ステファン・ダントンの茶国漫遊記

ステファン・ダントンの茶国漫遊記

#03

日本茶ファンを作る旅1−吉祥寺

ステファン・ダントン

 

                                                                                         

 

育った茶樹1

 

 

日本茶ファンの開拓

 

 日本茶のすばらしさに魅せられ、その可能性を確信した私は、その魅力を発信する方法を考えていた。
 かたい言い方をするなら「日本茶の消費拡大に寄与したい」となるのだろうが、私は「日本茶ファンを増やしたい」、とずっと考えていた。これまで日本茶に関心のなかった人たちを振り向かせ、さらにファンになってもらうためにどうするか?
 多くの外国人にとっての日本茶は、苦いような青臭いような馴染みのないもの。静けさの中で粛々と行われる茶道で供される、異文化理解の教材のようなものだったりする。
 日本の若者にとっての日本茶は、コンビニに並ぶペットボトル飲料の中からなんとなく選ぶもの。飲食店のサービスで出されるもの。あるいはお年寄りがすするもの。少なくともオシャレな飲み物だとは思われてなさそうだ。
 彼らを振り向かせるためには、彼らの頭の中にある「面倒くさい」「オシャレじゃない」日本茶像を、「気軽で」「おもしろい」ものに切り替える必要があった。
 そこで私は、日本茶にフレーバーをつけた。
 茶葉に花びらや果物の皮やアラザンでお化粧をして、見た目も楽しめるように工夫した。夏みかん、桃、ラ・フランス、チョコミント、アールグレイ…。まずは、
「おもしろい! なにこれ?」
という感想でいいから興味を持ってもらわないと話が始まらない。
 興味を持って手に取る。香りを嗅ぐ。口に入れる。
「意外とおいしい!」
という言葉が引き出せれば、新たな日本茶ファン開拓のスタートだ。

 

 

 

吉祥寺の街に日本茶を植える

 

   そんな私のアイディアを形にする基地として、吉祥寺の商店街のはずれに「日本茶専門店おちゃらか」をオープンしたのは2005年夏のことだった。
 しつらえはごく和風にした。格子戸を開けると土間に並んだテーブルと中央には赤いソファ。畳の小上がりのある店内。中央には赤いソファ。煎茶、ほうじ茶、万葉茶といったスタンダードな日本茶と、今では50種類以上になったが当初は8種類のフレーバー日本茶を置いた。
 もちろんフレーバー茶とオーソドックスな日本茶の販売が主な柱だが、カフェスペースと、各地から集めた和雑貨の販売もした。
 「この3つの柱のうち、どれかに関心を持つ人がいるだろう。最初のきっかけは必ずしも日本茶ではないかもしれない。まずは、店に入ってもらうことが大事だ。その人がおちゃらかファンになってくれれば、その人を日本茶ファンにしてみせる!」
 そんな思いを店の外の小さな花壇に植えた茶樹に込めた。
「お茶は植えてから収穫まで5年かかる。でもそれから70年は収穫ができる。焦っちゃだめだ。最初はゆっくりと、おちゃらかと日本茶を吉祥寺の街に根付かせることを考えよう」
茶農家からもらった苗木は、丹精すると少しずつ成長していった。

 

 

 

 

おちゃらか吉祥寺店内JPG

 

おちゃらか店内オープン当時1

 

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育った茶樹1

おちゃらか吉祥寺店のオープン当時の様子。店の外には育った茶樹がある。

 

 

商店街での過ごし方

 

 朝、店のシャッターを開けると大きく息を吸い込む。なんとなくその日の街の空気を感じながら、店先の掃除や茶樹の手入れをしていると買い出し帰りのレストランの店主や犬の散歩をする近所の人が通りがかる。「おはよう!元気?」声をかけあう。店で使う果物やハーブをすぐ近くの八百屋さんに買いにいく。他愛もない話をしながら店に戻るとちらほらとやってくるお客さん。
 夕方、塾帰りの小学生が毎日通る。お母さんに手を引かれる子どもが保育園から帰ってくる。「こんにちは」と声をかける。小さなカップでお茶をあげることもある。
 そんな毎日の過ごし方は、リヨンの商店街で花屋を営む母の様子と重なるようだった。
「商いはお互い様」
という母の言葉はいつも私の中にあって、まったく別の場所で別の商売をしているのに、母がしてきたように周りとの関係を築こうとしていた。
 夜、店を閉めてから、飲みに出かけることもあった。私と同じように、後ろ盾なく自分だけのオリジナルの店作りをしている飲食店が吉祥寺には多かった。そんな店で飲みながら店主と語り合いながら飲むうちに、近所の顔見知りが入ってきたり、その場で知り合った人と意気投合したり。そんな彼らが時にはおちゃらかに来てくれることもあった。
 少しずつ、少しずつ、吉祥寺という街に自分のポジションができてきた。

 

 

 

吉祥寺居酒屋

                    吉祥寺にある居酒屋にて、顔見知りが増える。

 

 

 

           

    

おちゃらかファンを作る

 

 

