ステファン・ダントンの茶国漫遊記

ステファン・ダントンの茶国漫遊記

#10

新たな日本茶をつくる旅2–四万十と出会って

ステファン・ダントン

 

                                                                                         

 

 

東京で高知とフランスがつながって

 

 

 

 ふとしたきっかけで出かけた旅先での思わぬ出会いが、次の旅へのきっかけになることがある。人や土地との出会いは視界を広げ、これまでの人生でたくわえてきたアイディアと結びついて、私を新たな場所へとつれていってくれる。
 高知県の四万十市との出会いも、そんなふとしたきっかけがもたらしたものだった。

 私には料理人の友人が多い。私自身、さまざまな料理を食べることもつくることも大好きだったから、フランスでの学生時代には、料理、酒を含む飲料、サービス、経営まで総合的に学べるホテル経営を専攻した。日本茶を生涯の仕事にするまでにも、ずっと飲食に関わる仕事をしてきたから料理人の友人が多いのは当然ではある。
 そんな料理人の友人のひとりに誘われて出かけた食事会での出会いが、私の新たな旅の始まりになった。
 2012年の秋、フレンチの出張料理人をしている友人が、「高知県の食材を使ったフレンチをふるまう会があるんだけど、ステファンも遊びに来ない?」という。「おもしろいね。特色ある地方の食材とフレンチのマリアージュか」
 「何かお土産を」、と思い立ってカバンに入れたのは、そのころ新たに開発したばかりのフレーバー茶「よもぎ」だった。よもぎにヒースやラベンダーを合わせて緑茶とブレンドし、日本の田舎とフランスの森のイメージをまとわせたそのお茶は、食事会のコンセプトにぴったりはまる気がした。
 その予感は的中した。でかけた御茶ノ水のレストラン。テーブルには、高知特産の生姜や野菜、ゆずなどの柑橘、豚や牛、鰹も使ったフレンチが次々と運ばれてきた。
 もちろん料理もおいしかった。そこに集まった人たちと交わした会話はそれ以上に楽しかった。高知の農業関係者や商工会議所を中心としたメンバーは、高知と高知の特産品を、より広く東京に、日本全国に、そして世界にアピールするかを真剣に考える人たちだった。
 初対面の人ばかりだった中で、高知の醤油や海産物をアレンジして新たな特産品をつくろうと精力的に活動している四万十市のHさんとは、どういうわけだか最初から意気投合した。食材となる農・海産物への思いは、子どものころからやんちゃに遊んだ山や海での思い出が源になっている点で私と共通していて、大人になった今でも自然の中で遊ぶことが大好きな彼。メインディッシュを食べ終わるころには、「四万十へおいでよ。四万十川の上流でラフティングをしよう。釣りもキャンプもできるよ」、「もちろんだよ」、そんな約束をしていた。 
 遊びの話もしたけれど、Hさんから「四万十川流域の自然の雄大さも鰹も有名だけれど、過疎化する山間地を活性化するような特産品をもっとつくっていきたい」という話が出たころ、ちょうどデザートの皿とともに、私が持参した「よもぎ」がサーブされた。「四万十でもお茶を生産しているんじゃない? 地域の人はどんなお茶を飲んでいるの? 例えば地域の特産品をブレンドしたオリジナルのお茶をつくったら新しい特産品になるんじゃない?」と切り出した。「まずは、四万十に来てほしい。実際に自然や農地を見て、農家の現状を見てほしい。なるべく早く」
 初めて出会ったHさんと私が、遊び仲間候補から仕事仲間候補になった瞬間だった。

 

 

 

 

Hさんと四万十川と
Hさんと四万十川にて。
 

 

 

 

 

 

初めての四万十へ

 

   

 

 Hさんとの約束は、すぐに果たされた。その年の冬、12月には私は初めての高知に向かっていた。
 四万十の商工会議所に属するHさんが、「お茶講座」を企画して私を呼んでくれたのだ。
 高知県が四国の太平洋側であることはもちろん知っていたが、高知龍馬空港に着くと、思っていた以上に暖かかった。空が広く感じた。不思議と開放的な気持ちになった。出口では、Hさんが笑顔で迎えてくれていた。知り合って数ヶ月なのに、幼馴染がそこにいるような安心感。
 彼の運転する車で四万十市内へ。低い山の間に開かれた国道を2時間半。四万十のお茶のこと、農地のこと、酒のこと、川遊びのこと、仕事から遊びまで互いに話をしているうちにあっという間に到着したような気がした。
 市内に準備された講演会場には、生産農家や農産物加工業者から旅館経営者といった多様な人が集まってくれた。「四万十の魅力で人を呼びたい、四万十の商品を県外にもアピールしたい」という共通の意識を持つ人に向けて、私の商品開発の基本的な考え方「もともとある魅力的な素材にストーリーをともなう新たな要素を加えることで付加価値をつけ、関心をもってもらい人に手に取ってもらう。まず肝心なのは素材を知り愛していること。単純に新たな要素を加えればよいのではなく、もとの素材を活かすようなものを探すこと」について私のやってきたフレーバー茶を例にお話しをしていった。
 「四万十には米もある。生姜もある。柑橘類も、畜産物も生産されている。気持ちを込めて生産したもの、開発した商品をもっと魅力的にアピールする方法について考えるきっかけになりました」
  それぞれの業種によって個別の方法は異なるけれど、真剣に私の話に耳を傾けてくれたみなさんに、少しでもヒントを提供できた充実感を感じながら、会場を後にした。

