風まかせのカヌー旅

風まかせのカヌー旅

#27

たまらんおっさんと水浴びのお話

パラオ→ングルー→ウォレアイイフルックエラトー→ラモトレック→サタワル→サイパン→グアム
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文と写真・林和代 

 

 

  

IMG_1385.JPG 

 

 サタワル島の我が家で寝転がっていると、大きなお腹のおじさんが、杖をつきながらやってきて、おー、俺の日本の娘! と声をかけて来た。

 やたらと長いまつげと大きな目。リティだ! 

 足が悪くなり、髪もすっかり白くなっていたけれど、そのいたずらっぽい眼差しは変わらない。

 

 彼は、私の島のママ、ネウィーマンの旦那である。だから「島のパパ」であり、実際、何かと世話にはなっているが、どうにも漫画っぽすぎて「たまらんおっさん」という印象の方が強い。

 

 あれは、私が二度目にサタワルに来た時だったと思う。

 私が居候していたマウの家には、長女のネウィーマンと夫のリティ、子供たち数人が暮らしていた。

 その家の庭の片隅に、なぜか古めかしい二層式の洗濯機があった。電気も通っていないのに。

「あれ、どうしたの?」

 私がそうたずねると、リティが嬉々として言った。

「あれはフロム・ジャパンなんだぞ」

 

 サタワルには昔からよく日本の漁船が立ち寄って、島の人々と物々交換をすることは私も聞いていた。島からは飲み水やココナツ、バナナをあげて、船からは魚や薬、包丁なんかももらえたりするそうだ。

 

「2ヶ月前、大きな日本の漁船が来たんだ。リーフの外に停泊してたから、俺たちは小さなカヌーに乗って漁船の船首に集まって物々交換してたんだ。あの時は、大量の魚をくれたんだよ。 

 で、ふと漁船の船尾を見たら、この洗濯機がデッキからロープで吊り下げてあるのが見えた。

で、そーっと近づいて見たら、ちょうどロープに手が届いたんだ。だからロープをプチって切って、カヌーに積んで持って来ちゃった。みんな、物々交換で忙しいから誰も気がつきゃしないんだ」

「えー! ドロボー!?」

 私がそういうとリティはすごく嬉しそうに、イエスと言ってウッシッシと笑った。

(「ドロボー」は日本からの外来語としてサタワルで定着している)

 

 

IMG_1581たまらんおっさん、リティ。

 

 そういえば、こんなこともあった。

 私がマウに、ある人物を訪ねたいと言うと、リティに案内してもらえと言うので頼んだが、面倒だったのか、たまたま通りかかった隣家の少女に案内するよう命じた。

 そして私が家に戻って見ると、マウが私を叱りつけた。

「なぜあんな娘と一緒に行ったんだ。リティと行けと言っただろう、気に入らん! 」

 すると、その場にいたリティは間髪入れずにこう言った。

「そうだよ、なんで俺に頼まないんだ? ここではマウの言うことに従わなきゃダメだろ」

 彼はしゃあしゃあとそう言ってのけ、マウに見えないようにちょこっと舌を出し、ウインクをよこした。

 

 そんなリティも、妻のネウィーマンを5年前に亡くし、老け込んではおらぬかと気になっていた。

「俺も年をとったよ。足もこんなだし」

「私もだよ」

「お前はまだカヌーに乗れるじゃないか」

 彼も航海が大好きで、若いころ、マウと何度も航海しており、航海術を教えにハワイに渡ったマウにもなんども同行した。でも、もう海には出られない。

 

 しんみりしちゃいそうだったので、彼のためにとっておいたお土産の防水時計を渡すと、嬉しそうに腕につけ、そういえばあれはないのか? と私の土産物入り段ボールを漁りだし、あるものを手に取った。

 それは、100円ショップで買ったファンシーシール。ハートや星の形の小さなシールがたくさんついたやつ。彼は嬉々として開封すると、金色の縁取りがあるピンクのハートをほっぺやおでこに3つ貼り付け、やっぱり100円ショップの派手な手ぬぐいを頭にかぶると、ニカッと笑ってナイス! と言った。

 そんな彼を見てエリーは涙を流しながら笑いつづけた。

  

IMG_1135ヤシ酒で酔っ払ってご機嫌のリティ。このあとは決まって怪獣のようないびきをかく。英語が堪能なので、あらゆる場面で通訳をお願いしてきたが、話に飽きるとふらりとどこかへ行ってしまい、私が放置されることもたびたび。

