ブーツの国の街角で

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#25

アッシジ : 晩秋のウンブリアでスピリチュアルな休日を

文と写真・田島麻美

 

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  秋が深まってくると、なぜかアッシジへ行きたくなる。どうしてかは自分でもわからないが、紅葉を眺めながら静かな場所で思索に耽ってみたい、という欲求が湧き上がってくると、決まって行く先はアッシジになる。色とりどりの秋の自然美と旬の味覚を独り占めできる街は、イタリア各地にたくさんある。ちょっとメランコリックな晩秋を楽しむならトスカーナでもピエモンテでもどこでもいいのだろうが、私にとってアッシジは、それだけではない何か特別なエネルギーを与えてくれる無二の街なのだと感じている。 
雨の多い11月、寒さも日々増してきている。家の中でぬくぬくと読書でも楽しむのに最適なこの時期に、あえて早起きをして外へ飛び出し、丘の上の中世の街を目指した。今回もまた、何かスペシャルなインスピレーションをいただけるに違いないという期待を胸に列車に乗り込んだ。 

 

 

 

 

 

 

聖フランチェスコが愛した静寂と豊かな自然

 

 

 

   ウンブリア州の中央部、イタリアの地図の真ん中にあるアッシジの街は、中世イタリアにおける最も重要な聖人の一人であるサン・フランチェスコの出身地として知られている。清貧を貫き、人間や動物、自然を愛することを説いたキリスト教の聖人は、宗教という枠を超えて世界中の人々から尊敬され、親しまれている。世界遺産にも登録されているアッシジの街には、連日世界各国からの巡礼者や観光客が押し寄せてくる。過去に大地震で甚大な被害を受けたにもかかわらず、何度も立ち上がってきたこの街には、人々を惹きつけてやまない独特なパワーがあると私は思っている。 
スバジオ山の麓、標高約420mの丘の上に立つ旧市街からは周囲の平野と山々が見晴らせる。晩秋の天気は変わりやすく、街に着いた時はウンブリア名物の霧で下界は真っ白だった。雲と霧の間に差し込むかすかな太陽の光が、石造りの中世の街をドラマティックに照らし出している。一瞬、自分が今どこにいるのかわからなくなった。時間も空間もまるでどこかに消えてしまったかのような幻想的な世界に身を置いて、ああ、アッシジへ着いたのだと実感した。 
 

 

 

 

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 サン・フランチェスコ大聖堂入り口前の広場からドラマティックなウンブリアの平野を見渡す(上)。丘の頂上にあるロッカ・マッジョーレまでハイキング。頂上からは美しい自然に調和した旧市街のパノラマが楽しめる(下)。

 

 

 

 

愛と平和のエネルギースポットを巡る

 

 

 

  ホテルへ荷物を置いて、早速向かったのはサン・フランチェスコ大聖堂。1228年に建設が始められたこの聖堂は、内部が二階建て構造になっている。旧市街の北西端の丘の上に凛と立つこの聖堂へ入るといつも、とても清々しい気持ちになる。ゴシック様式の上部の聖堂には、ジョットの名作「サン・フランチェスコの生涯」を描いた28のフレスコ画があり、深いブルーと金の星で覆われた高い天井とともに、自然と調和した愛と平和の空間を作り出している。ロマネスク様式の下の聖堂はさらに静寂に包まれている。こちらも上の聖堂と同じくブルーを基調とした見事なフレスコ画で装飾されているが、外光が少なくなる分、神秘的な雰囲気が増すように感じる。この下の聖堂からさらに下へ降りると、大聖堂の心臓部であるサン・フランチェスコのお墓がある礼拝堂にたどり着く。下へ下りればおりるほど、神聖な空気が濃くなっていく。伝説となっている中世時代の聖人が、私の目の前にある石棺の中で眠っている。そう思うだけで鳥肌が立ってくる。世界中から集った巡礼者、観光客も同じように敬虔な気持ちになるらしく、行列を作ってサン・フランチェスコのお墓の周りを歩く人々は誰もが静寂を保って目を伏せ、深い物思いに沈んでいた。 

 

 

 

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1997年のアッシジ大地震で大きな被害を受けたサン・フランチェスコ大聖堂だが、ボランティアなどの尽力により3年後にはほぼ元どおりの姿に修復された。上の聖堂だけでなく、下の聖堂とサン・フランチェスコのお墓にも是非とも足を運んで欲しい。 
 

 

 

 

 

