ブーツの国の街角で

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#27

グレッチョ:プレゼーペ発祥の地を訪ねて(後編)

文と写真・田島麻美

 

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  ナターレ(=クリスマス)がすぐそこまで近づいて来た。街中も教会も家々も、イルミネーションやツリー、そしてプレゼーぺで飾り付けられ、25日を迎える準備はすっかり整ったようだ。
プレゼーぺ発祥の地グレッチョのサントゥアリオ(聖地)と博物館を訪れ、改めて「ナターレ」という言葉の意義を知った。すっかり厳粛な気分になったところで、「グレッチョ村の人々はどんな風にこの時期を過ごすのだろう?」と興味が湧いて来た。聖フランチェスコのサントゥアリオを後にして村の広場へ戻り、この山間の小さな村の中を散策してみることにした。

 

 

 

 

 

壁画で彩られた山間の集落

 

 

 

  グレッチョの集落はラツィオ州とウンブリア州の境にあるアペニン山中に位置している。中世の面影を残す小さな村は別名「ナターレの村(Il Borgo del Natale)」と呼ばれ、12月に入るや否やイタリア国内、海外からも多くの巡礼者が押し寄せてくることで知られている。とはいえ、プレゼーぺ博物館やサントゥアリオ、その他周辺に点在する修道院なども、いわゆる「観光スポット」とは少し趣が異なる。ここを訪れる人達の目的は巡礼であるため、静かで慎ましいこの村はまるで聖フランチェスコの清貧の教えを体現したかのような雰囲気に包まれている。
 12月初旬の平日、人気の少ない村の中をあてもなく歩いていると、通りの角や住宅の壁面に描かれたフレスコ画の数々が目に留まった。どの壁画も聖フランチェスコと自然や動物がモチーフとなっていて、この村とアッシジの聖人との結びつきの深さがよくわかる。15分ほど歩いたところで、出発点の広場へ戻って来た。広場にあった案内板をもう一度見てみると、『チッタ・デッレ・アルテ・サクロ(聖なるアートの村)』という看板があり、村全体をオープン・ミュージアムに仕立ててアーティスト達が聖フランチェスコをテーマにした壁画を製作したことがわかった。住民の家の壁やバールの壁など、あちこちで見られる壁画の数々によって、この村に流れるどこか神聖な空気がますます濃くなっているように感じた。
 

 

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 何気ない住宅や通りの壁に聖フランチェスコとその生涯をテーマとしたさまざまな壁画を見ることができる(上)。旧市街には「アーティスト達の小径 / Il Sentiero degli Artisti」と呼ばれる壁画を巡る散策コースがあり、全部で26の作品が見られる(中)。城壁に沿って歩けば、周囲の山々と平野の素晴らしいパノラマも楽しめる(下)。
 

 

 

 

 

郷土の味はマンマの手料理

 

 

 

  壁画巡りを終える頃、太陽が山の向こうへ回って空気がぐっと冷え込んで来た。時計を見ると午後1時半、昼ごはんの時間だ。博物館のティツィアーナさんに聞いた話では、グレッチョの郷土料理はウサギやイノシシといったジビエ肉と手打ちのパスタなど、素朴な家庭料理のようなメニューが多いらしい。トラットリアやレストランは数こそ少ないものの、どの店に入っても手頃な値段で美味しい料理が食べられるとのことだったので、最初に目についた店に入ってみることにした。
村の中心のローマ広場にある『リストランテ・デル・パッセジェーロ』は、一見普通のバールのような雰囲気だったが、店内に入ると常連らしき地元の人々でにぎわっていた。平日の昼、地元住民が食べに来ているということは、それだけ安くて美味しいということに違いない。
 テーブルにつくと早速、店のおかみさんが今日のおすすめメニューを読み上げてくれた。「グレッチョの代表的な料理が食べたいのですが」というと、「それじゃ、カンネッローニね。セコンドにはウサギ肉のローストがあるわよ」と勧められたので両方いただくことにした。
おかみさんとそのマンマらしき高齢のおばあちゃんが切り盛りしている店は、サービスもゆったりしている。カンネッローニを待つ間、お腹を空かせて隣の席に運ばれてくる美味しそうなパスタを眺めていると、「はい、フォカッチャ。ソーセージ入りよ!」とおかみさんがサービスのフォカッチャを持って来てくれた。焼き立てサクサクのフォカッチャは、香ばしいローズマリーとソーセージの塩味が絶妙で、あっという間に平らげてしまった。
 ようやく運ばれて来たカンネッローニも、思わず笑みがこぼれる美味しさ。マンマの手打ちパスタはコシがあって、噛むほどに味が深まる。自家製のトマトソースとチーズ、ひき肉とこのパスタの調和が見事で思わず唸った。熱々のカンネッローニお陰で冷えた体も一気に温まった。
 

 

 

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お通しとして出された焼きたてのソーセージ入りフォカッチャ。これだけでも十分満足できるほど絶品(上)。グレッチョの代表的な郷土の味「カンネッローニ」は、手打ちパスタとソースの絡み具合が最高! 焼きたて熱々のうちに食べるべし(中)。ウサギ肉のローストもシンプルな調理法で素材の味が際立ってとても美味しかった(下)。
 

 

 

 

 

 

村を見守る丘の上の教会

 

 

   

   

