京都で町家旅館はじめました

京都で町家旅館はじめました

#02

フレンドリーな京都人

文・山田静

 

京都の人は商売大好きであしらい上手だった

「いま通ったあの百円ショップの朱肉がいいんですわ」

 は?

「こないだ不動産の書類に急に判押さないかんことになって、家に朱肉がないんです。で、たまたま通りがかった、あこで買うて。そしたらこれがいいんですわ。郵便局のと質はおんなじ」

 は?

 となるのも仕方ないんである。

 だって、話してるのはタクシーの運転手。こっちは通りすがりの乗客である。運転手はそのまま10分間朱肉について、及び自分がなぜ朱肉が必要だったのかということを話し続け、「朱肉探してるんならあの店がいいです、お客さん」という結論に達したところで河原町三条の目的地にピタリと着いた。

 

 京都に暮らして数ヶ月。開業準備を進めながら毎日、様々な人々と会うのだが、最初に戸惑ったのはタクシーの運転手だ。

 とにかくよくしゃべる。京都のうんちくならまだわかるのだが、芸能人の家の場所やら、姪っ子が料理学校に入ったことやら、肉じゃがが苦手な理由やら、「それを私に言ってどうする」という内容も珍しくない。

「サービスのつもりなんですよ」

「沈黙は悪だと思ってるから」

 周りの関西人は口々に、(そしてちょっと嬉しそうに)そう説明する。

 

 タクシーに限らず、京都の商売人は口が立つ。そして、人をあしらうのがうまい。

 例えば、近所にある行列ができるお好み焼き屋。予約はとらないはずだがダメもとで電話してみると、

「はい、聞いときますね。いつもありがとうございます。でも、ちょっと込んでたら、少し並んじゃうかも。そしたらごめんなさいね」

 おお、見事。東京なら「予約受けてませんので、申し訳ございません(ガチャン)」で終わるところだ。これなら客は拒否された感じはしないし、並んでも腹も立たない。店としても、状況によって少しだけその客に配慮すればいいだけだ。

 

 京都に来ていちばん心配していた「一見さんのヨソモノは相手にされないんじゃないか」というのは、確かに観光や旅館業では杞憂だった。詳しくはまた次回に譲るが、旅館業は、地元に継続的に富をもたらす可能性がある商売として、京都人だろうが「外資系」だろうが、おおむね歓迎されるのである(が、ゲストハウスだと扱いは別らしい。これまた次回以降、語ることとする)。

 

 と、いいますか。だいたいの人はみんな、商売大好き、かつあしらい上手で話好きなんである。

「通りがかったんで、座布団見せてもらおうと思って」

「ネットで見たんですけど、館内着のオーダーメードをお願いできるんでしょうか?」

 私の最初の重要任務は旅館の備品をイチから調達すること。京都に縁もゆかりもないがゆえに、ひとつひとつ地道に業者を探していったのだが、老舗だろうが中堅どころの会社だろうが、誰も彼もが、

「明日、現場行きますよ。色見本と座布団の見本いくつか持っていって、建物と大きさや色をあわせましょう」

「はい、これから車でそっちに行きますから、会ってお話しましょ」

 ……とにかく動きが速い。そして、こちらの要望を聞いて、その場でいくつもの提案がなされる。さらにその話の流れで、うちの旅館的に「高くも安くもない価格」に落とし込むのがうまいし早い。気がつくと発注しているんである。

 東京と全然違う。

 営業マンと「どうもどうも」と名刺交換してカタログを見て、いくつか提案を受けて値段を揉んで、いくつものハンコと「どうもどうも」を経てようやく現物入手、というのに慣れてただけに、最初は面食らったが助かった。たかが7室だけに発注数も少ないのだが、そこは誰も問わないのもありがたかった。

 このスピード感と巧みさは、京都の商売人の多くが、大きく店を広げるよりも、小さく手堅く商いをしていることに関係している、とある人に教わった。

 

