ブーツの国の街角で

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#02

メラーノ:北イタリアのクリスマス・マーケット

文と写真・田島麻美

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ロマンティックなクリスマスを求めて北上

  毎年12月に入るとローマの街はいつも以上のカオス状態に陥る。道路は常に大渋滞でクラクションが朝から晩まで鳴り響き、スーパーやショッピングセンターはヒステリックな人々が溢れかえる。なぜこうなるのかは、イタリア人の友達にも「わからない」そうだ。
ローマのクリスマスは日本や他国と比べると、いたって質素である。教会の中には厳かな雰囲気があるが、街中はイルミネーションも地味なうえ、どこもかしこも喧騒だらけ。つまり「ロマンティック」とはほど遠いクリスマスなのだ。そんな折、インターネットで見た一枚の写真に心を奪われた。オーストリアとの国境近く、山奥の小さな街で開かれる「クリスマス・マーケット」。キラキラ輝く色とりどりのオーナメント、天然の大きなもみの木のツリー、そして街を取り囲む雪山の景色。これは行かなくては! 早速、喧騒のローマを脱出し、ロマンティックなクリスマスを求めてその小さな街・メラーノへと向かった。

 

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アディジェ川支流のパッシリオ川沿に広がるメラーノの街は、皇妃エリザベートお気に入りの保養地として栄えた。


 

 ローマからユーロスターで4時間半、まずはボルツァーノへ。そこからローカル線でメラーノまで40分。1918年までオーストリア領だったこのエリアは、イタリアというよりドイツの地方都市のようだ。電車も定刻通りに発着するし、車内も清掃が行き届いていて気持ちがいい。イタリアのカオスに慣れてしまった身には、たったこれだけのことで海外旅行をしているような気分になれる。

 

欧州各国から観光客が押し寄せるクリスマス市
 

  B&Bに荷物を置くや否や、旧市街へと繰り出した。街にはドイツ風のとんがり屋根の建物が並び、お店のショーウィンドウも通りもキラキラと華やかなクリスマスの装飾がいっぱい。期待は否応なしに高まっていく。プレッツェルをかじりながら、クリスマス市が開かれているパッシリオ川沿いの遊歩道を目指す。リバティ様式の美しいクアハウスの脇道を抜けると遊歩道に出るはずだが…。
 なんだこの人だかりは!? 川沿いの遊歩道はまるで初詣の浅草寺の参道のように黒山の人だかりができていた。喧騒と人混みを避けたくてここまで来たのに、やはりクリスマスはどこでも同じなのか。いやいや、おそらく夕食前の散歩に出て来た人たちなのだろう。小さな子ども連れの家族も多いし、日が暮れれば混雑も少しは解消されるかも。そう思い直してバールで日暮れを待つことにした。
 カフェを飲みつつバールの主人から聞いた話によると、ここメラーノのクリスマス市は欧州でもかなり有名らしく、11月末から1月初旬の開催期間は、イタリア国内のみならず欧州各国からもツーリストが押し寄せてくるのだそうだ。
「メラーノはイタリアやスペインはもちろん、クリスマス市の本場があるドイツやスイスからもツーリストが来てるよ。小さな街だけど素晴らしいテルメもあるし、週末にちょっとくつろいでクリスマス気分を味わいたい人には最高の街なのさ」
バールの主人はそう言って胸を張った。

 

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ドイツ風のベーカリーやビアホールも多く、本場の味が楽しめる。クリスマス・マーケットは毎年11月末から翌年の1月初旬にかけて開催されている。

 

マーケット歩きは夕飯時が狙い目


 

  夕食時間の午後8時を過ぎると、予想どおり少しだけ混雑がおさまって来た。子どもやお年寄りのいる家族は皆レストランへ行っている時間帯なので、道も比較的歩きやすい。マーケットを見て歩くなら今がチャンス! 
遊歩道の両脇にはぎっしりと屋台が並んでいる。ツリー用のオーナメントを売る店、暖かそうな手編みの靴下や帽子の店、プレゼントにぴったりなアクセサリーやキャンドルのお店もある。ツーリストインフォメーションでもらったマップには出店している屋台がカテゴリー別に記されているので、それを見ながらマーケットを練り歩く。通りには地元の伝統工芸職人さん達が毎年作る大きな木彫りの彫刻が展示され、昼間の時間帯には即興制作のイベントも行われるらしい。旧市街のお店はもちろん、タウンホールやレストラン、カフェテリアもクリスマスムード一色で、小さな街が一丸となってこのイベントを盛り上げようとしている様子がうかがえる。

 

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手作りの木製のオーナメントからガラス細工のオーナメントまで、クリスマスの飾り付けに必要なアイテムがずらっと並んでいる。

 

 

屋台で立ち食い&立ち飲みを満喫
 

  人混みを回避できて喜んだのもつかの間、今度はお腹がすいて来た。昼間のポカポカ陽気もどこへやら、夜になると川沿いの湿度とドロミテ・アルプス吹き下ろしの冷たい風が体の芯まで入り込み、立っているだけで凍えそう。何か体の温まるものでも食べようと飲食店の屋台を物色することにした。
 長い行列ができている一軒をのぞくと、生のりんごを包んだホカホカのクレープが目に飛び込んで来た。シナモンとフレッシュなりんごの香りがたまらない。まずはこれをおやつ代わりにしよう。
「このりんごは地元で採れたの?」クレープが焼きあがるのを待つ間、店主に尋ねた。
「もちろんだよ! よく見てごらん、小さいだろう? このりんごはトレンティーノ特産のりんごで、今が旬だから甘くて美味しいよ!」
 目の前で丸ごと一個のりんごをスライスし、クレープの上で少し温めてから砂糖とシナモンを振って出来上がり。寒さで凍えた手に、熱々のクレープがほっこり暖を与えてくれる。一口かじると、サクッとしてジューシーなりんごの甘酸っぱさとシナモンの芳醇な香りが口いっぱいに広がってもう言葉が出ない美味しさ。食べ終わるや否や、もう一度行列の最後尾に並び直してお代わりした。

 

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トレンティーノ特産のりんごを丸ごと一個スライスして包んだクレープ。思い出すたびにそのフレッシュな美味しさが口の中に蘇る。


  クレープで空腹が少し落ち着いたので、今度こそ夕食を求めて本格的な屋台巡り。当然ながら、ドイツのビールも欠かせない。道に置かれた大きな樽のテーブルを取り囲み、ビールの杯を重ねるごとに立ち食い&立ち飲みを謳歌している人々の声がにぎやかになっていく。これは早く飲み始めた方が良さそうだ。
生ビールのジョッキとともにザワークラウトと特大ソーセージを挟んだホットドックを注文。冷たい夜気も一気に吹き飛ぶ。ガツガツと平らげて次なる獲物を求めてはしご。焼きたてピッツァをひとかじりして、湯気の立つスープを飲み干し、仕上げは焼きたてシュトゥルーデルにスパイスの効いた”ヴィンブリュレ”と呼ばれるホットワイン。気合いを入れたはしご飯は、大満足のうちに幕を閉じた。

 

 

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ビールやワインをはじめ軽食から本格的な郷土料理までさまざまな飲食スタンドも出店している。寒くても、屋台のはしごはやっぱり楽しい。

 

食べて歩いて、仕上げはテルメ

  メラーノのもう一つのお楽しみ、それはテルメ。室内・屋外合わせて20以上のプール、サウナ、スパ、マッサージルームなどを備えた総合健康ランドがテルメ・メラーノだ。皇妃エリザベートがこよなく愛した保養地らしく、どことなく高級感が漂うテルメだが、料金はお手頃。冬は室内のみの解放だが、歩き疲れて冷えた体を温めるにはもってこいの施設である。クリスマス・マーケットの時期はそれこそ一日中利用客でごった返してはいるものの、やっぱり一風呂浴びていきたい。
 閉館間際に駆け込んで凍えた体を芯からあっためる。はぁ、極楽、ゴクラク! イタリアでありながら、食事も習慣も街並みも、何もかもが異なるメラーノは、国内旅行とは思えない満足感がある。ジャグジーでうとうとしながら、早くも来年のリピート計画を考え始めていた。

 

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テルメ・メラーノは年中無休、22時までオープンしている。施設内にはマッサージルームやスパ、バールなどもある。

 

<参考サイト>

メラーノのクリスマス市(英語) http://mercatini.merano.eu/en/
テルメ・メラーノ(英語) http://www.termemerano.it/en/
 

 

 

 

 

*次回は12月22日(木)掲載予定です。お楽しみに! 

 

 

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田島麻美 (たじま・あさみ)

千葉県生まれ。大学卒業後、出版社、広告代理店勤務を経て旅をメインとするフリーランスのライター&編集者として独立。2000年9月、単身渡伊。言葉もわからず知り合いもいないローマでのサバイバル生活が始まる。半年だけのつもりで暮らし始めたローマにそのまま居座ること17年、イタリアの生活・食文化、歴史と人に魅せられ今日に至る。国立ローマ・トレ大学マスターコース宗教社会学のディプロマ取得。旅、暮らし、料理をメインテーマに執筆活動を続ける一方、撮影コーディネイター、通訳・翻訳者としても活躍中。著書に『南イタリアに行こう』『ミラノから行く北イタリアの街』『ローマから行くトスカーナと周辺の街』『イタリア中毒』『イタリア人はピッツァ一切れでも盛り上がれる』他。

 

 

 

 

 

   

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