「夢 YUMENOSUKE 」発売!! 奇跡の災害救助犬「夢之丞」成長の軌跡が1冊に。

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殺処分直前からの生還、そして災害救助犬に! 人見知りでビビリ。夢之丞、成長の軌跡
 

ベストセラー『世界でもっとも貧しい大統領 ホセ・ムヒカの言葉』の著者で、広島県福山市出身のノンフィクションライター佐藤美由紀が、故郷広島で2014年8月に発生した大規模な土砂災害に心を痛めていた時、その現場で活躍した災害救助犬「夢之丞」のことを知り、存在を広くアピールしたいと執筆を思い立った。

広島土砂災害、フィリピン台風22号、ネパール大地震、台湾台風13号、そして熊本大震災…。
緊急出動を繰り返し、活躍を続ける「夢之丞」の勇姿とは裏腹に、人見知りで愛想を振りまかない“職人気質”な素顔の「夢之丞」。二つの顔を持つ彼の魅力を発見できる。

本書は「人に捨てられた命が、人の命を救う」という夢を託された奇跡の犬・夢之丞の成長物語を写真と文章で追うとともに、現在も施設に保護され里親を待つ多くのワンコたちの現実を広く社会に知ってもらいたいという思いから制作された。

里親を待つワンコたちの最新情報は以下のホームページでご確認できます。

http://jinsekiadmin.wix.com/peacewanko

 

 

運命が変わり始めた


 季節が秋から冬に変わろうとしていた、あの日。
 その子犬は、〝運命のとき〟をじっと待っていった。
 これから自分の身に起こることを本能的に悟っていたのかもしれない。恐怖のあまりだろうか、その体は、小刻みに震えていた。
 
 飼い主の飼育放棄や所有者不明で動物愛護センターなどの公共施設に収容される犬や猫は、全国で年間15万1095頭(2014年度)にものぼっている。
 それらの犬・猫の一部は元の飼い主に返還されるが、残る大部分は、新しい飼い主に譲渡されるグループと、殺処分されるグループとに分けられる。
〝天国〟か〝地獄〟か。それを決めるのは、彼らの年齢や健康状態、性格などだ。


(中略)


 殺処分のグループに入れられた犬や猫は、施設に収容されてから一定期間が過ぎると、「ドリームボックス」と呼ばれるステンレス製のガス室に詰め込まれ、二酸化炭素ガスで窒息死させられることになる。
 その数、実に10万1338頭(2014年度)ーー。

 その子犬もまた、小さな命を葬り去られる運命にあった。


(中略)

 

「この犬は?」
 子犬が愛護センターに収容されてから何日かが過ぎた頃、その檻の前に立ち止まって職員に尋ねる人がいた。
 声の主は、世界各地で人道支援活動を行う認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパン(以下PWJ)の代表であり、統括責任者でもある大西健丞さんだった。
 この日、大西さんは、一緒に活動している妻の純子さんやスタッフと共に、愛護センターを訪れていた。被災地での支援活動経験から、がれきや土砂などに生き埋めになった人の命をひとつでも多く救うために災害救助犬の育成を考え、その候補犬を譲り受けるためだった。
「次の殺処分にまわされます」
 職員の答えを聞くが早いか、大西さんは言った。
「この子犬、譲っていただけますか」
 実は、大西さんらは、この場所に来る前に、同じ施設内にある、譲渡対象の犬たちが収容されている犬舎を見学していた。そこには子犬が3頭いたが、それらすべてを譲り受けることをすでに決めていた。さらにその子犬を引き取ろうとしたのは、人から見放された命の可能性に賭けたいと思ったからだった。小さな命を救い出す〝緊急支援〟の意味もあった。

 大西さんたちが、愛おしむような眼差しを向けても、子犬は目を合わせようとしないどころか、檻の隅に体をつけて身を縮めていた。
 檻の扉を開けて職員が両手で抱き上げ、大西さんのスタッフに差し出すと、体を硬直させてされるがままになっていたが、やがて、子犬を抱き上げていたスタッフは、温かい液体が自分の膝を濡らすのを感じた。恐怖のあまり、子犬がおしっこを漏らしてしまったのだった。それは、当分の間、止まることがなかった。
「おい、お前の名前は今日から夢之丞だぞ」
 子犬を見つめていた大西さんが言った。
 名前は、その場で思いついたものだった。「夢之丞」の「夢」には、ドリームボックスから生還したという意味が込められ、そして、「人に見捨てられた命が災害救助犬となって人の命を救う」〝夢〟が託されている。
 2010年11月24日、大西健丞という人間に出会ったことで、子犬の運命は大きく変わり始めることになる。
 それを知ってか知らずか、子犬は、虚ろな視線を宙に泳がせながら、相変わらず体を硬くして、いつまでもブルブルと震え続けていた。 

「夢 YUMENOSUKE 」―プロローグ― より

 

 

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「夢 YUMENOSUKE 」佐藤美由紀 著  

協力:特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン