風まかせのカヌー旅

風まかせのカヌー旅

#20

ウミガメ

パラオ→ングルー→ウォレアイイフルックエラトー→ラモトレック→サタワル→サイパン→グアム
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文と写真・林和代

 

 

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 雨、止んだんだ。
 ん? この匂い……。
 
 急な雨で小屋に避難しているうちに昼寝してしまった。
 ヤシの葉で拭いた屋根からは、まだ水滴がポタポタと音を立てて落ちている。
 静かなエラトーは、本当によく眠れる。

 大きく伸びをした私は、雨の匂いに混ざって漂うその匂いに向かった歩き出した。

 

「あら、起きたのね。そこに座って食べなさい」
 共同の炊事場でおばさんがそう言って用意してくれたごはんこそ、匂いの元、ウミガメの炒め煮だった。
 まずはひと切れ、指でつまんでパクついた。
 これは、赤身肉を炒め煮したもの。醤油で味付けされている。
 ちょっと硬いが、噛むほどに肉の旨味がじんわりと広がる。
 それなりにうまい。もうひと切れ。
 タロイモと一緒にモグモグ。
 でも、これで十分だ。
 ちと硬いので顎が疲れるし、肉の存在感が大きいので、すぐにお腹いっぱいになってしまうのだ。
 私は、もう一皿用意された、小魚のスープをいただきつつ、あたりを窺った。 
 

 で、卵は? 卵はどこ?
 
 

 

 

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カメ肉調理中の鍋。赤身肉に、卵や内臓を混ぜて炒め煮した料理。もっともポピュラーな調理法のひとつ。

 

 

   

 離島のごちそう番付、不動の第1位は、ウミガメである。
 

 離島をうろついていれば、必ずやウミガメを食べる機会に遭遇する。
 私もこれまでなんども食べたし、この航海でも、ングルーでウミガメが出た。
 赤身肉の他に、深緑色をしたプルンプルンの脂肪やレバーが島の人には人気が高く、うまいから食えとよく勧められる。が、それらはちと厳しい。生臭い上に、後でお腹を下す確率が高いのだ。
 これは別に外国人に限ったことではなく、島の人もみんな、カメを食べてはお腹を下す。
 要は、下すとわかっていても食べたいか、という問題で、私はノーだが島の人々は断然イエスなのだ。 
 でも、卵は別。
 よくテレビ番組で、ウミガメの母さんが泣きながら砂浜に産み落とす、あの白いピンポン球状のやつ。
 あれは断然うまい! それにお腹を壊す心配もない、私の大好物である。
 
 卵は普通、海水で茹でて食べる。
 殻は、押すとペコペコへこむ厚手のビニールのようなもので、その一部をつまんでちぎって穴を開け、口をつけて吸い込むと、中からゼリー状の白身がちゅるっと出てくる。
 不思議なことに、この白身はどれだけ長時間茹でてもこれ以上固くならないらしい。
 そしてそのちゅるちゅるには、うっすら塩味がついている。
 それをちゅるっと吸い込むと、中の固まった小さな黄身も一緒に出て来て、それはもう美味である。
 この卵は、白いご飯にかけて「卵かけご飯」にしても大変よろしい。
 
 私にとってウミガメ=卵といっても過言ではない。
 なので、食事を提供してくれたおばさんに、そっと卵をおねだりしてみると、もうないとおっしゃる。 すでに食い尽くされてしまったのだ。
 昼寝している場合ではなかった。無念である。


 

   

 

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 ミクロネシアでは伝統的にウミガメが食べられてきた。
 今では、自然保護の観点からグアムやサイパンなど大きな島々では禁止されたり、パラオのように禁漁期間が設けられたりしているが、食料に乏しい離島は、今でも漁をして食べることが認められている。
 
 離島では、自分で獲れる唯一の動物の肉であり、
 クリスマスや感謝祭といったイベントには欠かせない、縁起物でもある。
 だから、島のナビゲーターたちは、ことあるごとに酋長の依頼を受けてウミガメ漁に出る。
 
