THE 百年宿

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百年建築 木造三階建て旅館編

 

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「百年宿」を選ぶもっとも純粋な指標と言える「木造三階建て」。国の文化財も少なくない、日本建築の粋を集めたその高楼には、今では希少となった木材や時代の名工が手掛けた意匠など、大人の旅を彩る珠玉の物語が詰まっている。連載第1回は日本を代表する名湯、神奈川県の箱根・塔ノ沢温泉にある「福住楼」と、島根県の古湯・温泉津温泉から「旅館 ますや」をご紹介します。どちらの宿も歴史ある温泉街にあり、明治時代の創業、登録有形文化財に指定された建物を有している。

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箱根七湯と呼ばれ、早川の渓谷に開かれた、
箱根・塔ノ沢温泉。その一角で、福住楼は歴史を重ねた。

文:金井幸男

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箱根七湯の歴史のなかで厳然と受け継がれてきた、文化人ゆかりの宿。

ノ沢に、明治23年に創業した「福住楼」。当時、宿があった場所は現在より上流に位置していたが、創業より20年目の八月、かの早川の大洪水により、残念ながら初代の建物は流出してしまった。廃業も止むなしであったが、常連客などからのあと押しもあり、同年末に、200メートル下流に所有していた「洗心楼玉の湯」をもとに営業を再開。以降、つつがなく箱根・塔ノ沢温泉を代表する旅館として知られるように。
築年一世紀を越える京普請数寄屋造りの建物は、建材やデザイン、技法に至るまで、当時の建築様式が今も美しいままで残されており、国の登録有形文化財にも指定されている。とくに最高に顕したと評される竹のあしらいと、同宿のシンボルである「蝙蝠」を象った細工の美しさは見事だ。
福沢諭吉や夏目漱石、幸田露伴、坂東妻三郎といった感性豊かな文人墨客が、お気に入りの客室を指定してまで逗留していたというのもうなずける。

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時代の流れを汲みながら、守るべき伝統と融合した種類豊かな客室

棟式木造三階建ての建物にある客室は全部で17。間取りや造作がすべて異なり、同じ部屋がひとつとして存在しないのが特徴だ。さらに驚くことに、その客室のほとんどが文人墨客ゆかりの間。たとえば「福住楼」でいちばん古く、明治期には最上級の部屋とされていた「松二」は、島崎藤村。同楼沿いを流れる早川から遠く、落ち着いた雰囲気の部屋「桐三」は、川端康成と、それぞれの部屋に、語るに足りぬ物語にあふれている。
ゆかりの一冊を手に、贅沢な部屋のなかで文学に没頭してみるのも乙だ。

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旬を追求した食材。季節の小さな移ろいを美食で感じる。

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福住楼(ふくずみろう)

【住所】〒250-0315 神奈川県足柄下郡箱根町塔ノ沢74
【料金】19,000円〜(1泊2食・サ込)
【電話】0460-85-5301 (代表)
www.fukuzumi-ro.com


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前身は回船問屋だったという「旅館ますや」。
建物の内外に残す時代の面影は、
登録有形文化財指定も納得の物語を秘める。

文:金井幸男

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明治・大正・昭和に渡り建築された部屋に各時代の空気が流れる。

治43年に創業した、湯の町として知られる温泉津でも最古参のひとつとされる宿。
特筆すべきは文化財の指定も受ける建物。創業当初は、回船問屋の営業所だった一階と、船員の宿泊所だった二階を利用して営んでいたが、大正に入り三階まで増築。さらに昭和にも増築したため、部屋によって異なる時代の風情を楽しめるようになった。また、1300年前にタヌキが見つけたとされる温泉の周りに配された年代物のマッサージチェアや、遊び好きで有名だったという先々代当主が残した卓球台など、情緒を掻き立てるストーリーが建物全体に詰まっている。
また、同温泉郷初の料理旅館でもあり、毎日変わる天然の魚介が自慢。地場で獲れる海の幸を中心に、島根県産の米、野菜を使った温泉津ならではの会席料理が楽しめる。
世界遺産に登録されている石見銀山遺跡内に位置することでも知られる「旅館ますや」。建物や料理はもちろん、宿の周辺を散策するだけでも十分に非日常を感じられるはずだ。

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湯の花をまとった重厚な浴槽が長い歴史を物語る。

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旅館 ますや(りょかん ますや)

【住所】〒699-2501 島根県大田市温泉津町温泉津ロ32
【料金】10,000円〜(1泊2食・サ込)
【電話】0855-65-2515 (代表)
www.ryokan-masuya.com

 

ISBN978-4-575-45557-1 (1)


THE 百年宿

このWEBで紹介する「百年宿」は、こちらのMOOKでまとめて読むことができます。日本各地に点在する23施設、創業100年以上の老舗宿。建築、料理、温泉、おもてなし……確かな価値のある宿だけを厳選。

 

 

 

 

 

 

 

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