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「平成の桃源郷」宮崎県・西米良村へ

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 平成ももうすぐ終わろうとしていますが、日本中で進行する地方の過疎化という問題は、ますます深刻になっています。地方から都市部への人口流出は止まらず、また、都市部に住む人たちが観光や遊びの目的で地方に足を運ぶ場合でも、交通の便の悪いところは、敬遠されがちです。
 そんな中、宮崎市から山道を車で約2時間走らせた。宮崎県と熊本県の県境近くの山奥に位置する西米良村は、過疎化と高齢化の波に抗い、なんとか人口1000人以下にならないような努力を続け、今の時代を生き抜いています。それだけではなく、年間約13万人の観光客が訪れているという事実にも驚かされます。
 西米良村は、1501年、南朝の武将、肥後菊池氏第22代菊池能運が幕府の追討から一族の根絶を避けるため、一子を米良山に逃れさせたことから始まったと伝えられています。能運が米良山に一子を逃れさせたのち、約400年にわたって菊池一族が村を統治してきました。山深い立地条件から、村民は何代にもわたって助け合いながら暮らしを営んでいたおかげで、自給自足の精神が今も根付いているということです。
 住民にとって暮らしやすいこの村は、観光客にとっても興味をそそられる大きな魅力を持っています。
 その魅力について、もっと詳しく知りたいと考え、実際に西米良村を訪れてみることにしました。

 

 

 

西米良村の住民はゆず使いの達人

 

 西米良村に入って、山道をさらに上へと進むと、ゆず農園とその奥には九州山地が広がるのどかな景色が目の前に飛び込んできました。ゆずは西米良を代表する農作物で、夏の若いうちに収穫する「青ゆず」を約60トン、青ゆずが熟した「黄ゆず」を約80トン収穫しているということでした。今回お邪魔したのは、黄ゆずの収穫時期でした。

 

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 ゆずは皮も果汁も両方利用できるので、用途はいろいろ。西米良の人たちは、鍋に入れたり、お風呂に浮かべたりしてたっぷりとその味と香りを楽しんでいるそう。また、独特のスパイシーさがやみつきになる「ゆず胡椒」ですが、ここでは各家庭で作っているそうです。基本は、ゆずと青唐辛子を同量にして、好みの量の塩を入れて作るのですが、微妙な配合や作り方も家庭ごとに違うので、味もそれぞれ違うとか。願わくば、いろんな家庭のゆず胡椒を食べ比べてしてみたいものです。
 

 

 

ゆず

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上/収穫されたばかりの香り高い黄ゆず 下/西米良村ゆず振興部会の濱砂貴志さん(右)と黒木元太さん(左)

 

 半分に割った黄ゆずからは、酸味とともに華やかな甘い香りが!ゆずは「和」の香りを代表する柑橘ですが、クエン酸のおかげか疲れも飛んでいくような心地良さ…ああ、ずっとこの香りをかいでいたい…!
 それにしても、こんな景色のいいところで、ゆずの香りに包まれて仕事ができるなんて羨ましいと思いましたが、繁忙期は毎日収穫しても作業が終わらない人手不足状態が続いているということでした。
 そこで西米良は、休暇を利用して農家のお手伝いをしながら滞在を楽しむ日本初の「西米良ワーキングホリデー制度」を作ってしまったのです。この制度を利用すれば、お給料ももらえて、西米良の自然や食、そして地元の人からもっといろんなことを教えてもらえる貴重な時間を過ごせるんです。興味のある人は、チェックしてみて下さいね。

 

のんびり長居したくなる「西米良温泉ゆた~と」
 

 西米良には「西米良温泉ゆた~と」という温泉施設があります。「ゆた~と」は地元の言葉で「のんびり、ゆっくり」という意味。温泉以外にも食事や特産品販売店、宿泊施設も揃っていて、西米良村民だけではなく、観光客にとっても憩いの場となっています。