 ウミガメの獲り方は、ふた通りある。
 一つは、海に入って、呼吸のため水面に上がってくるカメをフックで引っ掛けて獲る方法。
 ウミガメは、水中では当然ながら泳ぎも早く力も強い。だから大抵は2、3人がかりで必死で捕まえる。
 かつて、ウミガメがよく獲れるガフルートという無人島にマイスで立ち寄った時、3人がかりでやっと1匹のウミガメをゲットしたが、その3人はみんな、ウミガメに噛まれてあちこちから流血していた。
 そんなハードな漁もあるが、夜、産卵のため、浜に上がって来た母さんガメをエイヤーっとひっくり返して捕まえる、という、簡単バージョンもある。
 自然保護の観点から、できるだけこのパターンは避けるようにというお達しが出ているようだが、実際、この母さんガメを発見して見逃すことはありえない。

 捕まえたウミガメは、手足をしかと縛り付けて、逆さまにしてカヌーに乗せて運搬する。
 たくさん獲れて乗り切れない時は、カヌーからロープで海に吊るし、トローリング状態で連れ帰る。 
 島に着いたら、カメさんたちは浜辺にズラーっと並べられ、酋長たちをはじめ、島の人々皆にお披露目される。
 そして浜辺で起こされた火で丸焼きにされた後、肉、血、卵、内臓など甲羅以外のすべてが解体され、各家庭ごとに平等に分配される。
 この時、各家族のメンバー全員の名が読み上げられる。
 これはA君の分! と名を呼んで、肉を一切れバケツに入れる、という具合。
 たとえ赤ちゃんでも、その家族の一員としてしっかりカウントしてもらえる。
 ただし、頭の部分は酋長に、漁に行ったナビゲーターやクルーは多めにもらえる。
 見事な原始共産制である。

 

 

 

 

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ウミガメの様々なパーツたち。

 

 

 

 家庭に渡ったカメ肉は、女性たちによって共同炊事場で調理される。
 使うのは必ず海水。真水を使うとお腹を壊すと言われている。
 だから外で調理中に雨が降ってくると、雨からカメ肉を守るべく大騒ぎになったりする。
 大抵は、まだ調理が終わらぬうちから、子供たちがつまみ食いにやってくる。
 女たちも、味見と言ってはちょこちょこつまむ。
 もちろん、ヤシ酒のドリンキングサークルでもつまみとして人気である。
 
 こうして島中がハッピーになるわけだが、カメ臭はなかなか強烈で、みんなの手がカメ臭くなる。
 なので食後は、手を洗った後、アルコールで臭い消しをするのが鉄則。

 という具合に、ウミガメは離島のスペシャルなソウルフードなのである。
 

 今回エラトーでは、たまたま1匹だけウミガメを捕えていた。そこに我々が突然参入してしまったため、かなり不足気味だっただろう。申し訳ないことである。

 

 

 

 

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たくさん獲れた時は、こうして天日干しにして保存食にする。


 

 

 

 また雨が降り始めた。
 浜辺のカヌー小屋では、カメを満喫した男性陣が、ゴロゴロしながらしゃべっている。
 そのカヌー小屋から現れたエリーと一緒に昼寝小屋に戻った私は、ココナツジュースを飲みながらさんざんお喋り。
 そして、ちょっと横になったつもりが、またこんこんと眠ってしまった。
 静かなエラトーは、本当によく眠れるのであった。

 

 

 

 

 


 

*離島情報コラム ミクロネシアの宗教について

 

ほとんどの離島人はキリスト教徒。
どの離島にも教会があり、日曜日には、ちょっとオシャレをして人々が集まる。
子供達は、赤い口紅で顔に模様を描いたりする。
ウミガメを獲りに出かける無人島、ウエストファユにも、小さな掘っ建て小屋だが一応教会がある。

キリスト教が伝来したのがいつなのかは定かではないが、古くからの宗教からキリスト教への改宗が始まったのは、第二次世界大戦後すぐ、日本統治からアメリカの信託統治に変わった頃からと聞く。
改宗後は、古来の神々に関する多くの慣習やしきたりが否定されてきたが、古来の神々は人々の心から消え去ることはなかったようで、近年、長らく行われていなかった儀式や慣習が復活しつつある。
とはいえ、キリスト教もしっかりと根付いているので、困った時は、どちらの神様にもお祈りするという人も多いらしい。 
 

 

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離島の教会。カヌーが祭壇になっていることが多い。カヌーと航海術が離島にとっていかに重要なものかが伺える。
 

 

 

 


 

 


*本連載は月2回(第1&第3週火曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 


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林和代(はやし かずよ)

1963年、東京生まれ。ライター。アジアと太平洋の南の島を主なテリトリーとして執筆。この10年は、ミクロネシアの伝統航海カヌーを追いかけている。著書に『1日1000円で遊べる南の島』(双葉社)。

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