   この日の夜、一人で旧市街を散歩している時、大通りの道沿いにある小さなアーチが目に止まった。洞窟の入り口のようなアーチの下には石畳の階段があり、その先に小さな広場のような空間が見える。興味をそそられて降りていってみると、なんとそこには聖フランチェスコが生まれた場所があった。「サン・フランチェスコ・ピッコリーノのオラトリオ」は、質素なレンガの建物の中に作られた小さな礼拝堂で、大通りから外れた静寂の中にひっそりと佇んでいた。1182年7月5日、この場所でフランチェスコが生まれた。今なお、世界中の人々に敬愛されている聖人の原点がここにある。たった一人の人間が、どれだけの時間・ 空間を超えて、どれだけの人々に影響を与えることができるのか。誰もいない小さな礼拝堂の中で、人間の持つ可能性とそのパワーについて思いを巡らせた。 
翌日は、サン・フランチェスコの愛弟子で、後に聖人となったサンタ・キアーラが眠る教会を訪れた。こちらも下の礼拝堂の再奥に、聖女のお墓がある。サン・フランチェスコやサンタ・キアーラの衣服や所持品なども残されていて、彼らが実在の人物であることが実感できる貴重な場所だ。 
 

 

 

 

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マッツィーニ大通りのお菓子屋さんの横にある小さなアーチ。陶器の聖母子像の下に、「階段を降り、そして貧しきフランチェスコが生まれた住居を見つけなさい」と書かれている(上)。小さなレンガの建物の中にある礼拝堂(中)。旧市街を挟んでサン・フランチェスコ大聖堂と向かい合うように立つサンタ・キアーラ聖堂(下)。 
 

 

 

 

 

坂道だらけの旧市街でショッピングを楽しむ

 

 

   一年を通じて巡礼者や観光客が押し寄せる小さなアッシジの旧市街だが、地元の人たちと立ち話をしてわかったのは、「アッシジが一番美しいのは10月末から3月初めにかけて」だということ。 雨が降ったり、冷たい風が吹いたりで冬は大変だろうと想像しながら、立ち寄ったお店で「ベストシーズンはいつ?」と尋ねてみたところ、「今が一番いい季節よ!」という答えが即座に返ってきた。理由を訊くと「紅葉がきれいだし、オリーブ・オイルやワインも今年のものが出回り始めて、ポルチーニやトリュフ、イノシシなど秋の味覚の旬でもある。夏の間に押し寄せた観光客もいなくなるから、 街の雰囲気もゆったりしてるしね」とのことだった。 
なるほど、人混みも車も気にせず、静かな旧市街の通りを独り占めできるのはとても嬉しい。一つ一つの 道に高低差があるため、角を曲がったり、道を一本それるたびに坂道を登ったり降りたりしなければいけないのだが、そうした小さな通りや角に可愛い工芸品のショップや趣のある画廊などがあって、街歩きはまた一段と楽しくなってくる。カラフルな手作り陶器やアッシジのシンボルでもあるオリーブの木を使ったキッチン用品、伝統織物や特産品の食材店など、見ているとどれもこれも欲しくなってくる。とはいえ財布には限りがあるので、時間をかけてじっくり品定めをし、お値段も納得したものだけを購入することにした。オリーブの木の工芸店で調理用スプーンを、特産品の店では旬のトリュフソースとアッシジのパスタ「ストランゴッツィ」を、クリスマスのデコレーションが可愛い雑貨屋さんでは、手作りの壁掛けを買った。どれも7~15ユーロ程度のお手軽なお値段だが、職人さんたちが一つ一つ手作りで作った製品は、世界でたった一つのもの。素朴であるがゆえに愛おしさが募る品々を抱え、心もほっこりしてきた。 
 

 

 

 

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旧市街は坂道だらけ。上り下りをしながらのウィンドー・ショッピングは結構体力が必要(上・中上)。オリーブの木を使った手作りの調理道具やアクセサリーなどを売るショップもたくさんある(中下)。お土産にも喜ばれるギフト用品のお店は、早くもクリスマス一色 (下) 
 

 

 

 

 

 

今だからこその贅沢! 旬のトリュフ料理に舌鼓

 

 

 

