旅とメイハネと音楽と

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#30

「イスタンブル・ガストロノミー・フェス」レポート〈2〉

文と写真・サラーム海上

 

世界的な料理の祭典、取材二日目

 今回も前号につづいて、在日トルコ共和国大使館文化広報参事官室の協力で実現した「イスタンブル・ガストロノミー・フェスティバル2017」取材レポートをお届けしよう。

 フェスの二日目からは外国人プレスチームは午前中に市内観光を行い、午後からフェス会場の取材に向かうことになった。僕とマケドニア人テレビチームを除くと、意外にも参加していた外国人プレスのほぼ全員がイスタンブルを訪れるのは初めてという。それならさぞかし、移動するバスの窓からの風景がエキゾチックに見えるだろう。この町にはアヤソフィア博物館やブルーモスク、トプカプ宮殿など、人類の歴史において価値ある遺跡が至る所にある。

 しかし、毎年この町を訪れている僕にはさすがに市内観光はもう必要ない。その分、新しいフュージョン料理のレストランや路地裏のストリートフードなどを取材するほうがイイ。そこで僕は午前中は単独行動し、午後にフェス会場のテュヤップ見本市会議センターに自力で向かい、他のメンバーと合流することにした。

 市内からテュヤップへは「メトロビュス」という専用レーンを走る急行バスを使った。二台の車輌を前後に繋いだメトロビュスはこれまでも主要道路上で目にしていたが、乗るのは初めてだった。

 トラム同様に道路の中央車線に設置された専用レーンを走るので、周りは渋滞でも、メトロビュスは全く影響を受けずに弾丸のようにかっ飛ばす。しかも24時間営業で、昼間なら5分置きくらいに走っている。その上、車内は無料Wifi完備。これはイイ!もはや一般道でヒドい渋滞に巻き込まれ、「この渋滞こそイスタンブルだよ……」などと古臭い旅愁を感じて悦に入っている時代じゃないのだ!

 

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イスタンブル新市街北部にあるメジディエキョイからメトロビュスに乗る

 

 イスタンブル新市街タクシム広場から一時間ちょっとでテュヤップ見本市会議センターに到着。会場に入ると、奥にある業務用キッチン什器の製造メーカーのブースから、料理を作っている音声放送が流れてきた。近づくと、フェスにも出場したシェフが訪れた見物客向けに料理ワークショップを行っていた。大きな丸鶏一羽を元に、鶏の野菜巻き、肉団子、鶏の腸詰めの3つの料理を作り分けている。一石三鳥な料理教室だ。見物客だけでなく、料理学校の学生たちもメモを取りながら聞いていた。

 

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一流シェフによる料理ワークショップも開催されていた

 

 ワークショップの横には前日にはなかった料理本の販売ブースが出来ていた。魚料理、BBQ、簡単料理、イスタンブル料理、パン、黒海料理など、様々な題材別に美しい写真をたっぷり掲載した料理レシピ本が並んでいた。言語はトルコ語だけだが、値段は900円前後と安い。

 

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料理本即売ブース、全てトルコ語なのは仕方ないかあ

 

 料理コンテストの入り口に戻ると、フェスの事務局のエルデム・アルプル氏が話しかけてきた。

「取材は上手くいってるかい? なに? 料理の審査基準について知りたいって? 料理は味だけじゃない。食感や料理の温度、それを作る確かなテクニック、そしてディスプレイの美しさ、全てが要求されるからね。それら一つ一つを細かく評価するんだ。

 このフェスは今年で15回目なんだよ。審査員も年々国際的になっている。私自身、毎年ここに来ているが、どんどん規模が大きくなっているのを感じているよ。トルコ料理は元々世界に誇れる料理だけれど、近年、トルコが豊かになるにつれ、西洋的なガストロノミーに興味を持つトルコ人が増えてきた。

 なに? 毎年、合計何千人が会場を訪れるかって? 私はシェフなのでそんな数は知らないよ。でも、この大きな声援を聞けばどれだけ多くの人に支持されているかわかるだろう」

 

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フェスの事務局のエルデム・アルプル氏

 

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フェスの多国籍審査員たちも記念撮影

 

 調理ブースでは学生中心だった前日とは異なり、プロのシェフたちが立ち、淡々と料理を作っている。前日、話しかけてきたモンゴル代表のツェグメドさんが厳しい表情で料理を仕上げていた。彼はアジア&極東料理部門の優勝候補らしい。

