延岡テロワール(1)「鏡山牧場」 牛肉本来の味を追求した、延岡の自然放牧黒毛牛

 

取材・高山コジロー

 

「鏡山牧場」

牛肉本来の味を追求した、延岡の自然放牧黒毛牛

 

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA
鏡山牧場から島浦島、日向灘を望む。

 

 海の幸、山の幸、里の幸が豊富で、しかも質が高く、食材の宝庫と言われる延岡。

 そんな延岡の山の頂で、全国的にも珍しい自然放牧により牛本来の生き方、牛肉本来の赤身肉の味を追求している牧場がある。

 延岡市内から車を40分ほど走らせ、日豊海岸沿いにそびえ立つ鏡山を登り山頂にある「鏡山牧場」の生産者八崎秀則さんを訪れる。

 のんびりと寝そべり日光浴をする黒牛、牧草を喰む黒牛が出迎えてくれた。

 そこは約65ヘクタール(東京ドーム約14個分)の広大な放牧地だ。冬場なのでグリーンが鮮やかな牧場とはいえないが、澄んだ空気に眼下に広がる日豊海岸のどこまでも続く美しい海と青空の眺めが気持ちいい。

 

 「鏡山牧場」には大きな特徴がある。約100頭の牛たちは、牛本来の生き方を追求し、一年中、雨の日も風の日も放し飼いだという。牛舎に戻すことはなく、牧草のみを食べながら、ゆったり自由にのんびり過ごす自然放牧で飼育されている。

 

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA
牛たちは広大な牧場の敷地内で1年中放牧されている。

 

 いま世界中で注目されている「グラスフェッド」という飼育方法で、日本では珍しいという。

 飼われている牛は、すべて宮崎県産の黒毛和牛(黒毛和種)の経産牛だ。

 経産牛とは出産を経験した牛のことで、一般的には去勢された雄牛か未経産の雌牛が食肉としては上等とされ、経産牛は肉質が劣るといわれている。7、8頭出産すると役目を終える経産牛を鏡山牧場では、8年から12年ほど自然放牧で育てている。牛は牛舎で飼われ通常は2年ほどで出荷されるそうで、自然放牧はかなりの時間と労力を費やすことになる。なぜそんなに多く手間をかけるのか、八崎さんに伺う。

 

 「自分で食べて、美味いと思う牛を、放牧で育てたかったんです」。

 「そもそも牛肉を美味しいと思っていなかった(笑)。牛の脂や柔らかさではなく、宮崎県産の黒毛和牛がもつ美味しさとはなんなのか。ジューシーな肉質、脂が少なくヘルシーでありながら、自分で食べて美味しいと思える牛肉を生産したかったんです」。

 

 牛舎で牛を飼うという考えは、八崎さんには全くなかった。

 「牛は本来、牧草を食べて生きてきた生き物。自然に飼えば、自然な牛肉の美味しさが出てくるのではないかという思いがありました」。

 そのために広島で肥料メーカーを営む八崎さんが延岡にやってきて牛を始めたのが約3年前のこと。最初は山の麓の北浦町で空いた鶏舎を改造して牛を2頭飼い始めた。自然放牧にこだわっていたため、広い放牧地を求めて、延岡市の協力もあり2年前に、こちらに移ったという。

 

 鏡山牧場では、長期に渡り放牧し牛たちを自由に歩かせることで、あえて脂を絞り、牛肉の美味さを追求し、コクのある肉本来の味わいを堪能できる「グラスフェッドビーフ」を育てている。

 牛の肉質等級は、脂肪交雑(さし)、肉の色沢、肉の締まり及びきめ脂肪の色沢と質の4項目から判断される。牛舎で飼われ穀物類を食べて育った牛は、脂肪分が豊富で「さし」の入った甘みのある肉になる。最上のものはさしの入ったいわゆる霜降り肉。A4、A5ランクと等級されるが、鏡山牧場では等級にはこだわらない。

 

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

 

 

 「飼っている牛たちは、元々さしの入っていない赤身肉ではないんです。たっぷりさしが入った宮崎の黒毛和牛の経産牛を放牧し運動させることで、ほどよく脂を抜いて肉の旨味を凝縮させるイメージなんです」。

 赤身肉というと輸入肉の赤い色をイメージしてしまうが、「鏡山牧場」の牛肉は、きめ細かい脂の入った赤ピンク色のきれいな肉質なのだ。

 「一般的に経産肉は5歳から7歳ぐらいの肉質がいいといわれていますが、8歳より10歳、10歳より12歳のほうが味の濃い肉になります。たとえばミンチにしてハンバーグを作り試食してみると、12歳が一番コクがあり旨いんですよ」。

 ただし欠点もあり、齢が増すと肉の中にスジが入ってしまい、硬くなってしまうとのことだ。そのため出荷時期は見極めているという。

 また単に「焼く」のではなく、ステーキ、焼肉、煮込みなど料理によって、肉の処理、調理の仕方、食べ方を研究しないといけないという。

 

 広大な牧場を眺めていると、自然に飼うということは簡単なことではないことがわかる。牛肉はジビエではないので、肉の安定供給、品質維持が求められる。そのため毎日朝と晩に一定の量の牧草を与えるという。

 「延岡を中心に大分の農薬や添加物を含まない天然の牧草のみを使い、安全に心がけでいます」。

 広大な牧草地なので、牛の体調の心配も尽きない。毎日牧場を足で周り、牛で観察するがすべてに眼が届くわけではなく、ドローンも使いくまなく牛の状態、健康観察を行うという。ヒトが管理しやすい飼い方ではなく、牛に寄り添う育て方、自然に何も手を加えないというのは、肉体的にも厳しく簡単ではない。

 「肉体的にはきつく、放牧よりも牛舎で飼う方が楽ですよ」。と八崎さんは笑いながら話す。

 肉質のさらなる向上のため、新たな試みとして延岡の地ビール会社の「ビール粕」を利用しているという。ビールの生産工程で麦芽を濾過した後に残る廃物で処分されるものだ。

 「麦芽の自然な飼料であり、高タンパクで牛の体を維持しながら、肉質も良くなります。安全でコストも抑えられます」。

 ビール会社にとっては産廃の処理ができ、まさに地元ならではのウインウインの関係といえる。

 


OLYMPUS DIGITAL CAMERA
OLYMPUS DIGITAL CAMERA
「自分が食べて美味しいと思える肉を育てたい」と語る八崎秀則さん

 

 最後に流通に関してお聞きする。まだ生産量は多くなく、ネットでの販売が中心だそう。東京、大阪、京都などの料理人からの注文が多いという。もちろん地元延岡のレストランのシェフからも大いに注目されていて、問い合わせは絶えない。

 「地元の料理人の方とも、一緒にやっていきたいです。延岡の食材を使って、どんな料理を作ってくれるのか、夢が膨らみます」。

 「誰にでも好まれる牛肉ではありません。僕が美味しいと思う牛肉。牛本来の牛肉の味や牛が出荷されるまでのストーリーに共感していただける方々に、お楽しみいただきたいです」。と八崎さんは最後にいう。

 延岡市が提言する「東九州バスク化構想」のイベントでは、延岡市のペルー料理「reco tacna」の久我シェフの手により「鏡山牧場」の牛肉を食材とした料理が振舞われた。当日の料理は、山本益博さんの連載「一泊二食の旅#53」(番外編)でご覧いただけます。

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 

■株式会社 鏡山牧場

 

住所/宮崎県延岡市北川町川内名6677-6

問い合わせ/0982-46-2333