京都で町家旅館はじめました

京都で町家旅館はじめました

#01

京都ぐらしを決めるまで

文・山田静

 

京都の外国人向けの旅館でマネージャー!?

 

 そもそも論として、京都が怖かった。

「老舗特集で取材を申し込んだら『うちはまだ百年しかやっていませんから』と断られた」

「遠縁の家で、勧められるままお風呂に入ったら、翌日別の親類から電話があり、『なんて失礼なことを』と。自分は東京生まれで分からなかったんですが、それは『帰れ』サインだったらしいんです」

 ちまたに飛び交う「京都いけず伝説」。旅の仕事を長くしているせいもあり、リアルな体験から誇張されたネタまで様々な伝説を耳にしてきて、京都の伝統の壁に恐れをなし、同時にちょっと面白がってもいた。

 が、自分が直面するとなると、話は別である。

 

 昨年2月、こんなことを言われた。

「今度始める外国人ターゲットの京都の旅館で、女将さん募集中なんだけど」

 長年の仕事仲間のおじさんたちが、海外でゲストハウスを運営してみたり、趣味で不動産を見て回るうちに、「いつか日本で…」「願わくば京都で…!」と盛り上がってたのは知っていた。で、どうやら、堀川五条(堀川通りと五条通りの交差点あたり。京都駅から少し北)というところの物件を落札したらしいことも知っていた。聞けば、町家建築の専門家集団に依頼し、京町家の旅館を新築するつもりらしい。外国人向けにワークショップもやりたいし、つきましては旅行業界出身で、旅専門の編集・ライターで、旅行が最大の趣味で、英語中国語も旅行会話くらいならできて、何よりひとり身でフリーランスという浮き草身分の私がちょうどいいんでは、と思い当たられたらしい。

 

 ありえなーい。

 頭では思っているのに、口は勝手に答えていた。

「面白そう。やってみたいかも」

 え、まじかよ自分。

 思えばこの「面白そう」で動いてしまう悪癖が公私ともに様々な墓穴を掘ってきた。その話は二段組上下巻の書物くらいになるので省くとして、問題は本当に引き受けるかどうかである。

 

1 やったことない=できない、向いてないかも

2 現在の編集・ライター仕事も忙しいし、捨てるには惜しい

3 京都怖い

 

 京都行きを阻むのは以上3点。回答をいったん保留にして、私は周囲の人々に手当たり次第に相談した。

 以下、それぞれの障壁に対して挙げられた声である。

 

1 できないかも

・旅行会社A氏

「誰だってできないんじゃない? てか山田さんそもそも不器用だし、できなくてもいつもと一緒だし、気にしないでいいよ」←超失礼

・友人B

「できるか知らないけど、向いてるからやりなよ!」

・友人C

「えー、面白そうすぎる。早く行きなよ」

 

2 現在の仕事も忙しい

・雑誌編集者D氏

「やったー! 京都特集のリサーチを頼めるんですよね。しかも山田さんがライターやるなら、交通費も滞在費もかからないですよね」

・新聞社E氏

「大阪支社を紹介してもいいですか? 人出不足なんです……」

・出版社F氏

「その件、連載するというのはどうでしょう」

 

 ……誰も止めてくれない。

 月日は経ち、周囲の期待感とおじさんたちの「やってくれるよね?」圧がだんだん高まってくるのを感じ、私は途方に暮れていた。

 では「3」はどうだ。ど素人が京都で旅館で女将さん、なんて身の程知らずすぎて、よくわからんが何かの怨霊に祟られるのではないか。

 

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京都いけず伝説の一部となっている「いけず石」。角に置かれ、近寄りすぎた車は石に引っかかれる。道が狭い京都で家を守るために置かれた、などの説がある

 

 

「世界一行きたい観光地」はどんな街なのだろう

「現場を見てくれない?」

 迷いに迷っていた7月、オーナー陣から声がかかった。

 まあ確かに、一度も見ないで決めるのは良くない。

 問題の現場を訪ねるついでに、京都の悪口を言うのが趣味の大阪人・友人Jに連絡を取り、相談に乗ってもらうことにした。学者でもある彼ならこの無謀な行為のマイナスポイントを分析し、止めてくれるに違いない。

 

「あはは、面白いじゃないですか」

 ……こいつもダメか。

 食事しながら今までの経緯を話しても、面白がられるばかりだ。と、彼の友人である京女が口を開いた。

「どこで開業するんですか?」

「堀川五条です」

「ああ。なら、いいじゃないですか。そんな、鉾も立たないとこで、外国人相手でしょう。京都人は、仲間として認識しないですよ。気にしないで、好きにやるといいです」

 

 ホコモタタナイ?

