韓国の旅と酒場とグルメ横丁

 韓国の旅と酒場とグルメ横丁

#01

徒歩3分のソウルはしご酒

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ソウル・明洞のとなり、乙支路3街駅3番出口

 夕方、明洞の最寄り駅である乙支路入口駅から1駅となりの乙支路3街駅で降り、3番出口から地上に出てみよう。高層建築がほとんど見えなくなり、いきなり下町風の景色が広がるのに驚くかもしれない。それは東京駅前と神田駅前以上のギャップだ。この辺りはインテリアや水回り製品、照明などの専門店街で、日本風にハレとケで言えば完全にケ。堅気の町である。
 ウリ銀行を右手に見ながら進み、最初の路地を右折してしばらく行くと、堅気の町に異変が生じる。そう、ビアホール街が忽然と姿を現すのだ。

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大衆ビアホールのメッカ

 韓国ではビアホールのことを「HOF(ホプ)」と呼ぶ。ドイツの有名なビアホール、ホフブロイハウスの頭文字を取ったものだ。この乙支路3街には70年代末に独特のHOF文化が生まれている。店に入って席に着くと、すぐにジョッキの生ビールと鱈の干物をあぶったもの(ノガリクイ)が出てくるのだ。せっかちな韓国人向けだが、注文が要らないのだから、日本からの旅行者にも魅力だろう。おかわりは店員に向かってジョッキを指さしたり持ち上げたりすればよい。
 この一角には大小さまざまなHOFが集まっていて、ノガリ横丁と呼ばれている。周りに個人商店が多いので、時間を自由に使えるオーナーが昼間からビールを一杯飲んでサッと仕事場に戻る。そんな利用の仕方が一般的だ。外で飲んだり食べたりするのが好きな韓国人だけに、真冬以外は店の外の通りにまでテーブルが並べられ、他の店の客も混じって壮大な路上ビアホール状態になる。
 私は去年の夏までは『満船HOF』という大型店をひいきにしていたのだが、残念ながらオーナーが変わってしまった。それまでこの店の脇道の向かいには年季の入ったレンガ造りの倉庫があった。その脇に置かれたテーブルで人々が楽しげに飲む様子がなんとも絵になったのだが、新しいオーナーはその倉庫を撤去し、店舗にしてしまった。

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 昔のHOFの雰囲気を残しているのは、ノガリ横丁の元祖である『OBベオ』。OBといえばそう、韓国ビールの主要銘柄。この店名はビール会社直営ビアホールのなごりなのだ。店内にはL字カウンターが2つ置かれているだけで、ぎっしり詰めても20人入るか入らないかの狭さ。店の脇にも駐車場のようなスペースがあり、そこにも客を入れているが、ここは少し早めに横丁入りして、店内で飲みたいもの。韓国のおやじたちの肘で磨かれた木製カウンターにはなんとも言えない味がある。

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 この辺りではほとんどの店が生ビール3000ウォン(約310円)、ノガリクイが1500ウォン(約160円)と一般のHOFより安い。ノガリクイに添えられる真っ赤な唐辛子のタレは韓国人にも辛い。口中に炎→ビールで消火。これを繰り返していると冬でも体がカッカとしてくる。
 ノガリクイは歯ごたえがあるので、噛むのに時間がかかる。その途中でビールを流し込む間がなんともいえないのだが、硬いものが苦手な人は同じ干し鱈でも少しやわらかいファンテを頼むといいだろう。

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冷麺屋で大人飲み

 満船HOFかOBベオを出たら左に進み、突き当りの路地を右折すると車道に出る。通りの真向かいに乙支路3街駅の5番出口があるので、そこまで行き、左に少し進むと、冷麺の老舗『乙支麺屋』に至るトンネルのような入口がある。
 冷麺屋で飲むの? そんなふうに思うかもしれないが、日本のそば屋飲みに通の匂いがするのと同様、冷麺屋飲みもちょっと大人っぽい楽しみ。
 「先酒後麺」という言葉がある。文字通り、酒を飲み、麺で締めるという意味だ。この店の創始者の故郷、分断前の北朝鮮から来た言葉で、もともとはお客をもてなす形式のことだった。
 冷麺屋のつまみは茹で肉と決まっている。この店には豚肉も牛肉も両方あるが、豚肉を使ったピョニュクでじゅうぶん。脂身のある部分だが、しっかり茹でられているので、くどさはない。アミ塩のタレにつけて食べる人が多いが、塩をちょっとだけつけて食べてもいける。
 ビールの後だから、酒は焼酎かマッコリ。冷麺屋にマッコリが置かれているのもちょっと意外だが、これも2009年頃からのマッコリブームの影響だろう。茹で豚肉のねっとりした脂身とマッコリの酸味は相性抜群だ。

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 閉店は9時なので、遅くとも30分前には冷麺を頼みたい。韓国冷麺というとゴムのように弾力のある麺を想像する人が多いかもしれない。しかし、ここの冷麺は朝鮮戦争のときに冷麺の本場、平壌から避難してきた人が再現したもの。麺からはほのかにそばが香り、じゅうぶんなコシがあるが、ハサミで切るほどではない。牛肉と豚肉でダシをとったスープは拍子抜けするほど淡白だが、あとから旨味がついてくる。日本のそば好きも唸る味だ。寒くて乾燥している韓国の冬、暖房の効いた部屋で冷麺をすするのは至福のとき。

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 たっぷりのスープをスプーンでちまちまと口に運んでいる日本からの旅行者をたまに見かけるが、冷麺に限っては器に口をつけてグイグイ飲んでもいい。これだけ水分をとれば翌朝の酒の抜けも早いはず。
 えっ! まだ9時じゃないかですって? 冷麺で締めて「先酒後麺」が完成したのに、もっと飲みたい? じゃあ、あと1軒だけ。
(3次会以降についてはまた別の機会に)

*本連載は月2回配信(第2週&第4週金曜日)の予定です。次回もお楽しみに!

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紀行作家。1967年、韓国江原道の山奥生まれ、ソウル育ち。世宗大学院・観光経営学修士課程修了後、日本に留学。現在はソウルの下町在住。韓国テウォン大学・講師。著書に『うまい、安い、あったかい 韓国の人情食堂』『港町、ほろ酔い散歩 釜山の人情食堂』『馬を食べる日本人 犬を食べる韓国人』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』『韓国の美味しい町』『韓国の「昭和」を歩く』『韓国・下町人情紀行』『本当はどうなの? 今の韓国』、編著に『北朝鮮の楽しい歩き方』など。auポータルサイトの朝日新聞ニュースEXでコラム「韓国!新発見」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/

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