日本一おいしい!沖縄の肉食グルメ旅

日本一おいしい!沖縄の肉食グルメ旅

#01

トンテキの逆襲~『じまんや』

文・藤井誠二

 

豚肉王国の沖縄にトンテキがない!?

 豚肉王国の沖縄なら、「トンテキ」はもちろんあるに違いない。私はそう思い込んでいたし、意識して食べさせる店を探すこともしなかった。ところが、ある時から、あちこちの食堂や居酒屋に行ってもトンテキがないことが気になりだした。

 沖縄のあちこちにある有名なステーキ屋には豚肉(アグー)のステーキが、分厚い牛ステーキメニューが居並ぶ中にぽつねんとあるのは知っていたが、どうやら沖縄ではトンテキはポビュラーな存在ではないようだ。事実、沖縄生まれや沖縄育ちの友人たちはトンテキというメニューを知らず、「トンテキって知ってる?」と聞くと、「は?  なにそれ?」という顔をされたのである。

 私はこのトンテキは日本中どこにでもあるものだと思っていた。私が生まれ育った愛知県では豚肉をみそ漬けにしたものを焼いたり、シンプルに塩と胡椒だけで味付けして焼いたりしたものがレストランや町の食堂にあったし、実家でもよく食卓にのぼった。

 じつは牛肉を焼いた「ビフテキ」のほうがごちそうで、母親は略して「テキ」と呼んでいて、「今日はテキよ」と晩御飯のおかずを家族に告げるときの、妙に鼻高々な表情を今もなぜか覚えている。「テキ」はよく豚肉に取って代わり、トンテキになっていたが、牛肉より豚肉が好きなぼくにとってはうれしかった。いま思うと、実家で食べていたトンテキはしょうが焼きのデカいやつというかんじだったが、いまでも牛丼屋等にときおりトンテキ定食が登場すると、ぼくは好んで食べる。

 

 

トンテキの聖地、三重県四日市のグローブ焼き

 トンテキの聖地は三重県四日市市らしい。いつだったかそう聞いて、四日市に立ち寄ったときには、どうしても食しておきたい一皿があった。元祖「四日市とんてき」の「大とんてき」こと「グローブ焼き」である。

「四日市とんてき」はB級グルメブームに乗じて、50軒ほどの店がトンテキの店として名を連ねているが、ぼくが乗ったタクシードライバーに聞くと、専門店と言えるのは一部で、その中でもルーツとも呼べる『まつもとの来来憲(らいらいけん)』ぐらいしかおすすめできないと言う。なんとも地元B級グルメに冷たい物言いなのだが、多くの他の店はラーメン店や居酒屋等で、数多あるメニューの一つとしてトンテキを出しているらしい。

『まつもとの来来憲』のウェブサイト等によれば、戦後の昭和29年、近鉄四日市駅のガード下で『来来憲』という中華料理屋があり、その看板メニューがトンテキだった。昭和40年代のある時、常連客から「うちの息子を雇ってほしい」と頼まれ、店は一人のスタッフを迎え入れた。その人が『まつもとの来来憲』の初代店主だという。10年間、修行を積み現在の四日市の松本に店をかまえ、一人立ちした。その看板メニューとなったのが「大とんてき」だったというわけだ。店名も名物も発展的に引き継いだわけである。分厚く切った豚肉を手のひらのかたちに切れ込みを入れているところから、グローブ焼きと呼ばれる。

 町おこしの材料として白羽の矢がたったのは2005年からのことで、以来、B級グルメ的な催し物では上位の常連になっている。

 そのグローブ焼きを食いに行った。四日市の駅前にあると思いきや、松本という町はタクシーで片道1500円ほどの距離にあった。開店時間を数分まわったぐらいに入店すると、すでに数組の客が席についていて、耳をすますと全員が「大とんてき」をオーダーしていることがわかった。

 私もとうぜん「大とんてき」を頼んだのだが、そのあとに入店してきた家族連れもみな同じものを注文していた。入り口あたりにはグルメ番組で来店した芸能人らの色紙がびっしり。彦麿氏だけで数枚ある。彦麿氏のサインは宝石箱らしきイラストが書かれ、「宝石箱や~」と一言が添えられているのですぐに判別できる。

 運ばれてきたそれは、まさにグローブ。ほんとうに子ども用の野球のグローブぐらいある。250グラム。厚みは3センチほどはありそうな分厚いロース肉がラードとニンニクでソテーされ、二種類のウスターソースと数種類のスパイスで作り上げた秘伝のソースが絡めるようにたっぷりとかけられている。かなり濃い口で、ニンニクがごろりと丸のままいくつも入っている。付け合わせはこんもりと盛り上がったキャベツの千切りである。がぶりと食らいついてみると、こりゃ、美味い。これぞ、トンテキの王者という貫祿だった。これで、定食セットにしても2000円に満たないとはお得だ。

 

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四日市『まつもと来来憲』の「大とんてき」。見た目の迫力もすごい

 

 

沖縄で喰らう史上最強のトンテキ!