「ナイスタイミング! 海老とアボカドの巻きずしが完成したよ。僕は以前、モンゴルの日本料理店で日本人の板前の下、修行していたんだ」

 出来上がった巻きずしは、大きな海老の天ぷらを酢飯で巻き、海苔の代わりに薄切りのアボカドで巻き、漬けダレとすぐりの実で飾ったもの。名古屋の天むすとカリフォルニアロールを組み合わせたようなオリジナルな料理だが、何より鮮やかな黄緑色とルビー色のコントラストは日本人には思いつかない。

 

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モンゴル代表チームの寿司職人ツェグメドさん

 

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ツェグメドさんが作り上げた海老とアボカドの巻きずし、日本人には思いつかない色合いだ

 

 奥のブースでは更に一層ビビッドな色の料理が作られていた。スパイスでマリネしてからグリルしたラムチョップやベビーキャロットを、人参やカボチャのピュレを混ぜ込んで鮮やかな色を付けたマッシュポテトで描いた螺旋模様の上に並べている。この中東無国籍フュージョンは間違いなくイスラエルだろう。聞くと、やはりテルアビブから来たチームだった。

 

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イスラエル・チームによる色鮮やかな料理は、ラムチョップを野菜のピュレで彩色したマッシュポテトにのせて

 

 パレスチナ自治区のチームも負けていない。スズキを背中から開き、お皿に置き、スパイスと塩をふったトマト、赤パプリカ、黄パプリカ、トマト、パセリのみじん切りを詰めて、オーブンで焼く。最後に付け合せにレモンで味を付けたマッシュポテトを添える。

 見るからに美味そうだし、白身魚と刻んだ緑黄色野菜の組み合わせはまさに中東~東地中海的だ。これは日本に帰ったら再現しよう。スズキの代わりにカサゴやホウボウでも良さそうだ。

 

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国旗模様をテーブルに飾りつけているのはパレスチナ代表チーム

 

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パレスチナ代表チームはスズキにトマト、赤パプリカ、黄パプリカ、トマト、パセリのみじん切りをつめて

 

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パレスチナ代表チームによるスズキのファルシ完成! これは簡単に真似できそう! 

 

 調理ブースの裏側から、大声で檄を飛ばすようなヒンディー/ウルドゥー語が聞こえてきた。おお、インド人かパキスタン人だろうか? これまで調理中のシェフたち何人にも話しかけたが、外国人のチームは基本的に英語が通じるが、トルコ人チームはあまり英語が通じず、取材が難しい。もちろん、僕がトルコをこれだけ何度も訪れながらも、満足にトルコ語を話せないのが悪いのだが……。

 ブースの裏側に回り込むと案の定、褐色の肌をした南アジア系のチームが激しく議論をしていた。僕がヒンディー語で話しかけると、ウルドゥー語で返事が返ってきた。彼らはラホールから来たパキスタン代表チームだった。ジュニア部門で賞を逃したため、その反省会を開いていたのだ。前年には複数の部門で受賞していたので、今年は負けられないという。この後行われるカップル向け料理部門で、何を改善すべきか激しい討論が続いた。

 

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調理ブースの裏側で作戦を練るパキスタン代表チーム

 

 再び、調理ブースの表に戻ると、トルコ料理ゴールデンシェフ部門が始まっていた。トルコ中北部黒海地方の町アマスィアからの若いシェフは、トルコ伝統料理「スルタンのお気に入り(ヒュンケル・ベエンディ)」を元にした創作料理を作っていた。

 本来はトマトペーストで柔らかく煮込んだラム肉を、焼き茄子の実をベシャメルソースとともにペーストにしたものに乗せた料理だが、彼は焼き茄子の代わりに焼いてほぐしたズッキーニの実とイラン料理に使う干しレモン、ラム肉の代わりに牛のスパイス漬け干し肉であるパストゥルマを使い、小さなセルクルで円筒形に盛り付け、仕上げには季節外れのはずのズッキーニの花を飾っていた。淡い黄色と茄子の実の色は見た目こそそれほど派手ではないが、いかにも美味そうだ。

 

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トルコ料理ゴールデンシェフ部門に出場した若いシェフ

 

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黒海地方の町アマスィアの若いシェフは伝統料理「スルタンのお気に入り」を元にした創作料理を

 

 盛り付けたお皿を大勢の審査員が囲み、手にしたスプーンで一口ずつ試食していくと、あっという間にお皿の残りがほんのわずかになってしまった。審査員の一人が物欲しそうにしていた僕を見て「一口、食べてみなさい」とスプーンを渡してくれた。目だたないように、お皿の残りをそそくさとスプーンですくい、パクっと口に入れた。

