延岡テロワール(2)野菜本来の美味しさは、こだわりの土作りから。「斧農園」

 

取材・高山コジロー

 

 

「斧農園」

野菜本来の美味しさは、こだわりの土作りから。

 

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斧さんの家の前に広がる段々畑。

 

 延岡の食材と聞いて、まずイメージするのは魚ではないだろうか。東は日向灘に面し、多くの山に囲まれ河川が走る延岡の地。水郷の豊かな土壌、年間を通じて適度の雨量、寒暖差があり野菜作りに適し、多種多様の美味しい野菜が作られている。延岡の美味しい野菜の存在は、あまり知られていない。

 延岡市の西部の北方町で、こだわりの美味しい野菜作りに取り組でいる農園があると聞き訪れる。

 市内の中心部から車で40分ほど、日向灘に注ぐ五ケ瀬川の渓谷沿いを走り、さらに細い道を上流に向かい北方町板下地区戌の山間部の小さな集落にある「斧農園」に到着する。北方町は全国でも珍しい十二支による住所表記を持ち「千支の町」として知られる。

 

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斧さんがつくる「とろうま大根」は文字通りとろける旨さ。

 

 

 車から降りると深い森林の香りがする。家の前には石垣に囲まれた段々畑が7段連なり、

 畑の下に流れる川のせせらぎが心地よく、空気がうまい。

 農園では6反(約6000㎡)の土地に、畑では大根、白菜、人参など、1年を通じて30種類以上の多品種の野菜育てられ、森の中では原木しいたけが栽培されている。

 

 朝の出荷作業で忙しいところ、「斧農園」の斧康弘さんに、こだわりの野菜作りについて話を伺う。

 「もともと母が2004年に水田だったところを畑に変え野菜作りを始めたんですが、手伝っているうちにやりがいを感じ、一緒にやることにしたんです」。

 斧さんは高校卒業後、食品の卸売会社に勤めていたが、12年前に辞め本格的に農業を始めた。

 

 「健康な野菜、味わいのある野菜を育てるには、土が重要だと思います」。

 斧農園では、最初から化学肥料は一切使われていないという。

 「土作りには天然の有機肥料を使います。腐食酸という天然の土壌有機物やミネラル鉱石を使うことで、自然界に近い状態の土にしています」。

 そのため土壌消毒も石灰ではなく貝殻の化石を蒔き、除草剤も土の中の微生物が死んでしまうために使わないとのことだ。

 

 

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土づくりへの熱い想いを語る斧康弘さん。

 

 「自然に近い状態が、健康でおいしい野菜が作れると思うんのです」。

 

 そのため畑の土の特性に合わせて、育てる野菜を変えているという。

 「水田だった畑は1つ1つ全く土の性質が違います。肥料の必要なナスやきゅうりは肥えた畑で作り、あまり肥料のいらないレタスや枝豆などと区別して、野菜によって畑を変えて栽培しています」。

 野菜に合わせて肥料を加えるのではなく、土に合わせ栽培する野菜を変える。まさに土の持つ特性を生かした野菜作りが行われている。

 そのため日々土の改良には研究を重ねていて、昨年から馬糞堆肥を試しているという。バラの栽培で使われることが多い馬糞堆肥は、有機物を多く含み土の中の微生物を増やし豊かにしてくれる作用があるという。

 

 野菜作りには散水する水も重要だ。

 「水道はないんです。山の向こうから谷水を引いています。畑には谷水を使い、生活用には井戸水を使っています」。

 水道は整備されておらず、土ばかりでなく水も山で濾過されたきれいな天然水が使われている。斧農園の野菜は、まさに自然の恵みの賜物だ。

 「よかったら、食べて」。母親のヒデ子さんがとれたてのしいたけを振舞ってくれた。香ばしく焼かれ噛みしめるとコクのある旨みが口いっぱいに溢れる。朝引いたばかりの人参と大根の漬物もいただく。オレンジ色鮮やかな人参をそのままかじってみると、水々しくコリコリとした食感がいい。人参独特の苦みやえぐみがなく、じんわり甘みがある。

 「甘くておいしいでしょ。これが自然の人参の味なんですよ」。

 「延岡の子供たちには食育の一環として、農園に来てもらい野菜はどのように育てているのかを体験してもらっています。その場で野菜を食べることで、地元の自然の野菜の味を感じてもらえればと思っています」。

 子供たちに農業の楽しさや、自然の素晴らしさを伝えていきたいという。

 

 

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自宅敷地から湧き出す水(左)、忙しい時間帯にもかかわらず、優しく出迎えてくれた母親のヒデ子さん(右)

 

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肉厚で旨味たっぷりの原木椎茸(左)、出してくださった椎茸バター焼きとヒデ子さんの自家製漬物は絶品(右)。

 

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獲れたての人参は生で食べても驚きの甘さ。

 

 

 野菜作りのためには、消費者との交流も欠かせない。

 「市場にだけ卸すと消費者の声が聞こえてこないんです。直売所でお客さんから『おいしかったよ』と直接言われると栽培意欲がわきますよ」。

 そればかりでなく斧農園では、新鮮な野菜をセットにして約2000セットほど、毎週お客さんに直接届けて交流をはかっているという。

 

 山の中にあるしいたけの栽培場を見せてもらう。段々畑の下の川向こうにあり、軽自動車1台しか通れない細い道を登り、さらに車を降り歩かなければならない。きれいに原木が整備されている。スプリングクラーによるしいたけの散水にも、畑同様に山の谷水を引き使っている。

 「しいたけは季節により菌の種類を変えています。冬場のしいたけは寒暖差の刺激がないと大きくならず、今冬は温かいので大変ですね」。

 

 

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恐ろしいほどほど澄んだ清流にかかる沈下橋を渡り、さらに険しい山道を椎茸栽培場へ向かう。

 

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静寂の中に整然と並べられた榾木には、自然の恵みを受けた椎茸たちが生育していた。

 

 

 しいたけ栽培場の奥の大きな畑では、大根と紫白菜が栽培されていた。

「新しい野菜作りにも料理人の方と連携して取り組んでいます。生で食べられる紫白菜は、地元のレストランでサラダに使ってもらっています。ピクルスにしてもおいしいですよ」。

 紫白菜をかじってみると白菜に比べて柔らかで水々しく食感が良い。色鮮やかな紫色でサラダには、ぴったりだ。

 

 

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奥の畑で活き活きと語る斧さん(左)、収穫したばかりの大根は見るからに栄養たっぷり(右)。

 

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自慢の紫白菜。味はもちろん、彩鮮やかで”映える”野菜だ。

 

 

 斧さんは、東九州バスク化構想延岡推進協議会内の「生産者部会」の部会長を務めている。延岡の農産、水産、畜産の生産者が集まり、生産拡大や品質を高めることで、延岡の食の魅力の一層の向上を推進する活動をしている。

 「見本市を開催し消費者と直接意見を交換したり、延岡の食材の魅力を伝えるため料理人に作ってもらったレシピを添えて販売したりしています」。

 自身の野菜だけでなく、延岡の生産者と料理人が一緒になって、消費者との交流をはかり、延岡の食文化を発信しているのだ。

 「東九州バスク化構想」のイベントでは、延岡市のペルー料理「rico tacna」の久我シェフの料理で斧農園の野菜が使われる。普段から斧農園の野菜を使い、魅力を知り尽くしている久我シェフがどんな料理を披露してくれたのか、イベントレポートをお楽しみに。

 

 

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■斧農園

住所/宮崎県延岡市北方町板下戌240

問い合わせ/0982-44-1350