 早速、ゆた~と内の特産品販売店を覗いてみました。ここには新鮮な農畜産物やその加工品、手作りの品が勢揃い。西米良村は、山深い場所にあるため、田んぼや畑で作物を作り自給自足をして、またそれらを保存食にする習慣がありました。そのため保存食のバリエーションが豊富なのです。
 生のゆず胡椒「青」は、ふるさと納税の返礼品にもなっている人気商品。風味が損なわれないように冷凍で販売されています。見た目も鮮やかな緑色で食欲がそそられます。
「干した竹の子」もこの地方の名産品。お湯で戻して刻めば煮物や炒め物に使えます。これさえあれば1年中、竹の子が食べられるという優れもの。
 そしてジビエも! 見たことのない稀少なジビエの固まり肉や部位が販売されていて、テンションが上がります。このまま全部買って帰りたいと本気で思ったほど。
 

 

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上/「西米良温泉ゆた~と」の外観 下/稀少なジビエ肉(左)、大人気のゆず胡椒「青」(中)、軽いし見た目もインパクト大な「干した竹の子」(右)

 

 お土産を見た後は、ゆた~と内の食堂で昼食に。ここで次々と西米良の特産品を使った料理を味わっていきます。
 鹿のカルパッチョ。脂肪がほとんどなく半レアな鹿肉は、鮮度と質に自信がなくちゃできないメニューです。食べてみると、あっさりフレッシュな口当たりながら、野性味を感じます。精力がつきそうです。
 鹿のシチュー。柔らかく煮込まれた鹿の固まり肉を食べると、身体も温まります。煮込みにはやっぱりジビエは合いますね!
 伊勢いもコロッケ。伊勢いもは米良の在来種です。さといもに似たホクホクとした食感と甘みが絶品のコロッケです。
 西米良サーモンの寿司。マスとイワナ系の掛け合わせで生まれた新しい品種とか。サーモンよりさっぱりした味わいで、ペロリといくらでも食べられそうです。  

 

ランチ1

 

ランチ2

上/鹿のカルパッチョ(左)、鹿のシチュー(右) 下/伊勢いもコロッケ(左)、西米良サーモンの寿司(右)
 

 西米良の特産品をその場で食べて買い物もでき、さらに温泉まで入れる「ゆた~と」。西米良の観光拠点として、次回は泊まりでも行ってみたくなりました。
 

 

期待の最新ジビエ処理加工施設
 

 山深い谷間に位置する西米良。ここで獲れたジビエは西米良を代表する特産品となっていますが、全国的にも個体数が増えた鹿や猪の農産物等への被害は、ここ西米良でも深刻な問題でした。山菜や農作物も、一番美味しい時期に、一番美味しい部分だけをかじっていき、生産者のやる気を低下させ、耕作放棄地に至る原因にもなっていたのでした。そこで捕獲した鹿や猪の利用を促進するために、平成30年3月にこの地に最新のジビエ処理加工施設を作ったのでした。捕獲された鹿や猪を処理から加工まですばやくできるようになったこの施設は、業者の視察や近くの学校の研修も頻繁に受け入れているそうです。


 

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上/最新の設備が揃ったジビエ処理加工施設 下/地域資源活用活性化協議会の会長・小佐井さん「鹿はほぼ毎日獲れます」

 

 西米良の鹿や猪は、この自然豊かな西米良の木の実を食べながら、急斜面の山を走り回っているため、脂肪も少なく身が引き締まった高品質なジビエとして、評判を聞きつけた首都圏のフレンチやイタリアンのシェフからも直接オーダーが入っているそうです。
 ちなみに地元の人たちは、普段から固まり肉をカットして余った骨つき肉を湯がいて塩味をつけて食べたりしているとか。施設の案内をしてくれた地域資源活用活性化協議会の会長・小佐井さんのオススメな食べ方は、猪だと塩焼き、鹿は背ロースをタレ漬けして焼いたものだとか。昼食後だというのに、聞いているだけで、お腹が空いてきました。
 

 

ジビエ

 

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上/瞬間冷凍された上質なジビエ 下/クリーンゾーンには作業を外から見学できるように大きな窓もある

 

 宮崎県と言えば、日本でも屈指の肉のクオリティが高い県。害獣被害を逆手にとってどんどんこの高品質なジビエを供給していってほしいものです。
 西米良のジビエが宮崎牛並にブレイクする日も近い!?

