョーンズ」は、エンターテイメント映画としては世界的なヒットとなったが、そもそも本ではない。

 

 こうやって見てくると考古学がテーマに組み込まれた作品で人気があるものには共通点がある。それは、専門家である考古学者が執筆していないということ。つまり、学問的には「厳密じゃない」ということだ。

 

 たとえば『スプリガン』では、前回に当コラムで取り上げた、富士山の溶岩に沈んだ超古代文明が登場する。それは、自分の足で歩いたことがあるだけに、考古学的にはあり得ないことだと実感できた。

 

「富士山麓に超古代文明ってあるんですか?」

 

 こんな質問をされたなら、こんなふうに返事をするだろう。

「超古代文明とかあり得ないです。遺跡のように見えるものは、溶岩の堆積と風化のもたらす錯覚でしょう。百歩譲って噴火による被害を考慮しても、周辺に関連施設の発掘事例が何もない以上、溶岩の下に都市が埋もれてしまったとも考えづらい」

 

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富士樹海には人工物に見えるような自然物がある

 

 幻想を盛り上げることもなく面白みに欠けており、完全にロマンチックが止まっている。考古学をかじった者の返事としては正しいはずだが、正しいことは面白いわけではないのは明らかだ。

 

 専門家のみならず、このあたりの面白さを重視する姿勢には、異論反論はあるだろう。私としてはこの学問の特色でもある「厳密さ」のような正しさを追求する姿勢にこそ、考古学をエンタテインメント的に普及させるための足枷があると思っている。もちろん厳密に追求するから面白いという考古学の魅力もあるのは間違いない。ただ、それでは本気で学者を目指す人しか考古学の面白さを享受できなくなってしまうのではないかという懸念がどうしても拭い去れない。

 

 さらに重ねて言わせてもらえば、プロではなくアマチュアならば楽しみを優先していいと思うのだ。超古代史のような歴史マニアやオーパーツ好きの人が中途半端な考古学の知識で趣味的に都合のいい解釈をするのは良くないという風潮が、プロの考古学者には根強くある。確かにその通りなのだが、学術と趣味とでは、そもそも目指しているところが違う。知られないよりは知られたほうがいいと、かつて考古学どっぷりの世界からドロップアウトした私なんかは思ってしまうのだ。

 

 前置きが長くなったが、結局のところ、研究者でもしていない限りは、好きなように学んだところで、考古学という学問の価値は何ひとつ損なわれるところはないということ。むしろ、もっと丁寧に噛み砕いて伝えていくことができれば、面白さだけではなく、先人たちが蓄積してきた学問としての奥深さが伝わっていくと思う。私が考古学を専攻した当時は、インディ・ジョーンズやキートンに憧れている同期が多数いたし、そんな連中の中には現在、考古学者として活躍している奴らがたくさんいるのだ。

 

 ということで、今回からしばらく、考古学の基礎をなるべく分かりやすく、そして面白おかしく紹介していきたいのだが、「お前にできるのか?」と、問われると困ってしまうところもある。ノンフィクションを書いていて、トップクラスに難易度が高いと感じるのは基礎の説明やシステムの紹介である。ここに考古学が抱えているロマンチックが止まってしまう現象も加わってしまうので、さらにハードルが高くなる。

 

 そこで、自分にできる範囲での噛み砕きに注力するため、厳密な学問の基礎というよりも、私が考古の現場で経験してきたエピソードを中心に、考古学の基礎的な部分をお伝えしようと思っている。

 

 考古学研究の土台を形成するのは、大きくわけると、ガテン系な「発掘」作業、引きこもる「整理」作業、学者っぽい「報告書」作業という3つのパート。今回は、その中の「発掘」について解説していこう。

 

 

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遺跡の発掘現場

 

 

 考古学といえば「掘ってるの?」と言われるほど鉄板のイメージ。それが発掘である。これは、宝探しではなく、あくまで調査。いったい何をしているのかといえば、「遺構」と「遺物」を探しているのだ。

 

 遺構とは建物などの痕跡のことで、遺物とは古いモノのこと。「遺跡を掘る」という表現が使われることもあるが、より正確に言うならば、「遺構や遺物を発見するために●●遺跡を掘っている」となる。

 

