<時間旅行>戦前日本の日記

<時間旅行>戦前日本の日記

昭和3

:22歳の男性。愛知県在住。1928年1月22日

旧制第八高等学校文科乙の生徒。11月30日の日記と同じ人物。
diary2016.1.22


ーーーー 僕はしくぢった。完全にしくぢってしまった。強いと思っていたのは錯覚で甚実弱かったが故に。あゝどうして僕はもっと強くなかったのか僕は愛していたが故に強いと思っていたが愛していなかったのだろうか。否、そんなことはない僕は愛していたのだ。ほんとに愛していたのだ。それなのにあゝ何故あんなに弱かったのだろうか。腑甲斐ない僕だった。情けない僕だった、思えば胸の中が煮えくりかえるようだ。僕はあれの言葉にごまかされてしまったのだ。僕はもっと強くあれを引き寄せなきゃならなかったのだ。それなのにあんなに早く諦めてしまったのだ。諦め。畜生!この言葉に呪あれ!僕はとうとうあれを失ってしまった。なるべくして失ってしまった。それも皆僕が弱かった為だ。 いやいけない。僕には過去がなかったんだっけ。僕には現在と将来のあるのみだ。過ぎ去ったことの思い出は僕にはもうないんだ。楽しかりしことも悲しかりしことも。僕は新生の子。ただただ将来に向かって邁進せんのみ。どうして僕がこんなことを想い出したか。メエテルリンクのモンナワンナ。 ーーーー


ひたすら恋人との別れに煩悶しているかと想えば、日記の最後では・将来に向かって邁進せんのみ・と立ち直っているのがおかしい。日記の最後に出て来る・メエテルリンクのモンナワンナ・とは、『青い鳥』で有名なメーテルリンクが書いた同名の(正確には『モンナ・ワンナ』)戯曲のこと。メーテルリンクは1911年にノーベル文学賞を受賞し世界的な作家として、大正から昭和にかけて日本でも数多く作品が紹介されていた。1月6日に紹介した日記でも触れた島村抱月と松井須磨子のコンビも『モンナ・ワンナ』を舞台で演じ非常に好評だったという。


【昭和3年主な出来事】 1月 大相撲ラジオ実況放送開始  5月 済南事件。日本軍が山東省済南で国民政府軍と衝突  6月 張作霖爆殺事件  8月 パリ不戦条約調印  10月 蒋介石が国民政府首席となる  11月 昭和天皇の即位の礼

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