 

昔ながらの暮らしがわかる「おがわ作小屋村」
 

 西米良の歴史や村民の暮らしを知りたいなら、ぜひとも「おがわ作小屋村」へ行ってみるべきです。ここは旧米良領主の居城跡で、江戸時代中期から明治維新までの約200年間、米良の中心として栄えた場所です。「作小屋」とは、畑と住まいが離れているため農産物の繁忙期だけ寝泊まりして作業していた建物のことです。こういう場所があることで、村民の結束をうながし、まとまりがあったのでしょうね。
 

 

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 他にも、昔の農耕具や生活用品約330点が展示されている歴史民俗博物館や、語り部などに使われる西米良民話館、コテージ型の宿泊施設があります。
 また、ここでは、四季折々の郷土料理が16皿の小皿で楽しめる大人気の「おがわ四季御膳」があり、これを目当てに遠くからも観光客が訪れるとか。
 

 

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左/昔ながらの風情ある佇まい 右/素朴な木造平屋のコテージ型の宿は、全12棟、キッチン・風呂も完備。

 

 ところで、この西米良が「桃源郷」のように、憧れの里山暮らしが行われている奇跡のような村として残っているのは、17代米良領主菊池則忠公の貢献だと言われています。「米良の殿様」として村民の尊敬を集めた名君・則忠公は明治維新の版籍奉還の際に、領内の山林を全村民に分け与えたのです。おかげで今でも多くの西米良のひとたちは、自分の山を持ち、そこから農産物を得て自給自足をしたり、それらを販売したりして、充実した暮らしを営んでいるのです。そんな名君がいたからこそ、今の西米良があるのですね。

 

 山深いので、日が落ちるのも早く感じましたが、夕暮れ以降もここには独特の楽しみ方があるんじゃないかと後ろ髪を引かれつつ、西米良を後にしたのでした。

 

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村民の尊敬を一身に集めた名君、第17代米良領主・菊池忠則公の像。

 

 

自分の山で作り出される「地みつ」

              

 さて、西米良村を出るときに、役場にお勤めのWさんにお土産で頂いたのは「地みつ」。特産品売り場でも販売されているのですが、このあたりの人が、蜂蜜を買うことはないと言います。

 西米良の人たちは、多くの人が自分の山を持っていて、蜂蜜作りも自分でしたり、近所の人からもらったりするそうです。
 よく見かける養蜂の箱で作るのではなく、丸太の中身を空洞にした「うと」と呼ばれる入れ物を、蜂が好みそうなところに置いておくと、他の巣箱から巣別れした蜂がやってきて、うまく住みつくとそこに蜂蜜を貯蔵していくという。豊かな山に咲くいろいろな花の蜜が集まってできた純粋な蜂蜜は、「地みつ」と言われる、極上のもの。頂いた地みつを食べてみると、滋味深く濃厚で複雑な味わいが。これは身体にも絶対に良さそう!!
 西米良のこの地みつを食べて育った人たちは、市販の蜂蜜は食べられないそうです。
 この地みつをお土産でまとめ買いしたり、あまりの美味しさに、電話でできるだけ多く注文しようとするケースもあるとか。

 わざわざ取り寄せたくなるのも、この味を知った今では、よくわかります。

 

はちみつ

 

 

 街からは遠く、人口約1000人の小さなこの村の人たちは、名君の遺徳を受け継ぎ、昔からの暮らしを大切にし、工夫しながら、楽しく日々の生活を充実させる術を身につけていました。
 だからこそ、西米良の人たちはみな生涯現役で元気で活力ある生活を送っているのでしょう。

 自分の山で採れた農産物、蜂蜜、ジビエ、つまり普段から口にしているのは、羨ましいくらい自然のパワーがみなぎった絶品のグルメ食材ばかり。これらを思う存分食べることできる西米良は、まさに21世紀の「桃源郷」。村を離れてみると、自分がその場所にいたことが、まるで夢であったかのような不思議な感覚を覚えます。
 平成はもう終わろうとしているけれど、今の西米良にこそ、次の時代に残したい大切なものがあるのではないか…。そんな気がしてならないのでした。
 

 

<インフォメーション>

 

西米良村公式サイト

http://www.vill.nishimera.lg.jp/