   吉祥寺はさまざまな人が行き来する。長年住む家族、一人暮らしの若者、通学の学生や外国人を含む観光客。
 たくさんの人が往来する吉祥寺ではあっても、店を始めた途端にお客さんが来るわけはない。広告をするような余裕はなかったが、「外国人がカフェを始めたようだよ。一度くらいは行ってみようか」と少しずつ近所の方がお茶を飲みに来てくれるようになった。年齢も性別も国籍もさまざまだった。青果店の女主人、レストランオーナー、ご家族連れ、塾帰りの小学生とお母さんたち、本を読みにくる人も休憩に利用する人もいた。
 日本茶を目当てにする人はほとんどいなかった。でも、それでよかった。
 その日の気分でフレーバーを選んだり、日本茶の銘柄を覚えたりするうちに日本茶そのものへの興味を持ってくれるようになったから。それが私の狙いだったから。
「日本茶に興味のない方にもおちゃらかに来てもらいたい。彼らが日本茶に親しむきっかけを作りたい」
 そんなふうに考えて、毎週末店先ではいろんなイベントをした。新茶の季節には産地から茶娘を呼んで新茶イベントをしたり、フレーバー茶の詰め放題をしたり。お茶の香りと賑わいで人を呼び込んだ。カフェで使っている茶器を制作する職人を呼んで陶器作りの体験イベントをすることもあったし、時にはフランスの漫画バンデシネのイベントをしたり、アーティストの個展や寄席を開いたり。さまざまな興味を持つ人と話題を呼び込む仕掛けをいくつも作った。
 話題は賑わいを呼び、賑わいは話題を呼び、吉祥寺散策の若者が入ってくれるようになる。おちゃらかを目指してやってくる人も増えた。
「何これ。いい匂い!」
そんな彼らに、
「こういうのは香りっていうんだよね」
と教える。フランス人の私が日本人にそんなことをいうんだから不思議だ。でもそれでいい。「おもしろいフランス人のやってるカフェでいい香りの日本茶を買ってきたよ」と、家に、友達に持ち帰ってくれる。
 フランス人が開いた日本茶専門店ということが広まると、敷居が低くなったのか、外国人も増えてきた。フランス人はもちろんアメリカ、台湾、韓国など。
 そんな多様な人たちの中から、常連さんが生まれ、おちゃらかを中心にしたコミュニティのようなものもできてきた。おちゃらかではさまざまなパーティを企画した。フランス人シェフを招いて「フランス料理とともに日本茶を楽しむ夕べ」、「七夕パーティ」、「ワイン講座」や外国人に向けた「日本茶講座」。
 「おもしろい」外国人の店で「おもしろい」体験をしている背景には常に日本茶がある。最初は、興味のなかった人がフレーバー日本茶をいろいろと試すうちに、だんだんとオーソドックスな日本茶に目を向けるようになってきた。こうなったらしめたものだった。おちゃらかファンを日本茶ファンにする第一歩が始まった。

 

 

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テレビ取材も来るほどに。

 

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茶娘を呼んだ新茶イベント。店頭に立つ茶娘たち。

 

 

 

七夕パーティ1

                          

七夕パーティ2

 

七夕パーティ3

七夕パーティの様子。

 

 

おちゃらか吉祥寺店頭イベント

おちゃらか吉祥寺店で、生産者による店頭イベントも開催。

 

太郎さんイベント1

 

太郎さんイベント2

おちゃらかで使っている茶器を制作する太郎さんによる陶器制作体験イベント。

 

 

バンデシネイベント2

バンデシネイベントの様子。

 

 

外国人向け日本茶講座1

外国人向け日本茶講座の様子。

 

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ワイン講座の様子。

 

 

 

日本茶の産地へ

 

 

    おちゃらかをオープンして2年ほど経って、常連さんの中でも日本茶そのものに興味を持つ方が増えてきた。長年温めてきた茶産地ツアーを実現するタイミングだった。
 「いつも飲んでいる日本茶がどんなところで作られているか見てみたくない? 川根というところは茶畑もあるし大井川もあるしお蕎麦はおいしいし温泉もあるよ。SLにも乗れるよ」
そんな私の誘いに「ツアーを組んでくれたら必ず行く!」と即答してくれた10数人の常連さん。
 おちゃらかファンを吉祥寺から川根に連れていく。「おもしろい」日本茶体験は、彼らを本当の日本茶ファンにしてくれるはずだ。
 


 

 

 

 

*この連載は毎月第1・第3月曜日(月2回)の更新連載となります。次回もお楽しみに! 

 

 

写真/ステファン・ダントン    編集協力/田村広子、スタジオポルト

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ステファン・ダントン

1964年フランス・リヨン生まれ。リセ・テクニック・ホテリア・グルノーブル卒業。ソムリエ。1992年来日。日本茶に魅せられ、全国各地の茶産地を巡る。2005年日本茶専門店「おちゃらか」開業。目・鼻・口で愉しめるフレーバー茶を提案し、日本茶を世界のソフトドリンクにすべく奮闘中。2014年日本橋コレド室町店オープン。2015年シンガポールに「ocharaka international」設立。2017年路面店オープン予定。著書に『フレーバー茶で暮らしを変える』(文化出版局)。「おちゃらか」http://www.ocharaka.co.jp/

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