呉・広島の旅

呉・広島の旅

#01

呉市立美術館「この世界の片隅に」展レポート〈前編〉

編・『TABILISTA』編集部

 

 

 広島県の呉市立美術館では、11月3日まで特別展「マンガとアニメで見る こうの史代『この世界の片隅に』展」が開催されている。

 漫画『この世界の片隅に』(こうの史代著)の全原画約450点の展示をはじめ、取材ノートなどの資料、および劇場アニメ『この世界の片隅に』(片渕須直監督、11月12日全国公開)の原画、キャラクターデザインや美術背景等の貴重な資料などが公開されている特別展。

 連載第1回は、この特別展初日の7月23日に行われたギャラリートークの模様と体験イベント、さらに8月20日に行われたこうの史代先生と片渕須直監督のトークショーのレポートを、参加した担当編集者からお届けする。

 

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呉市立美術館にて特別展『マンガとアニメで見る こうの史代「この世界の片隅に」展』開催中

 

 

初日トークギャラリー&ボンネットバス体験イベント

『漫画アクション』編集部の渋谷です。呉市立美術館「この世界の片隅に」展の初日に行ってきました。

 一つの漫画作品の、全原稿が展示されているというのはかなり貴重な機会です。こうの史代先生は原稿に様々な仕掛けというか、遊びを入れているので、それを探しながら展示を見て回るのも楽しみの一つ。また、アニメーションが作られていく様子や、原画や美術資料も展示されていて、様々な楽しみ方ができる展覧会です。

 

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美術館エントランスホールのすずさんのパネル

 

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美術館2階のパネル。パネルの前では記念撮影ができる

 

 開催初日の7月23日、呉市長をはじめとする地元の代表者の方々にこうの先生が加わり、華々しいテープカットで幕を開けました。その後、この日の目玉、こうの先生によるギャラリートークが開催されました。こうの先生自らが展示されている原稿の解説をするとあって、フロアに入り切れない数のお客さんたちが集まりました。

 こうの先生の丁寧な解説に聞き入るお客さんたち、途中、「ここに描かれてる場所は今の○×ですね」といったような先生と地元の方とのトークもあって、皆さんとても楽しまれていました。

 

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こうの史代先生、ギャラリートークにて

 

 この日は、関連体験イベントとして、「ボンネットバスで巡る『この世界の片隅に』」も開催されました。呉の街の『この世界の片隅に』に縁のある場所を、ボンネットバスで巡るミニツアーです。

 

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ボンネットバス、いすゞBXD30型。ボンネットバスとしては、国内で現役最古の定期路線バスだった

 

 作品にも出てくる旧澤原家住宅の「三ツ蔵」。主人公のすずは、灰ヶ峰の北條家から街まで、この長ノ木町の「三ツ蔵」の脇の坂をのぼったり下ったり、行き来しています。今も実際に残るこの風景を見ていると、すずさんがいっそう身近に感じられます。

 

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作中に登場する「三ツ蔵」の建物

 

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三ツ蔵の前でこうの先生が、「すずさんの家はここから上ったところで……」と作品とのつながりを紹介。さらに地元のガイドの方から詳細な歴史が解説され、炎天下ではありながら、参加者のみなさんは興味津津に聞き入っていた

 

 

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旧澤原家住宅の主屋。江戸後期に建てられた大きな商家の住宅で、国の重要文化財に指定されている

 

 呉の日本酒「千福(せんぷく)」の蔵元、三宅本店にも立ち寄りました。こうの先生いわく、「広島でお酒と言ったらこのお多福マークの千福」とのこと。

 併設の「ギャラリー三宅屋商店」には昭和の生活用品や玩具などレトロな展示品が並び、お土産なども充実しています。「酒工房せせらぎ」の見学コースでは、酒を詰める工程の見学もできます(見学は要予約)。

 

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1856年創業の三宅本店

 

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地元ではおなじみの日本酒、千福のロゴマーク。映画の中でも、すずさんが朝日町で迷ってしまった時の電柱の広告に「千福」の広告が貼られている

 

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「酒工房せせらぎ」「ギャラリー三宅屋商店」情報はこちら→http://www.sempuku.co.jp/seseragi/

