風まかせのカヌー旅

風まかせのカヌー旅

#44

「海の神様に叱られます!?」

パラオ→ングルー→ウォレアイイフルックエラトー→ラモトレック→サタワルサイパン→グアム
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文と写真・林和代 

 

 

IMGP1430

 

 

 2016年5月19日の午後3時。

 いよいよ最後の区間、サイパンからグアムへの航海が始まった。

 ここからは二隻のサタワルカヌーも一緒だ。

 

 各地からグアムに集まる伝統カヌーが揃って入場行進するというフェストパックのオープニング・セレモニーは5月22日の午前6時頃開始。まる2日以上ある。

 順調なら1日半で着くというこの距離。

 風もいいので確実に間に合うだろう。

 

 見送りに来てくれた大勢の人々に別れを告げてマイスに乗り込むと、私はすっかり途方に暮れた。

 

 ずっと10人だったクルーがいきなり24人。

 いつもの私の陣地であるキッチン前の通路はもちろん、キャプテンボックスの上から船首の女子トレイ用ネットまで、座れそうな場所はすべからく人間で埋まっており、それはもう大混雑である。

 その上、全員の荷物と、サイパンの人々からの大量の差し入れで、デッキは足の踏み場もない状態。たった1〜2泊でグアムに着くというのに、食べきれないほどの食料が山と積まれていた。
 

 にわかに整理を試みたものの、ものの5分で諦めた。

 サイパンから乗り込んだ方々は、始まったばかりのマイス・クルーズに浮き足立っていて、整理などというムードは一切なかった。更に、差し入れには大量のビールもあった。いつの間にかバーベキューも始まっている。

 マイスはパーティ会場と化していたのだ。

 

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大変混んでいる船上。船尾にはフツーにバーベキューセットも登場。

 

 新加入14名のうち、一人はパラオ人のウェイン。彼は長らくパラオのカレッジでセサリオから航海術を熱心に習っているが、仕事の都合でパラオからは乗れず、ここから参加。

 サイパン人でチャモロのジョンは、かつて2度ほどマイスで一緒に航海した、頼れる海の男。

 この二人が優秀なクルーであることはわかっていた。

 他に、既知だがクルーとしては「微妙」なおじさんが二人、あとは初めましての方々ばかりだ。

 中には政治関係者数名も含まれており、迂闊なことは喋れないという緊張感も若干あった。

 さらには有力者の奥様とセサリオの姪という女性2名も同乗。

 私は、皆さんの名前を覚えなければならぬというプレッシャーに襲われていたが、ある男性が7歳の息子を連れて乗船したため、友を得たディランはすこぶるご機嫌であった。

 

 

クルー
サイパンからのクルーの面々。【PHOTO by Osamu Kousuge】

 

 

 出航してしばし。私はようやく気がついた。

 私たちの航海は、ある意味、サイパンに着いた時点で終了していたのだ。

 

 これまで10人で、くだらない冗談をむやみに飛ばし合い、のびのび愉快に航海してきたが、今や我々は、ゲストをお迎えする側になっていたのだ。

 出航直後の2、3時間はゲストたちが舵取り体験を楽しんでいたが、日が暮れるとアルビーノや、ノーマン、ミヤーノ、ムライスなど元からいる面々が担当。

 海況も良く、仕事は少なかったが、ハッチに溜まった水の汲み出し、荷物の整理など、元からいるクルーはみな冗談も言わず、ただ黙々とやるべきことをこなしていった。

 セサリオがゲストと飲むことはわかっていた。

 だからミヤーノたちは酒も飲まずに働いた。なぜかロドニーだけは泥酔してたけれど。 

 

 ゲストはみな善良で楽しい人たちだった。

 それに、今後のためにもサイパンの人々がこの航海を楽しみ、好感を抱いてくれるのはいいことだ。

 ただ、2ヶ月続いた「家族水入らず的な空気」とは別物になっていた、ということだ。

 

 

IMGP1456サイパンからはサタワルカヌーと一緒に航海。

 

 

 夜9時過ぎ。

 半数のゲストはすでに就寝なさっていたが、タフな数名がまだパーティを続けていた。

 ベロベロに酔ったロドニーは、大音量で音楽をかけ、バカ笑いをしたり踊って見せたりしている。

 

 サイパンでも連日宴会だったのに、出航してもまた宴会。いい加減うっとおしいなあと感じ始めていた私は、そんな気分を振り切るように夜空を見上げた。

 前方は曇っていて南十字星は出ていなかったが、背後に北斗七星がバッチリ見えた。

 えーっとグアムは南南西だからあの辺ね、などと思いつつ視線を下ろすと、ちょっと離れた暗い海に、微かな赤い光が揺れているのが見えた。サタワルカヌーのマストの灯だ。

 姿は見えないけれど、あそこではアタリーノたちサタワル軍団が、親密な空気に包まれて夜の海を進んでいるんだなと想像すると、なんだか嬉しい。やっぱり私はサタワル人フェチなんだろう。

 

 そこへミヤーノが近づいてきて、不機嫌そうにこういった。

 

「夜の海はリスペクトしなくちゃいけない」

 

 背後ではまだ大音量の音楽と、酔っ払いの大声が続いていた。

 だよねー。だよねー。どんちゃん騒ぎはよろしくないよねー。

 そんな気持ちを込めて、私は大きく頷いた。

 

 と、不意にミヤーノが首をすくめながら小声で呟いた。

 

「フェノア、フェノア、フェノア……」

 

 大波を鎮める呪文!?

 慌てて暗い海を見ると、すぐそばに大きなうねりが迫っていた。

 スプラッシュを浴びがちな私は、とっさに水しぶきが飛びそうな方角を予測して身をかわした。その直後、マイスがうねりに乗って大きく傾き、同時にスプラッシュが盛大に上がった。

 私は無事だったが、パーティピーポーはびしょ濡れ。

 

 海の神様に、叱られたのかもしれませんな。

 


 


*本連載は月2回(第1&第3週火曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

canoe_routemap - #43

 

 


クルー1クルー2

 

 

 

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林和代(はやし かずよ)

1963年、東京生まれ。ライター。アジアと太平洋の南の島を主なテリトリーとして執筆。この10年は、ミクロネシアの伝統航海カヌーを追いかけている。著書に『1日1000円で遊べる南の島』(双葉社)。

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