京都で町家旅館はじめました

京都で町家旅館はじめました

#03

床の間クエスト〈前編〉

文・山田静

 

 君は、床の間について考えたことがあるか。

 私はある。

 というか、まるっと1カ月はそのことで頭から煙が出そうになっていた。

 

 

建物をひきたてるような、きれいな品を揃えなきゃ。

「じゃあ、あとはよろしくお願いしますね」

 着工から数ヶ月、いよいよ新築の町家旅館がほぼ完成し、4月下旬に工務店から建物の引き渡しが行われた。

 が、よろしくはいいけれど、できているのはハコだけ。 ここに入れるちゃぶ台や座布団、花瓶からシャンプー・リンスからそのシャンプー・リンスを入れるボトルから管理人室のボールペンに至るまで、備品担当の私が買うことになっていた。与えられた準備期間は引き渡しから営業許可が下りるまで、だいたい1カ月ちょいだ。

 引き渡しを待っていたのでは間に合わないのは目に見えていたので、工事期間中からメジャー片手に作りかけの現場を測りまくっては写真を撮り(大工さんたちにはさぞ邪魔だったはず)、よさげな京都の業者を探してアイテムを選ぶ、というのを繰り返してはいた。

 前回お話したとおり「一見さんですか?(受話器ガチャリ)(またはドアピシャリ)」対応を想像していたのだけど、接触した業者はみな商売と商談好きなのだった。さらに「旅館なんですが」というと、俄然前向きになる。どうやら京都の商売人たちにとって「旅館」は、ロット数がどうあろうと継続的な商売が成り立つ伝統あるマーケットとして受け取られている、ような気がする。

 やっぱり、世界一の観光都市は違うのだった。

 

 なーんて感心している暇もなく、とにかく何もかも一気に決めなければいけない。しかも、必要かつ建物に見合ったものを。

 

 しかもこのハコが、まことに美しいんである。

 格子窓に銅の雨どい、犬矢来、ばったり床几。道行くご近所のお年寄りたちが口々に「あら懐かしいわあ」と言いかわし(そのたびに床几を下ろして見せたり忙しかった)、通りかかった外国人はちゃっかり撮影スポットに活用している。中に入ると奥には吹き抜けのロビーがあり、これはかつての「おくどさん」、台所スペースを旅館のロビーに仕立てたものだ。石の上に据えられた大黒柱に天井の梁、真新しい土間(真新しい土間というのを生まれて初めて見た)、竹で編まれた網代天井。

 実のところ、テーブルや椅子は、アンティークで値ごろなアイテムを揃えようかな、と設計図段階では思っていたのだけれど、完成した建物を見たらそんなことは言えなくなってきた。

「新しいことは自分は何もやっていませんよ」

 と設計士さんが言うとおり、忠実に町家作りを再現しているのだが、今の我々が見るとすごくおしゃれで新しい(実際新築だし)し、センスがいい。

 

 建物をひきたてるような、きれいな品を揃えなきゃ。

 と言っても、こちとら素人である。考えること、決めることは多く、時間がない。焦るあまり、一度は柄にもなく発熱して寝込んだりもした。たぶん、脳のメモリが全然足りなくて、中古パソコンみたいに熱くなっちゃったんだろう。

 

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町家旅館「楽遊」の建物をご紹介。まずは犬矢来と出格子。町家ではおなじみ

 

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2銅の雨どい。雨に濡れると風情が増す

 

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「ばったり」と下ろすとベンチに変身する、ばったり床几。本来は「揚げ店」という商品陳列スペースだったそう。

 

 

「床の間どうします?」……は?

 

 近ごろよく聞く京町家。「新しい旅のスタイル・町家ステイ」なんてキャッチコピーも目にする。

 そもそも、どんなものだろうか?

「平安京の町割りを下敷きに中世、近世を経て洗練と完成を見た伝統的な都市住宅が京町家と呼ばれています」(京町家netより)

 ふむふむ。

「ひとつひとつの町家が伝統工法の優れた技術の集まりであると同時に、町家はそれぞれが連なり、向き合うことで、奥行きのある京都の街並みをつくりあげてきました。隣り合って住むなかで培われた作法、四季を愛でる工夫や年中行事、そのような都市の生活と文化を継承する受け皿が京町家です」(同サイト続き)

 なるほどねえ。

 受け皿、大事にしていきましょうよ。そうね、行政とか地元の人々の力で、よくあるじゃないですか、町おこし的な。まあちょっと、伝統とか文化とかは私には敷居が高いのでそれは専門家の皆さんにお任せして……と、思ったら。

 

「床の間どうします?」

 は?