 この街では、昔っから、こんなことを言うらしい。

「おできと町工場は大きゅうなったら潰れる」

「店はびょうぶとおんなじ。広げすぎると倒れる」

 うまいこと言わはるわあ。

 

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毎月21日は近くの東寺の弘法市。「と→う→じ(発音フラット)までお願いします」とタクシーに乗ったら、「とう↘じ(上から下に下がる発音)、や」と到着まで発音講座を受けさせられた。

 

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古くから続く木工工房を見学。小さな作業場にはみごとな製品がぎっしり。ノコギリやカンナの種類にも驚く。

 

 

東京をdisって京都をホメる

 さらにもうひとつ、京都の人々が大好きなのは、「東京dis」と「京都をホメられること」なのだった。

 とある集まりで、京都の多種多様な伝統産業について話を聞いた。数百年もの間しっかりと伝統が受け継がれている話には深く感じ入ったのだけれども、間にちょいちょい東京の悪口が入るのが可笑しい。

「まあ、東京は100年したら老舗、って言って、商工会議所からお墨付きが出ますけれども、京都ならたいがい“たかが3代”って謙遜しますけどねえ」

「指物は、もとは京都の宮廷文化や寺院で生まれ育った繊細なもの。江戸指物は、お侍が刀で斬り合うような場所だからでしょうかね、骨組みがずいぶんと太くて。我々から見ると『えらいごつくさいもの造らはったなあ』と思うんですけどね、まあ、壊れにくさ優先なんでしょ」

 ……。

 

 また、世間話をしていて、東京から来たというと必ず「いいなあ。華やかなとこですよねえ」「京都は田舎でしょう」と返されるのだが、ここで同意してはいけない(というのは引っ越して3日目には悟った)。

「やっぱり京都とは歴史が違いますもの。田舎ですよ」

「人が多いだけですよ。うるさくてかないません」

 などと返すと、その後の流れがスムーズなんである。

 たとえば、こんな会話があった。

「京都は住みやすいですか?」

「料理はもちろん、食材がおいしいからうれしいです。それに、なんてことない食堂でも、料理の見た目がきりっと美しくて感心します」

 実際そう思ってることを返すと、相手は、

「京都って山に囲まれて食材が乏しいでしょう。だから見た目を工夫するしかないんですわ」

 といいつつ、明らかにうれしそうになり、

「でもまあ、食材を見る目も育ちますわな。あと、盛りつけがきれいでないと客もそっぽ向きます。あ、今度、いいとこご案内しましょ」

 などと話が進んでいくわけである。

 この流れが面白くて、

「いやあ東京なんてひどいところで」

「私なんてものを知らなすぎて話をするのも恥ずかしくて」

 と、どんどん、罪のない東京や己を自ら低いところに追いやってしまい、たまに我に返って己にブレーキをかけるのだった。

 

 そして京都暮らしも2カ月ほど経ったある日。東京から手伝いに来てくれた友人とタクシーで取引先に向かう道中、

「山田さんえらくフレンドリーになっちゃって」

 と言われてびっくりした。どうやら私、無意識にドライバーに、

「明日雨降るかなあ、洗濯物干したいんだよね」

 などと語りかけていたようで、嫁が洗濯物をたたむのが苦手、というドライバーとナチュラルに会話が弾んでいたのだ。

 やばい。私はすでにこの都に取り込まれているのかもしれない。

 

 

京料理はもちろん立ち食いうどんまで、盛りつけが美しい。四条大宮駅そばの『ヤオイソフルーツパーラー』のフルーツサンドと、京都駅八条口近くの立ち食いうどん(写真はおまかせうどん)はお気に入りスポット。

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*町家旅館「京町家 楽遊 堀川五条」の最新情報はこちら→https://www.facebook.com/luck.you.kyoto/

 

*本連載は月2回(第1週&第3週水曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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山田 静(やまだ しずか)

女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』『成功する海外ボランティア』など企画・編著書多数。2016年6月開業の京都の町家旅館京町家 楽遊 堀川五条の運営も担当。

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