旅とメイハネと音楽と

旅とメイハネと音楽と

#02

トルコ・カッパドキアのフェス「Cappadox」取材記〈1〉

文と写真・サラーム海上

 

8ヶ月ぶりのトルコはカッパドキアのフェス取材

  5月17日から26日まで8ヶ月ぶりにトルコに行ってきた。一番の目的は19日から21日の三日間にわたり、トルコの世界遺産であり観光名所のカッパドキアにて開催された総合フェスティバル「Cappadox」の取材だった。

 Cappadoxは昨年(2015年)5月に第一回が行われ、今年は第二回目となる、まだ始まったばかりのフェスだ。そんなフェスを知ったのは、一年前にイスタンブルの友人たちによるfacebookへの投稿を見たのがきっかけだった。

 昨年春先、僕のfacebookのタイムラインにはイスタンブルの音楽やアート関係の友人たちによるCappadoxという言葉が目立ち始め、その後、予告写真や予告映像の投稿が続いた。そして、フェスの三日間はカッパドキアで最も標高の高いウチヒサル砦に設営された巨大な野外ステージで、ターキッシュジャズのサックス奏者イルハン・エルシャヒンが演奏している写真や、100機の熱気球が空に浮かぶ明け方のローズ・ヴァレー(光の反射により土がバラ色に輝く奇岩の谷)でスーフィー(イスラーム神秘主義)音楽家のメルジャン・デデが演奏している短い動画などが次々と投稿された。

 自宅のiMacの画面を通じてそれらを羨ましく見ていた僕は「来年は絶対にこのフェスに行く!」とその場で決めた。そして、今年の2月に第二回Cappadoxの日程が発表になると、出演アーティストのチェックもせずに、すぐにトルコ行きの航空券を予約して、フェスの主催会社Pozitifに連絡して、プレス申請を行った。幸い、Pozitifの現代表のアフメト・ウルー氏とは10年以上も付き合いがあるので、すぐに「宿はこちらで手配しますので、5月にカッパドキアでお待ちしています」と返信が返ってきた。

 

salam02_01

こんなに素敵な野外フェス、絶対に行くべきだろう

 

 

イスタンブル行きの機内で興味深い出会い

 5月17日、僕は8ヶ月ぶりに成田空港に向かった。前回の連載でも記したとおり、直前まで新刊『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』のプロモーションイベントを行っていたため、出張の準備はまったく進まず、今年のCappadoxの出演アーティストや、音楽コンサート以外のアクティビティーをチェックする時間は全くないままだった。そして、出発当日の朝にスーツケースに必要な荷物を全部詰めて、夕方に吉祥寺から成田空港行きのバスに乗った。

 イスタンブル行きのターキッシュエアラインズ機内では隣の座席に座った老紳士と興味深い出会いがあった。美人のフライトアテンダントが彼にむかって「ミスター~~」と話しかけると、「君のように美しい女性は、ファーストネームのダギと呼んでくれないと困るよ。その代わり、私も君のことをファーストネームで呼ばせてほしい」となかなかのスケベオヤジらしい気の利いたセリフを言う。

「あなたはイスラエルの方ですか?」

「そう。ダギという名前でわかったかい? 私は1980年からこれまで150回以上も日本に来ているんだ。君はイスラエルには来たことあるかね」

「ええ、三回だけです。最近は音楽や料理の取材で訪れました」

「イスラエルに知り合いはいるのかね」

「ええ、音楽家のイダン・ライヒェルやブーム・パムは個人的にも付き合いがあります。レストランのシェフにも知り合いがいます。そうした取材を元に、僕は本を出しているんです」

「それはすばらしい。では、ガリラヤ湖(イエス・キリストが活動の拠点としていたと言われる場所)には行ったことがあるかい?」

「いえ、音楽と料理の取材ばかりなので、エルサレムとテルアビブから外にはなかなか出られませんでした。なので次回は仕事とは別に田舎を周りたいと思っています」

「信じてくれたまえ、ガリラヤ湖畔に私の友人がレストランを開いていて、そこはイスラエルで一番のレストランだよ。そうだ。君は今年の暮れにイスラエルに来なさい。我が家に泊まってくれれば、私がガリラヤ湖とそのお店に案内しよう!他にも案内したい場所がいくつかあるから、君は我が家に最低でも三泊はしなさい!」

「え? そんなこと言われたら、僕は本当に行きますよ。これまでもそういう誘いにのって、本当に行ってますからね!」

「ええ、ぜひ来なさい。君なら本当に来るだろうと思って誘ったのだよ」

 イスタンブルまでの11時間のフライトは、ダギさんとの楽しい会話と、フルフラットシートでぐっすり眠ることが出来たおかげで、映画を一本も観なかったにもかかわらず本当にあっと言う間だった。