 京町家がそういうものだったというのを知ったのも実を申せばつい先日、というワタクシに、唐突にそんなことを聞かれても。しかもこちとら、お風呂の棚にぴったりサイズのシャンプーのボトルも考えたりしてて忙しいんですけど。

 が、確かに、各部屋およびロビーには、「床の間」スペースができている。そうだ、ここに何を置くかも私が考えるんだった。

「掛け軸ですかねえ」

「ですかねえ。あと花入れ?」

 ボンクラマネージャーを前に、工務店の社長と設計士さんがうなずきあっている。

「ここはやっぱり掛け軸かけるんですか? 花は?」

 見学に来たご近所さんたちも、床の間コーナーを見ては聞いてくる。 

 

 掛け軸。

 そういえば床の間というものには掛け軸がかかっている。ような気がする。

 が、しかし、掛け軸ってどこで売っているのか。1枚(単位は枚でいいのか?)おいくら万円なのか。あと、ここの床の間って、私の知ってるのと違くないか?

 ……まずい、驚くほど何も知らない。

 画像検索してみると(ネット時代に心からの感謝を…!)、これは「釣り床」という簡易床の間。天井からカバーのように壁を吊った京町家によく見られるスタイルで、床が一段高くなっておらず、畳敷きのままだ。お正月など飾りが必要なときだけ、床に可動式の「置き床」を据えたりするのだとか。これなら町家の小さな部屋もすみずみまで有効活用できるし、あら、合理的。しかしやっぱり「掛け軸や花入れを飾るのが一般的」と記載されている。

 むむっ。

 これは困った。ヤフオクやメルカリでも買えるんだろうが、まさかこの端正な建物に、そうもゆかぬ。

 迷っているさなか、インテリア小物を探すべく「天神さん」(北野天満宮の縁日)の古物市に繰り出した。

「あ!」

 掛け軸を山積みにしている店がある。

「ゲストハウスさんには、文字の軸が人気ですねえ。『愛』とか『心』とか。あとは季節を選ばない山水画とかですかねえ」

 事情を話して色々見せてもらったが、どうもぴんとこない。少なくとも「愛」じゃない気がするし、年代ものの掛け軸もちょっと違う気がする。

 あの素敵な町家にしっくりくるのって何だろう? 

 アドバイスを求めて設計士さんに相談したところ、知人の折り紙の先生のお宅に連れて行っていただいた。和の作法やマナーにも詳しい方なので「もしかしたらヒントをくださるかも」ということだった。

 

 ……めちゃくちゃ難しい……。

 来たついでに、と、折り鶴をベースにした小物入れやブックエンドを教えて頂いたのだけれど、哀しくなるほど自分の理解力が低く、かつ仕上がりも下手くそだ。

「あ、なるほど。分かった」

 展開図はお手のものなのか、設計士さんはちょっと手元をのぞき込んだだけですいすいと折っていく。しかもキレイ。くう、負けるものか。

 って、そういう場ではなかった。

「こういうのも楽しいでしょう。お客様には、楽しんでいただくこと、遊んでいただくことがいいと思うんですよ。型は気にしないことです」

 先生はにこにこしながらそんなことを言う。

 ふむ。

 もしかしたら掛け軸でなくてもいいのかな。

 先生手作りのたけのこご飯(京都はこの時期、どこに言ってもたけのこが出てくる)をほおばりながらそんなことをぼんやり考えていた。

 

 *床の間の旅、以下次回に続く!

 

 

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「楽遊」の町家建築、内部もご案内。こちらは吹き抜けのロビースペース

 

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新品の土間と大黒柱。年月が経った状態をイメージして、ところどころにわざと、石ころを配置している。おしゃれ

 

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竹の網代天井など、天井は数種類のデザイン。すみっこにあるのが「釣り床」

 

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ロビーから玄関を望む。木のリズムが美しい

 

 

 

*町家旅館「京町家 楽遊 堀川五条」の最新情報はこちら→https://www.facebook.com/luck.you.kyoto/

 

*本連載は月2回(第1週&第3週水曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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山田 静(やまだ しずか)

女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』『成功する海外ボランティア』など企画・編著書多数。2016年6月開業の京都の町家旅館京町家 楽遊 堀川五条の運営も担当。

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