 マンマの愛情たっぷりの手料理で、お腹も心もほっこりと温まったところで再び外へ。村の広場を見下ろすように立っている教会まで行ってみることにした。
中世の塔が残る高台の中央に立つサン・ミケーレ・アルカンジェロ教会は、この村の守護聖人である聖ミケーレ(=大天使ミカエル)に捧げられた教会である。起源は1300年に遡るこの教会は、18〜19世紀にかけて何度も修復が繰り返された。さらに1915年に村を襲った大地震によって大きな被害を受けた教会は、被害を免れた装飾や絵画などを保存しつつ20世紀に大規模な修復が施され、現在の姿になったらしい。シンプルな内部の主祭壇には19世紀に描かれた聖ミカエルの絵画と聖ミカエルの像が、壁と天井には16世紀のフレスコ画が見られる。聖アントニオと無原罪の聖母に捧げられた礼拝堂のフレスコ画の前には、村人の手作りらしきプレゼーぺが飾られていた。
 今も村人達の大切な祈りの場となっている教会内には、平日の昼間にも関わらず熱心に祈りを捧げている人々がいる。ただの見学者である私はなんだかとても無礼なことをしているような気になり、一礼して教会を後にした。外へ出ると、目の前に大きな十字架にかけられたキリスト像があった。小さな村の広場を、キリストが静かに見下ろしている。聖フランチェスコが「ここはまるでベツレヘムだ」と言ったように、山々に囲まれた厳しい自然環境の中にある村での暮しは、大都会のそれとは大きく異なるに違いない。自然と向き合い、信仰と向き合いながら生きている人々の姿を目の当たりにして、心が引き締まる思いがした。

 

 

 

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ローマ広場正面の高台に残る中世時代の塔(上)。サン・ミケーレ・アルカンジェロ教会の内部には、大地震の被害を免れた16世紀のフレスコ画なども残っている(中)。教会の正面に立つ大きな十字架のキリスト像。人々が集う広場と集落を見守っている(下)。
 

 

 

 

 

小さな広場のクリスマス・マーケット

 

 

 

 日が暮れはじめた頃、村の広場に並んでいた山小屋にイルミネーションが灯った。
『フランチェスコ修道会のベツレヘム』、『ナターレの村』、『プレゼーぺ発祥の地』など、様々な呼び名があるグレッチョには、もう一つ名物がある。12月初旬から1月初旬にかけて開かれる『メルカティーノ・ディ・ナターレ(クリスマス・マーケット)』は今年で18年目を迎え、プレゼーぺの人形や模型の部品、ツリーのデコレーションやギフトに最適なニット小物、郷土の味覚などを求める人々がイタリア各地からやってくる。屋台で販売される品はどれも地元の職人やアーティスト達の手作り。ガラス細工や木の製品、素朴な陶器、特産のサラミやチーズ、オリーヴオイル、刺繍やニットなど、色とりどりの手工芸品や食材がぎっしりと並んだ広場は、見て歩くだけでもウキウキしてくる。
 メルカティーノの開催期間中には、グレッチョのナターレの風物詩である『プレゼーぺ・ヴィヴェンテ(=生きたプレゼーぺ)』も行われるほか、音楽のライヴ演奏や地域のグルメの試食・試飲会などさまざまなプログラムも用意されている。12月のこの時期にグレッチョを訪れてみれば、「これぞイタリアのナターレ!」と納得の体験ができるはずだ。
 

 

 

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フェルトや刺繍、ガラスなどの手工芸品はギフトにもピッタリ(上)。素朴な木彫りのものもあれば、本格的なアーティストのプレゼーぺまで、ナターレに必要なアイテムがそろっている(中)。マーケットが開催されるのは、一年で一番寒い時期でもある。防寒対策をしっかりして、プログラムをチェックしてから出かけたい(下)。

 

 

 

 

 

★ MAP ★

 

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<アクセス>

ローマ・ティブルティーナのバスターミナルからコトラル/Cotral社のバスでリエーティRietiまで約2時間。リエーティのFS駅前でグレッチョ/ Greccioまで約10km。鉄道の駅もあるが、駅は村からかなり離れていて駅から村までの交通手段がないので、リエーティから直接村の広場まで着くコトラルのバスを利用する方が便利。リエーティとグレッチョを結ぶバスは1日に3本(午後2本)しかなく、日曜日はバスの便はないので要注意。日帰りではなく一泊する予定を組んだ方がいい。

 

<メルカティーノ・ディ・ナターレ(=クリスマス・マーケット)>
2017-2018年度の開催日 12/ 2〜10、16、17、23〜26、29〜31、1/1、5〜7
オープン 10:00〜18:00
会場 ローマ広場
イベントプログラム(伊語) http://www.visitgreccio.com/sites/default/files/programma_natale_2017.pdf

 

<参考サイト>

・グレッチョ観光情報
http://www.visitgreccio.com/

 

・グレッチョ市(宿泊施設などの情報)
http://www.comune.greccio.ri.it/

 

・グレッチョの聖地
http://www.santuarivallesanta.com/portfolio/

 

・バス・コトラル社

http://www.cotralspa.it/lang/

 

 

 

 

 

 

 

 

*この連載は毎月第2・第4木曜日(月2回)の連載となります。次回は1月11日(木)掲載予定です。お楽しみに! 

 

 

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田島麻美 (たじま・あさみ)

千葉県生まれ。大学卒業後、出版社、広告代理店勤務を経て旅をメインとするフリーランスのライター&編集者として独立。2000年9月、単身渡伊。言葉もわからず知り合いもいないローマでのサバイバル生活が始まる。半年だけのつもりで暮らし始めたローマにそのまま居座ること17年、イタリアの生活・食文化、歴史と人に魅せられ今日に至る。国立ローマ・トレ大学マスターコース宗教社会学のディプロマ取得。旅、暮らし、料理をメインテーマに執筆活動を続ける一方、撮影コーディネイター、通訳・翻訳者としても活躍中。著書に『南イタリアに行こう』『ミラノから行く北イタリアの街』『ローマから行くトスカーナと周辺の街』『イタリア中毒』『イタリア人はピッツァ一切れでも盛り上がれる』他。

 

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