 

「オボ トゥトゥ?(水浴びする?)」

 どこかから戻って来たヘンリーナがそう声をかけて来たので、私とエリーは水浴びの準備を始めた。

 

 まずは、下着をとり、ラバラバとTシャツ姿になって海に入る。

 家の前の海は遠浅で、水深50センチほど。大の字になってあおむけで浮かんで見たり、ちょこっと泳いでみたり。あとは銭湯のごとくのんびりしゃがんでエリーとおしゃべりしてみたり。

「エリー、あの家に泊まるの、大丈夫そう?」

「もちろん大丈夫。もうリティ、超おもしろい。大のお気に入りよ」

「なら良かった。ヘンリーナもとっつきは悪いけど、いいやつなんだよ。でも、子供達の中には勝手にTシャツとか盗む奴がいるから、物の管理は気をつけてね。うっかりすると小銭やタバコも盗まれるから」

「そうなの?」

「そうなのー、ドロボーがいるのよー。でもおもろいからやめらんないのよねー、あのウチ」

 

 

IMG_4008.JPG「トーノン!」と叫んでは海に潜る子供たちのおかげで、トーノンが「潜る」とか「入る」、と言う意味だと覚えた。

 

 

 さて、海から上がると今度はシャンプーセットを手に、ヘンリーナについていく。

 家から1分ほどの場所に、巨大バケツがあった。高さは2メートル以上ある。

 中には水がたんまり入っているけれど、どうやってこの水を汲めば良いのか。

 するとヘンリーナが直径3センチほどもある太いホースを取り出し、先端をバケツの中に放り込んだ。

 そして反対側の先端を口にくわえると、ふっくらほっぺをキューっとすぼめて中の空気を吸い込んだ。

 水がホースの中を降りてき始めたが、息が続かず。半分まで来ていた水はまたバケツに戻ってしまった

 私とエリーがじっと見つめていると、ヘンリーナはちょっと照れたように笑って、再度トライ。顔を真っ赤にして吸い込むと、今度は見事、水がホースから出て来た!

 私とエリーは拍手をしてはしゃぎながら、体についた海水を真水で洗い流し、海水ではほとんど泡立たないシャンプーを頭から振りかけ、存分に泡を満喫。

 ひやー、気持ちいー!

 

 するとヘンリーナが歌い出した。

「トゥトゥ ネ セット? (海で水浴びすると?)」

 これは、かつて私が覚えこまされた、掛け合いになってる歌である。

 私は泡まみれで、返歌した。

「エラ ノラ ノ キシム(お尻が黒くなる)」

「トゥトゥ ネ ラン?(真水で水浴びすると?)」

「エ プエ エ プエ エ キシム(お尻が白くなる)」

「トゥトゥネセットラン? (海真水で水浴びすると?)」

「エラ ノ プエ キシム(お尻が白黒になる)」

 

 ヘンリーナもそばにいた子供たちもみな、ゲラゲラ笑った。

 私がこれを歌えることはサタワル中に知れ渡っており、私の顔を見ると誰もかれもが唄いかけてくる。

 おかげで私は、何度もなんども歌わざるをえなくなる。

 でも、まるで飽きないのか、何度やっても大ウケ必須なので、こちらもやめられないのであった。

 

IMG_3859.JPG写真は、別の村にあるバケツ型雨水タンク。上部は解放されているので、木の葉や虫はたくさん入るが、このタンクには下部に蛇口があるので、水汲みがラクチン。

IMG_3361.JPG

IMG_2444森の中にこんな真水が湧く小さな穴がいくつかあって、水浴び場になっている。

空き缶に紐をつけた「ツルベ」で水を汲んで浴びる。洗濯もする。

雨が降らず、雨水タンクの水位が減ると、みんなこちらに海水をリンスしにやってくる。

森の水浴び場はすごく気持ちがいいけれど、夕方になると蚊の猛攻撃を受ける。



*本連載は月2回(第1&第3週火曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

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クルー1クルー2

 

 

 

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林和代(はやし かずよ)

1963年、東京生まれ。ライター。アジアと太平洋の南の島を主なテリトリーとして執筆。この10年は、ミクロネシアの伝統航海カヌーを追いかけている。著書に『1日1000円で遊べる南の島』(双葉社)。

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