ステファン・ダントンの茶国漫遊記

ステファン・ダントンの茶国漫遊記

#46

 日本茶で旅人を迎えて2 日本橋にて

ステファン・ダントン

 

 

 
 

  日本橋のコレド室町に移転してからもうすぐ5年になる。
  独特の文化のある郊外のまち吉祥寺から、再開発で再び東京の中心になろうとしている日本橋へ本拠地を移してわかったことがある。

 

 

 

ビジネスのまち日本橋

 

 今思えば吉祥寺は普段着のまちだった。住んでいる人も遊びに来る人も気負わずふらりと出かけられるまちだった。訪れる外国人も、ステレオタイプの日本文化や典型的な観光地よりもディープな体験を求める人が多かったように思う。「日本をよりリアルに体験したい、内側に入りたい」、という感じを受けていた。
 日本橋は今も昔もビジネスのまちだ。普段着で来る人はいない。そもそも付近に住む人は極めて少ない。外国人も含め、「仕事のため」「特別な買い物のため」に訪れる人ばかりだ。
 フランス人客だけ見てもだいぶ違う印象だ。
 吉祥寺時代は、「フランスで出会ったとしても私と話がはずみそうな人」が多かった。「せっかく日本に来たのだから、少しでも日本語を話したい。日本のカルチャー(文化ではない)を知りたい。日本になじみたい」と思っている人で、なおかつインディーズ志向の人が多かった。美術、料理、映画関係の人も多かった。吉祥寺というまちの特徴もあったし、友人から友人へと口コミで集まった人たちだったということもある。
 日本橋では、「フランス社会にいたとしてもあまり接点のない」ビジネスマンが多い。彼らは“ちょうどいい”日本土産として、『おちゃらか』を利用してくれている。高度な教育を受けてビジネスのために来日する彼らは、当然日本にも日本茶にも一定の知識があるから、「より深い知識」を提供すると喜んでくれて、いつでもスマートに買い物をしていく。
 

 

 

様々な国籍のお客様が訪れるおちゃらかの日常

さまざまな国籍のお客様が訪れる『おちゃらか』の日常光景。
 

 

 

 

日本橋で見た観光客の変化

 

 日本橋近辺にはホテルもたくさんあって、観光客も大勢『おちゃらか』に来てくれる。いくつかのホテルのコンシェルジュが「英語もフランス語も通じる日本茶専門店」として紹介してくれているようだ。
 『おちゃらか』に立ち寄る人から受けた印象だが、ここ最近、観光客の日本体験のあり方がずいぶん変わってきたように感じる。
 日程が限られた旅行の場合、以前は東京とその周辺を観光して帰るという人が多かったが、最近は東京イン関空アウトのコース(あるいはその逆)で東京・大阪・京都を回るルートが多いようだ。より合理的に多くの体験ができるルートとして旅行会社が提案しているプランのようだ。
 それには飽き足らず、個人で情報を集めて旅行を楽しんでいる人も多くなってきたようだ。とくに中国人旅行者の変化には驚いている。中国人旅行者のトレンドが、何年か前に話題になった「爆買い」から、とっくに体験型旅行に変わっていることを感じる。より文化的な体験をディープにしたいという層が劇的に増えている。
 例えば、私がよく訪れる四万十だが、中国人ツアーのバスと出会うことが多い。四万十の美しい自然は中国人にも人気らしい。個人でレンタカーを借りて四万十を旅行したという中国人客と話すチャンスがあった。レンタカーを手配し、インターネットで情報を調べ、沈下橋をめぐり、包丁作りを体験したという。ちなみに日本語はできないが、ちっとも怖くなかったという。相当レベルの高い文化体験をしている。
 日本を訪れる観光客は、すごいスピードで成熟している。迎える私たちもそれに応えていかないといけない。

 

 

 

海外のお客様が求めるもの

 

 ひと口に海外のお客様といっても、その国籍や来日目的などによって求めるものは違う。『おちゃらか』を訪れるお客様は、「日本茶を買う」という目的を持った人がほとんどだ。吉祥寺時代とちがって、ある程度日本茶に対する関心や知識のある人ばかりだ。ただ、表面的な知識しか持っていないことがほとんどだから(日本人も同じだが)、より専門的な知識、よりおもしろいエピソードを提供すると、とても喜んでくれる。
 彼らと話す中で、国籍や文化圏ごとに関心の持ち方の違いに気づくことも多い。私はそれによって、日本茶を紹介する方向性や提案する商品を変えている。そこで、『おちゃらか』に来るお客様と接して感じた印象を、おおざっぱなエリア別にお話ししようと思う。
 