 さて沖縄に話を戻す。四日市ほどの過激な逸品ではないにせよ、豚肉王国の沖縄にトンテキがないなんて、さびしいじゃないか。と思っていたら、あった。トンテキを看板メニューにした店があったのである。

 国際通りと直角に交わる沖映通りを公設市場とは逆の方向に歩くと、パラダイス通りと交差する。その角にある『じまんや』である。ここの肉はパイナップルポークという、パイナップルの果汁を絞った残りかすを飼料にしている希少豚を使い、豚肉料理や沖縄伝統料理を供する。パイナップルポークは、パイナップルの残りかすを飼料として利用できないかという養豚家のアイディアのたまものなのだが、パイナップルポークには沖縄のアグー種の血も入っているから、さらに希少なのだ。

 さっそく注文。一日に10食程度しか仕込めないという。頼むと少々、時間を要する。それは火の入れ方にこだわりぬいているからだ。まず表面を焼き、次にオーブンでじっくりと火を通す。これを何回も繰り返しながらベストな状態になったところで客に供される。その名も「史上最強のトンテキ」(税込1700円)。

 表面は適度な焼き加減で、肉の芯のほうはほのかな赤みが残るか残らないかの絶妙な焼き加減である。一口サイズにカットされて出てくるので、そのまま口に放り込む。柔らかい。ゆっくりと噛むと旨みがほとばしる。脂っぽさはみじんも感じられず、豊穣な豚肉の旨みが口いっぱいに広がるのである。「最、最強のスーパートンテキ」(税込2900円)というメニューもあるのだが、こちらはもっと分厚くカットしてある。四日市で食べたトンテキの、ある意味で対極にあるような上品なトンテキなのである。フルーティな泡盛なんかといっしょに味わいたくなる。

『じまんや』はラフテーやラフテーを炙ったもの、それからしゃぶしゃぶも人気だ。すべてパイナップルポークを使用している。

 パイナップルポークはかすかなフルーツ臭がするほど、さっぱりした味がする。この上質な豚肉を生かすためにはトンテキがもっともふさわしいのでないかというのが、『じまんや』のコンセプトなのである。

 店長の田中祐二資さんによれば、トンテキは沖縄でも受け入れられたという実感があるそうだ。客の半分ほどは地元の人で、「史上最強のトンテキ」は不動の一番人気メニューになっている。

 

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那覇『じまんや』の「史上最強のトンテキ」。見た目はとても上品だ

 

 トンテキがポピュラーではなかった沖縄で喰ったトンテキは、それまでのぼくのトンテキイメージを覆す美味しさだった。トンテキは分厚くカットした豚肉を濃い味付けして焼いたもの、というイメージが沖縄で変わった。パイナップルの搾りかすという沖縄ならでは飼料を与え、手塩にかけて飼育された豚肉そのものの旨みを味わう。これは豚肉王国だからこその贅沢なのかもしれない。

 

 

*本連載は、仲村清司、藤井誠二、普久原朝充の3人が交代で執筆します。記事は月2回(第1週&第3週木曜日)配信予定です。次回は4月7日(木曜日)配信予定、お楽しみに!

 

*本連載の前シリーズ『沖縄ホルモン鼎談紀行』のバックナンバーは、 双葉社WEBマガジン『カラフル』でお読みいただけます。

 

 

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仲村清司(なかむら きよし)

作家、沖縄大学客員教授。1958年、大阪市生まれのウチナーンチュ二世。1996年、那覇市に移住。著書に『本音の沖縄問題』『本音で語る沖縄史』『島猫と歩く那覇スージぐゎー』『沖縄学』『ほんとうは怖い沖縄』『沖縄うまいもん図鑑』、共著に『これが沖縄の生きる道』『沖縄のハ・テ・ナ!?』など多数。現在「沖縄の昭和食」について調査中。

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藤井誠二(ふじい せいじ)

ノンフィクションライター。1965年、愛知県生まれ。8年ほど前から沖縄と東京の往復生活を送っている。『人を殺してみたかった』『体罰はなぜなくならないのか』『アフター・ザ・クライム』など著書や対談本多数。「漫画アクション」連載のホルモン食べ歩きコラムは『三ツ星人生ホルモン』『一生に一度は喰いたいホルモン』の2冊にまとめた。沖縄の壊滅しつつある売買春街の戦後史と内実を描いたノンフィクション作品『沖縄アンダーグラウンド』を2016年内に刊行予定。

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普久原朝充(ふくはら ときみつ)

建築士。1979年、沖縄県那覇市生まれ。アトリエNOA、クロトンなどの県内の設計事務所を転々としつつ、設計・監理などの実務に従事している。街歩き、読書、写真などの趣味の延長で、戦後の沖縄の都市の変遷などを調べている。最近、仲村と藤井との付き合いの中で沖縄の伝統的な豚食文化に疑問を持ち、あらためて沖縄の食文化を学び直している。

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