 遺跡が発見されるまでの導入は、あまりにもパターンが多いので一元化して説明することはできないが、多いのは工事現場で発見されたり、過去の調査区域に隣接していて遺跡と分かっている(可能性が高い)場所に調査が入るケース。また、最近では少なくなったが学術調査などもある。

 

 この遺跡の発掘現場を説明するには、現場にいる3種類の人たちを知っておく必要がある。

 

調査員・調査補助員

 

作業員

 

専門業者・オペレーター

 

 

 それぞれを細かく解説すると、すぐにロマンチックが止まりそうなので、極めてざっくりとまとめると、「調査員」は、遺跡の調査全般を取り仕切る現場監督みたいな存在である。特別な資格が必要というわけではないが、大学で考古学専攻して、発掘現場で調査補助員の経験が3年とか以上ないといけない。ともかく現場に関わることで「できません」がない人でないといけない。昨今では資格制にしようとする動きなどもあるが、発掘は経験が重視される世界なので、免許があればできるというわけじゃないのだ。

 

 いきなり調査員にはなれないので、仮免許的な役割になるのが、調査補助員である。広い意味では調査員の枠に入るが、調査員の助手的なポジションで、遺構検出、測量、写真撮影など、現場に関わるテクニック的なことは全部やる。大学院生とかが担う場合が多い。

 

 調査員と調査補助員は、調査員のほうが立場は上である。ただ、ほかの人から見たら現場を仕切ってまわす人なので、あんまり違いはないように見えるだろう。ただ、補助員には予算や日程の配分といった、発掘の事務的なことは任せられない。

 

 次に「作業員」は、その名の通り発掘作業をする人だ。整理作業も手伝う。バイトで募集されることもあるし、考古学専攻の大学生が勉強のためにやることもある。遺跡調査が多い地域ではベテランの作業員さんもいるので、学部の考古学専攻生などよりも知識や経験があることもある。

 

 調査員と補助員のような上下関係は、作業員と調査員の間にはあまりない。調査員と補助員は大学の先輩後輩だったりすることが多いので自然と上下関係もできやすいが、作業員の場合、現場の責任者はもっとフランクだ。

 

 行政や民間の企業が調査員と作業員を雇っているので、お互いに直接の雇用関係にもなかったりする。また、作業員さんたちはネットワークを持っていることもあって、調査員が「自分のほうが偉いんだ」的な態度を取ろうものなら、その人は総スカンを食らう。現場が回らなくなる。そのため、ベテランの調査員であるほど、作業員を大事にする傾向にある。

 

 そして「専門業者・オペレーター」は、いろんな発注に応じて部分的に請け負ってくれる、それぞれの専門業者だ。あくまで助っ人的な位置付けで、専属の作業員や調査員とは見えない線引きがある。このような前提で何ブロックかにわけた図面をつくって掘り始めるのだ。

 ちなみに専門業者・オペレーターとして測量士が杭を打ったり、座標なども移動させてくるが、そこまで専門的になると説明が難しい。本気で勉強する人のための専門書が無数に出ているので、そっちを参照して欲しい(本気の人の探究心は、俺には荷が重い!と言って逃げるつもりではない。なにせ、俺は昔、測量会社で働いていたこともあるほどだ……1年で倒産したけど)。

 

 

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高さを測る測量機材「レベル」

 

 

 調査するにあたって、まずしなければならないのが、調査区を設定すること。遺跡の規模が大きくなればなるほど全体像が把握できなくなるため、掘る場所を区切って発掘の計画を立てるのだ。どうやるのかというと、調査する区域の地図上にグリッド(格子状の線)を引く。図面上の架空の線というわけではなく、実際に見える線にするために遺跡内の同じ位置に地図と同じように水糸を張り巡らせるのが一般的なやり方だ。ちなみに、これを「グリッド方式」と呼ぶ。現場では難しい言い方をすることもなく、「グリッド切っておいて」と調査員が作業員などに指示をする。

 

 いざ掘り始める時は、草などが生えているようないわゆる「地面の土」を除去して、遺構を見つけることができるところまでざっくりと掘り下げる。このとき取り去る地面のことを「表土」と呼ぶ。現場では「表土はぎ」とか「粗掘」と呼ぶことが多いが、大抵の場合は表土なんて呼ぶこともなく、調査員命令で「いいから掘れ」で終わってしまう。

 