 この季節にアッシジを訪れるもう一つの楽しみは、なんと言っても今が旬のタルトゥーフォ(トリュフ)。イタリアのトリュフは黒トリュフが主で、ウンブリアとマルケはその名産地である。私が初めてアッシジを訪れたのもこの時期で、その時に食べたフィレステーキのトリュフがけは、今でも忘れられない皿の一つとなっている。当然ながら今回のアッシジ訪問でもその一品を食すことを心に誓っていた。メインは夜に取っておき、お昼は軽めにパスタ一皿に抑えることにした。地元の画廊のおじさんが教えてくれたトラットリアへ入り、ポルチーニ茸と黒トリュフを和えた名物のパスタ「ストランゴッツィ」を注文。ホカホカと湯気が立つパスタから、芳醇なトリュフの香りが漂ってくる。思ったより細い手打ちパスタはしっかりアルデンテで、ポルチーニ茸の旨味とトリュフの香りが絶妙にマッチして、なんとも贅沢な気分にさせてくれた。
さて、いよいよメインの夜となった。あの忘れられないフィレステーキの店がどこだか覚えていなかった私は、「アッシジのレストランならどこにでもあるメニューだろう」と、お気楽に街へ繰り出したのだが、これがそう簡単には見つからなかった。通りに出ているレストランやトラットリアのメニューを読みつつ、捜し歩くこと5件目。やっとお目当の「フィレステーキのトリュフがけ」 がある店が見つかった。アッシジ生まれ、アッシジ育ちのフランチェスコ氏がオーナーの『ラ・ブラチェリア・ディ・ アッシジ』で、私は夢にまで見たステーキと感動の再会を果たすことができた。分厚いフィレ肉の上に生の黒トリュフを削って振りかけたステーキを夢見心地で味わっていた時、今回の旅の目的である「スペシャルなインスピレーション」という言葉がちらっと頭の中をよぎった。しかし、「いやいや、 サン・フランチェスコだってこのトリュフがけステーキを前にしたら、瞑想どころじゃなかったはず」という結論に達し、赤ワインをお代わりしてアッシジの夜を心ゆくまで楽しんだ。 
 

 

 

 

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ランチはアッシジの郷土料理の店『トラットリア・デッリ・ウンブリ/ Torattoria degli Umbri』で、手打ちパスタ「ストランゴッツィ/Strangozzi」のトリュフソースがけを堪能(上)。夜は夢にまで見た牛フィレ肉ステーキのトリュフがけを独り占め(中)。感激の再会を叶えてくれた『ラ・ブラチェリア・ディ・アッシジ/La Braceria di Assisi』のフランチェスコ氏と陽気なスタッフ達。どちらの店も手軽なお値段で旬の食材を使った美味しい郷土料理を提供してくれる。

 

 

 

 

 

 

 

★ MAP ★

 

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<アクセス>

ローマからペルージャ行き各駅列車利用、約2時間10分でアッシジ駅へ。旧市街へは駅前から出ている市バスCラインで約10分。サン・フランチェスコ大聖堂下の広場が最初の停留所となる。
 

<参考サイト>

・アッシジ観光情報(英語)
http://www.visit-assisi.it/en/

 

・トラットリア・デッリ・ウンブリ/Torattoria degli Umbri(伊語)
https://www.facebook.com/pages/Trattoria-degli-Umbri/

 

・ラ・ブラーチェリア・ディ・アッシジ/La Braceria di Assisi(伊語)
http://www.labraceriadiassisi.it/

 

 

 

■インフォメーション■

田島麻美さんが、撮影コーディネイター&通訳として参加した番組「地球タクシー」の再放送の予定が決まりました。ローマの街、そしてローマ人の魅力炸裂のドキュメンタリー! ぶっつけ本番で乗り込んだタクシー運転手に交渉しての、車内でのインタビュー&スポット紹介など含めてのガチンコロケ! よくぞこの人たちに出会えた(引き寄せた?)ものだと感心してしまいます。ツーリストが決して見ることのないローマを垣間見ることができます。まだご覧になっていない方は、ぜひともご覧ください!
 

 

■番組名  HNK  BS1 「地球タクシー ローマを走る」
■放映日  2017年12月3日(日)午前9:00〜9:50

http://www4.nhk.or.jp/P3607/2/

 

 

 

 

 

 

*この連載は毎月第2・第4木曜日(月2回)の連載となります。次回は12月14日(木)掲載予定です。お楽しみに! 

 

 

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田島麻美 (たじま・あさみ)

千葉県生まれ。大学卒業後、出版社、広告代理店勤務を経て旅をメインとするフリーランスのライター&編集者として独立。2000年9月、単身渡伊。言葉もわからず知り合いもいないローマでのサバイバル生活が始まる。半年だけのつもりで暮らし始めたローマにそのまま居座ること17年、イタリアの生活・食文化、歴史と人に魅せられ今日に至る。国立ローマ・トレ大学マスターコース宗教社会学のディプロマ取得。旅、暮らし、料理をメインテーマに執筆活動を続ける一方、撮影コーディネイター、通訳・翻訳者としても活躍中。著書に『南イタリアに行こう』『ミラノから行く北イタリアの街』『ローマから行くトスカーナと周辺の街』『イタリア中毒』『イタリア人はピッツァ一切れでも盛り上がれる』他。

 

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