 

salam02_02

機内で知り合ったイスラエル人のダギさん。イスラエルを案内してもらう約束をした

 

 

フェスの会場、カッパドキアのウチヒサル村へ

 イスタンブル到着は明け方の5時、ダギさんと入国カウンターで別れ、僕は一人で国内線ターミナルへ。そして、朝10時の飛行機でカッパドキアの入り口の町カイセリへと。一時間のフライトでカイセリ到着。そこでイスタンブルから同じ飛行機に乗っていたカッパドックスの運営スタッフたちとミニバスに同乗し、一時間半揺られて会場となるカッパドキアの村、ウチヒサルへ向かう。

 カッパドキアを訪れるのは四度目だった。一度目は1990年、二度目は1996年。どちらも真冬だったので、高原地帯は白い雪に覆われ、奇岩も雪をかぶり、見渡すかぎり真っ白という印象だけが残っている。三度目は昨年9月。夏の直後で、強い日差しによりカラカラに乾燥した砂漠のような大地にバラ色や明るい灰色の奇岩がくっきりと浮かび上がっていた。今回は春の5月。地面は茶色く湿っていて、奇岩の上にまで植物がびっしり生えている。湿った空気には雨の匂いと高地の緑の匂いがしっかり嗅ぎ取れる。昼でも暑すぎず最高の季節じゃないか!

 僕のために用意された宿『Kale Konak Hotel』は、カッパドキア観光ツアーでも必ず数分は立ち寄る観光名所、ウチヒサル砦の真裏の坂の途中にあった。外から見るとカッパドキアの大地と同じサンドカラーの無骨な建物だが、門をくぐり、中に入ると、高い中庭には芝が育ち、そこから眼下にカッパドキアが一望出来る。そして典型的なカッパドキアの宿らしく、全ての部屋が石をくりぬいて、大地を削って作られている。

 

salam02_03

今回の宿『Kale Konak Hotel』。中庭からはカッパドキアが一望できる

 

salam02_04

石をくりぬき、台地を削ってつくられている部屋はシンプルでお洒落。

 

 僕は母屋から一本道路を挟んだ離れの部屋をあてがわれたが、母屋とは表の道を渡るだけでなく、地下二階、三階へとアリの巣のように張り巡らされた細い地下道を通り抜けて行き来出来る。通路は途中でいくつもの脇道や出入り口があり、慣れないうちは何度も迷い、思っていたのと違う場所に出てしまった。まるで忍者屋敷だ。ウチヒサル砦の斜面沿いに張り付いたホテルの多くはこうした地下宮殿的な造りを売りにしているようだ。

 

salam02_04

まるで忍者屋敷のような作り。地下の通路で何度も迷った

 

  母屋の地下にはなんと、トルコ式の蒸し風呂「ハマム」まで設営されていた。ハマムは20畳ほどのスペースで、奥は八角形の部屋となり、四方に熱い湯が出るシャワーと蛇口、洗面台が設置され、真ん中には大人が四人並んで横になれるほどの正方形の大理石の台。台の真上はドーム型の屋根になっている。建物内の窯で大量の水を熱し、沸かしたお湯を床下などに循環させて、部屋全体を温めている。サウナほど熱くはなく、40度ほどに温められた大理石の台に横になっていると、30分でも1時間でも寝て過ごせる。大理石のドーム型の造りのため、音響もすばらしい。お湯をザバ~っと流すと、それが部屋全体にエコーする。

 僕はこうしたトルコのハマムが大好きなのだが、イスタンブルで入浴すると、垢すり師がうるさく営業してきたり、常時他の人たちが出入りしているので、なかなかゆっくり楽しめずにいたのだ。だが、このハマムは宿泊客のみのプライベート仕様で、しかも24時間オープンしている! これは嬉しい! しばらくは時差ボケでぐっすり長時間は眠れない。どうせ夜明け前に目が冷めてしまうだろうから、早朝からハマムで過ごすのもナイスじゃないか!

 

salam02_05

大理石の蒸し風呂「ハマム」を独り占めできるなんて、最高だ!