 

 一瞬間を置いて、「山鉾」だと思いあたり思わず唸った。

 祇園祭の山鉾が立つところ、つまり三条や四条通りを中心にしたあたりが真の京都であり、それ以外は京都ではない。京都人がそう考えているというのは聞いたことがあったが、地域区分として生の声で聞いたのは初めてだ。

 彼女が言いたかったのは、「コアな京都でない地域で、京都人を相手にするのではないから、伝統や慣習に囚われず自由にやるといいです」という励ましなのだが、言い方ってもんがあるでしょう……?

 調子に乗った友人が面白がってたたみかける。

「どうせ“外資系”だしね」

 なんと、京都人が京都で商売をする以外は、外国人のみならず我々日本人も等しく「外資系」と位置づけられるという。差別というか、明確な線引きがあるらしい。

 以後も、彼女はエッジの効いた京都語りを真顔で繰り広げた。

「京都の老舗で欲しい品を言うと、一個だけ出てきて、色や形を選ばせてくれない時あるでしょ。あれ何で?」

 と、友人Jが聞くと、

「だって、プロが素人に選んであげてるんやん。何でわざわざ、ものを知らない素人に選ばせるの」

 不思議そうに言う。

 ツルツルと出てくるいやみとも冗談ともつかない京都談義を聞きながら、だんだんと笑いがこみ上げてきた。

 面白すぎる。

 こんな面白い人たちのいる地で、働いてみたいかも。

 

 彼らの話で、「観光で関わる分には、京都は快適なはず。なぜならこの街で観光は最優先事項の一つだから」というのにも興味を惹かれた。

 大学生でバックパッカーデビューして以来ずっと、旅の仕事に関わり続けてきた。友人からも、「今まで自分が外に行き続けていたけど、そろそろ自分が迎える立場になってもいいんじゃない?」と言われてもいた。

「世界一行きたい観光地」京都とは、どんな街なのだろう。どんな人が来たいと思ってくれるのだろう。そしてみんな、何を楽しんでいくのだろう。

「いやみじゃないんです、京都人は口がゆるくて思ったことをそのまま言ってるだけなんです。受け止めてもらいたい訳じゃないんで、発せられたいやみは、返事せずにそのまま浮かせておけばいいです」

 アドバイスだか励ましだか何だかわからない彼女の解説を笑って聞きながら、気持ちは半ば固まっていた。

 

 そして翌、7月13日のこと。

 祇園祭を数日後に控え、四条周辺ではそこかしこで山鉾が組みあがり始め、見物の人だかりができていた。

「鉾が立つ」エリアから少しだけ外れた五条の路地に、その現場はあった。取り壊される予定の古い町家の周囲に広がっていたのは、下町風の家並み。現場の前には大きな銭湯があって、常連らしきお年寄りたちが開店を待ちながら入り口で談笑し、通りかかる小学生たちが元気良く挨拶をしている。

 それは、観光パンフレットにはない京都だった。

 なんか、いいかも。

 その日、私はオーナー陣や関係者と近くのレストランで会い返事をした後、友人Jにメッセージを送った。

 

「決めました! やります」

 

注:本稿執筆中に、京女から「鉾が立つ」について補足があった。以下、転載する。

「鉾が立つ地区が、ディープでめんどくさい京都。洛外は鉾が立たない地域が多く、鉾が立たない地域の方がよそから来た人は入りやすいと思う。洛外の京都人は常に洛中の人々から『あんたらはほんまの京都ちゃう』と言われ続けて育つから、劣等感と諦めの気持ちが強い。洛中の京都人からしたら、洛中の人間以外は、洛外の京都人も滋賀県民も東京の人もみんな平等に『恥ずかしい』という感覚で、洛中かそうでないかという以外にあまり序列はない」

 ちなみに本人は古い地域ではあるが洛外出身で、現在は洛中在住だそう。洛中の範囲は諸説あるが、旅館のある堀川五条は一応、「鉾が立たない洛中」。

 

 

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山鉾の組み立ても祇園祭の見どころの一つ

 

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ご覧の通り、数日間で見事な鉾が立つ

 

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今年の祇園祭には旅館も開業済み。さて、どんなお客様がいらっしゃることやら

 

 

*町家旅館「京町家 楽遊 堀川五条」の最新情報はこちら→https://www.facebook.com/luck.you.kyoto/

 

*本連載は月2回(第1週&第3週水曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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山田 静(やまだ しずか)

女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』『成功する海外ボランティア』など企画・編著書多数。2016年6月開業の京都の町家旅館京町家 楽遊 堀川五条の運営も担当。

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