延岡テロワール(4)延岡の離島・島浦島で、こだわりの高品質の養殖魚を育てる「結城水産」

取材・編集部

 

 

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日向灘に浮かぶ島浦島(鏡山牧場から望む)。

 

 

 「美食の国」延岡で、いま俄かに注目を集めている島がある。島浦島である。

 古くから「しまんだ」と呼ばれ、親しまれてきた離島だ。江戸時代には参勤交代の寄港地として栄え、豊かな自然や文化、温かい人の暮らしが息づく。日向灘の北部に位置する島の周囲は豊かな漁場として知られ、古くから漁業の島として名を馳せてきた。磯釣りファンにも人気のスポットが点在する。近年、この島でこだわりをもって育てられている高品質の養殖魚の存在が注目されるようになってきている。

 大手居酒屋チェーンが島浦産の魚を直接買い取り、全国の店舗で出すようになったことも島が注目されるようになったきっかけのひとつだ。流通の発達により、獲れたての魚をその日のうちに首都圏へ運ぶことが可能になった。また、島浦の名が全国に知れ渡ることで、新たな需要も出てきたという。


 延岡市の中心部から北東へ約12km、車で30分ほどで島への玄関口、浦城港に着く。島浦港へはここから高速船で約10分だ。港へ着くと、離島ならではの時間が流れていた。これぞ漁業の島という雰囲気が街に漂う。

 

 

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浦城港と島浦港を結ぶ高速船(上)。島のストリートは漁師町の風情がたっぷり(下)。

 

 

 出迎えてくれた「結城水産」の結城嘉朗さんは、島で養殖業を営む実家を手伝っている。爽やかな好青年という印象だ。タイ、シマアジ、イサキ、カワハギ等の魚を養殖しているが、その中でもカンパチが一番多く、約4万匹だという。

 ではなぜ、カンパチなのか?

 結城さんがカンパチの養殖に力を入れているのには理由がある。

「カンパチの養殖は手間がかかるんです。ツブのエサを食べないので、冷凍したサバを砕いたりオリジナルのエサをつくる必要があります。同属のブリ以上にハダムシやエラムシなどの寄生虫がつきやすいので、これらの駆除に細心の注意を払う必要もあるんです。だから大規模な養殖業者はあまりやりたがらないですし、小規模だからこそ勝負できる魚だと思っているんです」

 

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「島浦町漁業後継者部」を立ち上げたという結城嘉朗さん。

 

 結城さんは、島生まれ、島育ち。実家は養殖業を営んでいたが、子どもの頃は漁場へ手伝いに行くこともほとんどなかったといい、小売りの方に関心が高かったそうだ。大学進学のため福岡へ出ると、そのまま福岡で就職して5年間、スーパーの鮮魚売り場で働いていた。

 

 「毎日、魚を捌き、寿司用や刺身用に切り分けていました。いま思えば、良い訓練になったとも思いますね。島に戻ろうと思ったきっかけは、母親からの電話で新しい船を買うという話を聞いたことです。新造船は家一軒買えるくらい高額なんですよ。これは、自分が家業を手伝うしかないなと覚悟を決めました」。

 

 島へ戻って養殖の世界に飛び込んだが、最初は戸惑うことも多かったという。朝7時には漁場に出て、昼食は家に戻り、午後再び漁場へ向かう。寒い時期、カンパチのエサやりは3日に1回ほど。水温が低いとあまりエサを食べないからだ。エサを多くやりすぎると食べ残しで、海が汚れ病気の原因にもなる。

 自然災害のリスクもある。島浦島でも何年か前の台風では生け簀同士がぶつかって、魚が混ざってしまい、甚大な被害となった。東日本大震災の時には消費が減少して魚価が半値まで下落し、まったく商売にならない状況もあったという。台風など時化の時には島から出られなくなるという離島ならではの悩みもある。

 

 

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(写真提供/結城水産)

 

 

 「主な作業は肉体労働ですし、すべて手探りでしたね。経験もなく、教えてもらえる環境でもなかったですから。ロープの結び方を習得するだけでも2~3か月かかりました。ようやく人並みにできるようになったのは、3年くらい経ってからです」。

 カンパチといえば、寿司屋では必ず注文してしまう大好きなネタ。スズキ目アジ科の大型回遊魚で、大きいものは100センチ前後まで成長するが、一般的に最も美味なサイズは体重2~3kg のものだと言われている。ブリやヒラマサと比較すると脂が少なくあっさりとしており、コリコリとした歯ごたえのある食感が特徴だ。しかし、近年の世界的な海産資源の減少もあって、天然は流通量が非常に少ない。

 島浦島は古くから「イワシの舞う島」とも呼ばれ、カンパチのエサとなる青魚が近海で獲れる。そのため地元の巻き網漁船から新鮮なエサを安価で仕入れることができるのだ。黒潮に近いため潮の流れが速く、身のしまった魚が育つ環境にある。そして、あまり海が荒れないことも養殖に好条件だ。また、潮流が速いことで、漁場をキレイに保つこともできるのだという。

 

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漁港には島浦近海で獲れた青魚が水揚げされる。(写真提供/結城水産)

 

 

 この島で養殖業を営むのは3軒。何十万匹もの鯛を養殖する業者もある。島に同世代の若い漁師がいたことは心強く、刺激にもなった。カンパチの養殖方法は稚魚を大きく成長させる「畜養」がスタンダード。稚魚の獲得はほとんどを輸入に頼らざるを得なかったが、結城さんは「島浦町漁業後継者部」というチームを結成して、積極的に質の向上に力を入れ、近畿大学との連携によって完全国産のカンパチを生産するなど若手後継者による新しい挑戦を続けている。血抜きや神経締めなど天然よりも徹底した処理が行われていることも見逃せない。こうすることで魚の臭いがせず、新鮮さも保てるといい、就職先での経験も活かされているのだろう。

 

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(写真提供/結城水産) 

 

 カンパチは魚臭さが少なく味が濃いので、刺身や寿司ネタに重宝される。ブリよりも後味にクセがなく、さわやかな風味を好む人に人気の魚だ。ぜひとも延岡で結城さんのカンパチを食してみたいと思った。

 

 「実家は、島では昔から評判が良かったんですよ。でも、出荷先は遠方が多く、まとめて活魚車に積み込まれ、ただの宮崎産となってしまう。生産者の顔は見えないですし、誰が育てたのか分からなくなることに違和感を覚えていました。養殖はこれからもっと伸びる漁業だと思っているんですが、現状は厳しいですね。良い魚を育てるにはコストもかかるし、手間暇かけている割に魚価がついてこないんです。自分の魚を地元の延岡で食べて欲しいという思いは強いんですが、いまの魚価ではなかなか難しいですね。延岡には腕の良い料理人もいるし、美味しい飲食店もあります。でも、規模が小さい。東京などの大消費地に卸さないと採算が合わないというのが実情です」。

 

 そういった事情でいまのところ延岡市内の飲食店では、まだ結城さんが育てた魚が提供されることはないようだが、2月のイベントで延岡市の「かくれ処キッチンふかみ」の深見政男シェフによる料理に使われることが決まっている。イベントとはいえ、地産地消が実現するわけだ。期待は膨らむ。当日の料理は山本益博さんの連載「夫婦で行く1泊2食の旅#53(番外編)」でご覧になれます。

 

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■有限会社 結城水産

 

住所/宮崎県延岡市島浦町673

問い合わせ/0982-43-1105