ステファン・ダントンの茶国漫遊記

ステファン・ダントンの茶国漫遊記

#22

日本茶に旅をさせるために2-商品としての日本茶を受け入れてもらう

ステファン・ダントン

 

 

 

 博覧会や展示会で日本茶を紹介するために、海外で日本茶が受け入れられる可能性を探るために、ヨーロッパへ、東南アジアへ、アメリカへも旅をしてきた。
 わかったのは、どんな国でも「日本茶を知っている」人たちのコミュニティはある。ただし小さい。しかも、数少ない「日本茶を知っている」人たちと実際に話をすると、表面的なトレンドとして「日本茶を知っている」にすぎないと感じる。
 「目新しい」「ヘルシーな」「日本の伝統文化を代表する」ドリンクという新たなジャンルとして、トレンドとして日本茶を発信するのもいい。でも、トレンドからスタンダードへ、日本茶が日常の食卓に自然に置かれる風景を実現しないと、私が目指す「日本茶を世界のソフトドリンクに」とはならない。
 

 

 

 

「出張なのか旅なのか」

 

 

 
 海外での展示会に行くときに大事にしていることがある。
「試飲してもらい」ながら話しをする。日本茶の楽しみ方を淹れ方やアレンジを交えながら紹介する。でも、こちらのいいたいことを伝えて終わってはいけない。相手から「質問をしてもらう」ことが大事なんだ。興味を持てばもっと知りたくなるのが人間。質問を引き出せればそこからもっとコアな情報を与えることができる。「教育」ができる。さらに、質問や会話の内容から相手の関心の方向性がわかる。その数が重なればその国やエリアの特徴や求めているものがわかってくる。
 もちろん展示会場が主な仕事の現場だが、空港で、道端で、ホテルで、カフェでその国やエリアの情報を五感全部で受け止めることが重要だと思っている。ただよう香りや匂い、料理の味、人々の表情、出会った人との会話。
 展示会に訪れる人は、ある程度日本や日本食に関心のある人だ。その層の求めるものと、大部分を占める日本にも日本食にも関心のない層の求めるものは違うだろう。彼らにも日本茶をアピールする方法を考えるために私はいつも街へ出る。
 私にとって、海外での仕事も「旅」なんだと思う。自分の本当に伝えたいことを伝える方法を考えながら、その場所を味わうことで、次の計画へとつなげていく過程は旅そのもの。与えられたミッションをこなすだけの「出張」とは違う。
 展示会で他の業者と同行するときにいつも思う。「商品を売る」というミッションのために誠実に商品紹介をしているのは間違いない。ただ、コミュニケーションが足りない。「質問」を引き出せていない。引き出そうとしていない。自分の売りたいものは伝えているが、相手のほしいものがわからないまま帰国してはもったいない。
 

 

   
 

 

パーティーのドリンクを提供することも商品紹介とリサーチのチャンス

展示会のブースで実際の茶葉を並べている様子。パーティではドリンクを提供する。商品紹介とリサーチのチャンスの場である。
 

 

 

 

 

 

「日本茶に香りをつけた意味」

 

   

 

   私が目指しているのは、あくまでも「産地・品種・製法・生産者によって異なるバラエティに富んだ味わいをもつ日本茶の本当のよさ」を知ってもらうこと。そのための第一歩として「日本茶と出会って、体験して、興味を持つ」きっかけをつくることから始める。これが私の方針だ。
 食品を判断するのは「目・鼻・口」。これはどこの国だって共通だ。日本茶の色、緑色に拒否感を持つ人は意外と多い。香りもどうやって判断していいかわからない微妙なものに感じる。口に入れてみてもその「旨味」や「甘味」や「コク」を判断できない。単に「苦い」と感じる人も多い。当然だ。これまで経験のないものを判断する基準が自分の中にあるわけはない。
 そんな人たちにアプローチするために、その土地に合わせた香りを日本茶につけた。「いい香り!」から「意外とおいしい!」につなげること。そしてプレーンな日本茶にトライさせることを意図している。だから、私はベースとする日本茶の品質にこだわるし、良質な日本茶そのものの風味を活かすように着香をしている。日本茶を普及させるための私の戦略なのだが、「日本茶に変な香りをつけるなんて」と表面だけをとらえて批判されることも多い。
 

 

 

 

「相手に合わせた商品開発」

 

   

 
 日本茶をその食文化の一部に定着させるワンステップとして、その土地や人の食文化に合わせたアレンジをすることも必要だと思うから、私はその土地に合わせた香りを日本茶にのせる。
「日本茶は、どこの国のサーキットでも同じ条件で走れるF1カーとは違う。各国の食文化に合わせたアレンジをしないと走らせられない」と、私は思う。
 
 ヨーロッパの冬を想定して商品開発をする。もともと強い味のコーヒーを好む人の多いヨーロッパ。さらに冬のイメージはりんごのパイやスパイス入りのホットワイン。だから、柔らかい煎茶よりもほうじ茶の香ばしさがうけるだろう。そこにりんごやスパイスの香りをのせてみよう。
 常夏の東南アジアを想定して商品開発をする。国全体が甘い花や果物の香りや食べ物の強い香りに満ちている。それに負けない強い香りを、渋みのある緑茶につけよう。さらに冷たくして飲むことを前提にブレンドしよう。東南アジアには宗教上の理由でアルコールを飲めない人も多い。きっと彼らにも受け入れられるドリンクができる。
 

 

 

 

焼きりんごの香りをほうじ茶に乗せて

 

 

東南アジアにには水出しのライム緑茶を

写真上/ほうじ茶に焼きりんごの香りをつける。寒いヨーロッパには、温かいスパイシーなほうじ茶をミルクで煮出す。写真下/東南アジアには、水出しのライム緑茶。
 

 

 


 

   常夏の国に長靴を売りにいきたくない。雪国にサンダルを売りにいきたくない。私はね。
 
 まずは、相手を知ること、相手の求めるものを想像すること。そのためには「旅」をしなければ。自分で考えて行動して吸収する旅でしか見えないことがある。ガイド付きのツアーや出張では見えてこないものが自分だけのストーリーをつくるんだから。
 

 

 

*この連載は毎月第1・第3月曜日(月2回)の更新連載となりますが、次回公開は、3月5日(月)となります。お楽しみに! 

 

 

写真/ステファン・ダントン    編集協力/田村広子、スタジオポルト

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ステファン・ダントン

1964年フランス・リヨン生まれ。リセ・テクニック・ホテリア・グルノーブル卒業。ソムリエ。1992年来日。日本茶に魅せられ、全国各地の茶産地を巡る。2005年日本茶専門店「おちゃらか」開業。目・鼻・口で愉しめるフレーバー茶を提案し、日本茶を世界のソフトドリンクにすべく奮闘中。2014年日本橋コレド室町店オープン。2015年シンガポールに「ocharaka international」設立。著書に『フレーバー茶で暮らしを変える』(文化出版局)。「おちゃらか」http://www.ocharaka.co.jp/

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