 これは美味い! 焼いたズッキーニの実は焼き茄子の実よりもマイルドでベシャメルソースとの相性がイイ。さらに、干しレモンのするどい酸味、パストゥルマの肉の旨味と塩味が強いパンチになっている。こんなトルコ料理を前菜からデザートまでフルコースで食べたいなあ。

 

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出来上がった料理の写真を撮影する見学客たち

 

 トルコ料理ゴールデンシェフ部門には地中海のアンタルヤやフェティエなど、トルコ各地から来たシェフが腕を競っていた。中でも美味そうだったのは、マッシュルームを混ぜ込んだポレンタでラムラックを包み、オーブンで焼いた後にミニトマトとアルマニャック(ブランデー)のソースかけ。

 これまで料理にアルコールを使うことはほとんどなかったトルコ人だが、常識的に考えて、ラム肉や牛肉にブランデーや赤ワイン、魚に白ワインやラクが合わないわけがない! ガストロノミーを追求することはイスラーム教、そしてハラルフードとは相反するが、トルコは宗教国家ではなく、世俗国家である。料理界にはもっともっと過激に冒険して欲しい。

 

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ラムラックのオーブン焼き、ミニトマトとアルマニャック・ソース

 

 そうこうしている間に、パキスタン・チームは「ロースト・チキン、ピュイのレンズ豆とマッシュルーム添え」を作り上げ、リーダーはうっすらと笑みを浮かべていた。自信満々といったところだろうか。

 

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パキスタン代表チームのロースト・チキン、ピュイのレンズ豆とマッシュルーム添え

 

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バックヤードでは一仕事終えたパキスタン代表チームの面々が笑顔を取り戻していた

 

 気づくと夕方5時、パキスタン・チームのメンバーは撤収を始めていた。では、そろそろ僕も撤収しようか。

 調理ブースから出て、入り口に戻る途中、モンゴル代表のツェグメドさんが受賞したばかりの金メダルを口にかじり、銀メダル、銅メダル受賞者と並んで記念撮影を行っていた。

 

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予想どおり金メダルを受賞し、はしゃぎすぎのモンゴル代表ツェグメドさん

 

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メトロビュスの最寄り駅ベイリッキドゥズからはマルマラ海が見渡せる

 

 

イスタンブルの冬の名物、カタクチイワシの料理

 今回の料理はイスタンブルの冬の名物でもあるカタクチイワシを使った「ハムシ・クシュ」、「カタクチイワシの小鳥」の意味。開いたイワシが鶏の羽根のように見えることから名付けられた。

 頭と背骨を取り、手開きにしたカタクチイワシを二枚用意し、すりおろした玉ねぎとにんにくを挟んで、重ね合わせて焼いたもの。ルッコラや玉ねぎのスライスとともに食べる。ラクの肴にも最高だ。

 

■ハムシ・クシュ

【材料:4人前】

カタクチイワシ:500g

にんにく:2かけ

玉ねぎ:1/2個

黒胡椒:少々

塩:少々

EXVオリーブオイル:大さじ3

EXVオリーブオイル:大さじ1

*付け合わせ

紫玉ねぎ:1/2個:厚さ5mmに横スライス

レモン:1/2個:くし切り

ルッコラ:適宜

 

【作り方】

1.カタクチイワシはよく洗い、水を切ってから、頭と内臓をむしり取り、腹に指を入れて、背骨に沿って開き、背骨を抜いておく。

2.にんにく、玉ねぎはすりおろし、ボウルに入れ、黒胡椒、塩、EXVオリーブオイルを加え、よく混ぜ合わせる。

3.カタクチイワシ一尾を内側を上にしてまな板の上に広げ、2を塗りつけ、もう一尾を内側を下側にしてかぶせ、掌で軽い押さえつけ、密着させる。3を繰り返す。

4.クッキングシートを敷いた天パンの上に3のカタクチイワシを並べ、EXVオリーブオイルをスプーンで回しかけ、220度に熱したオーブンで10分焼く。表面に焼き色が付いたら出来上がり。紫玉ねぎとルッコラとともに盛り付け、レモンのくし切りを添える。

 

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「カタクチイワシの小鳥」という意味のハムシ・クシュ

 

 

*次回はガストロノミー・フェス番外編をお届けします!

 

*「イスタンブル・ガストロノミー・フェスティバル2017」HP→www.istanbulgastronomyfestival.com/en/

 

 

 

*著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。次回もお楽しみに! 〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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