 

 

韓国人のリピーターに新商品を紹介する

韓国人のリピーターに新商品を紹介する様子。

 

 

 韓国・中国・台湾はそもそもお茶の文化があり、お茶全般に対する関心が日本よりも高い。 

 

韓国:韓国の喫茶文化は思っている以上に成熟している。新しい物へのチャレンジ精神もアレンジ力もある。自国でも生産している緑茶よりも、和紅茶に関心を示す人が多いのも納得できる。

中国:冒険心を持って様々な産地の日本茶やフレーバー茶にもチャレンジして、口に合うものを見つけたら金額を気にせずにたくさん買う傾向がある。深蒸し茶の旨味が得意ではなく、釜炒り茶を好む。

台湾:日本茶の基礎知識を持つ人も多い。お茶を楽しむ文化が非常に深く、舌も肥えていて、自分の好みがはっきりしている。もともと香りに特徴のある台湾茶に親しんでいるので、「遊びのお茶」としてフレーバー茶を楽しんでいる。

東南アジア:試飲をして「はじめておいしい日本茶を飲んだ」という方も多い。日本茶のことは知っているし、ペットボトル飲料の日本茶を飲んだことがあるという人も多い。ただ、地元で売られているのは「現地の嗜好」に合わせて砂糖を入れるなど調整されたもので、「本物」の日本茶を飲むチャンスはあまりないようだ。

ムスリム:原則として禁酒なのでお茶に対する関心は高い。とくに日本茶の渋みを好むようだ。

アメリカ:「自分は日本茶を知っている」と思っている人が多いが、実際に試飲させながらより多くの知識を提供すると非常に喜んでくれる。

オーストラリア:驚くほどお茶に関する知識を持っている。健康志向が強く、最初から良質なものを探している。

ロシア:お茶の「文化」に関心がある。ロシア人は歴史や文化など教養を大事にする。だから日本茶の背景にある文化(産地や製法)について話すと大変関心を持ってくれる。

ヨーロッパ:北ヨーロッパではお茶を飲む人も多い。とくにプロテスタントの生活にお茶は馴染むと思う。

アフリカ:訪日している人は自国外で高等教育を受けた人が多く、どこで教育を受けたかによって嗜好が異なる。

インド:お茶は好きだが、自国のものが一番だと思っている。この人たちに日本茶を売り込むのはおもしろい。

中南米:これまで私にとって未知のエリアだったが、お客様として身近に接するようになって実感したのが、彼らの好奇心の強さと前に進むエネルギー。日本茶にもバイヤスなく興味を示してくれる。

中央アジア:忘れがちだがお茶の文化が強いエリア。当然、日本茶に対する関心も高い。

 

 

1年に何度も来てくれる韓国のリピーター

 

熱心に質問する観光客

上/1年に何度も来てくれる韓国のリピーター。下/熱心に質問する外国人観光客たち。

 


 

 おおざっぱに列記したが、日本橋の『おちゃらか』には実に多くの国のお客様が来る。彼らと話しながら、それぞれ異なる彼らの嗜好をはかり、好みそうな茶葉を好みそうなタイミングと方法で提供するのが本当におもしろい。
 日本橋で店に立ってさまざまな国からの旅人を出迎えることで、それぞれの国の人たちが日本に何を求めているのか、なんとなくわかってくる。それをもとに世界に向けて日本茶をいかに普及させていくか、考える日々だ。
 売りたいものを売るんじゃない。欲しがっているものを提供したい。それが私の考え方だ。


 

 

 

 

 

*この連載は毎月第1・第3月曜日(月2回)の更新連載となります。次回公開は2019年4月1日となります。お楽しみに! 

 

 

写真/ステファン・ダントン    編集協力/田村広子、スタジオポルト

stephane-danton00_writer00

ステファン・ダントン

1964年フランス・リヨン生まれ。リセ・テクニック・ホテリア・グルノーブル卒業。ソムリエ。1992年来日。日本茶に魅せられ、全国各地の茶産地を巡る。2005年日本茶専門店「おちゃらか」開業。目・鼻・口で愉しめるフレーバー茶を提案し、日本茶を世界のソフトドリンクにすべく奮闘中。2014年日本橋コレド室町店オープン。2015年シンガポールに「ocharaka international」設立。著書に『フレーバー茶で暮らしを変える』(文化出版局)。「おちゃらか」http://www.ocharaka.co.jp/

ステファン・ダントンの茶国漫遊記
バックナンバー

その他のJAPAN CULTURE

ページトップアンカー