 

 

「死ぬまでに訪れたい世界の25のお城」のひとつ

 正午過ぎで、宿で待ち合わせ友人たちはまだ誰も着いていない。部屋で荷物をほどき、軽装になり、ウチヒサル探索に出かけた。

 ウチヒサルは巨大な岩山の斜面に無数の小部屋をくりぬいた鳩の巣のような不思議な景観で、一目見たら忘れられなくなる。「死ぬまでに訪れたい世界の25のお城」にも選ばれているそうだ。宿の目の前の広場は大型の観光バスの駐車場となっていて、そこから岩山を下る道沿いにくたびれたお土産物屋が十数軒並んでいる。
 

salam02_07

ウチヒサル砦の不思議な景観

 

salam02_08

「死ぬまでに訪れたい世界の25のお城」のひとつだとか

 

salam02_09

お土産物屋の店先

 

 5分ほど道を下り、村の中心に出ると、広場にはCappadoxの垂れ幕がかけられ、翌日からのフェスにむけて売店などの準備が進んでいる。それにしても観光客が少ない! カッパドキアはイスタンブルにつぐトルコ最大の観光地なのだが、去年から今年にかけてイスタンブルやアンカラで頻発した爆弾テロにより、観光業は大きな被害をこうむっているのだ。

 

salam02_10

村の広場にかかった垂れ幕。フェスの期待が高まる!

 

 村の売店でドネルケバブのサンドイッチを買い、元来た道を宿まで戻ると、芝生の中庭のテーブルに、イスタンブルの友人夫婦ハッカンとアイリン、そしてミュージシャンと思しき4人の欧米人男性が陣取っていた! ハッカンとアイリンは音楽とアートのフリーマガジン『Bant』を運営し、さらにハッカンはギタリスト、アイリンはカメラマンとしても活躍している。2人とも日本が気に入り、今年の正月には友人3人を連れた総勢5人で東京に二週間滞在していた。

「メルハバ、ハッカン、アイリン!」

「サラーム、半年ぶりだね! 今、宿に着いたんだよ。彼らはカナダのバンド、エスメリンのメンバー、彼らも同じ宿に泊まるんだ。ところで今まで何をしてたんだい?」

「周りを散策してきたんだけど、美味そうな飯屋がないんだよ」

「そりゃウチヒサルは田舎だからね。でも、この宿は朝食が美味いと評判らしいよ」

「おお、それは明日からが楽しみだ。ところで今日は何があるのかな?」

「今日は前夜祭だけだから、夜までここでのんびりしよう」

 

salam02_11

売店で買ったドネルケバブのサンドイッチ

 

salam02_12

イスタンブルの友人夫婦やカナダのバンドメンバーと合流。賑やかな滞在になりそうだ

 

salam02_06

宿の中庭にいた犬

(「Cappadox」取材記、次回へ続く)

 

 

白いんげん豆と玉ねぎのサラダ「ピヤズ」を作ろう!

 今回の料理レシピは「Cappadox」の屋台で食べた白いんげん豆と玉ねぎのサラダ「ピヤズ」。肉団子キョフテの付け合せとしても欠かせない。

 

■白いんげん豆と玉ねぎのサラダ「ピヤズ」

【材料:4人分】

白いんげん豆(乾燥):1カップ

赤玉ねぎ:1/2個

パセリのみじん切り:3枝分

スマック:大さじ1(ゆかりで代用可)

レモン汁:1個分

エクストラバージンオリーブオイル:200cc

塩:小さじ1/2

胡椒:少々

【作り方】

1.白いんげん豆は半日水に漬けておく。

2.豆を漬け汁ごと鍋に移し、弱火で40分から1時間、指で簡単につぶれるくらいまで柔らかくに茹でる(圧力鍋を使えば時間短縮が可能)。ザルに空け、室温に冷ます。

3.赤玉ねぎは粗みじんに切り、ボウルに入れ、冷水にさらす。1~2分たったら、ザルに空け、ペーパータオルでしっかり水気をふきとる。

4.ボウルに赤玉ねぎ、スマック、レモン汁、エクストラバージンオリーブオイル、塩、胡椒を入れ、よく混ぜ合わせる。赤玉ねぎに味が浸透したら、2の豆、パセリのみじん切りを加え、混ぜ合わせ、お皿に盛り付ける。

 

salam02_13

白いんげん豆と玉ねぎのサラダ「ピヤズ」

 

*フェス「Cappadox」の情報はこちら→http://www.cappadox.com/en

 

*著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。次回もお楽しみに! 〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

orient00_writer01

サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

紀行エッセイガイド好評発売中!!

orient00_book01

イスタンブルで朝食を
オリエントグルメ旅

orient00_book02

おいしい中東
オリエントグルメ旅

   

旅とメイハネと音楽と
バックナンバー

その他のCULTURE

ページトップへ戻る

ページトップへ戻る