 かつてはこの作業が体力的に厳しい代名詞のようだったが、昨今では作業効率重視で先ほど紹介した専門オペレーターがこのあたりを担うのだ。重機による掘削も行われる(もちろん予算次第だが)。羨ましい限りである。

 

 私が学生時代には、このときの作業のために様々なトレーニングを……別にしなかったが、若い奴が中心にローテーションして何メートルも掘り下げることなど、ざらにあった。使う道具は、エンピ(スコップ)やジョレン(クワのような道具)である。重機的なサポートなど一切なかったので、かなりきつい。それでも若さゆえだろうが、いざ掘り始めると自分が一番の掘り下げ上手に思われたい対抗心のようなものが生まれてくることもある。特に横並びで掘っている現場では、手より口のほうが動くやつも多かった。

 

「俺は剣道部だったから柄モノの扱いは得意だ」

 

 そんなことを言って強がる同期もいたが、長時間の掘削を続けるには体力と筋力のバランスが必要なだけで、得意も不得意もなかった。今になってみればだが、考古学とはまったく関係ないことで競っていたなと思う。

 

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土に差さる掘削用の道具「エンピ」

 

 

 さて、この表土は、どこまで掘って、どこでストップするのかがポイントである。やり方はいろいろとあるが、結局は土の変化を見逃さないということに尽きる。

 

 見逃さずに観察するためには、宝探しのようにあちこち掘り起こす(これを「狸掘り」と呼ぶ)わけではない。同じ土の層だけの面を作り出す必要がある。そこで、全面を同じ高さに揃えてフラットにするのだ。色、密度(しまり)、含有物などなどを観察しながら、その土の中に遺構や遺物があるのかをチェックしていく。

 

 この違いが分かる目を持つことこそが考古学者なのだと思う。色、密度(しまり)、含有物など、素人目には違いなどほとんど分からないこともある。それを判別できるのだから、考古学者の目は、ある種の魔眼である。

 

 私はその違いをなかなか見分けることができず、師匠に「分かんねえっす」と言ったことがあった。すると師匠は事もなげに「人の手が入った土には、何年、何百年たっても痕跡は残る」と言った。人の手が入った土には、空気や不純物が必ず混入する。自然に堆積したものとは絶対に違う。たとえ僅かでも違うものになった土は重なり合っても見極められるということなのだ。かなり奥の深いことだったので、すぐにできるはずもなく、間違った見極めをすると先輩から「どうしてもわからなかったら土を食え」と言われたりしたこともある。それも含めて「土の違い」というのは、今でも忘れられない。

 

 

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わずかな土の違いを見極めて遺構を見つける

 

 

 僅かな違いを見逃さないように注意しながら、変化が見られるまで何メートルだろうと掘り続けることもある。そうやって遺物や遺跡が含まれている高さにぶつかった場合、作業自体が大きく変わる。

 

 まず、これまでのメインウェポンだったエンピから、移植(移植ゴテ)、ねじり(手がり)、根切(ハサミ)、おたま、釘や竹串、ミ(箕=バスケット)に持ち替える。

 ここからは掘るというよりも土を削る感じで、数センチ単位で掘り下げていく。中腰で周りの土を崩したりしないように気をつけながらひたすらガリガリと削っていくのだ。

 

 さすがにこの段階になると調査員もすべての作業員を見ることは不可能になってくるので、作業員の判断にある程度は委ねられる。

 

 優秀とされる作業員ほど、調査員にあれこれ質問しない。このあたり、調査員が求めていることを想像するよりも、どのぐらい層位を下げるのが適切なのかを自分で考えながらやったほうがいい。特に発見した遺物は動かさずに先ほどの普段はめったに見ることもないような道具を使ってソロリソロリと土をどけていくしかない。

 

 土をどけてからは、遺物や遺構は図面や写真を撮って記録していく。そこで、先ほどの道具たちで土清掃(浮いた土の取り除きテク)をする。本当に細かい粒子の土を綺麗に見せなければいけない。この作業は、後に裏社会取材で直面したコカインをガラステーブルでカードやカミソリの刃などで切り分けたりするあの動きと同じような感じに似ていると思った。高騰しているときなど1グラムの末端価格が万単位になることもあるのだから、慎重に動くことになる。それと同じような動きをするのだ。いかに発掘作業が細かいテクニックを必要とするかおわかりいただけるのではないだろうか。