 

 最後に、街の中心を流れる堺川に架かる小春橋を訪れました。作品の中で、すずさんと周作さんが欄干にもたれて会話をする橋です。

 

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堺川の4丁目筋の小春橋。堺川には丁の筋ごとに橋が架かっている

 

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小春橋からの眺め

 

 

「こうの史代×片渕須直トークショー」レポート

 双葉社のマンガ編集者、染谷です。去る8月20日、呉市立美術館に取材に行って来ました。今回の特別展は、原作漫画とアニメの繊細なタッチや色彩が味わえる、ファンには垂涎の催しになっています。長年、こうの史代先生の担当をしている私としては、感無量です。
 この日は、展示イベント「こうの史代×片渕須直トークショー」が行われました。テーマは、「制作佳境の今だから、美術館展示を見て、感じる『この世界の片隅に』」。11月12日の劇場アニメ公開に先駆けて、こうの先生の製作秘話、片渕監督のアニメ制作秘話、両先生の交流秘話が語られました。

 

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この日の会場は美術館の隣にある「桜松館」のホール


 実はこの日までには、劇場アニメは完成予定のはずでしたが、まだ製作中との監督の吐露。主演声優のアフレコの調整などが残っているとのこと。ギリギリまで研ぎ澄ました作品にしようとする監督の熱意が伝わります。
 それは、戦時中の広島市や呉の町並の再現へのこだわりにも現れています。原作で描かれた単色の広島市内の情景に色を入れること。監督は、想像ではなく実際に取材することで、本作の魅力をさらに高めようと努めました。
「主人公、すずが実際に存在していたかのように思ってもらいたい。そのために、当時の出来事の細部、背景の細部に徹底的にこだわりました」
 それは現在、各劇場で流れている本作の予告編でも感じ取ることができます。
 また、こうの先生は、自身の作品について、

「すずという一人の女性の成長の物語を描きました。すずになりきって描きました。描くというプロセスを通して、少しずつ日々を重ね生活をしていくことで強くなっていく。何が人生において大切なのかを考え抜いた連載でした」

 そう振り返りました。
 トークを聞きながら担当編集の私も『漫画アクション』連載当時を振り返ります。平成20年に、昭和20年のその月その月の出来事を連載マンガとして掲載しました。こうの先生の意図は、同じ月日の歩みの中で戦争の歩み、生活の歩みを読者に感じ取ってほしかったのです。戦時中のすず、終戦時のすず、戦後復興の流れの中でのすず。濃厚な月日がそこにありました。

 トークイベントは、さらに原作の細部と劇場アニメの細部について言及します。たとえば、各キャラクターの茶碗の柄のこと、着物の色・柄のこと、原画のベタムラのこと、口紅で描いた原画のこと、毎日の食材のこと、それらをアニメでどう再現するかの監督のこだわりが語られました。
「日常を表現することで幸せを感じる。そこにこだわりがあった。『この世界の片隅に』ならそれが実現できる。そこに戦争との対比があるからこそ、日常の価値をアピールすることができる」
 監督のこの言葉は、おそらく監督が一番大切にしているテーマそのものです。同時にこうの先生が大事にしているテーマそのものです。

 登場人物の動きについても語られました。径子のせっかちさ、晴美の愛らしさ、無口な周作。アニメになることでそれらの動きがとても魅力を発揮している、とお二人は語ります。
 客席の方々は、終始、監督の熱意やこうのさんの回想に熱い視線を向け、時には笑い、時にはため息をつき、楽しんでいるようでした。

 満席のイベント会場に温かく長い拍手が鳴り響き、トークショーは終了しました。

 

*『呉市立美術館』公式サイト→www.kure-bi.jp

 

 

●劇場アニメ『この世界の片隅に』2016年11月12日(土)全国公開!

*劇場アニメ『この世界の片隅に』公式サイト→konosekai.jp

原作:こうの史代 監督:片渕須直 主演:のん

 

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©こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

 

*本連載は週1回配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

 

コミック&関連書籍紹介!!

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この世界の片隅に 上・中・下巻
著・こうの史代

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