 

 

 

 

 

四万十での講演会2012

 

四万十での講演会2

四万十の講演会の様子。

 

 

 

   講演会で得たのは、自分の話をした充実感だけではなかった。地元の人がどんなお茶を飲んでいるのか、どんな飲み方をしているのかみんなに聞いてみた。「日本茶といっても、番茶を飲むことが多いね」
「うちのおばあちゃんは河原茶を飲んでるよ」
 「河原茶というのはなんだ?」と聞くと、このエリアの河原に自生する豆科の植物・河原ケツメイを番茶にまぜて飲む健康茶だそうだ。「地元のブレンド茶か。お年寄りの飲む健康茶というイメージを払拭するようなアレンジをしたら全国にアピールする特産品がつくれるんじゃないか?」
 Hさんに相談すると、「じゃあまずは地元の茶畑に案内するよ」と。「河原茶を飲んでみたいし、普段みんながどんなふうに河原茶を飲んでいるかも知りたいな」と私がいうと、「まかせてくれよ。知り合いのうちに今度一緒に行こう」とHさんは阿吽の呼吸で私のアイディアに同調してくれた。
「でも、ステファン、今日はまず食事だよ。高知の酒も飲んでほしいし」
   案内された居酒屋で食べた鰹は今でも忘れられない。付け合わせの生姜もにんにくも野菜の取り合わせも、東京で食べるのとはまったく違う新鮮さ。
 地元食材と地元の酒を地元の人とともに味わい、気持ちよく酔いながらも、私の意識はまだ味わったことのない河原茶のほうへと向かっていた。
 

 

 

 

河原茶

 

土佐の鰹

 

四万十のスナック街

河原茶と土佐の鰹。そして四万十のスナック街。
 

 

 

 

四万十のオリジナル茶開発に向けて

 

 

   
 この最初の四万十行きから、四万十河原茶というオリジナル茶の開発を目指して、毎月四万十に通うことになるとは思いもよらなかった。Hさんとは約束どおり茶畑にも農家にも行ったし、ブレンドする特産品を何にするのか毎日相談した。その合間には酒も飲んだし、一番最初の約束どおり四万十川で川遊びもした。
 

 

 

 

夏の四万十川

 

夏の四万十川に飛び込む

夏の四万十川の様子。そこへ飛び込む。

 

 

 

 

 私は全身の五感を通じて、四万十を知りながら四万十のオリジナル茶の構想を固めていった。
 2012年から2013年にかけて、全国から講演の依頼や共同事業のお誘いが増えていた。テレビの取材も頻繁にあった。四万十のオリジナル茶をつくろうとしたそのころ、あるテレビ番組からオリジナルフレーバー茶の開発過程のドキュメンタリーを撮りたいというオファーがあったのが、私たちのオリジナル茶開発にはずみをつけた。
 東京でのHさんとの出会いが、私を四万十へ連れて行った。そして、ここから始まった地元の茶と食材を組み合わせた地域特産茶の開発は、私の仕事の大きな柱のひとつになっていく。

 

 

 

出張と荷物が増えてスーツケースを買った

出張でのパートナーとなった赤いスーツケース。

 

 

 

 

                 

                         

 

*この連載は毎月第1・第3月曜日(月2回)の更新連載となります。次回公開は9月4日(月)です。お楽しみに! 

 

 

写真/ステファン・ダントン    編集協力/田村広子、スタジオポルト

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ステファン・ダントン

1964年フランス・リヨン生まれ。リセ・テクニック・ホテリア・グルノーブル卒業。ソムリエ。1992年来日。日本茶に魅せられ、全国各地の茶産地を巡る。2005年日本茶専門店「おちゃらか」開業。目・鼻・口で愉しめるフレーバー茶を提案し、日本茶を世界のソフトドリンクにすべく奮闘中。2014年日本橋コレド室町店オープン。2015年シンガポールに「ocharaka international」設立。2017年路面店オープン予定。著書に『フレーバー茶で暮らしを変える』(文化出版局)。「おちゃらか」http://www.ocharaka.co.jp/

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