 

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発掘道具、ミを収納容器にして移植、根切などがまとめられている

 

 

 さて、本筋に戻すと、先ほども触れたように、検出の様子は記録しなければならない。遺跡の現場風景写真などで、画板を持っている人がいる。実はあの人たちが記録を取っているのだ。画板なんて小学校以来使っていないという人も多いだろうが、遺跡の発掘現場では現役バリバリで使われているばかりか、ベテラン作業員か調査員でないとこの画板は持てないので、ある種のステータスでもある。

 

 どんな記録を取るのかと言えば、出土状況(場所)を図面に記録して、写真でビジュアル的に記録、GPS(昔ならレベルと平板測量あたり)で座標を記録する。ようやく専門技術っぽくなってくるが、実は、この作業がかなりしんどい。

 

 出てくる遺物の位置情報の確認は必ずする。細かな破片一個ずつである。もちろん何も出ないよりはいいのだが、土器片だけでも気の遠くなる数が出土する遺跡にあたった時は、嬉しさはあるが、「マジかよ」感は半端ないのだ。

 

 ここで調査員から言われて嬉しい魔法の言葉がある。それは「一括」である。不規則にまとまって出てきた土器片があまりに多い場合、写真と目立った土器片を記録して、残りは「一括の出土遺物」としてまとめてしまうのだ。

 

 ちなみに私は学生のときに参加した調査で、初めて見つけた土器をつかんで「アリました!」と高々と掲げたことがある。

 

「バカか!どこから出土したかわかんなくなるだろ!」

 

 現場を監督していた考古学研究室の助手のTさんから、めっちゃ怒鳴られながらも、「そうなんだ!」と納得したのを覚えている。発掘した際の遺物の扱いというのは、どこの遺構のどの土層(考古学では地層のことをこう呼ぶ)に伴うものなのか、遺物の素性が分かることがもっとも大事なのだ。それを愛のムチとともに学んだのだった。

 

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発掘時の記録風景、白いボードが画板

 

 

 さて、こうやって説明すると、きついばかりで面白いことが何もないように思えるが、そんなことはない。どんな遺跡だろうと共通して訪れる最高の瞬間がある。

 すべての範囲を掘り終わったことを完掘という。何日もかけて遺跡を発掘するために真剣に向き合ってきたことで、遺跡全景を眺めると、私にはそこに居た人たちがイメージできるような気がするのだ。

 

 今の日本で見つかる住居跡、墓、道、祭祀場などの発掘では、冒頭で紹介したフィクション作品のように未発見の巨大遺跡を探してジャングルに分け入るようなロマンチックな冒険はできないだろう。だが、たとえどんな規模の遺跡であっても、土の下から古代人の生活の痕跡がみつかることに私は感動していたし、調査に携わった人たちの多くが、同じように思っていたと思う。そんな止まらないロマンチック魂を持ち続けることが考古学を志す人にとって、もっとも必要なものなのかもしれない。

 

 次回は整理作業と報告書についてお届けしたい。

 

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*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。お楽しみに!

 

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丸山ゴンザレス(丸山祐介)

1977年生まれ、宮城県出身。國學院大學大学院修了。考古学者崩れのジャーナリスト。フリー編集者。出版社勤務を経て独立。國學院大學学術資料センター共同研究員。TV番組「クレイジージャーニー」(TBS系列)では、世界中のスラム街や犯罪多発地帯を渡り歩く“危険地帯ジャーナリスト”として人気。2005年『アジア『罰当たり』旅行』(彩図社)で作家デビュー。以後、著書多数。【丸山ゴンザレス】名義:『海外あるある』(双葉社)、『闇社会犯罪 日本人vs.外国人 ―悪い奴ほどグローバル』(さくら舎)、『アジア親日の履歴書』(辰巳出版)等。【丸山祐介名義】:『図解裏社会のカラクリ』『裏社会の歩き方』(ともに彩図社)、『そこまでやるか! 裏社会ビジネス』(さくら舎)等。近著『GONZALES IN NEW YORK』(講談社)が好評発売中。旅行情報などを配信するネットラジオ「海外ブラックロードpodcast」では、ラジオパーソナリティーとしても活動中。

双葉社の既刊本好評発売中!!

ISBN978-4-575-30635-4

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